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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第3章

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最大のゴミ

 ダンジョン深層は、

 音が違った。


 空気が、

 重い。


 足音が、

 返ってこない。


「……ここ、

 本当に使われてなかった区画か?」


 レオルの声が、

 小さくなる。


「使われてたわよ」


 ミーナが、

 壁を睨む。


「都合の悪い物を

 捨てる場所として」


 その時。


 ――ドン。


 地面が、

 揺れた。


 次の瞬間、

 壁が砕け、

 巨大な影が

 姿を現す。


「……っ!」


 ガルドが、

 思わず一歩下がる。


 魔物。


 いや――

 魔物の成れの果て。


 鎧のように

 固まった肉体。

 継ぎ接ぎだらけ。

 不自然な魔力循環。


「……合成体?」


 ミーナが、

 歯を食いしばる。


「しかも、

 封印されてたのを

 放置したタイプ」


「だから、

 “未評価”だった」


 俺は、

 納得した。


「評価できない物は、

 ゴミ扱いされる」


《脅威判定:不明》

《清掃対象:危険物》

《処理優先度:最上》


 魔物が、

 咆哮。


 衝撃波が、

 通路を潰す。


「避けろ!」


 ガルドが叫ぶ。


 だが――

 逃げ場はない。


「下がらない」


 俺は、

 一歩前に出た。


「ユウキ!?」


「大丈夫」


 背負っていた

 清掃用具を、

 すべて外す。


 盾。

 布。

 金属片。

 謎素材。


「ここは、

 ゴミが多すぎる」


《拾得物統合:開始》

《零価再定義:全面展開》

《清掃者権限・改:発動》


 装備が、

 空中で

 組み上がる。


 即席。

 だが、

 異様に安定した構造。


「……即席装甲?」


 レオルが、

 目を見開く。


「ゴミ袋アーマー」


 俺は、

 淡々と言った。


 魔物の攻撃。


 ――直撃。


 だが、

 衝撃は

 拡散され、

 地面に吸われる。


「……効いてない!?」


「効かせてない」


 俺は、

 足元を踏み込む。


「散らかってる衝撃は、

 全部回収する」


 拳が、

 魔物に当たる。


 ではない。


 背後の壁。


 崩壊。


 魔物の体勢が、

 崩れた。


「……?」


「清掃の基本」


 俺は、

 構えを解かない。


「足場を

 整えること」


 ミーナが、

 理解したように

 息を呑む。


「……地形整理で

 戦場制圧」


「えげつない……」


 ガルドが、

 笑う。


「冒険者より

 戦術家だろ」


「清掃員です」


 俺は、

 魔物を見据えた。


 こいつは――

 捨てられた結果。


 誰も

 責任を取らなかった

 ゴミ。


「終わらせよう」


「回収対象は、

 これ一体」


 魔物が、

 再び吠える。


 だが――

 もう遅い。


 戦場は、

 片付け終わっていた。


 魔物が、

 再び動いた。


 歪な体が軋み、

 無理やり繋ぎ合わされた肉と骨が

 悲鳴を上げる。


「……あれ」


 レオルが、

 目を逸らした。


「生きてる、

 って言っていいんですか?」


「よくない」


 ミーナが、

 即答する。


「あれはもう、

 生物じゃない」


「使われて、

 捨てられた結果よ」


 魔物が

 突進。


 圧倒的な質量。


 だが――


「来い」


 俺は、

 真正面から受けた。


 ――ズン!!


 衝撃が

 ゴミ袋アーマーを伝い、

 床へ逃げる。


 地面に走る

 亀裂。


 だが、

 崩れない。


《清掃者権限・改:継続》

《衝撃分散:最大》

《耐久限界:未到達》


「……まだ、

 耐える!?」


 ガルドが

 吠える。


「当たり前だ」


 俺は、

 魔物の胴に

 手を当てた。


「これは、

 仮置きだから」


「……仮置き?」


「最後は、

 処分する」


 俺は、

 足を踏み込む。


《冥途回収:最大出力》

《回収対象:合成体》

《処理方法:解体》


 魔物の体が、

 一瞬、

 “止まった”。


 次の瞬間――


 バラバラに

 分解される。


 肉と骨。

 魔力核。

 封印杭。


 すべてが、

 元の素材単位に

 戻された。


「……」


 沈黙。


 粉塵が、

 ゆっくり落ちる。


「……終わり?」


 レオルが

 恐る恐る言う。


「清掃完了」


 俺は、

 息を吐いた。


《回収完了》

《危険物除去:成立》

《社会的影響:未反映》


 ミーナが、

 回収された

 封印杭を見つめる。


「……これ、

 正式な封印器具よ」


「ギルドの管理番号付き」


 ガルドが

 歯を鳴らす。


「……つまり」


「ギルドが

 “捨てた”」


「正確には」


 俺は、

 封印杭を袋に入れた。


「管理できなかった」


 レオルが、

 拳を握る。


「……そんなの、

 許されるんですか?」


「許されてきた」


 俺は、

 淡々と言った。


「だから、

 ここにある」


 通路の奥。


 崩れた壁の向こうに、

 さらに封印区画が

 見える。


「……まだ、

 あるんですか?」


「ある」


「たぶん――

 全部、

 同じ理由だ」


 ミーナが、

 小さく息を吸う。


「処理できない」


「責任を取れない」


「だから、

 見えない場所に

 押し込む」


「……最低ね」


「最低なのは」


 俺は、

 袋を担ぎ直した。


「捨てたことじゃない」


 全員が、

 俺を見る。


「捨てたまま、

 忘れたこと」


 ダンジョンの奥。


 静まり返った

 空間。


 だが、

 もう魔物の気配はない。


「行こう」


「最後のゴミを、

 拾いに」


 その瞬間。


《社会評価:急上昇》

《観測者:複数》

《ギルド内部:警戒レベル上昇》


 ――遅い。


 もう、

 拾ってしまった。


 ダンジョンを出た時、

 外はもう夕方だった。


 赤い光が、

 崩れた入口を照らしている。


「……生きて戻れた」


 レオルが、

 ぽつりと言った。


 誰も、

 すぐには返事をしなかった。


 静かだったからだ。


 ダンジョンの前は、

 いつもなら

 冒険者の怒鳴り声や

 報告待ちの列で

 騒がしい。


 だが――

 今日は違う。


「……人、

 多くない?」


 ガルドが、

 周囲を見回す。


 街の人間。

 商人。

 衛兵。


 冒険者じゃない連中が、

 こちらを見ている。


 ひそひそと、

 声。


「――戻ってきた」

「清掃の人だ」

「中、どうなってる?」


 俺は、

 袋を背負ったまま

 歩き出した。


「……あれ?」


 レオルが、

 慌ててついてくる。


「そのまま

 行くんですか?」


「うん」


「掃除、

 終わったから」


 ギルド前。


 いつもの掲示板。


 そこに、

 一人の職員が

 立っていた。


 顔が、

 強張っている。


「……報告は?」


「必要ですか?」


 俺は、

 首を傾げた。


「“判断は現場一任”

 でしたよね」


 職員は、

 一瞬、

 言葉に詰まる。


「……深層区画、

 どうなった?」


「片付きました」


 短く答える。


「危険物は?」


「回収しました」


 袋を、

 少しだけ

 持ち上げる。


 中で、

 金属が

 触れ合う音。


 職員の顔色が、

 変わった。


「……それは、

 誰の許可で――」


「清掃です」


 それだけ言って、

 歩き去る。


 背後で、

 誰かが

 唾を飲み込む音。


 街の空気が、

 確実に変わっていた。


 拍手が、

 一つ。


 誰かが、

 恐る恐る

 手を叩いた。


 次の瞬間、

 それが

 連なった。


「ありがとう!」

「もう通らないで

 済む!」

「子どもが

 近寄らなくなった!」


 俺は、

 立ち止まった。


 振り返らない。


 ただ、

 小さく手を挙げる。


「……どういたしまして」


 ミーナが、

 小さく笑う。


「……アンタ、

 英雄向いてないわ」


「やりたくない」


 即答。


「掃除が、

 仕事だから」


 その夜。


 ギルドの奥で、

 灯りが

 消えなかった。


《社会評価:上昇》

《ギルド信用度:低下》

《清掃依頼:急増》


 そして。


 紙一枚。


 机の上に

 静かに置かれる。


「……正式案件に

 切り替えるか」


「いや」


 別の声。


「もう、

 止まらない」


 王都の外れ。


 静かになった

 ダンジョン入口。


 そこには、

 もう“ゴミ”はなかった。


 だが――

 拾われたものは、

 まだ、

 出されていない。


 最後の処分は、

 これからだ。


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