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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第3章

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噂は、掲示板より先に広まる

 冒険者ギルドの裏口は、

 いつも少しだけ静かだ。


 受付前の喧騒から外れた通路。

 荷運び用の扉の横に、

 古い椅子が二つ置かれている。


 マルタは、

 その片方に腰を下ろし、

 紙包みを一つ広げた。


「はい」


 中身は、

 飴玉。


 いつもの、

 少しだけ固いやつ。


 でも――

 今日は渡す相手がいない。


「……いないわねぇ」


 隣の椅子は、

 空いたままだ。


「最近、

 忙しいのかしら」


 マルタは、

 独り言みたいに呟き、

 飴を一つ口に放り込んだ。


 その時。


「マルタさん」


 声をかけてきたのは、

 資料室係のリィナだった。


 腕には、

 書類の束。


 でも、

 いつもより

 動きが遅い。


「どうしたの?」


「……少し、

 確認したいことがあって」


 リィナは、

 通路の奥を見てから

 声を落とす。


「清掃依頼の件です」


「また増えた?」


「ええ。

 それだけなら

 普通なんですけど……」


 リィナは、

 一枚の紙を差し出した。


「報告数が、

 合わないんです」


 マルタが、

 紙を見る。


「……ん?」


「依頼数は

 三割増し」


「でも、

 事故報告は

 減っている」


「魔物被害も、

 軽微」


「なのに――

 ギルドの収支は

 動いていない」


 マルタは、

 目を細めた。


「……それ、

 変じゃない?」


「はい」


 リィナは、

 小さく頷く。


「誰かが

 “何か”を

 処理している」


「でも、

 記録に残っていない」


 マルタは、

 少し考えてから

 飴を一つ取り出した。


「……最近さ」


「清掃の人、

 褒められてるのよ」


「街の方で」


 リィナが、

 顔を上げる。


「噂、

 もう出てますか?」


「ええ」


 マルタは、

 肩をすくめる。


「裏路地が

 明るくなった」


「倉庫の前で

 転ばなくなった」


「“変な箱が

 なくなった”とか」


「……みんな、

 名前は知らないけど」


「あの人のおかげ

 って言ってる」


 リィナは、

 書類を抱き直した。


「……数字が、

 先に動いてます」


「評価が、

 記録を追い越してる」


「それ、

 危ないわねぇ」


 マルタは、

 ゆっくり立ち上がる。


「ギルドってのは、

 数字が先に走ると

 嫌がるのよ」


「制御できないから」


 通路の向こう。


 冒険者たちの声が、

 ざわめいている。


「……あの子」


 マルタは、

 空いた椅子を見た。


「自分が

 何やってるか、

 分かってない顔してるのにね」


 リィナは、

 小さく笑った。


「ええ」


「だから――

 記録は、

 私が守ります」


「良い子ねぇ」


 マルタは、

 飴玉を一つ、

 紙に包み直した。


「渡せなかった分は、

 取っておきましょ」


「そのうち、

 また来るわ」


 掲示板の前。


 誰かが、

 新しい依頼書を貼っていた。


 内容は、

 まだ読めない。


 でも。


 噂はもう、

 文字より先に

 広がっていた。


 ギルドの会議室は、

 いつもより空気が重かった。


「……で?」


 机の奥に座る男が、

 指を鳴らす。


「この数字、

 どう説明する?」


 卓上に広げられたのは、

 帳簿。


 赤字でも、

 黒字でもない。


 **“おかしい”**数字。


「依頼件数は増えている」


「事故報告は減少」


「回収素材は横ばい」


「なのに、

 街の被害報告が減っている」


 若い職員が、

 恐る恐る言った。


「清掃依頼の成果では……?」


「清掃?」


 男は、

 鼻で笑う。


「清掃は、

 成果にならん」


「数字にならない仕事だ」


 別の職員が、

 口を挟む。


「ですが、

 街からの感謝状が……」


「感謝?」


 男の声が、

 低くなる。


「感謝は、

 管理できるか?」


 沈黙。


「できないだろ」


 男は、

 帳簿を閉じた。


「評価が

 先に動くのは、

 一番まずい」


「理由が

 分からないまま

 信頼が積み上がる」


「それは――

 統制外だ」


「……例の清掃員」


 誰かが、

 そう呟いた。


 空気が、

 一段冷える。


「職業欄が

 無職のままの?」


「追放処理した、

 あの?」


「……今は

 “追放”じゃない」


 男が、

 淡々と言う。


「正式には、

 管理外だ」


「管理外……」


「ええ」


 男は、

 机を軽く叩いた。


「冒険者でもない」


「職員でもない」


「だが、

 街に影響を与えている」


「一番、

 厄介な存在だ」


 別の男が、

 言った。


「処分、

 しますか?」


「いや」


 即答。


「まだ早い」


「今は――

 拾わせろ」


「……拾わせる?」


「そうだ」


 男は、

 薄く笑った。


「ゴミを拾うなら、

 最後まで拾わせる」


「そのうち、

 “拾ってはいけない物”に

 手を出す」


「その瞬間に」


 指を、

 鳴らす。


「正当な理由で

 切れる」


 会議室の外。


 廊下の向こうで、

 誰かが

 掲示板に

 新しい依頼を貼った。


《清掃対象:旧区画・深層》

《危険度:未評価》

《責任所在:不問》


 男は、

 その文字を

 見ていなかった。


 だが。


 数字だけは、

 確実に

 異変を示していた。


 その依頼は、

 朝にはもう貼られていた。


 掲示板の一番下。

 目立たない位置。


 報酬も、

 控えめ。


「……これ?」


 レオルが、

 首を傾げる。


「深層区画の清掃……

 しかも、

 危険度未評価?」


「ギルドらしいわね」


 ミーナが、

 乾いた声で言う。


「評価しないことで、

 責任も消す」


 俺は、

 紙を剥がした。


 手触りが、

 少しだけ違う。


 裏面。


 小さく、

 追記。


《破損物多数/回収判断は現場一任》


「……判断、一任」


 ガルドが、

 歯を見せて笑う。


「また丸投げか」


「違う」


 俺は、

 首を振る。


「誘導だ」


「誘導?」


「拾っていい物と、

 拾っちゃいけない物の

 境界を――

 こっちに

 踏ませたい」


 ミーナが、

 静かに言った。


「踏めば、

 切る理由ができる」


「踏まなきゃ?」


「もっと、

 奥に行かされる」


 レオルが、

 不安そうに聞く。


「……行くんですか?」


 俺は、

 少しだけ考えた。


 掲示板の前。


 人の流れ。

 噂の流れ。


 誰も、

 この依頼を

 取らない。


「行くよ」


 俺は、

 即答した。


「掃除だから」


 ガルドが、

 肩をすくめる。


「理由になってねぇ」


「なるよ」


 俺は、

 紙を畳んだ。


「誰も

 片付けたがらない場所は、

 一番汚れてる」


《拾得物最適化指令:更新》

《清掃範囲:拡張》

《未知反応:検出》


 ギルドの奥。


 誰かが、

 その依頼が

 剥がされたことを

 確認した。


 だが、

 何も言わない。


 言えない。


 判断は、

 もう現場に渡ったから。


 王都の外れ。


 封鎖された

 旧ダンジョン区画。


 そこは、

 冒険者が

 「割に合わない」と

 切り捨てた場所。


 だから――

 ゴミが残っている。


 俺は、

 道具を背負った。


「じゃあ、

 行こうか」


 次は、

 拾う場所が

 変わるだけだ。


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