表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/96

ダンジョン清掃、慣れてきました

 ダンジョンの奥は、

 相変わらず薄暗かった。


 でも――

 空気は、少しだけ軽い。


「……なんか」


 レオルが、

 周囲を見回しながら言う。


「さっきより、

 歩きやすいですね」


「掃除したからな」


 俺は、

 当たり前のように答えた。


「通路が落ち着いてる」


《清掃進捗:良好》

《通行安定率:上昇》


 ミーナが、

 半信半疑で床を見る。


「……本当に、

 ダンジョンが

 機嫌よくなってる気がする」


「気のせいじゃない」


 ガルドが、

 大盾を肩に担いで言った。


「さっきまで、

 足元が嫌な感じだった」


「今は――

 普通だ」


 それが、

 何よりの証拠だった。


 進む途中。


 壁際に、

 奇妙なものが落ちていた。


「……あれ?」


 レオルが、

 足を止める。


 革袋。

 中身は空。


 でも――

 刻印がある。


「これ、

 冒険者用の……」


 ミーナが、

 目を細めた。


「しかも、

 割と最近」


 俺は、

 しゃがみ込んで確認する。


《拾得物:私物》

《所有者:不明》

《廃棄理由:意図的》


「……捨て方が、

 雑だな」


「雑?」


 レオルが、

 首をかしげる。


「普通、

 逃げる時って

 もっと散らかる」


 俺は、

 淡々と言った。


「これは――

 “切り捨て”だ」


 ガルドが、

 鼻を鳴らす。


「金目の物、

 抜いてから捨ててるな」


「仲間か?」


「いや」


 ミーナが、

 首を振った。


「違う」


「この刻印……

 見覚えある」


 一瞬、

 間が空く。


「……元勇者パーティ」


 空気が、

 微妙に重くなった。


「また、

 あいつらかよ」


 ガルドが、

 うんざりした声を出す。


「何か、

 あったんですか?」


 レオルが、

 恐る恐る聞く。


 俺は、

 革袋を持ち上げる。


「多分」


「ここで、

 トラブル起こしてる」


《路傍の神託:反応微弱》

《警告:過去の歪み》


 ……嫌な予感しかしない。


「拾います?」


 レオルが、

 俺を見る。


 俺は、

 一瞬だけ考えてから――

 頷いた。


「拾う」


「これは、

 あとで使う」


「……恥ずかしい方向で」


 ミーナが、

 ため息をついた。


「また、

 面倒なの拾ったわね」


 でも。


 誰も、

 反対しなかった。


 ダンジョンの奥で、

 過去の“置き忘れ”が、

 静かに待っていた。


 革袋の中身は、

 思っていたより――

 ひどかった。


「……なにこれ」


 ミーナが、

 真顔で呟く。


 中から出てきたのは、

 紙の束。


 装備でも、

 金品でもない。


 文字だらけの――

 メモ帳。


「日記?」


 レオルが、

 恐る恐る覗き込む。


「いや……

 違うな、これ」


 ガルドが、

 肩をすくめる。


「“記録”だ」


 俺は、

 一枚めくる。


 そこには、

 丁寧すぎる文字で

 こう書かれていた。


・ミーナ系ヒーラーは信用するな

・回復は遅い方が興奮する

・でも怒られるのは怖い


「……」


 沈黙。


「……は?」


 ミーナが、

 低い声を出す。


 俺は、

 黙って次のページをめくる。


・宿屋では必ず隣の部屋を確認

・音が聞こえると集中できる

・指摘されたら逆ギレすること


「……これは」


 ガルドが、

 ゆっくり言う。


「勇者パーティの

 戦術メモ……じゃねぇな」


「完全に、

 私物よね」


 ミーナが、

 額を押さえた。


 レオルは、

 顔を赤くして

 視線を逸らす。


「……あの」


「これ、

 拾っちゃって

 いいんですか?」


 俺は、

 即答した。


「いい」


「これは――

 ゴミじゃない」


《拾得物判定:重要》

《分類:社会的ダメージ》

《使用タイミング:後日》


 表示が、

 物騒すぎる。


「使い道、

 あるんですか……?」


 レオルの声が、

 震える。


「ある」


 俺は、

 淡々と言った。


「“自分たちが

 何を捨ててきたか”を

 思い出させる用途」


 ミーナは、

 深く息を吐く。


「……あんた、

 本当に容赦ないわね」


「拾っただけだよ」


 ガルドが、

 ニヤニヤ笑う。


「いや、

 拾う場所と

 拾う人が悪い」


 その時。


 通路の奥で、

 魔力反応。


 今度は、

 はっきりした気配。


「……来る」


 ミーナが、

 即座に構える。


「雑魚じゃない」


 俺は、

 メモ帳を

 革袋に戻した。


「じゃあ、

 これは後回し」


「今は――」


 モップを持ち直す。


「ちゃんとした

 ゴミの方を

 片付けよう」


 レオルが、

 剣を握り直す。


 ガルドが、

 一歩前に出る。


 即席パーティは、

 もう迷っていなかった。


 ダンジョンの奥で、

 “捨てられた過去”と

 “今の仕事”が、

 並走し始めていた。


 魔力反応の正体は、

 大型でも希少種でもなかった。


「……群れか」


 ガルドが、

 低く唸る。


 岩陰から現れたのは、

 中型魔物が三体。


 動きは荒いが、

 統率は取れていない。


「私が支援する」


 ミーナが、

 即座に詠唱に入る。


「レオル、

 前に出すぎないで」


「は、はい!」


 レオルは、

 一瞬こちらを見てから

 頷いた。


 いい判断だ。


「ガルド、

 左」


「任せろ!」


 戦闘は、

 驚くほど噛み合った。


 ガルドが押さえ、

 レオルが隙を突き、

 ミーナの支援が

 最小限で最大効果を出す。


 俺は――

 無理に前に出ない。


 倒すより、

 崩さない。


 魔物の一体が、

 床を叩いた瞬間。


「そこ、

 崩れる」


 俺の声で、

 全員が一歩引く。


 次の瞬間、

 床が抜けた。


 もし踏み込んでいたら、

 落下していた。


「……助かった」


 ガルドが、

 短く礼を言う。


 最後の一体は、

 レオルの一撃で倒れた。


 静寂。


 息を整える。


「……よし」


 俺は、

 モップを手に取った。


「清掃、

 入ります」


《冥途回収:成功》

《戦闘残骸処理》

《通路安全度:上昇》


 魔物の残骸が消え、

 床の不安定さも

 落ち着いていく。


 レオルが、

 少し迷ってから言った。


「……さっきの床」


「拾わなかったの、

 正解でしたね」


「うん」


「拾うと、

 踏み込むから」


 ミーナが、

 小さく笑った。


「仕事として

 成立してるわ」


「少なくとも、

 無駄じゃない」


 ガルドは、

 腕を組む。


「……気に入った」


「この清掃」


「楽じゃねぇが、

 ちゃんと

 生き残れる」


 俺は、

 最後に周囲を見渡す。


 そして――

 一つだけ、

 小さな箱に目が留まった。


 戦闘とは関係ない場所。


 でも、

 わざと隠された位置。


「……これは」


《拾得候補:密封箱》

《所有者:不明》

《内容:未確認》

《警告:公開時影響大》


 俺は、

 箱を持ち上げてから

 一度止まった。


「……これは、

 今じゃない」


 ミーナが、

 眉を上げる。


「拾わないの?」


「拾う」


 俺は、

 静かに答える。


「でも――

 開かない」


 箱を、

 バッグにしまう。


「タイミングが、

 ある」


 レオルが、

 真剣な顔で頷いた。


「……分かります」


 ダンジョンの奥は、

 まだ続いている。


 でも。


 このパーティは、

 もう“偶然集まった”

 集団じゃなかった。


 判断を共有し、

 拾う責任を

 分け合う仲間になっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ