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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第2章

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捨てられた王

 異変は、

 音から始まった。


 王城のどこかで、

 鈍い衝撃音が鳴った。


 地鳴りのようで、

 でも地震じゃない。


「……?」


 城内の通路で、

 俺は足を止めた。


《警告》

《城内汚染レベル:急上昇》

《発生源:地下・旧封印区画》


 嫌な予感しかしない。


「清掃対象、

 増えすぎだろ……」


 その直後。


 ――ゴン。


 今度は、

 はっきりした破壊音。


 壁の向こうから、

 悲鳴が聞こえた。


「魔物だ!」

「城の中に……!」


 兵士たちが、

 駆け抜けていく。


 鎧の音。

 混乱した声。


 城が、

 一気にざわついた。


 俺は、

 清掃用具を握り直す。


 モップ。

 バケツ。

 そして――

 拾い集めてきた、

 “使えそうなゴミ”。


「……まさか」


 嫌な想像が、

 頭をよぎる。


 地下への階段。


 そこから、

 黒い霧が噴き上がってきた。


 空気が、

 重くなる。


 息が、

 詰まる。


「全員、

 下がれ!」


 王子の声が、

 響いた。


 兵士たちが、

 陣形を組む。


 だが――

 霧の中から、

 人影が現れた。


 背は高い。

 輪郭は、人。


 けれど。


 肌は黒く、

 血管のような

 赤い光が走っている。


「……グレイヴ?」


 誰かが、

 呟いた。


 それは、

 もう“内務大臣”じゃなかった。


「不要……不要……」


 低く、

 歪んだ声。


「情も、

 記憶も、

 すべて――

 不要だ」


 胸の中心で、

 黒い核が

 脈打っている。


 あれだ。


 間違いない。


「王城は、

 整理されねばならぬ」


 グレイヴ――

 いや、

 魔人グレイヴが

 一歩踏み出す。


 床が、

 砕けた。


 兵士の一人が、

 吹き飛ばされる。


「陛下を、

 お守りしろ!」


 王子の声。


 王は、

 一歩も退かなかった。


 その背中を見て、

 俺は思う。


「……これ、

 清掃の範囲、

 完全に超えてるよな」


 でも。


 拾ってきたものは、

 全部――

 この瞬間のためだ。


 俺は、

 前に出た。


「それ、

 捨てられた力だろ」


 魔人が、

 こちらを見る。


「拾う」


 清掃用具を、

 構えた。


「俺が」


 城の中心で、

 王都の未来を賭けた

 “ゴミ拾い”が、

 始まろうとしていた。


 最初の一撃は、

 魔人グレイヴからだった。


「整理」


 たった一言。


 それだけで、

 空気が圧縮される。


 ――ドンッ!!


 衝撃波が、

 王城の床を抉った。


 石畳が砕け、

 破片が弾丸のように飛ぶ。


「伏せろ!!」


 兵士たちが、

 吹き飛ばされた。


 盾が砕け、

 壁に叩きつけられる。


 ……強い。


 普通に、

 国家級。


「王城にあるものは、

 すべて王の物!」


 魔人が叫ぶ。


「王に不要なものは、

 この国にも不要だ!!」


 腕を振るう。


 赤黒い光が、

 刃のように走る。


 俺は、

 即座に動いた。


「拾得物最適化指令――

 起動!」


 足元の瓦礫が、

 瞬時に集まる。


 折れた剣。

 砕けた盾。

 使い捨てられた防具。


 全部――

 ゴミ箱行きだった物。


 それが、

 空中で組み上がる。


 即席の――

 多層防御障壁。


 ガンッ!!


 魔人の攻撃が、

 正面から叩きつけられる。


 防壁が砕ける。

 でも、

 衝撃は殺した。


「……拾った、だと?」


 魔人が、

 唸る。


「捨てられた物ほど、

 しぶといんだよ」


 俺は、

 息を吐く。


「経験談」


 次の瞬間。


 魔人が、

 地面を蹴った。


 距離が、

 一気に詰まる。


 拳が、

 迫る。


「廃棄王の核――

 出力最大!!」


 直撃すれば、

 終わりだ。


「清掃者権限・改!」


 モップを、

 地面に突き立てる。


 ――ゴォォン!!


 衝撃を“吸う”感触。


 核の力が、

 一瞬だけ、

 拡散した。


「なに……?」


 魔人の動きが、

 僅かに止まる。


「整理は、

 切ることだろ」


 俺は、

 踏み込む。


「清掃は、

 残すことも含む」


 拾い集めた

 古い装飾品が、

 宙を舞う。


 王妃の指輪。

 王子の幼い頃の護符。


「感情は、

 ゴミじゃない」


 それらが、

 光を放つ。


 魔人が、

 顔を歪める。


「黙れ!!」


 黒い衝撃が、

 放たれる。


 壁が崩れ、

 天井が割れる。


 だが――

 光は消えない。


「お前は、

 整理したつもりで――」


 俺は、

 叫ぶ。


「隠してただけだ!!」


 核が、

 激しく脈打つ。


「不要だ……!」

「不要だ不要だ不要だ!!」


 魔人の声が、

 歪む。


 そこに――


「もういい」


 王の声が、

 響いた。


 王は、

 一歩前に出る。


「我が国は、

 切り捨てて

 保たれるものではない」


 王子も、

 隣に立つ。


「拾い直す国で、

 ありたい」


 その言葉に、

 核が悲鳴を上げた。


 俺は、

 最後の準備をする。


「……じゃあ」


 モップを、

 振りかぶる。


「最終清掃だ」


 魔人グレイヴの身体が、

 軋むような音を立てた。


 黒い核が、

 限界まで脈打っている。


「不要……不要……」


 声が、

 もはや人の形をしていない。


「切り捨てねば、

 国は保てぬ……!」


 黒い衝撃が、

 暴風のように吹き荒れる。


 柱が折れ、

 天井が崩れ落ちる。


 王城の大広間が、

 瓦礫の山になっていく。


「……重いな」


 俺は、

 正直にそう思った。


 力じゃない。

 質量でもない。


 執着だ。


 捨てることでしか、

 世界を維持できないと思い込んだ――

 その重さ。


「だったら」


 俺は、

 一歩踏み出す。


「拾い方を、

 間違えただけだ」


 モップを、

 地面に叩きつける。


「――零価再定義」


 空間が、

 一瞬、静止した。


 砕けた瓦礫。

 折れた柱。

 破棄された装備。


 そして――

 黒い核。


 すべてに、

 同じ表示が走る。


《価値:再判定中》

《用途:未確定》

《廃棄理由:主観的》


「な、

 にを……!」


 魔人が、

 後ずさる。


「捨てるか残すか、

 二択しかないから

 おかしくなる」


 俺は、

 淡々と言う。


「使い道は、

 あとから決めればいい」


 次の瞬間。


 拾い集めた“ゴミ”が、

 一斉に動いた。


 折れた剣は、

 防壁になる。


 割れた装飾は、

 魔力を散らす。


 清掃用具は、

 最適化された武装へ変わる。


「廃棄王の核」


 俺は、

 真正面から言った。


「お前は、

 力でも王でもない」


 核が、

 悲鳴のように振動する。


「……お前は」


 一歩、

 踏み込む。


「捨てられなかった失敗作だ」


 ――ガンッ!!


 モップが、

 核を叩いた。


 衝撃は、

 破壊じゃない。


 分解だ。


 黒い光が、

 ほどけていく。


「違う……」

「私は……国のために……」


 魔人の身体が、

 崩れ落ちる。


 その中から、

 人の姿が現れた。


 グレイヴだった。


 膝をつき、

 息も絶え絶えで、

 床を見つめている。


 王が、

 前に出た。


「グレイヴ=フォン=アーデルハイト」


 低く、

 しかし明確な声。


「お前は、

 整理と称して

 人と国を切り捨てた」


 王子も、

 続く。


「だが、

 この国は

 不要物の集合体だ」


「過去も、

 感情も、

 失敗も――

 全部抱えて、

 前に進む」


 グレイヴは、

 何も言えなかった。


 王は、

 最後に告げる。


「お前を、

 断罪する」


「理由は一つ」


 王の視線が、

 俺に向く。


「この城には、

 “拾う者”が

 必要だった」


 兵士たちが、

 静かに囲む。


 戦いは、

 終わった。


 崩れた大広間で、

 俺はモップを立てる。


「……清掃、

 完了っと」


 瓦礫の中で、

 朝の光が差し込んだ。


 王は、

 こちらを見て言う。


「ユウキ」


「褒美を取れ」


 俺は、

 少し考えてから答えた。


「じゃあ――」


「マルタさんと

 リィナさんの

 給料、上げてください」


 一瞬の沈黙。


 そして――

 王は、

 声を出して笑った。


「承知した」


 こうして。


 城は救われ、

 俺は相変わらず

 ゴミ拾いを続ける。


 ただし次からは――

 拾う場所が、

 ダンジョンになるだけだ。


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