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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第2章

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王と王子を分けたもの

 王城の倉庫は、

 朝でも薄暗かった。


 扉が開く音が、

 やけに大きく響く。


「……ここからだ」


 王が、

 静かに言った。


 隣には王子。

 少し後ろに、

 数名の側近。


 そして――

 俺。


「清掃の範囲、

 広がりましたね」


 場違いな一言だったが、

 誰も咎めなかった。


 王は、

 頷くだけだ。


「“不要物”として

 回された物を、

 全て確認する」


 正式な調査ではない。

 だが――

 清掃という名目なら、

 誰にも止められない。


 棚を一つずつ開ける。


 帳簿。

 箱。

 布包み。


 どれも雑多だが、

 共通点があった。


「……分類が、

 異様に揃っている」


 王子が、

 眉をひそめる。


「年代も、

 所有者も違うのに」


「同じ人が、

 判断してます」


 俺は、

 淡々と言った。


「捨てるかどうかを」


 王が、

 視線を向ける。


「……分かるのか」


「癖があります」


 ゴミ拾いスキルが、

 低く反応していた。


《廃棄判断者:同一》

《意図的分別:有》


 俺は、

 一つの木箱を引き出す。


「これ」


 中身は、

 古い文書だった。


 破れている。

 汚れている。


 でも――

 読める。


「……これは」


 王子が、

 声を落とす。


「父上と、

 私が衝突した年の……」


「王命案の草稿です」


 王が、

 即座に理解した。


 その隣に、

 別の箱。


 中には、

 書き直された命令書。


 筆跡は、

 同じ。


「……書き換えられている」


 王子の声が、

 震える。


「これを元に、

 報告が上がった」


 王は、

 深く息を吸う。


「つまり――」


「分断は、

 偶然じゃないです」


 俺が、

 続きを言った。


「整理されたんです」

「意図的に」


 空気が、

 重くなる。


 その時。


「――おやおや」


 聞き覚えのある声。


 振り向くと、

 倉庫の入口に

 グレイヴが立っていた。


「陛下、

 そのような場所に

 足を運ばれるとは」


 視線が、

 俺に向く。


「清掃の範疇を、

 超えていませんか?」


 王は、

 箱を閉じた。


「清掃だ」

「城を、

 見直している」


 グレイヴは、

 一瞬だけ笑う。


「不要な過去まで、

 拾い上げるおつもりで?」


 俺は、

 一歩前に出る。


「不要かどうかは、

 まだ分かりません」


「……何?」


「使われてます」


 箱を、

 軽く叩く。


「今も」


 グレイヴの表情が、

 初めて歪んだ。


 王は、

 それを見逃さない。


「内務大臣」

「少し、

 話をしよう」


 穏やかな声。


 だが――

 逃げ道は、

 もうなかった。


 倉庫の空気は、

 完全に変わっていた。


 王と王子を分けたものが、

 “物”として、

 そこに並んでいた。


 倉庫の中は、

 不思議なほど静かだった。


 誰もが、

 次に発せられる言葉を待っている。


「……内務大臣」


 王が、

 ゆっくり口を開く。


「説明してもらおう」


 グレイヴは、

 一礼した。


 完璧な所作。

 乱れはない。


「説明も何も、

 陛下」


「不要物の整理は、

 私の職務です」


 即答だった。


「王城は、

 歴史と物で溢れている」

「すべてを残せば、

 秩序が崩れる」


 王子が、

 一歩前に出る。


「では、

 なぜこれは残された?」


 破れた草稿を掲げる。


「なぜ、

 倉庫の奥に?」


 グレイヴは、

 視線を落とさない。


「証拠保全です」


「“不要”なのに?」


 一瞬だけ、

 間があった。


 俺は、

 その間を拾った。


「分類、

 おかしいです」


 全員の視線が、

 こちらに集まる。


「捨てるなら、

 完全に捨ててます」

「でもこれは、

 “いつでも取り出せる場所”」


 棚の位置を指す。


「隠してる」


 グレイヴの眉が、

 僅かに動く。


「……何が言いたい」


「整理じゃない」

「管理です」


 言葉は、

 短くした。


「必要な時に、

 使うための」


 王は、

 深く頷いた。


「つまり、

 お前は――」


「陛下」


 グレイヴが、

 遮る。


「国を守るためです」


 声に、

 熱がこもる。


「王と王子が衝突することは、

 避けられない」

「ならば、

 制御された衝突の方が、

 国は安定する!」


 王子の手が、

 震えた。


「……利用していたのか」


「導いていたのです」


 グレイヴは、

 言い切った。


「感情は、

 統治に不要」


「思い出も、

 情も――

 秩序の敵だ」


 その瞬間。


 王が、

 静かに言った。


「では、

 王妃の装身具は?」


 グレイヴは、

 一瞬だけ言葉を詰まらせた。


「……感情を刺激する物は、

 政治に不要です」


 王は、

 目を閉じた。


「そうか」


 短い言葉。


 だが――

 重い。


 俺は、

 一歩前に出る。


「判断、

 間違ってます」


「……清掃の分際で」


「捨てたつもりで、

 捨ててない」


 棚を、

 軽く叩く。


「だから、

 腐るんです」


 空気が、

 一気に冷える。


「整理は、

 切ること」


「清掃は、

 向き合うこと」


 グレイヴは、

 歯を食いしばった。


「……感傷論だ」


「仕事論です」


 即答だった。


 王は、

 目を開く。


「内務大臣」

「しばらく、

 職務を離れてもらう」


 グレイヴの目が、

 見開かれる。


「陛下!」


「調査が必要だ」


 王子が、

 静かに続ける。


「……私も、

 立ち会います」


 包囲は、

 完成しつつあった。


 だが――

 グレイヴは、

 まだ笑っていた。


「……なるほど」


 低い声。


「ならば――

 最悪の場合を、

 想定せねばなりませんな」


 その目は、

 すでに逃げ場を探している。


 倉庫の奥で、

 何かが、

 鈍く脈打った。


 倉庫の奥――

 誰も足を踏み入れない場所で、

 微かな音がしていた。


 鼓動のような、

 不快な振動。


 俺だけが、

 それに気づいていた。


《警告》

《廃棄指定物:危険反応》

《分類不能:核状構造》


 ……やっぱり、

 あった。


 グレイヴは、

 それ以上何も言わず、

 深く一礼した。


「調査には、

 全面的に協力しましょう」


 言葉だけは、

 丁寧だった。


 だが、

 その目はもう――

 王を見ていない。


 王は、

 静かに告げる。


「本日は、

 ここまでだ」


 倉庫を出る足音が、

 重なる。


 王子が、

 王の隣に並ぶ。


「父上」


「……ああ」


 短い返事。


 だが、

 それだけで十分だった。


 すれ違っていた時間が、

 少しだけ、

 埋まった気がした。


 俺は、

 最後に倉庫を振り返る。


 棚の影。

 床の亀裂。


 そこから、

 黒い光が

 一瞬、脈打った。


「……あれ、

 触らせちゃダメなやつだ」


 独り言のつもりだったが、

 王子が振り返る。


「何か言ったか?」


「いえ」

「清掃、

 続けます」


 王は、

 わずかに微笑んだ。


「頼んだぞ」

「この城の、

 本当の清掃を」


 その言葉は、

 命令ではなかった。


 信頼だった。


 夜。


 城の別室で、

 グレイヴは

 一人きりだった。


 床の石板が、

 音もなく開く。


 中から現れたのは、

 黒い核。


 脈打つそれを、

 彼は見下ろす。


「……不要物だと?」


 低く、

 嗤う。


「違う」

「これは――

 切り捨てられた力だ」


 手を伸ばす。


「拾わなかった者たちが、

 愚かなだけだ」


 黒い核が、

 応えるように光った。


 城の外では、

 何も知らず、

 夜が静かに流れていた。


 そして俺は、

 清掃用具を手に、

 こう思っていた。


「……拾う仕事って、

 間に合わないこともあるんだな」


 それでも。


 次に拾うのは――

 覚悟だ。


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