減りすぎた
山を下りて半日。
最初に異変に気づいたのは、レオルだった。
「……あれ?」
足を止め、振り返る。
「魔物の気配、少なすぎません?」
「だな」
ガルドも頷く。
「一体もいねぇ」
ミーナは、魔力計を確認する。
「増殖は止まっています」
「ですが……」
一拍置いて、
「想定数より、減りすぎています」
ユウキは、黙って地面を見ていた。
装備袋は、鳴らない。
《即時回収対象:なし》
だが、嫌な沈黙がある。
「……増えなくなった」
ユウキが言う。
「代わりに――」
山肌を見る。
以前は、
魔物が“間引き役”になっていた。
増えすぎた草。
小動物。
地表の魔力。
全部、食われていた。
「……循環が」
ミーナが、静かに言う。
「止まっています」
ガルドが眉をひそめる。
「魔物って、厄介だが」
「仕事はしてた、ってことか」
「そう」
ユウキは頷く。
「分体は、ゴミだった」
「でも――」
一歩進む。
「役目まで一緒に消した」
⸻
山の中腹。
獣道が、崩れていた。
草が、異常に伸びている。
小動物の死骸が、放置されている。
「……食うやつがいねぇ」
ガルドが低く言う。
ミーナが、即座に整理する。
「分体の魔王は」
「増殖という形で」
「生態系の“調整役”になっていました」
レオルが、息を呑む。
「じゃあ……」
「止めたの、まずかった?」
「違う」
ユウキは即答した。
「止める必要はあった」
少しだけ、視線を落とす。
「でも」
続ける。
「後始末が残った」
装備袋が、ようやく微かに鳴った。
《二次影響:進行中》
《対象:生態過密》
「……これだ」
ユウキは言った。
⸻
開けた斜面。
草が、波打つように生えている。
その中心で――
小型の獣が、異様な数で密集していた。
逃げない。
威嚇もしない。
「……飽和してる」
ミーナが言う。
「生き物が、生きられない状態です」
「魔王がいた時は」
ガルドが言う。
「増えた分、食われてた」
「そう」
ユウキは頷く。
「倒した後は、増えすぎた」
レオルが、困った顔をする。
「……じゃあ、どうするんです?」
ユウキは、少し考えた。
剣は使わない。
回収もしない。
「……拾わない」
そう言った。
三人が、同時に見る。
「代わりに」
ユウキは続ける。
「戻す」
装備袋から、
分体制御核だった“ただの石”を取り出す。
《零価再定義》
対象は、増殖命令ではない。
――間引きという役割。
だが、
魔王の形では戻さない。
「……再定義」
ユウキが、低く言う。
「“魔物”じゃなく」
「自然の仕組みとして」
石が、淡く光る。
風が、流れる。
草が、ゆっくりと倒れる。
獣たちが、散っていく。
捕食者が、戻ってくる。
ミーナが、目を見開く。
「……魔王の役割を」
「世界に、返した……」
「返しただけだ」
ユウキは言った。
「拾いすぎたからな」
⸻
夕方。
山は、静かになっていた。
危険でもなく、
過密でもない。
「……討伐数」
レオルが呟く。
「結局、意味なかったですね」
「意味はあった」
ユウキは答える。
「間違いだって、分かった」
ガルドが、苦笑する。
「後処理までやると」
「ほんと、掃除屋だな」
ユウキは、肩をすくめた。
「ゴミは」
そう言った。
「捨てた後が、一番厄介だ」
山を下りる。
分体の魔王は、完全に終わった。
だが――
“魔王を倒した後”は、
やっぱり簡単じゃなかった。




