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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
20章

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減らない

依頼掲示板が、うるさかった。


「また出たぞ!」

「昨日片付けたはずだろ!」

「数、増えてないか?」


紙が、何枚も重なって貼られている。


《討伐依頼》

《対象:小型魔物群》

《発生源:不明》

《報酬:低》


どれも似た内容だ。

違うのは、日付だけ。


「……これ」

レオルが、眉をひそめる。

「全部同じ場所ですね」


「山岳帯だな」

ガルドが言う。

「一帯、魔物の巣になってる」


ミーナは、紙の端を指で弾いた。

「討伐数の報告が、異常です」

「減っていません」


ユウキは、黙って見ていた。


装備袋は、鳴らない。


《即時回収対象:なし》


だが――

嫌な感じが、ある。


「受けるか?」

ガルドが聞く。


「受ける」

ユウキは即答した。

「これは……」


一拍置いて、続ける。


「減らないタイプだ」



山岳帯の入り口は、荒れていた。


仮設の柵。

応急処置された岩壁。

疲れた顔の冒険者たち。


「またかよ……」

「倒しても倒しても、湧いてくる」


一人が、ユウキたちを見て声をかける。

「新人か?」

「やめとけ、割に合わねぇ」


「どんな魔物です?」

レオルが聞く。


冒険者は、首を振った。

「弱い」

「一体一体は、な」


「じゃあ、なんで?」

レオルが食いつく。


「倒すと」

冒険者は、少し間を置いて言った。

「増える」


その言葉で、

ガルドが舌打ちした。

「最悪だな」


ミーナが、冷静に整理する。

「分裂、あるいは誘発型増殖ですね」


「違う」

冒険者が言った。

「もっと、嫌な感じだ」


「切ったら増える、とかじゃねぇ」

「倒した“あと”に、増える」


ユウキは、その時点で確信した。


「……分体だ」


冒険者が、驚いた顔をする。

「名前、知ってるのか?」


「いや」

ユウキは首を振る。

「仕組みを知ってる」


装備袋が、ようやく微かに鳴った。


《残留機構:検知》

《増殖条件:討伐完了》


「……ああ」

ユウキは、息を吐く。


「これ」

地面を見る。


「倒すほど、増える」


遠くで、魔物の鳴き声。


数は、多い。

だが、統制はない。


「行くぞ」

ユウキが言う。


「今日は」

一拍置いて。


「一体も倒さない」


ガルドとレオルが、同時に振り向く。


「……は?」

「えっ?」


ミーナだけが、理解したように頷いた。


「なるほど」

「倒した時点で、負けですね」


山の奥で、

また一体、魔物が生まれた。


討伐数は、今日も増える。


――減らないまま。


山に入った途端、音が増えた。


金属音。

怒号。

魔法の破裂音。


「……もう始まってるな」

ガルドが言う。


少し進んだ先で、戦闘が起きていた。


五人組の冒険者パーティ。

相手は、小型の魔物が十数体。


数は多いが、動きは単調だ。


「行け!」

「数を減らせ!」


剣が振るわれ、

魔法が炸裂する。


魔物が、倒れる。


――その瞬間。


地面が、脈打った。


「……おい」

レオルが、声を落とす。


倒れた魔物の影が、

じわりと広がる。


次の瞬間、

二体、立ち上がった。


「は!?」

冒険者が叫ぶ。


「また増えたぞ!」

「くそっ、何なんだ!」


「下がれ!」

ユウキが叫ぶ。


だが、遅い。


冒険者たちは、

“正しい行動”を続けていた。


倒す。

数を減らす。

討伐する。


そのたびに――

数が、増える。


「馬鹿な……」

レオルが、息を呑む。

「本当に……」


ミーナが、冷静に分析する。

「討伐完了が、増殖条件」

「完全に、逆設計です」


ガルドが、歯を鳴らす。

「最悪の罠だな」


戦闘は、膠着した。


冒険者たちは疲弊し、

魔物は、確実に増えている。


そこへ、王国の伝令が走り込んできた。


「指示だ!」

「数で押せ!」

「討伐数を減らすな!」


冒険者の一人が、叫び返す。

「減ってねぇんだよ!」


だが、命令は変わらない。


「討伐継続!」

「殲滅するまで下がるな!」


ユウキは、状況を一瞥して言った。


「……これ」

低い声。

「全滅コースだ」


ガルドが、即答する。

「止めるか?」


「止めない」

ユウキは首を振る。

「止められない」


「じゃあどうする!?」

レオルが声を荒げる。


ユウキは、前に出た。


剣も、魔法も使わずに。


「おい!」

冒険者が叫ぶ。

「何やって――」


ユウキは、魔物の群れの中を歩いた。


攻撃しない。

倒さない。


魔物は、一瞬、動きを止める。


「……?」

群れが、戸惑う。


《増殖条件:未達》

《分体生成:停止》


装備袋が、はっきり鳴った。


「今だ」

ユウキが言う。


ミーナが、即座に理解する。

「増えません」

「倒さなければ」


「は!?」

冒険者たちが混乱する。


「倒すな!」

ユウキが叫ぶ。

「倒すと、増える!」


だが――

剣は、止まらない。


善意。

正義。

討伐という“正解”。


それが、

この魔王にとっての餌だった。


ガルドが、舌打ちする。

「……説教してる暇はねぇな」


「ない」

ユウキは言った。


視線は、もっと奥。


山のさらに深部。

“増える理由”がある場所。


「行くぞ」

ユウキが言う。


「増えてる現場を、無視する」


レオルが、目を見開く。

「助けないんですか!?」


「助ける」

ユウキは答える。

「後で、まとめて」


背後で、また一体、魔物が増えた。


討伐数は、今日も更新される。


正解を続ける限り――

終わらない。


山の奥は、静かだった。


戦闘音が、嘘のように届かない。

風も、獣の声もない。


「……ここだけ、別だな」

ガルドが低く言う。


「増えてない」

ミーナが即答する。

「ここでは、討伐が起きていません」


岩壁の裂け目。

その奥に――何かがある。


装備袋が、はっきり鳴った。


《分体制御核:検知》

《状態:機能稼働中》

《人格反応:なし》


「……魔王、って感じじゃねぇな」

ガルドが言う。


「魔王“だった”機構だ」

ユウキは答える。

「倒された後に、残った仕事」


裂け目の奥に、

淡く脈打つ結晶体があった。


心臓でも、核でもない。

分裂命令だけが残った装置。


倒された魔王が、

最後に“仕事を続けるため”に残したもの。


「……哀れだな」

レオルが、ぽつりと言う。


「哀れじゃない」

ユウキは首を振る。

「危ないだけだ」


結晶が、微かに震える。


外で、また討伐が起きたのだろう。

増殖信号が、走る。


「……間に合うか?」

ガルドが問う。


「間に合わせる」

ユウキは言った。


剣は抜かない。

魔法も使わない。


ただ、結晶に手を伸ばす。


《零価再定義》


対象は――

“討伐完了をトリガーに増える役割”。


存在ではない。

数でもない。


「増えろ」という命令だけ。


結晶が、抵抗する。


だが、意思はない。

ただ、続けていただけだ。


《役割再定義:完了》

《増殖条件:解除》


一瞬、山全体が――静止した。


遠くで、戦闘音が止まる。


「……あ?」

冒険者の声が、風に乗って聞こえる。

「倒したのに……増えねぇ?」


ミーナが、即座に確認する。

「分体生成、停止」

「これ以上、増えません」


結晶は、ただの石になった。


ユウキは、それを拾い上げ、袋に入れる。


「……終わりだ」

そう言った。


山を下りる途中、

疲弊していた冒険者たちが呆然としている。


「……終わった?」

「数、減ってるぞ……?」


誰かが、ユウキたちを見る。


「お前ら、何した?」


ユウキは、答えない。


代わりに、地面を見る。


そこには、

倒される必要のなくなった魔物たちが、

逃げるように散っていく姿があった。


「……討伐数」

ガルドが、ぼそっと言う。

「今日、最低記録だな」


「それでいい」

ユウキは言った。


王国への報告は、短く書いた。


《対象:小型魔物群》

《原因:増殖機構》

《対応:機構回収》

《討伐数:不要》


返事は、まだ来ない。


だが――

否定は、もうできない。


数で押した者たちは、疲弊した。

拾った者だけが、終わらせた。


ユウキは、山を振り返らなかった。


「……次は?」

レオルが聞く。


「まだ、ある」

ユウキは答える。

「増えなくなっただけだ」


分体の魔王は、これで終わり。


だが世界には、

まだ“片付け方を間違えた魔王”が、

いくつも残っている。


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