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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第2章

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王妃が失くしたもの

 翌朝。


 王城の廊下は、

 昨日より少しだけ賑やかだった。


 音が増えた、

 というより――

 人の気配が柔らかくなった。


「……おはようございます」


 使用人が、

 足を止めて挨拶してくる。


 今までは、

 すれ違うだけだった。


「おはようございます」


 返しながら、

 床を見る。


 昨日掃除した場所は、

 ちゃんと維持されている。


 ゴミが戻っていない。


「……いい感じだ」


 城の清掃は、

 一度やって終わりじゃない。


 続いて初めて、

 意味が出る。


 朝の巡回を終えた頃、

 使者――昨日の案内役だった男が声をかけてきた。


「陛下がお呼びだ」


「分かりました」


 通されたのは、

 謁見の間……ではなく、

 小さな応接室だった。


 王は、

 窓際に立っていた。


「来たか」


「はい」


「昨日の件、

 王妃から聞いた」


 俺は、

 軽く頷く。


「倉庫に、

 あっただけです」


「それでもだ」


 王は、

 窓の外を見る。


「城で、

 あの表情を見たのは久しい」


 しばらく沈黙。


「……城が、

 変わり始めている」


 その言葉は、

 断定ではなく確認だった。


「清掃の力、

 というわけではないな」


「清掃は、

 きっかけです」


 そう答えた。


「拾ったのは、

 物だけじゃありません」


 王が、

 こちらを振り返る。


「ほう?」


「思い出とか、

 置き去りにされたものとか」


 王は、

 小さく息を吐いた。


「……内務が、

 長く城を預かっていた」


 名は出さない。


 でも、

 誰のことかは分かる。


「不要と判断された物は、

 すべて倉庫へ回されていたそうだ」


「見ました」


「そうか」


 王の目が、

 少しだけ鋭くなる。


「清掃を、

 続けてくれ」


「はい」


「王妃の私室だけでなく、

 他の区画もだ」


 それは、

 信頼の証だった。


 部屋を出ると、

 王妃の侍女が待っていた。


「本日は、

 こちらもお願いできますか」


 案内されたのは、

 王妃の衣装庫。


 中には、

 整然と並ぶドレス。


 でも――

 一角だけ、

 妙に空いている。


「……ここ」


 俺が立ち止まる。


 侍女が、

 小さく頷く。


「処分された、と……」


「されてません」


 ゴミ拾いスキルが、

 静かに反応した。


《探索対象:情緒的価値物》

《所在:王城・旧倉庫(第二層)》


「また、

 倉庫ですね」


 侍女は、

 苦笑した。


「王城のゴミは、

 深いです」


 俺は手袋を締め直す。


 拾う物は、

 まだある。


 そして――

 それを嫌がる者も。


 城は、

 静かに動き始めていた。


 旧倉庫の第二層は、

 第一層よりもさらに奥まっていた。


 扉を開けた瞬間、

 空気が一段重くなる。


「……ここ、

 使われてないですね」


 侍女が小さく頷く。


「記録上は、

 “整理済み”と……」


 その言葉に、

 少し引っかかる。


 整理と清掃は、

 違う。


 棚の奥に、

 布で包まれた箱があった。


 丁寧に、

 でも急いで隠した跡。


「……これ」


 布を外す。


 中にあったのは、

 古いドレスだった。


 派手さはない。

 王妃の今の衣装より、

 ずっと質素。


 でも――

 裾の補修は、

 何度も繰り返されている。


「……若い頃の」


 侍女が、

 息を呑む。


「即位前に、

 よく着ていたものです」


 ゴミ拾いスキルが、

 静かに反応する。


《不要物判定:否》

《情緒的価値:極高》


「捨てられた理由、

 分かります」


「……なぜ?」


「今の王妃様に、

 “ふさわしくない”から」


 侍女は、

 言葉を失った。


 王妃の私室に戻る。


 ドレスを差し出すと、

 王妃は一瞬で理解した。


「……まだ、

 残っていたのですね」


 声が、

 少し柔らかい。


「陛下と、

 よく城下を歩いた時の」


 指で布をなぞる。


「もう、

 必要ないと思っていました」


「でも――

 捨ててませんでした」


 王妃は、

 小さく笑った。


「ええ」


 その時、

 扉がノックされる。


「……失礼する」


 王だった。


 ドレスを見て、

 一瞬言葉を失う。


「それは……」


「覚えていますか?」


 王妃が、

 そう言う。


「まだ、

 王城が今ほど立派じゃなかった頃」


 王は、

 ゆっくり頷く。


「……忘れるわけがない」


 沈黙。


 でも、

 気まずさはない。


 王が、

 静かに言った。


「すまなかった」


 それだけ。


 王妃は、

 首を振る。


「拾ってくれた人が、

 いました」


 俺の方を見る。


 視線が集まる。


「……仕事です」


 そう言うしかなかった。


 その様子を、

 廊下の影から見ている者がいた。


 グレイヴだ。


 手袋越しに、

 爪が鳴る。


「……繋ぎ直している」


 呟きが、

 歪む。


「不要な過去を、

 拾い上げて……」


 彼の中で、

 疑念は確信に変わった。


 この清掃員は、

 危険だ。


 国の“整理”を、

 壊す存在だ。


 その日の夕方。


 城内の空気は、

 確実に変わっていた。


 王と王妃が、

 並んで廊下を歩く。


 使用人たちが、

 自然と頭を下げる。


 誰も、

 理由を聞かない。


 俺は、

 清掃袋を担ぐ。


 ゴミは、

 まだ残っている。


 でも――

 捨てられたはずの関係は、

 確かに戻り始めていた。


 王城の変化は、

 静かだった。


 けれど――

 確実だった。


 朝の城門前。


 商人たちが、

 妙に足元を気にしている。


「……最近、

 掃除が行き届いてるな」


「城の中も、

 雰囲気変わったらしいぞ」


 噂は、

 大声じゃない。


 だからこそ、

 本物だった。


 王城外の清掃区画を終え、

 俺が袋を担いで戻ると――


「ユウキ殿」


 呼び止められる。


 声の主は、

 城務官だった。


「内務大臣殿より、

 清掃範囲の再確認を」


 嫌な予感がする。


 案内されたのは、

 内務省管轄の文書庫。


 整っている。

 整いすぎている。


「……ここ、

 掃除いらないですね」


「え?」


「ゴミが、

 最初からありません」


 それは、

 異常だった。


 人が出入りする場所で、

 ゴミがゼロ。


 それは、

 誰かが“捨て続けている”証拠。


 棚の奥で、

 ゴミ拾いスキルが反応する。


《隠蔽判定:有》

《廃棄痕跡:新》


「……最近、

 何か捨てました?」


 城務官が、

 目を逸らす。


「内務大臣殿の指示で……」


 分かりやすい。


 俺は、

 深く追わなかった。


 代わりに、

 床を掃く。


 埃はない。

 でも――

 紙の切れ端が一つ。


 拾い上げる。


 《廃棄予定書類・写し》


 名前は消されている。


 だが、

 筆跡は同じだ。


「……なるほど」


 清掃が終わると、

 今度は別の指示が来た。


「王子殿下の剣庫を、

 再度清掃せよ」


 意図が、

 透けて見える。


 王子の剣庫では、

 空気が張りつめていた。


 王子は、

 一人で剣を磨いている。


「……また来たのか」


「はい」


 剣庫の隅。


 昨日はなかったはずの、

 木箱が置かれている。


「……これ」


 箱を開けると、

 中身は――空。


「置かれたばかりですね」


 王子が、

 視線を上げる。


「何のために?」


「分断のためです」


 言葉が、

 少し強くなった。


 王子は、

 黙ったまま拳を握る。


「……父上と、

 話すべきだな」


 その夜。


 内務大臣室。


 グレイヴは、

 机を叩いた。


「なぜ……

 なぜ拾える……!」


 不要と判断し、

 捨てたはずの物。


 それが、

 次々に戻る。


「清掃員一人に、

 秩序が壊されてたまるか……」


 彼は、

 引き出しの奥を開ける。


 黒い箱。


 不穏な気配が、

 部屋に満ちる。


「……最悪の場合」


 低く、

 呟いた。


「処分するしか、

 ない」


 その頃。


 俺は、

 倉庫で箒を立てかけていた。


「……やりすぎたかな」


 独り言。


 でも――

 拾わなければ、

 誰も拾わない。


 王城の夜は、

 静かだ。


 そして――

 嵐の前でもある。


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