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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
20章

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条件付き

王国の使者が来たのは、昼を少し過ぎた頃だった。


派手な行列ではない。

護衛も最低限。


だが、動きに無駄がない。


「……今回は、逃げなかったな」

ガルドがぼそっと言う。


使者は、深く礼をした。

「王国より、正式な依頼を」


ミーナが一歩前に出る。

「内容は?」


使者は、巻物を差し出した。


《旧討伐地帯・再調査》

《目的:未回収影響の確認および対処》

《担当:掃除屋ユウキ一行》


「……素直だな」

レオルが驚く。


だが、ユウキは巻物の下段を見ていた。


「条件、あるな」


使者は、視線を伏せる。

「はい」


読み上げる。


「――“魔王案件とは認めない”」

「――“王国の討伐記録は修正しない”」

「――“成果は王国名義で記録する”」


ガルドが、思わず声を荒げる。

「ふざけてんのか」


「交渉の結果です」

使者は淡々と答える。

「これ以上の譲歩は、ありません」


沈黙。


風が、畑を揺らす。


レオルが、不安そうにユウキを見る。

「……どうします?」


ミーナも、言葉を待っている。


ユウキは、少し考えたあと――

巻物を受け取った。


「受ける」


ガルドが目を見開く。

「おい」


「いい」

ユウキは言った。

「条件は、向こうの都合だ」


使者が、安堵の息を吐く。

「では――」


「ただし」

ユウキは続ける。


使者の動きが、止まる。


「拾うかどうかは、俺が決める」

「途中で止めるな」

「口も、出すな」


使者は、わずかに逡巡し、

やがて頷いた。


「……承知しました」


去り際、使者は一言だけ残す。

「王国は……」

「あなた方を、完全には信用していません」


「知ってる」

ユウキは即答した。

「信用は、いらない」


使者が去る。


ガルドが、腕を組む。

「名義だけ持ってかれるぞ?」


「いい」

ユウキは言う。

「名義は、どうでもいい」


ミーナが、静かに言う。

「ですが」

「前例になります」


「そうだ」

ユウキは頷く。

「だから――」


装備袋を、軽く叩く。


「次から、隠せなくなる」


レオルが、少しだけ笑う。

「つまり……」


「正式に」

ユウキは言った。

「拾わされる立場になった」


遠くで、別の依頼掲示板が貼り替えられている。


《完全消滅・確認済み》


その文字を見て、

ユウキは歩き出した。


「行くぞ」

「次は――」


一拍置いて。


「否定される前提の現場だ」


現地入りは、異様に静かだった。


街道は整備され、

周囲には仮設の見張り所。


そして――

王国の立ち会い役が、二人。


「……見張られてるな」

ガルドが小声で言う。


「立ち会い、です」

ミーナが訂正する。

「形式上は」


立ち会い役は、距離を保ってついてくる。

質問はしない。

助言もしない。


ただ、記録するだけ。


「やりにくいですね」

レオルが言う。


「そうでもない」

ユウキは答える。

「やることは変わらない」


今回の現場は、谷だった。


かつて魔王軍の補給路だった場所。

討伐後、封鎖され、

そのまま“安全”と判断された。


「……空気が、止まってます」

ミーナが言う。

「循環していない」


装備袋は、鳴らない。


《即時回収対象:なし》


立ち会い役の一人が、淡々と告げる。

「確認します」

「当該区域に、魔王の存在はありません」


「知ってる」

ユウキは言った。


谷底へ降りる。


石は崩れていない。

水も流れている。


だが――

音が、谷に落ちない。


「……反響が、ない」

レオルが呟く。


ガルドが、石を一つ投げた。

落下音が、途中で消える。


「気持ち悪いな」


ユウキは、谷の中央で立ち止まった。


「ここ」

そう言って、足元を踏む。


――軽い。


地面が、拒まない。


「……立ち会い」

ユウキが言う。

「一つ、聞く」


立ち会い役が頷く。

「どうぞ」


「ここで」

ユウキは続ける。

「俺が何か拾ったら」

「それは、魔王案件になるか?」


一瞬、沈黙。


立ち会い役は、事務的に答える。

「なりません」

「魔王は、存在しないため」


「了解」


ユウキは、装備袋に手を入れた。


取り出したのは、

小さな、歪んだ金属片。


「ミーナ」

「はい」


「これ、測ってくれ」


ミーナが、魔力測定を行う。

「……これは」

「魔王由来ではありません」

「ですが――」


一拍置いて。


「役割だけが残っています」


立ち会い役の一人が、眉をひそめる。

「それは――」


「魔王じゃない」

ユウキが遮る。

「“魔王だった仕事”だ」


装備袋が、はっきり鳴った。


《回収可能:成立》

《対象:残存機能》


「……今なら、拾える」

ユウキが言う。


谷全体が、微かに震えた。


風が、抜ける。


反響が、戻る。


水音が、谷に落ちる。


立ち会い役の一人が、思わず呟く。

「……環境変化、確認」


ミーナが頷く。

「循環、回復しています」


ユウキは、金属片を袋に戻した。


「記録しろ」

そう言った。

「魔王はいない」

「だが――」


立ち会い役を見る。


「片付いてなかった」


立ち会い役は、返事をしなかった。


ただ、記録板に文字を書き込む。


ガルドが、小さく笑う。

「条件の穴、だな」


「穴じゃない」

ユウキは答える。

「書いてないだけだ」


谷を抜ける風が、

はっきりと背中を押した。


立ち会い役の報告は、淡々としていた。


《当該区域に魔王存在なし》

《戦闘行為なし》

《環境変化:確認》

《原因:未定義》


余計な言葉は、ない。


だが――

否定も、できていない。


王国の執務区画で、数人がその紙を囲んでいた。


「……魔王はいない」

「だが、回復している」


「掃除屋は?」

「何をした」


返ってきた答えは、簡単だった。


「拾ったそうです」

「魔王ではなく」

「“役割”を」


沈黙。


誰も、それを否定できない。


「……条件は守られている」

「魔王案件には、なっていない」


「だが」

別の声が続ける。

「放置すれば、被害が出ていた」


机を叩く音。


「前例になるぞ」

「これを認めれば――」


「もう、なっている」

静かな声が遮った。

「現地で、回復は起きた」


誰も、反論できなかった。



一方、ユウキたちは街道を戻っていた。


風は、はっきりと背中から吹いている。


「……通ったな」

ガルドが言う。


「通した」

ユウキは訂正した。

「向こうが」


レオルが、少しだけ安心した顔をする。

「これで、自由に――」


「ならない」

ユウキは即答する。

「次からは、見られる」


ミーナが頷く。

「評価対象になりましたね」


「そう」

ユウキは言う。

「拾う前提で、現場を出される」


装備袋の中で、

回収した金属片が静かにしている。


「……面倒だな」

ガルドが苦笑する。


「面倒だ」

ユウキは認める。

「でも――」


歩みを止め、振り返る。


谷の方角。

風が、途切れずに流れている。


「拾わなきゃ、壊れてた」

「それだけだ」


レオルが、静かに言う。

「英雄みたいですね」


ユウキは、首を振った。


「英雄は、終わらせる」

「俺は――」


少し間を置いて。


「終わらせ損ねたものを、片付けるだけだ」


街が、見えてきた。


掲示板には、

新しい依頼が貼られている。


《完全消滅・確認済み》

《再調査・立ち会い必須》


ユウキは、それを見て小さく息を吐いた。


「……増えたな」


ミーナが、地図を広げる。

「次は、山岳地帯です」


「行くか」

ユウキは言う。


拾われなかったものは、

まだ、いくつも残っている。


第二の魔王は、もういない。


だが――

魔王だった“仕事”は、世界中に散らばっていた。


掃除屋の仕事は、

むしろ、これからだった。


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