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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
20章

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討伐済み

依頼書の端には、赤い判が押されていた。


《完了》。


それが、いちばん目立つ。


《旧討伐地帯・環境調査》

《原因不明の沈下・魔力偏流》

《当該魔王は既に討伐済み》

《本件との関連なし》


「……もう終わってるってことに、なってるな」

ガルドが言った。


「はい」

ミーナは淡々と頷く。

「記録上は、完全に処理済みです」


レオルが、紙を覗き込む。

「じゃあ、普通の調査ですよね?」

「魔王とか、関係ない……」


「関係ない、って書いてあるな」

ユウキは言った。


それだけだ。


肯定も、否定もしない。


掲示板の前は、いつも通りの喧騒だった。

護衛。採取。討伐。

どれも、分かりやすい仕事。


この依頼だけが、

誰にも剥がされずに残っている。


「報酬、安いですね」

レオルが言う。


「原因不明って書いてある」

ガルドが鼻で笑う。

「一番面倒なやつだ」


ミーナが、地図を広げる。

「ここです」

「旧討伐地帯……」

「魔王討伐から、三年経過」


ユウキは、その地名を見た瞬間に分かった。


装備袋が、鳴らない。


《危険検知》なし。

《即時回収対象》なし。


だが――

何もない感じが、異様に強い。


「……これ」

ユウキが、静かに言う。


「拾われてないな」


三人が、同時に顔を上げる。


「拾われてない?」

レオルが聞き返す。


「倒しただけだ」

ユウキは続ける。

「終わらせてない」


ミーナが、すぐに理解した。

「残滓……ですね」


「そう」

ユウキは頷く。

「片付けた“つもり”」


受付に向かうと、

職員は少しだけ眉をひそめた。


「……それ、受けます?」

「一応言っておきますが」

「魔王案件じゃありませんよ」


「知ってる」

ユウキは答える。

「だから受ける」


職員は、首を傾げながらも手続きを進めた。

「正式報告は、簡易で構いません」

「どうせ……」


言葉を濁す。


「原因不明、ですから」


外に出る。


空は、よく晴れている。


「また、魔王絡みですか?」

レオルが小さく聞く。


「違う」

ユウキは首を振る。


「これは――」

一拍置いて。


「魔王だった“後”だ」


街道の先。

かつて魔王が倒された場所へ向かう道。


誰も、恐れていない。

誰も、警戒していない。


だが――

地面の下では、

終わらなかったものが、まだ動いている。


ユウキは、歩き出した。


今度は、

拾わないと壊れ続ける場所へ。


旧討伐地帯は、拍子抜けするほど普通だった。


道は整備され、草も刈られている。

簡易の見張り塔まで建っていた。


「……ほんとに、終わってますね」

レオルが言う。


「終わった“ことにしてる”」

ガルドが答える。

「金も人も、ちゃんと入ってる」


ミーナは、足元の土を少し掘り返した。

「土壌は、数値上は正常です」

「表層だけ、ですが」


ユウキは、周囲を見回していた。


村がある。

畑もある。

人もいる。


だが――

音が、軽い。


風の音。

人の声。

全部が、薄い。


「……ここ」

ユウキが呟く。


装備袋が、ようやく小さく鳴った。


《残留反応:微弱》

《即時回収対象:未成立》

《持続影響:あり》


「……残ってる」

ユウキは言った。

「深く、薄く」


村の入口で、老人が手を振ってきた。

「おお、冒険者さんか」

「調査の人たちだな?」


「はい」

レオルが答える。

「最近、何か変わったことは?」


老人は、少し考えてから首を振る。

「いやぁ?」

「安全だよ、ここは」

「魔王は倒されたしな」


その言葉に、違和感が走る。


言い切りすぎだ。


「事故とか」

ユウキが聞く。

「怪我とか」


老人は、笑った。

「そりゃ多少はあるさ」

「でも、魔王のせいじゃない」

「もう終わった話だ」


ミーナが、静かに確認する。

「最近、井戸が枯れたりは?」


「ああ」

老人は軽く頷く。

「二つほどな」

「でも、よくあることだ」


「家畜は?」

「流産が増えたりは?」


老人は、一瞬だけ言葉に詰まった。

「……まぁ」

「年も年だしな」


ユウキは、確信する。


「……全部、魔王のせいにできない形で出てる」


ガルドが、低く唸る。

「嫌な残り方だな」


村の奥へ進む。


畑の作物は育っている。

だが、実りが軽い。


「……味が」

レオルが小さく言う。

「薄いです」


「生命力が、削られています」

ミーナが即答する。

「少しずつ」


装備袋が、また鳴る。


《残滓検知:成立》

《対象:地脈結節点》

《状態:破砕・未回収》


ユウキは、視線を上げた。


村の外れ。

かつて、魔王が倒された丘。


そこだけ、草が生えていない。


「……あそこだ」

ユウキが言う。


確かに安全だ。

今すぐ壊れることはない。


だが――

終わっていない。


「拾わなきゃ」

ユウキは、低く言った。


「今度は?」

ガルドが聞く。


「今度は」

ユウキは答える。


「拾わない方が、危ない」


丘の方角で、

地面が、わずかに脈打った。


まるで――

心臓の残り滓が、

まだ動いているかのように。


丘の上は、静かすぎた。


風が吹いても、草は揺れない。

土は乾いているのに、埃が立たない。


「……ここだけ、死んでます」

レオルが言った。


「死んでる、というより」

ミーナは膝をつく。

「終わらされていない」


丘の中心。

地面に、ひび割れが走っている。


そこから、微弱な魔力が漏れていた。


装備袋が、はっきりと鳴る。


《残滓検知:確定》

《対象:魔王核・破砕片》

《状態:意思なし/影響持続》

《即時回収:推奨》


「……やっと来たな」

ユウキが呟く。


ガルドが、剣を構える。

「生きては、いねぇな」


「生きてない」

ユウキは頷く。

「でも、働いてる」


ひび割れの奥で、何かが動いた。


形は、定まらない。

腕とも、牙ともつかない影。


意思はない。

怒りもない。


ただ――

“役割だけ”が残っている。


「……魔王、だったもの」

ミーナが言う。


影が、這い出してくる。


村の方角へ。

無意識に、命のある方へ。


「行かせるな」

ユウキが短く言う。


ガルドが前に出る。

「任せろ!」


剣が、影を切り裂く。


だが――

切れない。


「くそっ」

ガルドが舌打ちする。

「手応えが、ない!」


影は、形を崩しながらも前に進む。


「レオル、下がれ!」

ユウキが叫ぶ。


装備袋から、アイテムを取り出す。


今回は、迷わない。


《零価再定義》


対象は、影そのものではない。


――“役割”。


魔王として、

土地から生命を吸い上げる機能。


それだけを、拾う。


影が、悲鳴のような音を立てた。


形が、崩れる。

抵抗が、弱まる。


「今だ!」

ユウキが言う。


ミーナが、補助魔法を重ねる。

「拡散を抑えます!」


ガルドが、核の破片を打ち砕く。

「これで、終わりだ!」


最後に残ったのは、

小さな、黒い結晶。


脈動は、ほとんどない。


装備袋が、静かになる。


《回収完了》

《影響範囲:収束》

《後処理:必要》


ユウキは、結晶を拾い上げた。


重くはない。

だが、軽くもない。


「……終わった」

レオルが、息を吐く。


「終わらせた」

ユウキは訂正する。


丘の土が、少しずつ色を取り戻す。

風が、草を揺らした。


村の方から、声が上がる。


「……なんだ?」

「風が、戻った?」


ミーナが、確認する。

「生命力、回復傾向」

「これ以上、被害は出ません」


ガルドが、肩で息をする。

「今回は、分かりやすかったな」


「そうでもない」

ユウキは、結晶を見つめる。

「倒しただけじゃ、終わらなかった」


少し間を置いて、続ける。


「……拾わなきゃ、ずっと壊れてた」


村へ戻る道すがら、

畑の作物の色が、わずかに濃くなっている。


老人が、不思議そうに空を見ていた。

「……風が、違うな」


ユウキは、何も言わなかった。


報告書には、こう書く。


《旧討伐地帯》

《原因:未回収残滓》

《対応:回収完了》

《備考:討伐と処理は、別》


それだけだ。


魔王は、もういない。


だが――

魔王だった“後”は、確かに存在していた。


それを拾ったのは、

勇者でも、王国でもない。


ただの、ゴミ拾いだった。


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