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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
20章

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話す理由

城の門は、開いていた。


壊されてはいない。

守られてもいない。


ただ、閉じられていないだけだ。


「……罠、ではないな」

ガルドが低く言う。


「罠なら」

ユウキは答える。

「もっと分かりやすい」


城の中は、静かだった。


魔力の圧も、威圧もない。

埃はあるが、荒れてはいない。


誰かが、使っている。


「生活痕があります」

ミーナが、周囲を見て言う。

「最低限ですが、継続的です」


「魔王城、だよな……?」

レオルが、声を落とす。


「そうだ」

ユウキは認めた。

「でも――」


言葉を切る。


「“前線”じゃない」


玉座の間に入ると、

そこには一人だけ、座っていた。


剣も、杖も持たない。

鎧も着ていない。


ただ、長椅子に腰掛けている男。


「……来たか」


声は低く、静かだった。


敵意はない。

だが、逃げる気配もない。


ミーナが、小さく息を吸う。

「……魔王、ですね」


男は、頷いた。


「そう呼ばれている」

「名は――エルネスト」


その名を聞いても、

誰も動かなかった。


「討伐ではない」

ユウキが、先に言う。


エルネストは、わずかに目を細める。

「知っている」


「俺たちは」

ユウキは続ける。

「後処理だ」


沈黙。


城の奥で、何かが軋む音。


だが、表には出てこない。


「……珍しいな」

エルネストが言う。

「倒せる相手を前にして、剣を抜かない人間は」


「倒せるから、抜かない」

ユウキは答えた。


その言葉に、

エルネストは、ほんの少しだけ笑った。


「なるほど」

「確かに、それは――」


言葉を探す。


「片付け方だ」


ユウキは、城を見回した。


「ここ」

そう言った。

「壊れてない」


「壊していない」

エルネストが訂正する。

「壊れないように、している」


「同じだ」

ユウキは言う。

「結果が」


エルネストは、しばらく黙っていた。


それから、初めて玉座から立ち上がる。


「……聞こう」

「何を、拾いに来た?」


ユウキは、少し考えてから答えた。


「拾うかどうかを」

そう言った。

「決めに来た」


一瞬。


城の奥で、

封じられていた“何か”が、

確かに息を潜めた。


エルネストは、確信する。


――この人間は、

世界とは違う終わらせ方を持っている。


「なら」

魔王は言った。


「まずは、見せよう」

「私が、片付けられない理由を」


城の地下へ続く階段は、思ったより短かった。


湿気はある。

だが、腐臭はない。


「……封印、というより」

ミーナが小さく言う。

「調整ですね」


「そうだ」

エルネストは歩きながら答えた。

「完全に閉じれば、歪む」

「開けすぎれば、溢れる」


階段の先で、空間が開ける。


巨大な空洞。

壁一面に走る、無数の補強線。


魔法陣でも、結界でもない。

継ぎ足し、継ぎ足しの“応急処置”。


「うわ……」

レオルが息を呑む。

「これ、全部……」


「私一人で、だ」

エルネストは淡々と言った。


空洞の中心。

そこには――壊れた何かがあった。


形は曖昧。

色も定まらない。


触れれば、

意味が崩れそうな存在。


ユウキの装備袋が、

これまでで一番、強く鳴った。


《即時回収対象:不成立》

《価値判定:未定義》

《回収不能理由:分解=拡散》


「……なるほど」

ユウキが、低く言う。


ガルドが歯を鳴らす。

「これ、拾ったら――」


「終わりだ」

ユウキは即答した。

「世界ごと」


エルネストは、静かに頷いた。


「だから、誰にも触らせなかった」

「触れられなかった」

「触れれば、英雄になれると勘違いするからな」


ミーナが、慎重に問う。

「これは……何ですか?」


エルネストは、少しだけ考えた。


「名前はいくつもある」

「災厄、失敗、不要物、禁忌」

「だが、どれも正しくない」


視線を、ユウキに向ける。


「君なら、何と呼ぶ?」


ユウキは、しばらく黙っていた。


拾えない。

捨てられない。

戻す先もない。


「……未処理」

そう答えた。


エルネストは、わずかに目を見開く。


「ほう」


「誰かが、途中で投げた」

ユウキは続ける。

「だから、ここに溜まった」

「あんたが悪いわけじゃない」


その言葉に、

空洞の空気が、ほんの少しだけ軽くなる。


「……初めてだ」

エルネストが言った。

「それを、責めなかった人間は」


レオルが、恐る恐る聞く。

「じゃあ……」

「どうすれば、いいんですか?」


沈黙。


答えは、すぐに出ない。


ユウキは、首を振った。

「分からない」


エルネストが、少し笑う。

「正直だな」


「でも」

ユウキは続ける。

「一つだけ、分かる」


全員が、ユウキを見る。


「これは」

ユウキは言った。

「今は、拾えない」


エルネストは、その言葉を噛みしめるように聞いた。


「……それでも、来たか」


「来た」

ユウキは答える。

「拾えないと、分かった上で」


少し、間を置いて。


「拾わせないために」


封じられていた“何か”が、

わずかに、沈んだ。


それだけで、

この場の均衡が、保たれる。


エルネストは、静かに目を閉じた。


「……なら」

そう言って、目を開く。


「君たちは、初めてだ」

「倒さず、拾わず、逃げなかった人間は」


地下の空気が、わずかに震えた。


最初は、誰も気づかないほどの揺れ。

だが、補強線の一部が軋み、音を立てる。


「……来たな」

ガルドが低く言う。


ミーナは、即座に把握した。

「外部干渉です」

「地脈に、負荷が加えられています」


エルネストが、視線を上に向ける。

「王国か」


「たぶんな」

ユウキは答えた。

「様子見が、終わった」


空洞の中心。

“未処理”が、わずかに浮き上がる。


反応は小さい。

だが、連鎖すれば致命的だ。


《即時回収対象:不成立》

《破壊予測:上昇》

《回収不可/隔離推奨》


ユウキは、歯を食いしばる。


「……くそ」

小さく呟く。


「拾えない」

「でも――」


レオルが、息を呑む。

「このままだと……」


「壊れる」

ユウキは、言い切った。


エルネストが、一歩前に出る。

「なら、私は――」


「だめだ」

ユウキが、即座に止める。


全員が、ユウキを見る。


「ここであんたが動いたら」

ユウキは続ける。

「“魔王が反応した”って言われる」

「次は、もっと突っ込んでくる」


エルネストは、言葉を失う。


「……では、どうする」

静かに問う。


ユウキは、空洞全体を見渡した。


補強線。

歪み。

ギリギリで保たれている均衡。


「……拾えないなら」

ユウキは言った。

「拾えないまま、守る」


装備袋から、いくつかの道具を取り出す。


特別なチートアイテムではない。

ただの、固定具。

ただの、緩衝材。


「え、それで?」

ガルドが目を瞬く。


「それでいい」

ユウキは答える。

「壊れないようにするだけだ」


《零価再定義》を、発動しない。


代わりに、

人の手で触れる範囲だけを補強する。


「ミーナ、応力分散」

「ガルド、支点を抑えろ」

「レオル、動線を確保」


声は、淡々としている。


派手な力は使わない。

“使えない”からだ。


揺れが、少しずつ収まる。


完全ではない。

だが、今すぐ壊れる状態ではなくなる。


エルネストは、その様子を見ていた。


魔法でもない。

封印でもない。


ただ、

壊れないように扱っている。


「……不思議だな」

エルネストが呟く。

「誰も、これを“守る”とは言わなかった」


ユウキは、手を止めずに答える。

「守ってるわけじゃない」


「じゃあ、何だ?」


「片付くまで」

ユウキは言った。

「触らないようにしてるだけだ」


その言葉に、

“未処理”が、完全に沈む。


地下は、静かになる。


外からの圧も、止まった。


ミーナが、息を吐く。

「……均衡、回復」


レオルが、へたり込む。

「生きた……」


エルネストは、しばらく黙っていた。


それから、深く頭を下げる。


「……礼を言おう」

「私は、魔王だ」

「だが、今日――」


顔を上げ、ユウキを見る。


「初めて、守られた」


ユウキは、少し困ったように視線を逸らす。

「守ってない」

「壊さなかっただけだ」


そのやり取りを、

城の外――王国側の観測者が、見ていた。


「……魔王が、暴れなかった?」

「それどころか……」


報告は、混乱する。


壊れなかった。

暴れなかった。

討伐も、なかった。


「……想定外だ」

誰かが呟く。


だが、もう遅い。


世界は、

別の片付け方を知ってしまった。


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