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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
20章

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異常のない異常

「……もう一度、確認してくれ」


王都の会議室で、同じ言葉が三度繰り返された。


地図の中央。

旧境界地帯に引かれた、薄い赤線。


「掃除屋班の報告は?」

年配の男が問う。


「異常なし、です」

部下が答える。

「構造安定、居住痕あり、侵攻兆候なし」


「魔王は?」

別の声が被せる。


「……生存、推定」

「ただし、活動兆候はなし」


沈黙。


誰もが、同じことを考えていた。


「……おかしい」

男が低く言う。

「“魔王が何もしていない”など、あり得ない」


部下が、慎重に口を開く。

「ですが、事実として――」


「事実が間違っている」

男は遮った。

「壊れていないのは、壊す準備が整っているからだ」


机に、別の書類が置かれる。


《対応案:第二段階》


内容は、簡潔だった。

•調査範囲の拡大

•民間依頼への切り替え

•現地圧力の増加


「掃除屋だけでは、様子見が過ぎる」

男は言う。

「“刺激”が必要だ」


部屋の空気が、重くなる。



一方、ユウキたちは宿にいた。


朝の光が、窓から差し込む。


「……静かですね」

レオルが言う。


「静かすぎる」

ガルドが答える。

「嵐の前だ」


ミーナは、依頼一覧を眺めていた。

「旧境界地帯周辺の案件が、増えています」

「内容は……」


紙を一枚、示す。


《物資輸送・護衛》

《対象区域:境界近接》

《報酬:高》


「……露骨だな」

ガルドが言う。


「圧をかけに来た」

ユウキは即答した。

「壊れるかどうか、試すつもりだ」


「それって」

レオルが不安そうに聞く。

「人を、使って?」


「そう」

ユウキは頷いた。

「壊れたら、“事故”にできる」


ミーナが、静かに拳を握る。

「異常なし、という判断が」

「都合が悪いのですね」


ユウキは、少しだけ考えた。


「……次は」

そう言って、立ち上がる。


「拾わない、じゃ済まない」


ガルドが、にやりと笑う。

「やっと、来たか」


「まだだ」

ユウキは首を振る。

「今回は――」


言葉を選ぶ。


「壊させない」


外では、別の冒険者たちが集まり始めていた。


高報酬。

簡単そうな護衛。

魔王領“近く”だが、安全と書かれている。


誰もが、気づいていない。


それが――

異常を起こすための依頼だということに。


ユウキは、窓の外を見た。


あの城を思い浮かべる。


「……エルネスト」

名を、初めて心の中で呼ぶ。


「今回は」

小さく呟く。


「拾うかもしれない」


境界へ向かう街道は、いつもより賑やかだった。


鎧の擦れる音。

馬車の軋む音。

軽口と笑い声。


「……多いですね」

レオルが周囲を見回す。


「多すぎる」

ユウキは即答した。


護衛依頼の看板が、街道沿いにいくつも立っている。

同じ文言。

同じ報酬。

同じ“安全”の二文字。


「魔王領近接だってのに」

ガルドが鼻で笑う。

「ずいぶん気前がいい」


ミーナは、地面に視線を落とした。

「足跡が、増えています」

「急増です」


ユウキの装備袋が、微かに鳴った。


《異常兆候検知》

《即時回収対象:未成立》

《破壊予測:上昇》


「……来てるな」

ユウキが呟く。


少し先で、別の冒険者パーティが休憩していた。

軽装。

新人混じり。


「護衛、楽勝らしいぜ」

誰かが笑う。

「魔王?動いてねぇんだろ?」


別の声が続く。

「何も起きなきゃ、それで終わりだ」


ユウキは、足を止めた。


「ミーナ」

低く呼ぶ。


「はい」

即答。


「この人数が、一斉に入ると」

ユウキは続ける。

「何が起きる?」


ミーナは、即座に計算する。

「地脈負荷が跳ねます」

「結界、均衡点が崩れます」


「魔王のせいにできる」

ガルドが言った。

「うまい話だな」


レオルが、唇を噛む。

「でも……」

「みんな、知らないだけですよね」


「知らないのが、一番使いやすい」

ユウキは言った。


街道の先。

境界線が、近づく。


空気が、わずかに重くなる。


その時――

遠くの城で、何かが動いた。


エルネストは、塔の上に立っていた。


人の流れが、見える。

増えている。

明らかに、意図的だ。


「……なるほど」


彼は、目を細める。


世界は、彼を倒す前に、

壊れる理由を作りに来た。


「人を、投げ込むか」


城の内部で、何かが軋む。


封じているものが、反応する。

人の数。

人の意思。

それらが、刺激になる。


「……これ以上は」

エルネストは、静かに言う。

「耐えられないな」


一方、境界の手前。


ユウキは、冒険者たちの前に立った。


「ここから先」

声は大きくない。

だが、通る。


「今日は、入らない方がいい」


ざわめき。


「なんだ?」

「誰だよ」


ユウキは、理由を並べない。


「壊れる」

それだけ言った。


笑い声が起きる。


「脅しか?」

「護衛の邪魔すんな」


ガルドが、一歩前に出る。

「忠告だ」

「聞かないなら、止めねぇ」


空気が、張りつめる。


ユウキの装備袋が、はっきりと鳴った。


《即時回収対象:成立予測》

《破壊点:接近》


「……選べ」

ユウキは言った。


「入るか」

「戻るか」


誰も、答えない。


だが――

世界は、もう答えを待っていなかった。


境界線の手前で、風が変わった。


強くはない。

だが、流れが乱れる。


「……来る」

ミーナが言った。


その直後だった。


街道脇の地面が、わずかに沈む。

音は小さい。

転倒者もいない。


――事故未満。


だが。


「おい、今の……」

冒険者の一人が足元を見る。


次の瞬間、

さらに奥で、同じ沈み込み。


連鎖だ。


「地盤が動いてる!」

誰かが叫ぶ。


ユウキは、即座に動いた。


「ガルド、右!」

「レオル、後ろを止めろ!」


声は短い。

判断は迷わない。


ガルドが前に出て、進路を塞ぐ。

「ここまでだ!」

「戻れ!」


「ふざけるな!」

冒険者の一人が反発する。

「依頼は――」


「依頼は“安全”だった」

ユウキが言う。

「今は、違う」


装備袋が、強く鳴った。


《即時回収対象:成立》

《対象:負荷集中点》

《破壊予測:高》


ユウキは、地面に手をついた。


拾う。

だが、奪わない。


《零価再定義》


価値が、地面から引き剥がされる。


沈み込みの原因。

“誰も管理していない負荷”。


それを、一時的に引き受ける。


「……何だ、それ」

冒険者たちが、言葉を失う。


沈みは、止まった。


完全ではない。

だが、これ以上広がらない。


「今だ」

ユウキは言う。

「戻れ」

「次は、止められない」


ざわめきの中で、

数人が、最初に引き返す。


それが、流れを変えた。


「……戻るぞ」

「今日はやめだ」


街道は、逆方向に動き始める。



その様子を、城から見ていた者がいる。


エルネストは、はっきりと理解した。


止めた。

壊れる前に。


倒そうとも、封じようともしていない。

ただ――壊させなかった。


「……なるほど」


城の内部で、軋みが収まる。


人の流れが減ったことで、

封じているものが、再び沈黙する。


「これは……」


初めてだった。


勇者でも、王国でもない人間が、

彼を倒さずに、彼を守ったのは。


「……掃除屋、か」


名も知らない。

顔も見えない。


だが、確信した。


「あれは」

エルネストは、静かに言う。

「片付け方を、知っている」



境界線の外。


ユウキは、ゆっくり立ち上がった。


息は、少し荒い。


「……間に合いました?」

レオルが聞く。


「ぎりぎりだ」

ユウキは答える。

「次は、もっと早く来る」


ミーナが、遠くの城を見る。

「魔王……」

「見ていましたね」


「見てたな」

ガルドが言う。

「気分悪ぃ」


ユウキは、首を振った。


「悪くない」

そう言って、城から目を離さない。


「……話す時が、近い」


誰も否定しなかった。


もう、避けられない。


魔王エルネストと、

掃除屋ユウキ。


初めて、同じ“判断”をした者同士が、

向き合う時が。



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