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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第19章

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拾わせる理由

依頼は、ひっそりと貼られていた。


掲示板の端。

人の視線が流れる位置。


《共同清掃・資材搬出》

《報酬:前払い》

《即日対応希望》


「……前払い?」

レオルが眉をひそめる。


「珍しいな」

ガルドも覗き込む。

「この町、基本は後払いだろ」


ミーナは、紙の下端を見ていた。

「字が……急いでいます」

「整っているけど、余裕がありません」


ユウキは、依頼書を剥がさず、指で軽く弾いた。


中身は、ない。

だが――意図は重い。


「これは」

ユウキが言う。

「拾わせる依頼だ」


「拾わせる?」

レオルが聞き返す。


「善意を使う気がない」

ユウキは続ける。

「代わりに、金を出す」

「急がせて、判断を奪う」


ガルドが、鼻で笑った。

「露骨だな」


掲示板の近くに、

一人の男が立っている。


外套を深くかぶり、

こちらを見ているようで、見ていない。


「……依頼主か」

ミーナが小さく言う。


男は、ユウキと目が合うと、すぐに視線を逸らした。


「取らない?」

ガルドが聞く。


ユウキは、少し考え――

首を振った。


「まだだ」

「“理由”が足りない」


その瞬間。


「――おい」


低い声。


振り向くと、

外套の男が、すぐ後ろに立っていた。


距離が近い。


「……掃除屋だろ」

男は言う。

「昨日までの」


「違う」

ユウキは答える。

「今日は、違う」


男は、少し笑った。

「なら、話は早い」


外套の下から、

革袋が一つ出される。


中身は――銀貨。


「前払いだ」

男は言う。

「今すぐ、片づけてほしい」


「どこを?」

ユウキが聞く。


「倉庫区の裏」

男は即答した。

「細かい説明は、要らない」


ミーナが、即座に違和感を拾う。

「場所が、曖昧です」


「曖昧でいい」

男は言う。

「どうせ、分かるだろ?」


その言い方。


「……なあ」

ガルドが、低く言う。

「何を隠してる?」


男は、答えない。


代わりに、銀貨を一枚、地面に落とした。


「時間がない」

「急いでるんだ」


周囲の視線が集まる。


「……金、いいな」

誰かが呟く。


「前払いだって」


空気が、少しずつ傾く。


ユウキは、銀貨を見下ろした。


《なんか使えそう判定》

反応:強

警告:悪意混入


「……なるほど」

ユウキが、静かに言った。


「理由、出たな」


男が、目を細める。

「取るのか?」


ユウキは、銀貨を拾い――

そして、男の手に戻した。


「取らない」

そう言った。


ざわめき。


「だが」

ユウキは続ける。

「拾う」


「……は?」

男が、声を詰まらせる。


「お前の依頼じゃない」

ユウキは言う。

「お前そのものだ」


一瞬、

場の空気が凍った。


善意でもない。

事故でもない。


これは――

意図的に、拾わせに来たゴミ。


ユウキは、一歩前に出た。


「案内しろ」

静かに言う。

「今からだ」


倉庫区の裏は、静かすぎた。


昼間だというのに、人影がない。

音も、匂いも、薄い。


「……ここか」

ガルドが低く言う。


男は頷くだけで、何も説明しない。


倉庫の壁際。

積まれているのは――廃材。


だが、量が不自然だった。


「多いですね」

レオルが言う。

「しかも……新しい」


ミーナがしゃがみ込み、指先で触れる。

「故意に混ぜられています」

「使用済みと、未使用が」


ユウキは、全体を一瞥しただけで理解した。


「……捨て場が、間に合ってない」

そう呟く。


男が、初めて口を開いた。

「正確には」

「“捨てさせてもらえない”」


振り向く。


「町の連中が、うるさくなった」

男は続ける。

「昨日からな」

「共同だの、相談だの……」

「面倒なんだよ」


ガルドが、睨む。

「だから、掃除屋に丸投げ?」


「違う」

男は肩をすくめた。

「合法的に消したい」


ユウキの中で、線が一本つながる。


善意。

共同。

そして――前払い。


「……町の流れを」

ユウキは言う。

「逆手に取ったな」


男は、薄く笑った。

「賢いだろ?」


その瞬間。


《なんか使えそう判定》

対象:廃材群

内訳:

・未申告資材

・用途偽装

・処分責任回避

判定:不正廃棄予備


《零価再定義》

起動条件:

・回収対象が“価値操作”されている

・第三者への被害誘導あり

→ 条件、成立。


「……ユウキ?」

レオルが、声の変化に気づく。


「拾う」

ユウキは、短く言った。

「今回は」


男が、笑みを深める。

「やっと、その気に――」


「違う」

ユウキは遮る。

「お前の思惑ごとだ」


一歩、踏み出す。


能力が、静かに走る。


《零価再定義》


廃材に貼り付けられていた

“処分予定”

“不要”

“無価値”

というラベルが、剥がれていく。


代わりに浮かび上がるのは――


・管理責任

・保管義務

・所有権履歴


「……な、何だそれは」

男が、初めて動揺する。


ミーナが、淡々と告げる。

「価値ではなく、責任が再定義されました」


ガルドが、にやりと笑う。

「ゴミじゃなくなったな」


廃材は、もう“拾えるもの”ではない。


「……待て」

男が言う。

「それは話が――」


「終わりだ」

ユウキは言った。

「拾わせる理由は、潰した」


倉庫区の空気が、重く沈む。


ここにあるのは、

善意でも事故でもない。


意図的に押し付けられた責任。


それを――

持ち主の元へ、戻しただけだ。


男は、その場から動けなかった。


正確には――

動く理由が、なくなった。


「……話が違う」

絞り出すように言う。


「掃除屋だろ?」

「ゴミを――」


「ゴミじゃない」

ユウキは、静かに訂正する。


廃材の山は、もう“山”に見えなかった。

それぞれに、線が引かれている。


誰が持ち込んだか。

いつから置かれているか。

なぜ捨てられなかったか。


見えなかった責任が、

全部、表に出ている。


「……俺は、ただ」

男は言葉を探す。

「町がうるさくなったから……」


「知ってる」

ユウキは頷いた。

「だから来た」


男が顔を上げる。


「善意が流行ると」

ユウキは続ける。

「押し付けが増える」


ミーナが、補足する。

「特に“共同”という言葉は便利です」

「責任を薄めるのに」


ガルドが腕を組む。

「で、最後は掃除屋に丸投げ」

「よくある話だな」


男は、反論できない。


遠くから、足音が聞こえてくる。


「……来たか」

ガルドが言う。


倉庫区の管理担当。

町の保全局の腕章。


「こちらですね」

職員が状況を見て、即座に判断する。

「未申告資材の大量保管」

「しかも、用途偽装……」


男が、青ざめる。

「ち、違う!」

「これは処分予定で――」


「“予定”は、管理ではありません」

職員は淡々としていた。

「保管責任は、所有者にあります」


ユウキは、一歩下がった。


「……あんた」

男が縋るように見る。

「助けてくれ」

「掃除屋だろ?」


ユウキは、少しだけ考えてから答えた。


「助けた」

そう言った。


「え……?」


「拾わせる理由を、消した」

ユウキは言う。

「それだけだ」


職員が、廃材を確認しながら言う。

「処理は、こちらで引き継ぎます」

「責任者の同席を」


男は、もう何も言えなかった。


連れて行かれる背中を、

誰も追わない。


倉庫区は、再び静かになる。


「……これで、いいんですか?」

レオルが、ぽつりと聞く。


「いい」

ユウキは即答した。

「これが、“拾わない仕事”だ」


ミーナが、少しだけ微笑む。

「判断を、戻しましたね」


「戻しただけだ」

ユウキは繰り返す。


ガルドが、肩をすくめる。

「嫌な町でも、面白い町だな」


「町は悪くない」

ユウキは言った。

「速すぎるだけだ」


廃材の山は、もうない。


だが――

拾わせようとした理由は、

確かにここに残っていた。


ユウキは、歩き出す。


次の依頼へ。

次の“拾わない判断”へ。


ゴミ拾いの日常は、

何事もなかったように、続いていく。


――それでいい。


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