表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/96

王に謁見しました(清掃担当として)

 王城の朝は、早い。


 というより、

 動きが止まらない。


 廊下を歩けば、

 使用人、騎士、役人がすれ違う。


 誰もが忙しそうで、

 でも足元は見ていない。


「……なるほど」


 城の床は、

 見た目だけは綺麗だった。


 光沢のある石材。

 磨かれた装飾。


 でも――

 隅に溜まった埃は、

 長い時間を感じさせる。


「表面だけ、

 ですね」


 俺は箒を動かす。


 軽く掃いただけで、

 細かな砂と埃が舞い上がった。


 通りかかった使用人が、

 少し驚いた顔をする。


「あ……

 そんなところ、

 普段は見ませんから」


「人が多い場所ほど、

 溜まりやすいです」


 掃除は、

 正直だ。


 嘘をつかない。


 城の清掃区画は、

 思ったより広かった。


 しかも、

 指定されたのは――


「倉庫、ですか?」


「はい」


 案内役の若い騎士が頷く。


「城内の古い倉庫です」

「ほとんど使われていません」


 それを聞いた瞬間、

 少し嫌な予感がした。


 扉を開ける。


 中は薄暗く、

 空気が澱んでいる。


「……ここ、

 長いですね」


「え?」


「掃除、

 十年以上はされてません」


 騎士が目を丸くする。


「分かるものなんですか?」


「匂いと、

 埃の層で」


 俺は手袋を締め直した。


 床には、

 木箱や布袋が雑多に置かれている。


 でも――

 どれも“ただのゴミ”には見えなかった。


「……これ」


 木箱の一つに、

 微かに魔力反応がある。


 ゴミ拾いスキルが、

 静かに反応した。


《不要物判定:未確定》

《再定義可能》


 表示を見て、

 思わずため息が出る。


「やっぱりか」


「何か、

 ありましたか?」


「捨てられてますけど」

「捨てていい物じゃ、

 ないですね」


 箱を開ける。


 中には、

 古い装飾品が入っていた。


 埃にまみれているが、

 丁寧に包まれている。


「これ……

 ゴミですか?」


「違います」


 即答だった。


「これは――

 “置き場所を失った物”です」


 騎士が、

 言葉を失う。


 倉庫の奥を見る。


 同じような箱が、

 いくつも積まれていた。


 中には、

 破れた布。

 欠けた装身具。

 古い玩具。


 共通点が一つあった。


 どれも、

 誰かにとって大事だった痕跡がある。


「……城は、

 ゴミが多いですね」


 俺は、

 静かに言った。


 その瞬間。


 倉庫の入口に、

 気配を感じた。


 振り向くと――

 手袋をしたまま、

 こちらを見下ろす男がいた。


「……それは、

 処分済みだ」


 グレイヴ=フォン=アーデルハイト。


 内務大臣。


「触れる必要はない」


 俺は箱を閉じ、

 ゆっくり立ち上がる。


「処分、

 されてません」


「何?」


「まだ、

 ここにあります」


 グレイヴの目が、

 細くなる。


「君は――

 余計な物に、

 手を出しすぎだ」


「仕事なので」


 それだけ答えた。


 倉庫の空気が、

 一段重くなる。


 ――王城のゴミは、

 ただのゴミじゃない。


 俺は、

 そう確信していた。


 倉庫の件は、

 とりあえず保留になった。


「後で、

 改めて確認する」


 そう言い残して、

 グレイヴは去っていった。


 納得していない顔だった。


 次に回された清掃区画は、

 王妃の私室だった。


「……ここ、

 掃除するんですか?」


 案内役の侍女が、

 少し緊張した声を出す。


「はい」


「普段は、

 立ち入り制限が……」


「汚れてます?」


「……いえ」


 その“間”で、

 だいたい分かる。


 部屋は整っていた。

 家具も配置も完璧。


 でも――

 空気が、少し重い。


「……失くし物、

 ありますね」


 侍女が、

 驚いたようにこちらを見る。


「分かるんですか?」


「痕跡が」


 俺は、

 壁際の小さな箱を指さした。


 中は空。

 綺麗すぎるほどに。


「ここに、

 大事な物があった」


 ゴミ拾いスキルが、

 静かに反応する。


《探索対象:情緒的価値物》

《所在:王城・旧倉庫》


 ……やっぱり。


 俺は、

 倉庫で見た箱を思い出す。


 埃を払う。


 中に入っていたのは、

 小さな装身具だった。


 派手じゃない。

 けれど、

 使い込まれている。


 それを持って、

 王妃の私室に戻る。


「……失礼します」


 王妃は、

 窓辺に立っていた。


「清掃の者、

 だと聞いています」


「はい」


 俺は、

 装身具を差し出した。


「こちら、

 お探しでは?」


 王妃の目が、

 一瞬で見開かれる。


 そして――

 ゆっくりと、

 手を伸ばした。


「……これは」


 声が、

 少しだけ震える。


「若い頃、

 陛下から贈られたものです」


 指でなぞる。


「失くしたと思っていました」


「倉庫に、

 ありました」


「……倉庫?」


 王妃は、

 一瞬だけ目を伏せる。


「そう……

 “不要物”として」


 言葉に、

 小さな棘があった。


「ありがとうございます」


 深く、

 丁寧な礼。


「清掃の仕事が、

 このような形で

 返ってくるとは」


「偶然です」


 本音だった。


「でも、

 拾ってくれなければ

 戻らなかった」


 王妃は、

 そう言った。


 俺は、

 少し考える。


「……拾うかどうか、

 決める前に」


「まず、

 触ってみるので」


 王妃は、

 少しだけ笑った。


「陛下にも、

 見せます」


 それだけで、

 十分だった。


 部屋を出ると、

 侍女が小さく息を吐く。


「……城が、

 少し明るくなった気がします」


「気のせいじゃ

 ないと思います」


 ゴミは、

 減っていない。


 でも――

 重さは、

 確実に減った。


 王城清掃は、

 ただの雑務じゃない。


 そう、

 実感し始めていた。


 その日の午後。


 王城の空気は、

 朝よりも少し柔らかくなっていた。


 理由は、

 誰も口にしない。


 けれど――

 皆、気づいている。


「……戻ってきたんだって?」


「王妃様の?」


 使用人たちの間で、

 小さな噂が広がる。


 清掃をしながら、

 俺は通路の隅を整える。


 通り過ぎる人たちが、

 足元を見るようになった。


 それだけで、

 仕事は半分成功だ。


 昼過ぎ、

 王城内を巡回していると――


「清掃の者」


 呼び止められた。


 声の主は、

 若い少女だった。


 王女だ。


「あなたが、

 拾ったの?」


「拾いました」


 即答すると、

 少し驚かれた。


「……もっと、

 仰々しい人かと」


「よく言われます」


 王女は、

 少しだけ笑う。


「ねえ」

「わたしの部屋にも、

 失くした物があるの」


「あります」


「え?」


「あります」


 また即答。


 案内された部屋は、

 明るくて整っていた。


 でも――

 床の隅に、

 微かな“空白”がある。


「……ここ」


 俺が指さすと、

 王女は息を呑んだ。


「……どうして?」


「物が、

 あった場所です」


 王女の宝物は、

 小さな木彫りの人形だった。


 少し欠けていて、

 でも丁寧に修理されている。


「……お兄さまが、

 昔くれたの」


 その言葉で、

 次に繋がる。


 夕方、

 王子の剣庫を清掃することになった。


 武具は整然としている。


 だが、

 一つだけ、

 置き場が不自然に空いていた。


「……これ」


 棚の奥から、

 古い箱を取り出す。


 中には、

 同じ木彫りの人形の欠片と、

 簡単な手紙。


 《壊れたら、

 また直すから》


 王子は、

 それを見て固まった。


「……まだ、

 残っていたのか」


「捨てられてませんでした」


「いや……」


 王子は、

 拳を握る。


「捨てられたと、

 思わされていた」


 言葉の意味を、

 俺は深く追わなかった。


 必要なのは、

 拾うことだけだ。


 その様子を、

 少し離れた場所で見ている者がいた。


 グレイヴだ。


 手袋越しに、

 拳を握りしめている。


「……清掃の分際で」


 呟きは、

 誰にも届かない。


 だが――

 城の中で、

 確実に何かが動き始めていた。


 俺は、

 清掃袋を肩に担ぐ。


 王城のゴミは、

 ただのゴミじゃない。


 そして――

 捨てられた理由は、

 誰かの判断だ。


 その判断が、

 正しかったかどうか。


 いずれ、

 はっきりする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ