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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第19章

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保留中のゴミ

朝の町は、思ったより騒がしかった。


「……人、多くないか?」

ガルドが周囲を見回す。


前日まで静かだった宿場町に、

今日は妙に人が集まっている。


露店が増え、

荷車が増え、

それに比例して――ゴミも増えていた。


「増えた、というより」

ミーナが言葉を選ぶ。

「片づけが追いついていない、ですね」


道の脇には、

紙屑、割れた木片、空になった薬瓶。


どれも“今すぐ危険”ではない。

だが、“放っておくと面倒”なやつだ。


「今日は拾う?」

レオルが聞く。


ユウキは、即答しなかった。


一つ、紙屑を踏まないよう避け、

一つ、割れた瓶の位置を覚える。


「……まだだ」

ユウキは言う。

「これは、今じゃない」


ガルドが笑う。

「また保留かよ」


「保留だ」

ユウキは肯定する。

「拾う理由が、まだ出てない」


その時、露店の奥から怒鳴り声が聞こえた。


「だから言っただろ!」

「ここに置くなって!」


振り向くと、

店主と運送屋が揉めている。


足元には、

大きな布袋が二つ。


中身は――

用途不明の金属部品。


「……あれ」

レオルが小声で言う。

「ゴミ、ですかね?」


「違う」

ユウキは答える。

「まだ“ゴミになってない”」


ミーナが補足する。

「処分先が決まっていないだけです」


運送屋が叫ぶ。

「引き取り先が潰れたんだ!」

「今日中に何とかしろって――」


店主が頭を抱える。

「ここは倉庫じゃない!」


周囲の人間は、見て見ぬふりをしている。

誰の仕事でもないからだ。


「……なあ」

ガルドがユウキを見る。

「これ、拾う理由にならねぇ?」


ユウキは、布袋を見た。


重さ。

形。

そして――“今は要らない”空気。


《なんか使えそう判定》

反応:低

再評価待ち


「まだ」

ユウキは言う。

「これを拾うと、責任が全部こっちに来る」


レオルが、少し驚いた顔をする。

「拾う=解決、じゃないんですね」


「拾う=引き取る、だ」

ユウキは言った。

「解決とは限らない」


そのまま通り過ぎる。


背後で、まだ怒鳴り声が続く。


「……冷たくないですか?」

レオルが小さく言う。


ユウキは、歩きながら答えた。


「冷たい判断は、後で効く」

「温かい判断は、今だけ効く」


少し間を置いて、


「今日は、後者じゃない」


町の中央に近づくにつれ、

人の流れが詰まり始めた。


誰もが、

**“誰かが拾うだろう”**と思っている。


だから、何も動かない。


ユウキは、足を止めた。


「……そろそろ、理由が出るな」


その一言で、

仲間たちの視線が集まる。


保留されていたゴミが、

“仕事”に変わる瞬間は――近い。


理由は、音だった。


金属が擦れる、嫌な音。

それに続いて――短い悲鳴。


「うわっ!」


町の中央、露店が密集する通りで、

一人の子どもが転んだ。


原因は、布袋の端からはみ出した金属片。

鋭くはないが、重い。


「……やっぱりか」

ガルドが舌打ちする。


店主が慌てて駆け寄る。

「大丈夫か!?」


子どもは泣いていない。

だが、膝を押さえて顔をしかめている。


「骨は……」

ミーナが即座に屈み、確認する。

「大丈夫です、打撲ですね」


周囲がざわつく。


「だから言っただろ!」

「危ないって!」


「誰の責任だ!?」

「運送屋だろ!」


声が、尖り始める。


ユウキは、布袋を見た。


位置。

人の流れ。

そして――これ以上は“偶然”で済まない距離。


《なんか使えそう判定》

反応:中

危険度:上昇


「……理由、出たな」

ユウキが言う。


ガルドが頷く。

「怪我人が出たら、もう面倒じゃ済まねぇ」


レオルが息を呑む。

「じゃあ、拾うんですか……?」


「拾う」

ユウキは即答した。

「今なら、引き取る理由がある」


布袋に手をかける。


重い。

想定より、ずっと。


「中身、何だ?」

ガルドが聞く。


「半端な部品だ」

ユウキは答える。

「規格落ち、用途未定、処分先なし」


ミーナが補足する。

「つまり」

「“ゴミになる途中”ですね」


「一番厄介なやつだ」

ガルドが笑う。


ユウキは、袋を一度だけ地面に置き、

周囲を見渡した。


「これは――」

「俺が拾う」


運送屋が慌てて声を上げる。

「え、いや!」

「報酬なんて――」


「要らない」

ユウキは言った。

「ただし」


視線を、店主に向ける。


「ここには、もう置くな」

「代わりに――」


少し考え、


「裏の空き地、知ってるな」


店主が、はっとする。

「あ、ああ……」

「昔の資材置き場だ」


「そこに、一時的に移す」

ユウキは言う。

「町の流れから外す」


ミーナが即座に頷く。

「安全確保ですね」


ガルドが、布袋を担ぐ。

「重ぇ……」

「これ、全部拾うって正気か?」


「全部じゃない」

ユウキは言った。

「危ない分だけだ」


布袋を一つ、二つ。


残りは、そのままにする。


レオルが目を丸くする。

「え、残すんですか?」


「残す」

ユウキは答える。

「今拾うと、過剰だ」


空き地に移動すると、

人の流れが、嘘のように戻った。


子どもは、もう立ち上がっている。


「……ありがとう」

小さく言って、頭を下げた。


ユウキは、軽く手を振るだけだった。


袋を置く。


《零価再定義》は、使わない。

必要ない。


代わりに、


廃棄物適正処理コンプライアンス

判定:仮

期限:未定


「……仮、か」

ユウキが呟く。


「また保留ですね」

ミーナが言う。


「そうだ」

ユウキは頷く。

「これは、次の人の仕事だ」


ガルドが笑う。

「相変わらず、全部は持たねぇな」


「持つと、壊れる」

ユウキは言った。

「俺がじゃない。町が」


夕方。


布袋は、もう通りを塞いでいない。


だが――

完全には、片づいていない。


それでいい。


「……今日の仕事」

レオルが言う。

「派手じゃないですね」


「日常だ」

ユウキは答えた。

「だから、続く」


空き地の向こうで、

誰かが布袋を見て立ち止まっていた。


次の判断者。


ユウキは、振り返らない。


翌朝。


町の中央通りは、昨日より少しだけ静かだった。


露店の位置が変わり、

荷車の通り道も、わずかに修正されている。


「……通りやすくなってますね」

レオルが言った。


「危ない物が、真ん中から消えた」

ミーナは淡々と答える。

「それだけで、流れは変わります」


ユウキは、裏の空き地を見ていた。


昨日移した布袋の残り。

まだ、そこにある。


だが――

増えていない。


「……誰か、触ったな」

ガルドが気づく。


布袋の一部が解かれ、

中身が整理されている。


用途別。

重さ別。

危険度別。


雑だが、意図ははっきりしていた。


「町の人ですね」

ミーナが言う。

「運送屋か、職人か……」


「どっちでもいい」

ユウキは答えた。

「もう、“誰かの仕事”になってる」


近くで、二人の男が話している。


「これ、鍛冶屋が引き取るってさ」

「全部は無理だけど、半分くらい」


「残りは?」

「素材屋が検討中だって」


完全な解決ではない。

だが、昨日よりは前に進んでいる。


「……拾わなかった分が」

レオルが呟く。

「ちゃんと、動いてますね」


「拾わなかったからだ」

ユウキは言った。

「全部拾ってたら、考えなくて済んだ」


ガルドが、少し考えてから言う。

「考えさせるのも、仕事か?」


「仕事じゃない」

ユウキは首を振る。

「癖だ」


ミーナが、小さく微笑んだ。


町の掲示板を見ると、

新しい依頼が一枚だけ貼られていた。


《資材整理・短時間》

《報酬:相談》


「……相談、か」

ガルドが笑う。

「金じゃねぇのか」


「いい依頼だ」

ユウキは言った。


依頼書を剥がしはしない。

ただ、位置を覚える。


「今日は、ここまでだな」

ユウキが言う。


「もう拾わない?」

レオルが聞く。


「拾わない」

ユウキは答える。

「今日は、十分拾った」


袋は、半分も埋まっていない。


だが――

町の空気は、昨日より軽い。


ユウキは、歩き出す。


「次は?」

ガルドが聞く。


「次は……」

ユウキは少し考え、

「もう少し、面倒な日常だ」


遠くで、誰かが掲示板の前に立ち止まる。


保留されていたゴミは、

もう“ただのゴミ”ではなかった。


判断を渡され、

役目を待つ――

そんな形に、変わっていた。

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