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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第18章

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責任の置き場

アルセイン統治王国・第三監査局。


朝だった。


だが、空気は夜より重い。


「……報告を」

局長が、短く言った。


長机の端に立つ男――

ルディオ=カーンは、立ったまま動かなかった。


顔色は悪い。

鎧は外され、礼装に着替えている。


だが、背筋だけは無理に伸ばしていた。


「第十八監査案件」

ルディオは、抑えた声で言う。

「召喚者セイルの件について……」


「“件”?」

局長が眉を上げる。

「記録では、召喚資産の喪失だが」


「……喪失ではありません」

ルディオは言い切った。

「回収です」


一瞬、沈黙。


次の瞬間、

数名の監査官が、同時に顔をしかめた。


「言葉遊びはいい」

「結果は同じだ」


「違います」

ルディオは、珍しく食い下がった。

「能力は奪われていない」

「人格も、破壊されていない」


「なら何だ」

局長が言う。

「なぜ命令が通らない」


その問いに、

ルディオは答えられなかった。


沈黙が、

そのまま“回答”になる。


「……つまり」

局長が静かに言う。

「王国の命令体系が、外部に介入された」


「はい」


「しかも、破壊ではない」

「無効化でもない」

「“正規処理”だと主張している、と」


「……その通りです」


局長は、書類を閉じた。


「最悪だな」


誰も否定しない。


「破壊なら、敵だ」

「無効化なら、違法だ」


局長は続ける。

「だが“回収”は違う」

「こちらの管理不備を、突かれる」


一人の監査官が、口を挟んだ。

「ですが、命令共鳴は王国専用――」


「だった」

局長は遮った。

「だった、だ」


机を、指で叩く。


「命令に依存しすぎた」

「召喚者を、道具扱いした」

「しかも、それを“効率”と呼んだ」


視線が、ルディオに向く。


「現場判断は?」

局長が問う。


「……速さを、優先しました」

ルディオは答える。

「規定通りです」


「規定通り、か」

局長は、小さく笑った。


「規定が壊れた時、誰が責任を取る?」


ルディオは、唇を噛んだ。


「……私です」


「いいや」

局長は首を振る。

「お前一人では足りない」


部屋の空気が、さらに冷える。


「本件は」

局長は宣言した。

「監査戦闘部の運用方針そのものが問われる」


「今後の対応は?」

別の官が聞く。


局長は、迷わず答えた。


「追撃は、しない」


ざわめき。


「なぜです!?」

ルディオが思わず声を上げる。


「簡単だ」

局長は言う。

「追えば追うほど、“正しさ”を示される」


ルディオは、拳を握った。


あの掃除屋の顔が、脳裏に浮かぶ。


淡々と。

否定もせず。

ただ、拾っていった。


「……では」

ルディオが、低く言う。

「我々は……」


「処理する」

局長は、はっきり言った。

「内部から」


書類が、机の中央に置かれる。


《運用再編案》

《召喚者管理規定・暫定凍結》

《責任者名:ルディオ=カーン》


ルディオの喉が、鳴った。


「……左遷、ですか」


「いいや」

局長は首を振る。

「現場復帰だ」


ルディオは、顔を上げる。


「最前線で、“管理できない現実”を見てこい」

「それが、お前の仕事だ」


逃げ場はない。


ざまぁは、

剣でも、魔法でもない。


肩書きが剥がれ、理念だけが残る。


ルディオは、深く頭を下げた。


「……了解しました」


その背中を見ながら、

局長は一言だけ、呟いた。


「……掃除屋、か」

「厄介な仕事人を、相手にしたものだ」


場面は、切り替わる。


街道。


ユウキたちは、いつも通り歩いていた。


「……静かだな」

ガルドが言う。


「追撃、来ませんね」

レオルが周囲を見る。


ミーナは、淡々と答えた。

「来ません」

「来られない、が正確です」


ユウキは、何も言わない。


ただ、袋の中身を確かめる。


拾ったもの。

返したもの。

引き取った責任。


「……次は?」

レオルが聞く。


ユウキは、前を見たまま答えた。


「次は――」

「“拾いすぎた王国”の後始末だ」


空は、晴れている。


だが、

出来事は、もう始まっていた。


現場は、地味だった。


派手な魔獣もいない。

戦果を誇れる依頼もない。


あるのは――

遅れて噴き出した問題だけだ。


「……次は、どこだ」

ルディオが、地図を見ながら言う。


「北搬送路、第三支線」

現地責任者が答える。

「召喚労働者の暴走です」


「暴走?」

ルディオが眉をひそめる。


「命令が、通らなくなりました」

責任者は淡々と言った。

「作業を拒否しています」


ルディオの胸が、嫌な音を立てた。


――セイルと、同じ。


現場に着くと、

数人の若者が、資材の前で立ち尽くしていた。


召喚者だ。


首元には、かつて命令紋が刻まれていた痕。

だが今は、薄く残るだけ。


「……働け」

ルディオは、反射的に言った。


返事はない。


一人が、恐る恐る口を開く。

「……理由を、聞いてもいいですか」


「理由?」

ルディオが詰まる。


「なぜ、それを運ぶのか」

「なぜ、今日なのか」

「なぜ、俺たちがやるのか」


――以前なら、考える必要のない問い。


「……規定だ」

ルディオは、そう言うしかなかった。


若者は、静かに首を振った。

「それ、もう通らないんです」


別の召喚者が言う。

「命令が、頭に響かない」

「怖くもない」


「……なら、どうすれば動く」

ルディオは、声を低くした。


沈黙。


そして、一人が答えた。


「説明してください」

「ちゃんと」


その言葉は、

剣よりも重かった。


ルディオは、理解してしまった。


管理とは、命令ではない。


説明だ。

責任だ。

判断だ。


「……この資材は」

ルディオは、時間をかけて言葉を選んだ。

「明日の雨で、流出する」

「止めないと、下流が被害を受ける」


若者たちは、顔を見合わせる。


「それなら……」

「手伝う意味は、ありますね」


動き始める。


遅い。

だが、確実だ。


現地責任者が、呆然と呟く。

「……今まで、こんなこと……」


「なかっただろうな」

ルディオは答えた。


その直後、別の報告が飛び込む。


「南区画!」

「召喚兵が、命令を拒否しています!」


またか。


移動。

説得。

説明。

判断。


一日で、三件。


どれも、剣は振らない。

魔法も使わない。


ただ、

話す。決める。責任を負う。


日が沈む頃。


ルディオは、地面に腰を下ろした。


「……おかしい」

呟く。

「何も、違法じゃない」

「だが……」


疲労が、骨に染みる。


その時、補佐官が、恐る恐る言った。

「……監査官」

「これ、例の“掃除屋”の影響では……」


ルディオは、即答しなかった。


代わりに、空を見る。


セイルの顔が、浮かぶ。


あの軽くなった表情。


「……そうだな」

ルディオは、やっと認めた。

「俺たちは、“命令を押し付けていた”」


補佐官は、息を呑んだ。


「では……」


「修正する」

ルディオは言う。

「逃げない」

「これは、王国の仕事だ」


その背中は、

もう“偉い官僚”のものではなかった。


だが――

確実に、地に足がついていた。


一方、その頃。


街道の先。


ユウキは、いつものように立ち止まり、

道端の壊れた標識を起こしていた。


「……相変わらずだな」

ガルドが笑う。


「派手なことは、来ないな」

レオルが言う。


ミーナが、静かに答えた。

「来ています」

「もう、十分に」


ユウキは、標識を直し終え、手を払う。


「壊れたのは、仕組みだ」

「人じゃない」


袋を背負い直す。


「次は、もっと分かりやすい仕事がいいな」


その言葉が、

次の章への合図だった。


夜。


北搬送路の臨時宿舎は、静かだった。


昼間の騒ぎが嘘のように、

召喚者たちは各々の寝床で休んでいる。


命令は、ない。

だが混乱も、ない。


「……報告書、終わりました」

補佐官が、疲れた声で言った。


ルディオは、灯りの下で紙を見ていた。


《本日処理案件:七件》

《武力介入:ゼロ》

《違反処理:ゼロ》

《遅延:多数》

《事故:ゼロ》


「……皮肉だな」

ルディオが呟く。

「遅れて、止めて、説明して」

「それで事故が出ないとは」


補佐官は、言葉を探しながら言う。

「……以前なら」

「速さが、正義でした」


「そうだ」

ルディオは頷く。

「速ければ、命令できた」

「考えなくてよかった」


紙を置く。


「だが今は」

「考えないと、誰も動かない」


沈黙。


補佐官が、恐る恐る聞く。

「……それは、失敗でしょうか」


ルディオは、すぐに答えなかった。


外を見る。


焚き火のそばで、

召喚者の一人が、別の者に何かを説明している。


命令ではない。

相談だ。


「……失敗ではない」

ルディオは、ようやく言った。

「ただ――」


言葉を区切る。


「管理ではなかった」


その瞬間、

補佐官は理解した。


王国が失ったのは、

召喚者ではない。


**“楽な支配”**だ。


「……本国は」

補佐官が言う。

「納得しません」


「だろうな」

ルディオは苦笑する。

「だが、もう戻れない」


「なぜです?」


ルディオは、机の端を見た。


そこには、今日使われなかった命令符がある。


触れなかった。

触れられなかった。


「一度、知ってしまったからだ」

「命令がなくても、人は動く」


そして――

命令があっても、人は壊れる。


「……掃除屋」

ルディオは、低く呟いた。


名も告げず、

思想も語らず、

ただ“拾って”いった男。


「俺たちは」

ルディオは続ける。

「管理できないものを、管理しようとしていた」


補佐官は、黙って頷いた。


夜明け。


現場を離れる準備が始まる。


召喚者の一人が、ルディオに声をかけた。

「あの……」


「何だ」

ルディオは答える。


「昨日は……」

若者は言葉を探し、

「……ちゃんと、説明してくれて」

「ありがとうございました」


礼だった。


報告書には、載らない。


ルディオは、一瞬だけ目を伏せ、

そして、頭を下げた。


「……こちらこそ」


それが、

彼の敗北宣言だった。


一方、街道。


ユウキたちは、もう次の町に向かっている。


「……終わったな」

ガルドが言う。


「ええ」

ミーナが答える。

「王国は、しばらく動けません」


レオルが首を傾げる。

「追われないんですか?」


「追う理由がない」

ユウキは淡々と答えた。

「壊してないからな」


袋を肩にかける。


「管理不能ってのは」

ユウキは続ける。

「手に負えないって意味じゃない」


一歩、踏み出す。


「手に持つべきじゃないって意味だ」


朝日が、街道を照らす。

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