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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第18章

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命令の上書き

止まっていた空気が、再び動いた。


ルディオは、短く息を吐くと、懐から小さな結晶端末を取り出した。

握り潰すように力を込める。


「……段階三に移行する」


その言葉に、監査戦闘班の背筋が揃う。


「上位命令を適用」

「対象・セイルに対し、権限を一時的に集約する」


ミーナが、即座に理解した。

「……命令の“重ね掛け”」

「人格判断を、完全に遮断する気です」


「遮断?」

レオルが声を震わせる。

「それ、人として……」


「人ではありません」

ルディオは、淡々と言い切った。

「王国資産です」


その瞬間。


セイルの足元に、複数の命令紋が浮かび上がる。

先ほどよりも複雑で、重い。


「……っ」

セイルが、僅かに身を強張らせた。


呼吸が、乱れる。


「対象セイル」

ルディオの声が、低く響く。

「命令を上書きする」

「最優先行動――」


「やめろ」

ユウキが、初めて強く言った。


ルディオは、ちらりと視線を向けるだけだ。

「管理の範疇です」


「違う」

ユウキは、はっきり言う。

「それは、“使い潰し”だ」


命令紋が、さらに一段、輝きを増す。


「……了解」

セイルが、絞り出すように言った。


その声には、もう迷いがない。

代わりに――余白がない。


「来る!」

ガルドが叫ぶ。


次の瞬間。


セイルが、消えた。


正確には、視認できない速度で踏み込んだ。


衝撃。


ガルドが、地面を削りながら弾き飛ばされる。

「ぐっ……!」


「ガルド!」

レオルが駆け寄ろうとする。


「止まるな!」

ガルドが叫び返す。

「今のは……重い!」


ミーナが、歯を食いしばる。

「出力が、完全に別物です……!」


セイルは、次の標的に視線を移す。


最短。

最速。

最小動作。


「……っ」

レオルが、動けない。


ユウキは、その前に立った。


構えない。

逃げない。


「……来い」

そう言った。


セイルの拳が、迫る。


だが――


直前で、ユウキは一歩踏み込んだ。


攻撃ではない。

接触だ。


腕の金属板が、強く光る。


《零価再定義》。


対象:

《命令共鳴》に付随する“最優先命令”


「……!」

セイルの動きが、跳ねる。


完全停止ではない。

だが、力の流れが乱れる。


「……何をした!?」

ルディオが声を荒げる。


「まだ、触っただけだ」

ユウキは答える。

「本気でやれば――」


言葉を、切る。


セイルの顔が、歪む。


「……命令が」

セイルが、かすれた声で言う。

「多すぎる……」


膝が、わずかに落ちる。


レオルが、息を呑む。

「……限界じゃ……」


「まだだ」

ルディオは冷たく言った。

「耐えろ」

「それが、お前の役割だ」


その一言で、

ユウキの中で、何かが決定した。


「……もういい」

ユウキは、静かに言う。


「次は」

「使命ごと、拾う」


ミーナが、はっきり頷いた。

「……やるなら、今です」


ユウキは、一歩前に出る。


袋は、もう地面にない。

拾う準備は、終わっている。


「ルディオ」

ユウキは言った。

「これは、演習じゃない」


「……何だと?」


「救出だ」


その言葉に、

戦場の意味が、完全に変わった。


――王国は、

切り札を“使いすぎた”。


――命令が、重い。


セイルは、そう感じていた。


いや、

感じる、という判断自体が遅れている。


踏み出せ。

殴れ。

制圧しろ。


命令は、明確だった。

一つ一つは、分かりやすい。


だが――

重なりすぎている。


「……」


呼吸をしようとすると、

「呼吸を維持しろ」という命令が走る。


視線を動かそうとすると、

「対象Aを追跡しろ」が割り込む。


考えようとすると、

「思考は不要」が上書きされる。


――ああ。

これが、“正しい”状態なのだと、教えられてきた。


自分で決める必要はない。

迷う必要もない。

間違える心配もない。


命令がある限り、最短で動ける。


それが、

召喚された時に与えられた役割だった。


(……でも)


セイルの視界が、揺れる。


ユウキという存在が、

その“最短”から、わずかに外れている。


殴れる。

確実に。

なのに――


「……判断が、遅い」


自分の声が、

自分のものではないように聞こえた。


「遅い方が、生き残る時もある」


その言葉が、

命令の隙間に、引っかかる。


(……生き残る?)


そんな項目は、

命令一覧には、なかった。


あるのは――

成功。

制圧。

完遂。


生きる、という選択肢がない。


「……命令を、優先……」


口が、勝手に動く。


だが、言葉が続かない。


重い。

頭が、重い。


(……多すぎる)


一つ一つは、間違っていない。

だが、全部同時にやれと言われている。


膝が、少しだけ落ちる。


――落ちた、という事実を

命令が拾えない。


「耐えろ」


遠くで、ルディオの声がする。


「それが、お前の役割だ」


役割。


その言葉に、

胸の奥が、きしんだ。


(……役割って)


自分は、

いつから“役割”になった?


名前を呼ばれたのは、

いつが最後だった?


「……セイル」


その声が、はっきり聞こえた。


命令じゃない。

指示でもない。


ただ、名前。


視線が、自然に上がる。


ユウキが、そこに立っている。


構えていない。

怒ってもいない。


「もういい」

そう言われた。


「次は、使命ごと拾う」


使命。


それは――

命令より、さらに上にあるもの。


(……拾う?)


壊すでもない。

奪うでもない。


“拾う”。


その言葉が、

なぜか、ひどく軽く感じた。


軽いのに、

胸に残る。


「……判断が」

セイルは、やっと言葉を選ぶ。

「できない……」


ユウキは、即答しなかった。


少しだけ間を置いて、言う。


「それでいい」

「今は、できなくていい」


命令が、ざわつく。


“今は”という言葉が、

処理できない。


だが――

拒否も、されない。


初めてだった。


否定されない状態。

急かされない時間。


「……」


セイルは、

初めて“止まる”ことを許された。


その瞬間。


頭の中で鳴り続けていた

命令のノイズが、

ほんの少しだけ、遠のいた。


――完全じゃない。

だが、確かに。


(……まだ)


壊れてはいない。

でも、

壊れかけていることを、初めて自覚した。


セイルは、ゆっくりと息を吐く。


それを、

誰にも命じられずに。


セイルは、もう動いていなかった。


止められたわけじゃない。

倒れたわけでもない。


命令が、前に出てこなくなった。


「……何をしている」

ルディオの声が、苛立ちを帯びる。

「命令を実行しろ」


返事は、ない。


「セイル!」

声を強める。

「これは最優先命令だ!」


その瞬間。


ユウキが、一歩前に出た。


「無駄だ」

静かな声だった。


「何?」

ルディオが睨む。


「もう“通らない”」

ユウキは言った。

「命令が、通る前提が崩れた」


「何を――」


「使命だ」

ユウキは、はっきり言う。

「こいつに与えられてる“役割”そのもの」


ミーナが、すぐに理解した。

「……召喚契約の根幹ですね」

「能力じゃない。存在理由」


ガルドが低く息を吐く。

「それ、王国の持ち物だろ」


「そうだな」

ユウキは肯定した。

「だから、拾う」


ルディオが叫ぶ。

「ふざけるな!」

「それは王国の――」


「壊さない」

ユウキは遮る。

「返すだけだ」


腕の金属板が、はっきりと光る。


《零価再定義》。


対象:

召喚者セイルに付与された《使命:王国命令実行体》


再定義条件:

・役目は既に過剰に使用

・維持は本人の生命・人格を損なう

・継続価値――ゼロ


「……な、に……」

ルディオの声が、掠れる。


光が、静かに広がる。


派手な爆発はない。

衝撃もない。


ただ――

“外れる”感覚だけがあった。


セイルの足元の命令紋が、

一つずつ、消えていく。


消滅ではない。

解除でもない。


“回収”だ。


「……っ」

セイルが、胸を押さえる。


苦しそうではない。

むしろ――


「……軽い……」


初めて、

感情のある声だった。


「何を……した……」

ルディオが、後ずさる。


「拾った」

ユウキは答える。

「使命を終わらせただけだ」


「そんなことが……許されると……!」


「許可?」

ユウキは、首を傾げる。

「誰に?」


その一言で、

ルディオは黙った。


王国。

規定。

管理。


――全部、ここにはいない。


「……セイル」

ユウキは、本人を見る。

「今は、何も決めなくていい」


セイルは、ゆっくりと顔を上げた。


視線が、初めて定まる。


「……命令が、ない……」

小さく言う。

「次に、何をすれば……」


「知らないでいい」

ユウキは言った。

「それ、これから覚えることだ」


レオルが、息を吸う。

「……終わった……?」


「終わったよ」

ミーナが答えた。

「少なくとも、“戦い”は」


ルディオは、膝をついた。


「……王国が……」

呟く。

「王国の資産が……」


ガルドが、鼻で笑う。

「資産じゃねぇ」

「人だ」


ルディオは、何も言い返せなかった。


ユウキは、袋を肩にかける。


「行こう」

仲間たちに言う。


「……セイルは?」

レオルが聞く。


ユウキは、一瞬だけ振り返った。


「置いていかない」

「でも、連れてもいかない」


セイルを見る。


「自分で、立て」

それだけ言った。


セイルは、ゆっくりと立ち上がる。


ふらつきながらも、

誰の命令でもなく。


背後で、ルディオの声が震えた。


「……これは……」

「王国への反逆だ……」


ユウキは、振り向かずに答えた。


「違う」

「回収だ」

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