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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第18章

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想定外の修正

演習地の空気が、変わった。


先ほどまでの整然とした緊張ではない。

想定が崩れたあとの、再配置の沈黙だ。


監査戦闘班は、すぐに動きを止めた。

誰も追わない。

誰も詰めない。


「……一時停止」

ルディオの声が、低く響く。


「規定第七条」

「演習中に想定外の能力反応を確認」

「戦闘形式を修正する」


即座に、班員たちが頷く。

返事はない。

確認だけだ。


「来るな」

ガルドが小さく言った。

「これ、切り替えだ」


「え?」

レオルが息を呑む。


ミーナは、すでに視線を上げている。

「はい」

「“規定で縛る”のをやめます」


「やめる?」

レオルが聞き返す。


「一部だけ」

ミーナは淡々と答える。

「縛れない部分を、力で押す」


ルディオが、こちらを見た。

「あなたの能力は」

「管理可能な範囲を超えています」


ユウキは、何も言わない。


袋は、まだ地面に置いたままだ。


「そこで」

ルディオは続ける。

「戦闘評価を、段階二に引き上げます」


その合図で、監査戦闘班の装備が変わった。


軽装が解除され、

内部装備が露出する。


魔力供給線。

強化補助。

“長期戦用”の構成。


「……本気モードか」

ガルドが、肩を鳴らす。


「致死行為は禁止」

ルディオは言う。

「ですが、無力化は許可されます」


「誰の判断だ?」

ユウキが聞いた。


「王国です」

ルディオは即答する。

「責任も、王国が持つ」


一瞬、ミーナがユウキを見る。

ユウキは、軽く頷いた。


――責任を引き取った。


それは、

踏み込んだ合図だった。


「……来るぞ」

ガルドが言う。


次の瞬間。


監査戦闘班が、一斉に踏み込んだ。


今度は速い。

さっきまでの“管理する速さ”じゃない。

純粋な戦闘速度だ。


「っ!」

レオルが、反射的に後退する。


「後ろ、結界!」

ミーナが叫ぶ。


逃げ道が、閉じる。


「正面から潰す気だな」

ガルドが笑う。

「分かりやすくて助かる」


監査兵の一人が、ガルドに迫る。

重い打撃。

防御魔法がぶつかり合い、音が弾ける。


「……強い」

レオルが思わず言う。


「ええ」

ミーナは冷静だ。

「でも――」


彼女の視線は、ユウキに向いている。


ユウキは、まだ動かない。


「対象A」

監査兵の声。

「行動なし」

「警戒を維持――」


その瞬間。


足元の魔力供給線が、

ふっと消えた。


「……?」

監査兵が足を止める。


「供給低下!」

「補助が落ちてる!」


誰も壊していない。

誰も触れていない。


ユウキは、静かに言った。


「それ」

「もう“使われすぎ”だ」


《拾得物最適化指令》。


供給線は、切断されていない。

だが、最適化の結果として“不要”になった。


「ば、馬鹿な……」

監査兵が、初めて焦りを見せる。


「馬鹿じゃない」

ガルドが殴り返しながら言う。

「“前提が違う”だけだ」


戦闘は、続いている。


だが――

王国側の“強さ”だけが、少しずつ削られていく。


ルディオは、その様子を見逃さなかった。


「……なるほど」

小さく、呟く。


「力を壊さない」

「規定を無視するでもない」


視線が、ユウキに刺さる。


「使い切らせる前に」

「“終わったもの”にする、か」


それは、分析だった。


同時に――

警戒が、一段上がった瞬間でもある。


ルディオは、ゆっくりと息を吐く。


「……段階二、失敗」

そう宣言した。


そして、

次の切り札を呼ぶ判断を下す。


「召喚対象を、前に」


その一言で、

戦場の意味が変わった。


――王国は、

“人”を使う段階に入った。


空気が、静まった。


戦闘が止まったわけではない。

だが、誰もが“次”を待っている。


演習地の中央。

測定柱の一つが、低く唸りを上げた。


「……召喚反応」

ミーナが、即座に言う。


「ここで?」

レオルが思わず声を上げる。

「演習地ですよね?」


「規定内です」

ルディオは答える。

「管理区域内での限定召喚」

「安全性は確認済みです」


その言葉が、

逆に“安全でない”ことを示していた。


地面に、円形の紋様が浮かぶ。

光は強くない。

だが、密度が異常だった。


「……来る」

ガルドが身構える。


次の瞬間。


光が収束し、

一人の人物が、そこに立っていた。


年は若い。

装備は軽い。

だが――立ち姿が、整いすぎている。


「……セイル」

ルディオが名を呼ぶ。


その声に、

その人物は、はっきりと反応した。


「命令を」

即答だった。


視線は揺れない。

表情も動かない。


「……あ」

レオルが、息を呑む。

「これ……」


「召喚者ですね」

ミーナが低く言う。

「完全に“命令待ち”です」


ルディオは、淡々と告げる。

「対象A――」

「能力を使用し、無力化してください」


「了解」

セイルは、一拍も置かずに答えた。


その瞬間。


空気が、歪んだ。


魔力が、爆発的に集束する。

さっきまでの監査戦闘班とは、質が違う。


「……出力が跳ね上がってる」

ガルドが、歯を鳴らす。

「命令一本で、ここまでかよ」


セイルが、一歩踏み出す。


踏み込みは、静か。

だが、その一歩だけで、

距離の概念が消えた。


「来る!」

ミーナが叫ぶ。


ユウキは、初めて動いた。


前に出る――が、構えない。


セイルの拳が、迫る。


「……っ!」

レオルが思わず叫ぶ。


だが。


拳は、寸前で止まった。


止めたのは、

ユウキでも、結界でもない。


**命令の“揺らぎ”**だった。


「……?」

セイルの目が、わずかに揺れる。


ルディオが、即座に言った。

「ためらう必要はありません」

「命令は有効です」


「はい」

セイルは答える。

だが、その声が――少しだけ遅れた。


ユウキは、その様子を見ていた。


能力を見るのではない。

出力を見るのでもない。


命令が“重く乗っている”場所を見ている。


「……なあ」

ユウキが、静かに言った。

「それ、自分の判断か?」


セイルは、答えない。


答えない、ではない。

答えられない。


「対象A」

ルディオの声が、少しだけ強まる。

「指示に従え」


「了解」

セイルは、もう一度言った。


今度は、確かに動く。


速度が跳ねる。

衝撃が来る。


ガルドが割り込む。

「させるかよ!」


衝突。

だが、弾かれる。


「……強い」

ガルドが、苦笑する。

「いや、正確か」


ミーナが、即座に判断する。

「能力が“最短経路”しか選ばない」

「自由度が、ない」


レオルが、震える声で言う。

「……それって」

「命令が、全部なんですか?」


「そうです」

ルディオは答えた。

「それが、召喚者の役割です」


ユウキは、拳を握らなかった。


ただ、一歩前に出る。


「ルディオ」

名前を呼ぶ。


「何でしょう」

返事は、早い。


「それ」

ユウキは、セイルを見たまま言う。

「切り札か?」


「はい」

ルディオは、迷わない。

「王国の資産です」


その言葉で、

ユウキの中で、線が一本引かれた。


――敵だ。

だが、壊す相手じゃない。


「……分かった」

ユウキは、静かに言った。


「じゃあ」

「これは、拾う側の仕事だ」


腕の金属板が、

かすかに、熱を帯び始める。


《零価再定義》――

本命が、起動しようとしていた。


セイルの動きは、正確すぎた。


踏み込み。

拳。

回避角度。


すべてが最短で、最速。

無駄が一切ない。


「……やばい」

レオルが、思わず呟く。


「近づくな!」

ミーナが叫ぶ。

「当たったら、防御が意味を失います!」


ガルドが歯を鳴らす。

「真正面からやる相手じゃねぇな……!」


セイルが、再び動いた。


今度は、ガルドではない。

狙いは――ユウキ。


一直線。


「ユウキさん!」

レオルが叫ぶ。


ユウキは、避けなかった。


「っ――!」

ガルドが踏み出しかける。


だが。


ユウキは、ただ一歩、横にずれた。


それだけで、

セイルの拳は空を切る。


「……?」

セイルの目が、ほんの一瞬だけ揺れる。


「最短経路が、外れた」

ミーナが即座に理解する。

「判断が、追いついていない……!」


セイルは、すぐに修正する。

だが、その修正が――


命令を経由している。


「……遅い」

ガルドが、低く言った。


ルディオが、即座に声を張る。

「指示を維持しろ!」

「対象Aを制圧しろ!」


「了解」

セイルは答える。


だが、

その声は、また一拍遅れた。


ユウキは、静かに言った。


「無理するな」

「それ、自分の動きじゃない」


セイルは、答えない。


だが、動きが――

わずかに、重くなる。


「……効いてる」

レオルが気づく。

「言葉が……」


「違う」

ミーナが首を振る。

「能力の前提が、崩れかけています」


ユウキは、距離を保ったまま、歩く。


攻撃しない。

防御もしない。


“戦闘にしない”動き。


セイルが追う。

だが、追い切れない。


最短を選ぶ能力は、

「想定外」を嫌う。


ユウキが立ち止まる。


「……ルディオ」

ユウキは、背中越しに言った。

「こいつに、“自分で決めろ”って言ったことあるか?」


「不要です」

ルディオは即答する。

「命令で十分です」


「だろうな」

ユウキは頷いた。


その瞬間。


ユウキは、セイルの“影”に触れた。


直接ではない。

力でもない。


《拾得物最適化指令》。


対象:

《命令共鳴》の発動条件


最適化結果:

“即時実行” → “再確認”


「……っ!」

セイルの動きが、止まる。


完全停止ではない。

だが、即応が消えた。


「何をした!?」

ルディオの声が、初めて荒れる。


「何も壊してない」

ユウキは答える。

「使い方を、戻しただけだ」


「戻す?」

「何に――」


「本人に、だ」


セイルの拳が、下がる。


呼吸が、少しだけ乱れる。


「……判断が」

セイルが、初めて言葉を選ぶ。

「遅い……」


「それでいい」

ユウキは、はっきり言った。

「遅い方が、生き残る時もある」


ルディオが、強く言う。

「命令を優先しろ!」


セイルの肩が、わずかに震えた。


「……了解」

そう言おうとして――止まる。


言葉が、出ない。


レオルが、息を呑む。

「……止まった」


「止めたんじゃない」

ユウキは言う。

「止まれたんだ」


場の空気が、完全に変わった。


監査戦闘班は、動けない。

セイルは、動かない。


戦闘は続いている。

だが、もう勝敗は傾き始めている。


ルディオは、拳を握りしめた。


「……これは」

「規定外だ」


ユウキは、静かに返した。


「そうだ」

「だから、次で終わる」


腕の金属板が、

今度ははっきりと、熱を帯びる。


《零価再定義》。


次は、

“使命そのもの”に触れる段階だった。


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