表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第16章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

105/137

信用は、再配送されない

街道を外れた脇道は、驚くほど静かだった。


舗装は粗い。

道幅も狭い。

だが、足を取られる場所は少ない。


「……こっちの方が、ずっと楽だな」

ガルドが率直に言う。


「急がない前提で作られてます」

ミーナは淡々と答える。

「失敗を想定している道です」


荷車は少ない。

だが、御者たちは落ち着いている。


止まることを前提に、

動いている。


「評価は低いですけどね」

レオルが苦笑する。

「遠回りですし」


「信用は高い」

ユウキは短く返した。


その時、通信具が鳴った。


街道管理局の周波数。

強制ではない。

だが、無視もしづらい。


ミーナが受け取る。

「……全体通達です」


短く、読み上げる。


「《中継路・緊急再編成》」

「信用評価B以下の回収・護衛班は、一時的に街道依頼から除外」


一瞬、静寂。


レオルが目を瞬かせる。

「……B以下?」


ガルドが、ゆっくり笑った。

「おいおい」


ミーナは続ける。

「理由」

「“判断ログ未整合による事故誘発の可能性”」


誰のことかは、書いていない。

だが、全員分かる。


「……紅迅」

ガルドが、名前を出した。


ユウキは、何も言わなかった。


通信は、まだ続く。


「除外期間中、該当班は――」

「街道依頼の後処理補助に回ること」


レオルが、息を呑む。

「後処理……?」


「つまり」

ミーナが言う。

「自分たちが急がせた現場の、掃除です」


罰ではない。

処分でもない。


だが、

一番やりたくない仕事だ。


ガルドが、愉快そうに肩を揺らす。

「これは効くな」


街道脇の詰所が見えてきた。


そこで、赤い装備の一団が足を止めていた。


――紅迅。


荷を持っていない。

武器も、半分は外している。


作業員から、紙束を渡されていた。


「……ここ全部?」

カイルの声が聞こえる。


「はい」

作業員は事務的だ。

「昨日の沈下地点と、関連ルート」

「再点検と、資材回収です」


「俺たちが?」

カイルが、思わず言う。


「信用評価が回復するまで」

作業員は淡々と答える。

「“急がない仕事”をお願いします」


カイルは、何も言えなくなった。


速さが、意味を失っている。


ユウキたちは、脇を通る。


カイルが、気づいた。


一瞬だけ、視線が交わる。


昨日のような睨みはない。

怒りもない。


ただ――

取り返せないと理解した顔だった。


「……あんた」

カイルが、低く言う。

「これで、満足か」


ユウキは、足を止めない。


「満足?」

歩きながら、首を傾げる。

「何に」


「俺たちは」

カイルが、言葉を選ぶ。

「正しい判断をしたつもりだった」


ユウキは、振り向かない。


「正しかったと思うなら」

淡々と言う。

「続ければいい」


それ以上、何も言わなかった。


言えなかった。


紅迅は、

“続ける場所”を失っている。


レオルが、小さく息を吐く。

「……何も言わなくても、刺さりますね」


「言わない方が、残る」

ミーナが答える。


ガルドが、最後にちらりと振り返った。

「速いだけの奴はな」

「遅い仕事に耐えられねぇ」


街道は、今日も動いている。


急がない速度で。

止まれる前提で。


そして――

信用は、静かに再配分されていた。


街道脇の臨時詰所は、静かだった。


怒号もない。

急かす声もない。

あるのは、紙をめくる音と、杭を打つ鈍い音だけ。


――遅い仕事だ。


「……こんな作業、俺たちの仕事じゃねぇ」

紅迅の一人が、吐き捨てるように言った。


「黙ってやれ」

カイルが短く言う。

「信用を戻すには、結果を出すしかない」


「結果って……」

別の一人が周囲を見る。

「これ、終わっても誰も見てねぇぞ」


それが、答えだった。


評価に繋がらない。

速さも関係ない。

完了しても、名前は残らない。


カイルは、歯を噛みしめる。


「……だからだ」

低い声で言った。

「“別の結果”を作る」


仲間たちが、顔を上げた。


「別の?」

「何やる気だよ」


カイルは、遠くの街道を見た。


荷車の列。

遠回りのルート。

ゆっくりだが、確実に進んでいる。


――ユウキたちの隊列。


「……あいつらが運んでる荷」

カイルが言った。

「あれ、遅すぎる」


仲間の一人が、すぐ理解した。

「横取りか?」


「違う」

カイルは首を振る。

「“手伝う”」


その言葉に、嫌な沈黙が落ちた。


「信用が落ちてる今」

カイルは続ける。

「単独行動は逆効果だ」

「だから――“協力”を見せる」


「でも」

誰かが言う。

「俺たち、街道依頼から外されて……」


「完全にじゃない」

カイルは即答した。

「“後処理補助”だ」

「つまり、現場に入る権利はある」


そこが、地雷だった。



ユウキたちは、気づいていなかった。


気づく必要が、なかった。


「……風、変わりましたね」

レオルが言う。


「近くで人が動いてる」

ミーナが答える。

「でも、急いでない」


ガルドが、後ろを振り返る。

「赤いのが来てるな」


紅迅だった。


武器は軽装。

荷は持っていない。

作業員風の腕章。


「……来たな」

ガルドが笑う。

「嫌な予感しかしねぇ」


カイルが、距離を保ったまま声をかける。


「おい」

「少し手を貸す」


ユウキは、足を止めなかった。


代わりに、ミーナが振り向く。

「何の名目で?」


「後処理補助だ」

カイルは胸を張る。

「街道管理局の指示」


ミーナは、通信具を一度だけ確認した。

「……該当指示はありません」


「現場判断だ」

カイルは、即座に返す。

「判断は、もう不要だろ?」


その言葉で、空気が冷えた。


ユウキは、ようやく立ち止まる。


「判断不要なのは」

淡々と言う。

「“勝手に動く理由”だ」


カイルの目が細くなる。

「俺たちは――」


「聞いてない」

ユウキは遮った。

「必要なら、呼ぶ」


それだけ言って、再び歩き出した。


拒否だった。


明確で、事務的な。


「……チッ」

誰かが舌打ちした。


だが、カイルは引かなかった。


「じゃあ」

少し声を張る。

「後方で作業する」

「邪魔はしない」


それもまた、

勝手な判断だった。



問題は、その直後に起きた。


後方の荷車。

補修済みだが、地盤が柔らかい区画。


紅迅の一人が、善意で杭を打ち替えた。


――良かれと思って。


「おい、そこ――」

作業員の声。


遅かった。


杭の位置が、微妙にズレる。

荷重が、別方向に逃げる。


「……あ」

レオルが、息を呑んだ。


荷車が、傾く。


完全には倒れない。

だが、固定が外れる。


箱が滑り、落ちる。


中身は、管理用魔導部品。


壊れない。

だが――

位置がズレただけで意味を失う部品だった。


「誰が触った」

作業員が、低い声で言った。


沈黙。


カイルが、口を開こうとした瞬間。


ミーナが、一歩前に出る。


「記録、残ってます」

静かな声。

「後処理補助班――紅迅の方が、接触しています」


逃げ場はなかった。


「……善意だ」

カイルが言った。

「補助だろ?」


「補助は」

作業員が答える。

「指示された作業だけです」

「勝手な修正は、改変扱いになります」


その一言で、決まった。


通信具が鳴る。


短い、事務的な声。


「紅迅」

「後処理補助からも外れます」

「追加で、現場介入禁止」


完全排除だった。


速さも。

信用も。

関与する権利すら。


カイルは、何も言えなくなった。


ユウキは、一度も振り向いていない。


見ていないから、止めない。

止めないから、助けない。


それだけだった。


レオルが、小さく呟く。

「……取り返そうとして、全部失いましたね」


「よくある」

ユウキは淡々と言った。

「焦ると、判断が雑になる」


ガルドが笑う。

「最高のオチだな」


街道は、何事もなかったように進む。


紅迅だけが、

そこから降ろされた。


――速さを誇る者ほど、

“触らない”という判断ができない。


それを、誰も教えなかっただけだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ