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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第16章

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止められない現場

簡易柵を回り込んだ先で、音が変わった。


金属が擦れる音。

短く、乾いた破裂音。

それに混じる、人の怒号。


「……戦闘?」

レオルが身構える。


「違う」

ユウキは即答した。

「作業だ」


広場の一角。

巨大な歯車構造がむき出しになっている。


本来は地下にあるはずの動力輪。

だが、舗装が沈み、半分以上が露出していた。


「うわ……」

ガルドが思わず声を漏らす。

「これ、止まったら町が死ぬやつだろ」


ミーナが即座に頷く。

「給水・昇降・搬送、すべてここに連結しています」

「停止=全面麻痺です」


作業員たちが、必死に固定杭を打っている。

だが、杭が弾かれている。


「間に合わねぇ!」

「歯が欠けてる、次で噛み合わねぇぞ!」


指揮を執っている男が、叫ぶ。


「回収班は!?」

「来てるなら、今すぐ――」


そこへ、紅迅の一団が駆け込んできた。


カイルが状況を一瞥し、即座に指示を飛ばす。


「歯車破損部、回収対象!」

「予備輪がある、外せ!」


「外す!?」

作業員が叫ぶ。

「今抜いたら――」


「今抜かなきゃ、全壊だ!」

カイルが遮る。


判断は早い。

早すぎるほどだ。


ユウキは、歯車の噛み合いを見る。


欠け。

歪み。

そして、無理に回っている負荷。


「……抜くと、止まる」

ユウキが言った。


ミーナが即座に理解する。

「停止衝撃で、別系統が壊れます」


ガルドが歯を鳴らす。

「でも放っといたら――」


「壊れる」

ユウキは頷く。

「どっちに転んでも、だ」


カイルが振り向いた。

「今度は何だ?」

「止めるなら、代案を出せ」


ユウキは、少しだけ目を細めた。


「止めない」

そう言った。


周囲が一瞬、静まる。


「……は?」

作業員が聞き返す。


「拾う」

ユウキは続けた。

「でも、外さない」


「そんな都合のいい――」

カイルが言いかける。


ユウキは、腕の金属板に触れた。


静かに、だが確実に反応する。


――《零価再定義》。


価値を失ったものを、

“使われる前提”に戻す回収権限。


「歯を、拾う」

ユウキは言った。

「壊れたまま、だ」


ミーナが息を呑む。

「……回収しながら、稼働維持?」


「一時的にな」

ユウキは頷く。

「持たせるだけだ」


カイルは、歯を食いしばった。

「……責任は?」


「俺が持つ」

ユウキは即答した。


その一言で、空気が変わった。


判断が、前に出た。


「……やれ!」

カイルが叫ぶ。

「補助、全部回せ!」


作業員たちが動く。

紅迅も、即座に対応に回る。


ユウキは、歯車に手を伸ばした。


拾う。

だが、奪わない。


止めない。

だが、放置しない。


「……重いな」

ユウキが呟く。


ガルドが笑う。

「今さらか?」


歯車が、軋みながら回り続ける。


町は、止まらない。


だがその裏で、

**“誰が判断を持つか”**が、

はっきりと刻まれ始めていた。


——拾わないと壊れる現場で、

掃除屋は、初めて“前に出た”。


歯車は、回っていた。


だがそれは、正常な回転ではない。


「……嫌な音だな」

ガルドが低く言う。


「限界運転です」

ミーナは即答した。

「設計想定を超えています」


ユウキは、歯車に触れたまま動かなかった。


《零価再定義》は発動している。

だが、万能ではない。


「三分」

ユウキが言った。

「もっても」


「三分!?」

作業員が声を上げる。

「それだけじゃ――」


「十分だ」

ユウキは遮った。

「逃がす判断をするにはな」


紅迅のリーダーが、即座に状況を把握した。


「撤退線を引け!」

「重機は後退、軽装だけ残れ!」


判断は早い。

そして今回は――正しい。


だが、その速さに町が慣れすぎていることも、

ユウキには見えていた。


歯車の裏側。

微細な金属片が、空中で弾ける。


「欠けが広がってる!」

誰かが叫ぶ。


「想定内だ」

ユウキは言う。

「“拾った”分だけ、持つ」


腕の金属板が、熱を帯びる。


《零価再定義》は、

「価値がない」と判断された部分だけを引き受ける。


つまり――

壊れる運命そのものだ。


「……ユウキ」

ミーナが、珍しく名を呼んだ。

「負荷が、あなたに集中しています」


「分かってる」


息を吐く。

視界が、わずかに白む。


だが、止めない。


「歯を抜くな!」

紅迅のリーダーが怒鳴る。

「今は触るな!」


その判断で、

現場が一つにまとまった。


作業員たちは、逃げる準備を始める。

だが、誰も混乱していない。


「……町が動いてる」

レオルが、思わず言った。


「動いてるうちは、壊れない」

ユウキは答える。

「止めた瞬間に、全部来る」


ガルドが、ユウキの横に立つ。

「お前、いつまで持つ?」


「分からん」

ユウキは正直に言った。

「だから――」


歯車が、悲鳴のような音を立てた。


次の瞬間。


意図的に、力を抜いた。


《零価再定義》が解除される。


歯車は止まる。

だが、崩れない。


固定杭が、きしみながらも耐えた。


「……止まった?」

誰かが呟く。


「止めた」

ユウキは言った。

「壊れる前に」


静寂。


次に聞こえたのは、

遠くの給水管が閉じる音。

昇降機が停止する音。


町の一部が、

計画通りに止まっていく。


「……被害、限定的」

ミーナが確認する。

「予測範囲内です」


紅迅のリーダーが、深く息を吐いた。

「……助かった、とは言えねぇな」


「言わなくていい」

ユウキは言った。

「助けてない」


「だが」

リーダーは続ける。

「最悪は避けた」


それで十分だった。


作業員たちは、次の作業に移り始める。

代替動力への切り替え。

仮設路線の設置。


誰かが決め、

誰かが動く。


ユウキは、一歩下がった。


腕の金属板は、冷えている。


「……疲れました?」

レオルが聞く。


「少しな」

ユウキは答えた。

「でも――」


町を見る。


止まった場所と、

動き続けている場所。


その境目が、

はっきりしている。


「使ったな」

ガルドが言う。


「使わされた」

ユウキは訂正した。

「ここは、“使わない”が通らない場所だった」


ミーナが、静かに頷く。

「境目、ですね」


「そう」

ユウキは言った。

「ここから先は――」


装備に視線を落とす。


「“使う責任”が付いて回る」


遠くで、

紅迅の一団が撤収準備をしている。


その背中は、

どこか重く見えた。


——判断が速い町で、

一度使われた力は、

次も使われる前提になる。


その兆しだけが、

静かに残っていた。

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