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今世はのんびり釣りをしたい ~元技術者で今は冒険者の、微妙にままならない日々~  作者: 於田縫紀
第1章 最初の釣りに至るまで

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第9話 朝の製造時間

 翌朝は日の出とともに目が覚めた。これは実家にいた頃からの習慣だから仕方ない。

 鐘が鳴るのが聞こえる。半鐘、という事はおそらく5時半。食事の時間まであと1時間半ある。


 とりうる選択肢は二つある。ぎりぎりまで惰眠を貪るか、それとも起きるか。

 冒険者修行中としては、起きて訓練をした方がいいのだろう。剣を振ったりとか走りこんだりとか。


 そうしようか。そう思ったのだが、すぐに他にやりたい事を思いついた。

 釣り針を作ろう。そうすれば糸と針という最低限の道具が揃う。そうすればこの街へ帰った日の夜にソウギョと戦う事が可能だ。


 魔法で釣り針を作る工程はおおむねこんな感じだ。

 ① 昨日キープした流木を少量の空気とともに高熱にして木炭を作る。

 ② 土から酸化鉄を分離する。この時に、他に粘土質の土を少量確保しておく。

 ③ ①の木炭と②の酸化鉄、②の粘土を混ぜ合わせ、魔法で高熱にする。

 ④ ③で出来た粗鋼の品質のいい部分を高熱で叩き、純度の高い鋼を作る。場合によってはごく少量の木炭粉を混ぜて固くする。

 ⑤ 出来た鋼を熱で加工して釣り針を作る。


 ②で土を掘る以外は、すべて俺の魔法収納(アイテムボックス)内で可能だ。必要な部品を魔法収納内で即座に作れるくらいでなければ、現場の神殿技術者なんて出来ない。


 何せ前世では、

 〇 『何にもしないのに壊れた』と連絡が来て

 〇 どう壊れているか質問しても『動かなくて困る、すぐ直せ』という返答しかなく

 〇 実際に行ってみると、どう壊したのだかわからない位にぶっ壊れていて

 〇 部品を取り寄せる間もなく『すぐ直せ、使えるようにしろ!』

 なんてのが普通だったから。


 そうと決まれば話は早い。

 起きて外にも出られる服装に着替えをはじめる。


「早いな。訓練か?」


 横のベッドのジョン。こいつも目が覚めていたようだ。


「いや、ちょっとやりたいことがあってさ」


「後にすればいいのにと思うんだが、まあいいか。なら俺も起きるとしよう。少し剣に慣れておいた方がよさそうだしな」


 ジョンが身を起こした。なかなか真面目だなと思う。

 さて、俺は顔拭き用の布を持って部屋を出る。

 寮を出て井戸の水で顔を洗って拭いて、昨日試験をした広場へ。


 まだ誰もいない。ならちょうどいい。

 広場の地表、乾いている部分を出来るだけ広く認識する。


 必要なのは酸化鉄と粘土、そう強く認識して収納魔法を起動。

 ごそっ、かなりの量が魔法収納(アイテムボックス)内に収納された。酸化鉄が100kg位、粘土が500kg位。

 粘土がちょい多すぎた。なので100kgだけ残して、あとはグラウンドへと戻してやる。


 次は木炭製造だ。昨日のゴミ拾いで拾った大きな流木に少しだけ空気を加えて高熱で熱する。

 勿論これは魔法収納(アイテムボックス)内での作業だ。これなら余分なものが混ざったりしなくて済む。


 発生した空気は放出しないでそのまま魔法収納(アイテムボックス)内へ。

 この不完全燃焼した空気を銑鉄を作る作業に使うと効率がいい。前世の知識だ。

 なお発生した木酢液もそのまま魔法収納(アイテムボックス)。木酢液、消毒だの殺虫だのでなかなか便利だから。


 魔法で木炭作業をやっていると、徐々に広場に人が増えてきた。

 大部分は練習用の木剣を振っている。うむ、なかなか真面目だ。


 でも待てよと思い直す。

 村から此処へ来る途中、クレイグさんとジルさんがこんなことも言っていたなと思い出したのだ。


『冒険者ギルドは自由時間にも講習生の様子を見ている。問題になるような事は絶対するな。割と簡単に追い出されるぞ』


『そうそう。あと講習中は内心はどうであれ、くそ真面目にしておいた方がいい。余った時間があったら素振りをするとか勉強の復習をするとかさ。そういう態度まできっちり見られていると思った方がいい。冒険者としての依頼受理がかちあった時の選定とか、何かいい依頼があった時の推挙とかで間違いなく効いてくるから』


 つまり練習だけでなく、自己アピールなんて側面もあるのだろう。俺はもうそんな事をする必要はないけれど。

 でも何か聞かれたら、魔法の訓練をしていると答えればいい。実際に魔法を駆使しているのはたしかだから。

 理由は訓練ではなく釣り針作りなのだけれど。


 あとこの調子なら、そこそこいい鉄が50kg位出来そうだ。

 針の他にリールや重り、天秤といった釣り道具を作ってもだいぶ余るだろう。

 なら冒険者的な装備もある程度作った方がいいかもしれない。

 あとで貸与された装備を見て考えよう。


 なんて事を考えながら魔法収納(アイテムボックス)内精錬をやって、無事鉄の塊が出来上がる。

 勿論出来上がった塊全部が使える訳ではない。半分位は不純物が多いので、このままでは使えない状態だ。

 それでも炭素鋼、いわゆる鋼鉄という奴が合計50kgちょっと出来上がった。


 それでは釣り針を作るとしよう。まずはソウギョを釣るための針だ。

 相手は1mを超す事も多い巨大魚。だからそれ相応に大きく強い針にする必要がある。


 そうなると形は伊勢尼、それも14号から15号くらい。

 具体的には針を結んでぶら下げた時に、幅が15mm位、高さが25mm位。


 伊勢尼という釣り針は、針先と軸の間の部分が大きめで、飲み込ませるより口元に引っかける形をしている。また軸が太めで強度がある。

 ソウギョ釣りにはちょうどいいだろう。


 あとは同じ形の小さい針も作っておこう。

 具体的には6号程度、同じ測り方なら幅8mm高さ13mm位。タイ、クロダイ、ヒラメあたりの五目釣りにいいサイズだ。


 さて、鉄があるので釣り針は簡単に出来た。しかし時間はまだ余っている。

 なら釣り竿も作ろう。ちょうど材料がある。


 むろん材料は鉄ではない。糸を通すガイド部分は鉄でいいけれど、本体が鉄だと重すぎる。

 ここは木炭由来魔法加工物質(カーボン)を使うとしよう。


 木炭というと柔らかくて折れやすいイメージがあると思う。実際木炭のまま使うとその通りだ。

 しかし木炭を材料に魔法加工すれば、とんでもなく強靱な素材や、しなやかで神力をよく通す素材を作れるのだ。

 魔法で成分分解した後、同じく魔法で不純物を排除して並び方を変えて再構成すれば。


 神殿技術者たる者、当然それくらいは出来る。というか出来ないと、自動祈祷装置やその他特殊な神力を生み出す装置を修理する事すら出来ない。

 高性能な自動祈祷装置は、銅線や銀線ではなく、特殊な木炭由来魔法加工物質(カーボン)を使わないと作れないのだ。


 具体的にはこういった装置には、少量の特殊金属等を混ぜて組み合わせて作られる特殊木炭魔法加工物質(カーボン)細密(ナノ)(チューブ)を使用する。

 この細密(ナノ)(チューブ)を百本以上撚ったものを神力導線として使用。

 更に装置全体を魔法で冷却して、神力を超伝導状態で伝わるようにする必要があるから。

 というのはともかくとして、まずは木炭を粉々にして、成分をわけて、そして高温で組み替える作業から。


 木炭由来魔法加工物質(カーボン)は、材質を組み替え時点で最終形態まで成形する必要がある。

 つまり今の段階で形状を決める必要があるわけだ。

 今回作る竿は第一本目。ならば万能性を求めた方がいいだろう。

 ソウギョ釣りにはいささか不似合いでも、よくある釣りなら何でもこなせるように。


 ならば長さ8.6フィートのエギングロッドがいいだろう。これなら基本的にはどんな釣りでも使いやすいから。

 エギングロッドは本来、疑似餌を使用してイカを釣る為の竿。イカの強い引きにも耐えられるよう硬く、かつ疑似餌を操作しやすいように作られている。

 結果、本来のイカ釣り以外の場合でも概ね使いやすい。


 長さ8.6フィートとは概ね258cmくらい。竿としての特性はやや先調子で若干固め。

 頭の中で成形イメージを強く認識して、魔法収納(アイテムボックス)内に投影する。

 高温で不純物を逃しつつ、きっちり結合させれば完成。


 温度を下げた後、魔法収納(アイテムボックス)から外に出して振ってみる。

 うむ、ほぼ理想通りだ。あとはリールさえ作れば完璧。


 ただしリールはそれなりに精密な機械だ。一気に成形なんて技は使えない。一度設計を紙に落とさないと無理だろう。

 必要なリールを脳内で考えてみる。

 前世で言うと大きさは3000番クラスだろうか。これもある程度万能に使える事を考えて。


 物としては軽い方が扱いやすい。ただ全部品を木炭由来魔法加工物質(カーボン)で作るのは大変すぎる。

 最初は試験も兼ねて全金属製がいいだろう。素材として作りやすいし、それなりに頑丈に出来るから。


 物としては前世の機種で言うとシマノオのステッラか、ダイワアのイグゼーストあたりがイメージだろうか。

 本来こういった高級リールは軽金属製か木炭由来魔法加工物質(カーボン)製だ。

 しかし軽金属を自作するのは難しい。不可能ではないが、魔力をとんでもなく消耗する。

 そして木炭由来魔法加工物質(カーボン)は作った後の修正がほぼ不可能だ。ゆえに修正を重ねるであろう試作品を作るのには向かない。


 だからとりあえず鉄で作るつもりだ。

 結果的に前世のあの辺よりずっと重い代物になってしまうだろうけれど、それはまあ我慢するとして。

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