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今世はのんびり釣りをしたい ~元技術者で今は冒険者の、微妙にままならない日々~  作者: 於田縫紀
第4章 廃坑調査

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第63話 目的

「やはり貴方でしたか、モリオン」


 どうやらこのダークエルフ、クリスタさんの知り合いのようだ。

 あまりいい知り合いという雰囲気ではないけれど。


 クリスタさんが隠蔽をすべて解いて、臨戦態勢になっている。

 先程まで感じなかった凶悪な魔力は、そういう意味だろう。

 神様にチート付与されている俺より、数倍凶悪だ。


 一方、モリオンと呼ばれた男の方は自然体に感じる。

 魔力も一見、普通人と変わらない程度の大きさだ。

 ただしその魔力と存在感に、微妙な違和感を覚える。

 なぜそう感じるのか、まだ今の俺にはわからない。


「此処の仕掛けは割と自信があったのだが。まさかあんな方法で魚竜(フィッシュドラゴン)を倒されるとは思わなかった。それに魔獣化したヴァンデリアも急速に数を減らしている。こうも続けて仕掛けを破られるのは久しぶりだ」


 どうやら魔魚カンディルーも、このモリオンという男の仕業のようだ。

 何者で、何を企図しているのだろう、こいつは。


「世界と人のコントロールだ。人が増えすぎ、産業が活発になることは、国家や地域間の争いを招く。かつて古代文明が陥った愚を繰り返さぬ為にも、人はこれ以上広がり、進むべきではない」


 読まれたか。

 一瞬警戒するが、言語化した表層思考を拾うのは、そこまで難しい事ではない。

 クリスタさんが臨戦態勢になる程の相手なら、それくらいは出来て当然だろう。


「既に今の人とその世界は歪んでいる。いずれ技術を捨て、法を捨て、自然の一員へと還るべきだろう。その為に、我は問い続ける」


 今すぐにこちらへ攻撃してくる事はなさそうだ。そう俺は判断する。

 そのつもりなら、とっくにやっているだろうから。


 だから確認するべきなのは、一連の言葉の真偽と、この言葉にない真意、そしてこの場に現れた意味。

 そう思った時、予想外の所から言葉が響いた。


「5年ぶりにまた出たのニャ。でも今回()実体ではないのニャ」


 ミーニャさんだ。


 ミーニャさんは一見、普通に立っているだけに見える。

 ただ、熟練の戦士は自然体こそが、すべての動きに繋がる最高の構えだと聞いた事がある。

 そうだとすればミーニャさんも、紛れもない臨戦態勢だ。


「ほう、わかるか。そういえばそちらの戦士は見覚えがある。出会ったのはこれで……3度目か」


「そうニャ。カリギアやノボスクでも同じ話を聞いたニャ」


「あれもまた、我としては予想外だった。ならば問おう。ここで考え直す気はないか」


「ミーニャは難しい事はわからないニャ。ただ、人がよりよい明日を求めるのは当然だと思うのニャ」


 なるほど、ミーニャさんの言った事は正しい。


「なるほど、理解した上でそれでも進むと答えるか。それもまた答えであることは認めよう。その進歩への盲信が、かつての破滅に繋がったとしても」


「貴方はまだ、世界を留め、そして引き戻すつもりなのですか」


 これはクリスタさんだ。

 モリオンは頷く。


「然り。この世界と人を長く続かせる為には、作為を捨て、自然のままに生きる事こそ肝要。かつての古代文明は、進み過ぎ、広がり過ぎた結果、滅ぶべくして滅んだ。その愚を繰り返さぬ為にも、エルフの叡智の書にもある通り、人は素を見にし樸を抱き、私を少なくし欲を寡からしむべきであろう。クリスタよ、主こそが起源種(オリジン)たる存在の一偶として、知るところではないのか」


 起源種(オリジン)たる存在!?

 俺はエルフにとって、起源種(オリジン)という言葉が何を示すか、前世の知識で知っている。

 あくまで書物上の知識で、実際の起源種(オリジン)に出会った事はないけれど。


 クリスタさんが口を開いた。


「別の道を往く起源種(オリジン)たるモリオンに問います。かつて滅びた古代の遺産たる知識と力をもって、この世界に手を加える貴方こそが、貴方の標榜する無為自然に反している。違いますでしょうか」


「何度目かはわからぬが、その質問には答えよう。この世界は既に歪んでいる。正すには、歪みを起こした力を使う事もやむを得ない。故に私はこの世界に力を行使する。世界の、もう一度の破滅を防ぎ、あるべき世界に導く為に」


「なら私は、今度も指摘致しましょう。そうやって世界を留め、引き戻そうとする行為こそが、無為自然たる教えに反すると。進む事が人にとっての自然なら、進む事で道を見つけることこそが自然なのでしょうと」


 緊張感をはらんではいる。

 しかし様式美的な雰囲気を、感じないでもない。

 おそらくこれは、今までに何度も繰り返された問答なのだろう。

 俺にはそう感じられる。


「なるほど。今回もまた答えは同じか。ならば我は、この場における負けを認めよう。しかし我は、この世界を諦めない。故に、また会うことはあるだろう。その折には、また別の答えを導かん事を望む」


 モリオンの姿と魔力が薄れた。そう思った次の瞬間、姿形ともに消え失せていた。

 これは移動魔法の類いではない。魔法の気配が違う。


「投影魔法ですか、今のは」


 クリスタさんは頷いた。


「その通りです。モリオンにとっては、単なる挨拶くらいのつもりでしょう。気にしなくても問題はありません」


「しかし今ので、敵として認定されたのではないですか?」


 これはジョンだ。

 クリスタさんは首を横に振る。


「モリオンにとって、すべての人間は保護対象です。ですから、個々の人間を攻撃対象にするという事はありません」


「しかし、ここに魔物が出るように仕掛けたのは、そしてダグアルで魔魚が繁殖したのも、あのモリオンの仕業なんですよね。今のやりとりからすると」


「その通りです。ただ、それらは()にとって、正しい行いだという信念に基づいた行動なのです」


 クリスタさんは、そこで溜め息をひとつついて、そして。


「取り敢えず、ドーソンに戻りましょう。依頼完了報告作業が待っています」

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