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今世はのんびり釣りをしたい ~元技術者で今は冒険者の、微妙にままならない日々~  作者: 於田縫紀
第4章 廃坑調査

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第56話 間違った常識

「そこからが本番なのかニャ、クリスタ」


 俺は戻るべきだと思う。

 しかしミーニャさんにとっては、そうではないようだ。

 そして今の時点までのこの廃坑探索、考えてみれば順調過ぎた。

 ミーニャさんが散々警告したような事態と比べて。


「ええ、そのようです。ただ、先はそう長くはないでしょう。その見えない部分の、そう遠くない場所に、この事態を引き起こした元になる何かがある。つまり、あと一息で、ここの問題は解決するか、少なくとも原因の手がかりがつかめるだろう。そう私は予想しています」


 何となく前世に、こういうパターンがあった気がする。

 甘い見通しで突っ込んだあげく、死屍累々という状況が。

 もちろん前世の場合は、実際に死者が出た訳ではない。

 廃人と退職者は出たけれど。


「まだ先が見えないので、撤退すべきという判断はしません。もう少し先、第12採掘坑分岐まで行ってみましょう。スケルトン数匹程度なら問題ありませんね」


「大丈夫ニャ。あとジョン、弓でスケルトンを狙う場合は、背骨の下にある広がっている骨を狙うのニャ。そこを砕けばスケルトンは立てなくなるニャ。背骨を砕いても動けなくなるけど、細くて狙いにくいニャ。頭蓋骨を割っても動きは止まるニャが、弓では多分無理ニャ。それ以外の部分は、大体折れても割っても、スケルトンは気にせず動くのニャ」


 そう言えば、そんな事が教本に書いてあった気がする。

 だからスケルトンが出た時は、基本的に光か聖属性魔法で倒せとも。

 念のため、ミーニャさんに聞いてみる。


「ここまでと同じように、雷魔法で倒していきましょうか」


「エイダンの魔法は温存しておいた方がいい気がするニャ。それにスケルトンなら、十数体程度出ても問題ないのニャ」


 ミーニャさんにとっては、問題ないようだ。


「ここからは隊列を変えましょう。先頭はミーニャさんのままで、二番目はジョンさんでお願いします。次がエイダンさんで、私が最後に行きます。この隊列で、第12採掘坑分岐まで進みましょう」


 とりあえず、第12採掘坑との分岐までなら大丈夫なはずだ。

 そこまでなら、俺の魔力探知と透視魔法で見えている。

 万が一、奥の見えない部分から何か出てきても、クリスタさんの魔法で脱出はできるだろう。

 だから多分、問題ない。


「わかったニャ。念のため、スケルトン以外が見えた時はエイダン、教えて欲しいのニャ。そしてジョンは、必要とあらば弓を射って欲しいのニャ。こっちに判断を求める必要はないのニャ」


「わかりました」


「では行くニャ」


 ミーニャさんは、先程よりゆっくりと歩き始める。

 ジョンも弓を左手に持ち、いつでも射る事が可能な状態だ。


 俺は先が見えない地点を、魔力探知と遠視魔法で監視しながら歩いている。

 何かが出てきたら、すぐわかるように。


 更に並列思考を使って、前方の見える範囲に対して魔力探知をかけている。

 何か不明な魔物その他が出ても、すぐわかるように。

 このくらいなら、魔力の消費と回復がほぼ同程度。

 だから問題はない。


 一歩ずつ歩いて行く。

 そして、前方からカツカツという足音が聞こえ始めた。

 こちらの照明魔法に気づいて、スケルトンが近づいてきている足音だ。

 まだ視界には入らないが、魔力反応でわかる。


「ここで止まるニャ。私は10mを切ってから動くニャ。それまではジョンに任せたニャ」


「わかりました」


 ジョンが一歩左に出た。

 右手は、既に背負った矢筒から矢を抜いている。


 50m程度の距離で、スケルトンが視界に入った。

 骨だけの身体に片手剣を装備した、教本に載っているのと同じ標準タイプのスケルトンだ。

 それが2体、人間なら早歩き程度の速さで接近してくる。


 これだと、ミーニャさんと戦闘になるまで、あと10秒もないな。

 そう思った瞬間だった。


 ジョンの腕が動いた。

 1秒もかからずに2射し、さらに矢を1本つがえた姿勢で、そのまま手を止める。


 まず、右のスケルトンが崩れ落ちるように倒れた。

 一歩先で、左のスケルトンも同様に崩れる。


「とどめを刺してくるニャ」


 ミーニャさんがダッシュした。

 高速移動魔法を使ったかのような加速で、崩れたスケルトンに接近し、低く飛びながら蹴りを放つ。


 バリッ、バリバリッ。

 そんな音が響いた後、

 ミーニャさんは、こっちを振り向いた。


「終わりニャ。魔石の回収は頼むニャ」


「わかりました」


 クリスタさんが魔法を起動した。

 多分、転送魔法だろう。


 それにしてもだ。


「あの速さで動いている敵の、あんな狭い部位を狙えるんだな」


「飛んでいる鳥を狙うよりは楽だ」


 いや、ちょっと待って欲しい。


「飛んでいる鳥って、弓で狙って落とせるものなのか?」


「ヒヨドリ程度なら難しくない。それに、鴨が集団で飛んでいたりする場合は、速射が出来ないと獲物を取り逃がしてしまう」


 そう言えば昨日、ミーニャさんが言っていたな、と思い出す。


『普通の弓使いは、飛んでいるバットを速射で討伐、なんて事は出来ないのニャ』


 やっぱり、何かおかしい気がする。

 冒険者で弓使いならそれくらい当然、という事ではなさそうだ。


 この場合、誰に聞けば一番正しい答えが返ってくるのだろうか。

 ミーニャさんのさっきのダッシュも、常識とは少し違った気がするし。

 ここは、クリスタさんに聞いてみるのが正しいだろう。


「冒険者の弓使いって、こんな事が普通に出来るものなんですか?」


 クリスタさんは首を横に振る。


「ジョンさんの弓の腕は、現時点で既に、現役冒険者の中でもかなり上位の方です。そもそも普通の弓使いは鳥を狙う場合、どこかに止まっている状態を狙います。飛んでいる状態を速射で仕留めるというのは、少なくとも私の知識では一般的ではありません」


 どうやら、俺の常識は間違っていなかったようだ。

 そう思ったところで、ジョンの呟きが聞こえた。


「そうだったのか……。俺は、鳥は飛んでいるところを狙うものだと信じていたんだが……」


「ヘンリーが英才教育を施したのでしょう。速射と狙撃が高いレベルで両立できれば、討伐任務の際に圧倒的に有利になりますから」


 村には他に狩人はいないし、冒険者も滅多に来ない。

 田舎とは言え平野部の中心で、魔獣や大型獣が出るような環境ではないから。


 だから『その狩りは普通じゃない』と指摘するような同業者もいない訳だ。

 結果、ジョンは普通ではないやり方を常識と受け止め、実際には英才教育状態で弓をマスターしたのだろう。


 でもそれなら、槍の腕も……。


「ジョン、参考までに聞くけれどさ。槍の腕も同じくらいじゃないよな」


「いや、槍は普通だと思う。少なくとも、ミーニャさんのように、槍が届かないところにいる敵まで落とすなんて事は出来ない」


 いや、届かないところにいる敵を落とす事自体、そもそもおかしい。

 困った時は、という事で、クリスタさんを見る。


「あの技が使えるのは、B級以上の冒険者でも、ごく限られた者だけです。そもそも近接戦闘について、ミーニャを基準にしてはいけません」


「大したことはないのニャ。そこそこ程度の奥義が使えるだけなのニャ」


「槍でも剣でも無手格闘でも奥義が使える、なんてのはミーニャくらいです。ですから参考にしないで下さい。なお、ジョンさんの槍の腕については、後でミーニャ相手に訓練してもらうつもりです。そうすれば、どれくらいのレベルか、今後どう鍛えればいいかがわかるでしょう」


 ミーニャさん、やっぱり相当な実力者のようだ。

 そしてクリスタさん、そこまで考慮済みという事か。

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