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今生はのんびり釣りをしたい ~元技術者で今は冒険者の、微妙にままならない日々~  作者: 於田縫紀
第1章 最初の釣りに至るまで

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第4話 場所と時間と釣った後の地元情報

 砂浜となる河口部までをゆっくり往復し、落ちている海藻、流木、その他ゴミを一通り収納した。

 心なしか付近に漂う海の生臭さが薄れた気がする。


 これでこの後数日は、そこそここの川岸や海辺も綺麗な状態だろう。

 釣りに良さそうな場所も何か所か見つけた。


 しかし最初はやはり、アシが囓られていた辺りのソウギョだろう。デビュー戦でいきなりメジャーではない大物というのは悪くない。

 なんて感じで川岸をチェックしながら歩いていたら、午後4時の鐘が鳴った。歩いて5分位で漁業事務所へ。


「よし、それじゃ確認しよう」


 事務所に来た時と同じおっさんと裏庭へ回る。堤防と建物の間の空き地という感じで、そこそこ広い。


「ここに出してくれ」


 さて、ここで先に言っておこう。


「背負った籠だけでなく魔法収納(アイテムボックス)にも入れてきたのですけれど、全部出していいでしょうか」


魔法収納(アイテムボックス)が使えるのか。勿論構わない。ガンガン出してくれ」


 よし、なら遠慮せず。

 まずは籠を逆さにして中身を出した後、出す前に魔法収納(アイテムボックス)内のゴミを確認する。

 大きめの流木3本だけは今後の材料用として残しておこう。それ以外は特に必要無さそうだし、全部出してしまえ。


 どん、と山盛りのゴミが出現した。

 物としては海藻や水草の類が圧倒的に多い。量は寮の俺達の部屋一室に目一杯詰めた程度。

 生臭い系の海の臭いが強く漂いはじめた。これだけ臭いの元が集まっているのだから仕方ない。


「ガハハハハ、こりゃすげえな。前代未聞な量だ、こりゃ」


 少し不安になったので聞いてみる。


「多過ぎましたか」


「多過ぎるってことはねえ。そんだけ川が綺麗になるんだからよ。ただこれだとちょい申し訳ねえな。依頼報酬が安すぎて。とりあえず事務所へ行こうか。依頼達成書を書かなきゃならねえからさ」


 2人で事務所へ。


「名乗ってなかったな。俺はここの事務長のバラモだ。事務長といっても普段はここに俺1人しかいないけれどよ。組合員はだいたい明るい間は海か川に出ているしな。俺は道具と船を息子に譲って漁師は引退した。だからまあ、毎日ここに詰めている訳だ」


 なるほど。常勤の組合員は事務長であるこのバラモさんしかいないと。


「さて、申し訳ないというのは報酬の事だ。あのゴミの臭いは確かにこの川の臭いだった。だからあのゴミのほとんどは川岸から拾ってきたのに間違いねえ。ただ依頼として出した報酬金額を後で変えるのは難しい。追加報酬も最大で本来の報酬の2倍までって事になっている。だからこれだけやってくれたのにエイダンには二千円しか出ねえ。申し訳無い」


 頭を下げられるのは逆に申し訳ない。


「いえ、こっちもその条件はわかっていましたから」


「それでここからは相談だ。この川、大雨で増水した後や海が荒れた日の翌日なんかはゴミが増えて大変な事になっちまう。こっちも掃除担当を10人以上雇った上、組合員総出で掃除をするんだが、それでも結構ゴミが残っちまう」


 確かにそれは理解出来る。だから俺は頷く。


「それで今度からそういった時は、エイダンに指名依頼をしようと思うんだ。指名依頼だから何級で受けようと報酬は最低でC級準拠、かつ指名料が入る。具体的に言うと午前か午後の3時間で1万2千円だ。これでもこっちとしては安くつくし十数人雇うより効果は高い。条件が条件だからいつ依頼出来るかはわからねえ。でももしそういう時が来たら、指名依頼を出していいか」


 なるほど。こっちとしては勿論OKだ。今のE級だと半日みっちり働いたとしても千円止まりだから。

 それに俺の仕事が認められたというのは正直嬉しい。


「もちろんです。ただ初心者講習中ですし、すぐに依頼を受けられるかどうかはわかりませんけれど」


「数日程度待つくらいは構わねえ。どうせここまで出来る奴なんてそうそういないんだ。ならそういう事態の時は頼む。あとこれが今日の依頼達成証だ。安いが今日はこれで我慢してくれ」


 バラモさんは目の前で依頼達成証を書いて俺に渡す。

 受け取って、そしてふと気になる事を思いついたので質問してみた。


「あとこの川や近くの海で釣りをしてみたいと思ったんですが、この辺では自由にやっていいでしょうか」


「釣りくらいならかまわねえ。魔法で全部根こそぎとるとかなら話は別だがよ。エイダンは釣りをするのか」


 おっと、バラモさんは釣りの話も出来そうな感じだ。なら更に聞いてみよう。


「ええ。この500m下流にアシの葉を食べた跡がありました。まずはあれを狙ってみるつもりです」


「ああ、草食いか。あれは難しいらしいぞ」


 どうやらこの辺ではソウギョ、草食いと呼ばれているようだ。


「どう難しいんですか。捕まえた人がいるんですか」


「釣りで捕まえた奴はいねえ。この辺では釣りをする奴がほとんどいねえからな。漁師が仕掛けた網にはたまに入るんだが。もう少し上流、ミルケスの方だと草食いももう少し一般的なんだがな。あの辺じゃ草食いを養殖しているから。凄い音をたてて草を食らうからいたらすぐわかる。しかし用心深くて近寄るとすぐ逃げる。船でも歩きでもな。だから難しい魚って訳だ。狙うとすれば満潮の日の、夜7時から8時頃だな。まさにエイダンが言った辺りでバリバリ草を食べてるよ」


 なるほど。


「情報ありがとうございます」


「いや、こっちこそありがとうな。あと草食いを狙うなら……」


 バラモさんは立ち上がり、机上からファイルを持ってきてパラパラめくる。


「確かこの辺に……ああ、あった。これだ。草食いを美味しく食うレシピが載っている。さっき言ったミルケスの漁業組合で拡販用に出したものだ。もし釣れたら参考にしてくれ」


 文字や図が入ったパンフレットっぽい紙を渡してくれた。

 これはなかなかありがたい。

 この国で一般的に作られている魚料理や使用する調味料について、俺はほとんど知らなかったから。

 実家は家で作った野菜や穀類のスープやお粥ばかりだったし。


「ありがとうございます」


 他にも思いついた事があるので聞いてみる。


「裏に積み上げたゴミはどうしますか。何なら焼却しますけれど」


「ああ、あれはそのままにしておいてくれ。うちの組合員に水属性魔法が使える奴がいるから、明日辺りそいつに頼んで乾燥させる。乾燥させたら圧縮して荷馬車で農業組合へ運ぶんだ。そこで雨ざらしにして塩分を抜いた後、土と混ぜ合わせて発酵させて肥料にする。この辺は依頼無しで回るようになっているから大丈夫だ。まあ今回はちょっとばかり多いけれどな。問題ねえ」


 なるほど、その辺は独自のエコシステム的なものがある訳か。納得だ。


「わかりました。今日はありがとうございました」


「こっちこそだ。今後ともよろしくな。あと暇なら時々遊びにこい。平日なら大体俺はここにいるから」


「ええ」


 そんな感じで気持ちよく帰路につく。

 前世だと依頼以上に仕事をしても褒められないだけではない。次回はその依頼以上の仕事が当たり前になって、それ以下だと怒鳴られたりするなんて状況が往々にしてあったから。


 少なくとも今の漁業組合ではそういう事はないようだ。この辺は女神シャルムティナの思し召しというところだろうか。


 あと釣りの為の現地情報なんてのも得られた。満潮の夜7時から8時頃か。

 レシピも結構ありがたい。後でじっくり読んでおこう。

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