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今世はのんびり釣りをしたい ~元技術者で今は冒険者の、微妙にままならない日々~  作者: 於田縫紀
第3章 次の犠牲者

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第35話 地獄の入口?

 落ち着け俺。

 いくらクリスタさんでも、受付嬢モードで、かつ他の人がいるなら問題はないはずだ。


 そう自分に言い聞かせ、できるだけ普通の口調と態度を心がけつつ、用意した言葉を口にする。


「ええ、今日は2人で臨時パーティを組んで、ダグアルまで魔魚討伐に行ってきました」


「わかりました。お二人の冒険者証をお預かりします」


 俺は普通に冒険者証を出し、さらにクリスタさんに言われるままにカンディルーの魔石を渡す。


「合計313匹分ですね。20匹ごとに報酬が25円上がりますので、合計は21万3,175円となります。高額報酬扱いとなりますので、ここから先は面談室で行いましょう。こちらになります」


 つまりジョンにも半額の10万円ちょっとが入る。

 講習生の儲けとしては破格だろう。

 しかし相手はクリスタさんで、しかも面談室へ移動。もう不安たっぷりだ。


 5万円以上の報酬の場合は面談室を使う事になっている。

 少なくとも俺については今まで悪いことは起こっていない。

 だから大丈夫。

 そう自分に言い聞かせつつ、俺はクリスタさんの後をついていく。


 今日は俺とジョンの2人だからか、いつもより広い面談室へと案内された。


「それでは報酬と、その他事務的書類などを持って参ります。しばらくお待ちください」


 そう言って、クリスタさんは普通に歩いて出て行く。

 受付嬢モードだしジョンがいるからだろう。

 このまま受付嬢モードで終わってくれと思ったところで、ジョンが口を開いた。


「しかし何か申し訳ないな。あんなので俺が10万以上も貰って」


 それについては問題ない。


「魔魚カンディルーは実際に危険な魔獣だ。漁業だけじゃなく河運すらできなくなっている。少しでも減らそうとするのは当然だし、1匹500円は決して高くない」


「危険な魔獣だというのはわかる。でも俺は誰でも出来る程度の事を手伝っただけだ。あの道具を用意したり魔法で魔魚を倒したりしたのはエイダンだろ。いくらパーティ員絶対平等の法則があるとはいえ、申し訳ない気になる」


「なら次の機会にでも、いい依頼を紹介してもらえればいいさ」


「理屈で言えばそうなんだろう。ただE級冒険者がC級冒険者にそんなことできる機会があるかどうかは疑問だな」


 そこまで話したところでクリスタさんが戻ってきた。

 俺とジョンは話を中断する。


「お待たせしました。まずは報酬の支払いとなります。それぞれ金額を確認して、正しければそちらの領収書にサインをしてください」


 ジョンは大丈夫だろうか。

 自分の封筒の金額を確認しつつサインをし、俺は横目でジョンの方を見る。

 大丈夫だ。ちゃんと数えているし、サインもできている。


 読み書きも計算もできない状態から2週間程度でここまでできるのは、相当努力した証拠だろう。

 そう思って、待てよと思いなおす。


 本当にジョンは読み書きや計算ができなかったのだろうか。

 確かに字を書く様子はぎこちなかった。

 しかし正銀貨・小銀貨・正銅貨・小銅貨の合計額を確認するなど、ある程度の計算ができないと無理だ。


 思い当たることはある。

 例えば初心者講習一日目の依頼受理。

 障害なく依頼を選べたのは、文字が読めたからではないだろうか。


 ただ、今確認する必要はない。

 後で、機会がある時で十分だ。

 俺自身の事情だって、細かく詰められると面倒だし。


 クリスタさんは俺とジョンのサインを確認し、頷いた。


「はい、確かに領収書を受け取りました。それでは冒険者証をお返しします。本件は以上となります。ところでジョンさんは、現在ドーソン清掃組合以外にどこかの依頼を受けていますでしょうか」


 ジョンにそんな話が飛んだ。

 しかもクリスタさん、ジョンが清掃組合で依頼を受けていることを把握しているようだ。


 何か予感がする。

 俺に搬送依頼を出した時と同じ……いや、もっと嫌な予感が。


「いえ、ドーソン清掃組合の依頼以外は、定期的なものは入っていません」


「なら、ドーソン冒険者ギルドからの優先依頼を受けていただけないでしょうか。清掃組合の方にはギルドから話を通しますし、必要なら代わりの要員を派遣します。依頼は2件です。うち片方はエイダンさんを含む3名パーティ、もう1件はエイダンさんを含む4名のパーティでの依頼となります」


 えっ、俺を含むパーティで2件?

 ここは俺が異議を唱えさせてもらおう。


「俺はまだ、その依頼を聞いていませんけれど」


「エイダンさんには今日の午前中、カサクラ廃坑内部の調査依頼をお願いしたと思います。ですので来週の予定は空いているはずです。違いますでしょうか」


「ええ、その話なら聞いていますし、来週の予定は空けています」


 その依頼なら確かに聞いている。

 しかし依頼は1件だったはずだ。


「そのカサクラ廃坑の調査依頼に、ジョンさんにも参加してもらう予定です。もとはエイダンさんの他に前衛の戦士1名と補助魔法使い、合計3名でしたが、これを4名に変更しようと思いました。またもう1件は、諸般の事情を踏まえ新たにできた依頼です。ジョンさんの他にエイダンさん、そして廃坑調査に参加する前衛の戦士と3名で受けてほしい依頼です。こちらは日帰りです」


 不穏な予感がビシバシする。


「その依頼、俺が参加しても大丈夫なんでしょうか。ご存じのとおり、俺は2週間前に初心者講習に来たばかりです。戦士としての実力はまだまだですし、魔法は全く使えません」


 ここで自分の実力を考慮して簡単に飛びつかないあたりが、ジョンの賢さ、いや慎重さか。

 少なくとも俺やミーニャさんよりは、ずっと慎重だ。


「ええ。しかしジョンさんは講習前から弓と槍を使っており、相応の腕をお持ちだと聞いています。違いますか」


「ええ、狩猟をしていましたから」


 これは不思議でも何でもない。

 ジョンの父は農業の傍ら、弓と槍を使う狩人でもあった。

 だからジョンも鹿や猪、兎を弓や槍で狩る経験を積んでいる。


「今回のパーティには、魔法以外に遠距離攻撃ができる者がいません。ですので万が一に備えて弓要員がいてくれると助かるのです」


 これはきっと嘘だ。ここでは言わないけれど。


「そしてジョンさんは初心者講習生ですが、既に文字の読み書きができるようです。まだ慣れていないかもしれませんが、ここから先は独習でもなんとかなるでしょう。ですからこの依頼を受けていただくことで、D級冒険者へ昇級していただこうと思っています」


 間違いない。

 俺の時と同じパターンだ。

 そしてこれこそがミーニャさんの言っていた “地獄の入口” なのだろう。

 しかしそんなこと、ここで言えるわけがない。


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