第32話 思わぬ再会
帰る前に、冒険者ギルドにある本について確認をしておきたい。
なのでクリスタさんに聞いてみる。
「ところで、冒険者ギルドで購入できる本については、どこで聞いてみればいいでしょうか」
「まだ時間がありますので案内しましょう。こちらです」
受付の部屋を素通りし、入口より向こう側の部屋へ。
広さは六畳くらいと狭い。
そして中は本棚がこれでもかという位に置かれている。
本棚の間は、人がすれ違う事ができないほどの狭さだ。
「こちらが書庫になります。販売が可能なのはこの書棚にある分だけです。他は当ギルド備付で持ち出し禁止の書物、もしくは初心者講習用貸し出し用の書架となっています」
なるほど。
手前側の書棚だけが購入可能で、後ろは駄目という訳だ。
「販売可能な本は手に取ってみていいですか」
「どの本でも手に取るのは自由です。また、販売可能な本は最終ページに価格が記載されています。私はそろそろ受付に戻ります。もし購入したい本がありましたら受付に提出して下さい。鍵は出る際に自動でかかるようにしておきます」
「わかりました」
そろそろ初心者講習生が出てくるので配置につく、という事だろう。
それにこの書庫は狭いから、2人だと自由に動けない。
さらに言うと、一人の方が本をじっくり見られる。
クリスタさんが出た後、どんな本があるか確認を開始する。
まずは購入可能な本棚から。
最初に並んでいるのは、初心者講習で使う教科書や地図帳、辞典。
この辺は内容がわかっているので、他の本を確認。
より分厚い辞典、小型の薬草図鑑、そして……
◇◇◇
書庫にある中で一番欲しいと思ったのは、ヘルミナ世界百科事典(全21巻+索引1巻)だ。
しかし残念ながらこの本は非売品だった。
まあ俺が買える値段ではないだろうとは思うけれど。
他にもヘルミナ国勢図会なんて、国の統計資料もあった。
残念ながらこれも非売品だ。
財布とも相談して購入を決めたのは、
〇 詳細・ヘルミナ全国地図(上中下巻、合計33万円)
〇 愛蔵版・ヘルミナ植物図鑑(8万円)
〇 愛蔵版・ヘルミナ魔物図鑑(8万円)
〇 愛蔵版・ヘルミナ動物・魔獣図鑑(上下巻、合計16万円)
〇 商業ギルド監修・ヘルミナ主要産物要覧(21万円)
本当はもっと購入したかった。しかしこれでも86万円かかってしまっている。
いくらカンディルーのおかげで懐が温かいといっても、この辺が限界だろう。
分厚い本ばかり8冊抱えて部屋を出る。
受付はそこそこ人がいた。
初心者講習の生徒らしい連中もいる。
掲示板前や受付カウンターが混んでいない。
という事は、12時過ぎてすぐという感じではなさそうだ。
書庫の中で持ち出し禁止の書物を何冊か速読した。
だから1時間くらいは経っていても不思議ではない。
奥の受付が空いていた。
なのでカウンター上まで本を持っていく。
「すみません。こちらの本を購入したいのですけれど」
「こちらを……全部で、よろしいですか?」
半信半疑という感じだ。
「ええ」
「では冒険者証がありましたら、提示をお願いします」
「はい」
何だろうと思いつつ冒険者証を出す。
「あっ、失礼致しました。C級冒険者ですと5%の値引きとなります。合計で……81万7千円ですけれど、よろしいでしょうか」
値引きがついたか。それはありがたい。
そう思いつつ俺は、魔法収納からちょうどの金額を取り出す。
「はい、確かに受け取りました。こちら、袋はご入り用でしょうか」
何か最初に比べて丁寧になっているなと思いつつ、首を横に振る。
「魔法収納を使うから大丈夫です」
「わかりました。どうもありがとうございました」
妙にペコペコしているなと思って、そして気づいた。
さては最初、初心者講習生と間違っていたな、と。
確かについこの前まで初心者講習生だった。
だからまあ、仕方ないとは思う。
相手によって態度を変えるのは褒められたものじゃないけれど。
さて、それでは真っ直ぐ家に帰るとしよう。
食料は結構在庫があるので問題ない。
それより早く帰って、全木炭魔法加工物質製のスピニングリールを作りたい。
形状や寸法等は、鉄で作ったリールをモデルにすればいい。
今日までそこそこ使い込んだから、それなりにアタリは出ている。
木炭魔法加工物質は自己潤滑性がある。
だから潤滑にグリスを必要としない。
まあ潤滑用ではなく、砂や水等の侵入を防ぐためのグリス類は必要だろうけれど。
軽く操作性がいい、理想のリールが出来る筈だ。多分。
そう思って冒険者ギルドを出ようとした時だった。
「おっとエイダン、久しぶり」
同じキヌル村から来て仲が良かったジョンだ。
「ああ、今日は依頼はいいのか、ジョンは?」
「定期的に仕事をくれるところを見つけたから。週4回で今日は休み。だから空いている時に一般依頼を見てみよう、そう思ってゆっくり来てみたところさ。ところで……」
ジョンは俺の耳元近くで、ささやくような声で言う。
「まさかC級になっているとは思わなかったな。どうしたんだ、一体?」
どうやら本を買う時に出した冒険者証を見られてしまったようだ。
「ここで話をするのも何だろう。今なら部屋には誰もいない。そこでどうだ」
確かに説明しておいた方がいいだろう。
だから俺は頷く。
「ああ、そうだな」
「なら行くか」
受付から奥に進んで階段を上り、一晩だけ泊まった部屋へと向かう。




