第27話 大漁だけれど、結局は……
それでは四つ手網を仕掛けるとしよう。
まずは網を引っ張り上げる為の支柱を岸に設置する。
この支柱からワイヤーを通して四つ手網をぶら下げる。
このワイヤーを支柱下側に設けたリールで巻き取り、網を揚げる仕組みだ。
なお、網を揚げたら冷却魔法で魔魚カンディルーを殺し、転送魔法で回収する。
水中で動き回っている状態では転送魔法を使えないから仕方ない。
まあ四つ手網漁法を試したかった結果、こうなったというのもあるけれど。
支柱に網と繋がったワイヤーを通し、ワイヤーの網と反対側の端を支柱下のリールに固定する。
リールと言っても釣り用の精密機器とは違い、ハンドルを回してワイヤを巻き取るだけの簡素なものだ。
あとは一度リールを巻いて網を空中に上げ、ゆっくり降ろせば仕掛けは完了。
網が水中に沈んで一分少々、水中が落ち着いたようだ。
それでは漁を始めるとしよう。
屠殺場で仕入れた血みどろの臓物を魔法収納内で更に刻み、網の上にさっと撒く。
底に大量に沈む程には撒かない。
網の下に魚が群れても意味がないからだ。
水面が波打った。早くも魔魚カンディルーがやってきたようだ。
思った以上に反応がいい。
目視でもわかるくらいに集まり始めている。
もう少し集めよう。網の中心に再び撒き餌を投入。
うむ、いい感じに集まった。
それじゃという事でリールを巻いて網を上へ上げる。
リールはかなり重いので身体強化魔法で腕力を強化する。
網が水面から出てきた。上でビチビチと小さいのが跳ねている。
小さいのが網の目をすり抜けて落ちていくのも見える。
勿体ないが仕方ない。
網から漏れるサイズは後で釣りで回収だ。
完全に上がったところで冷却魔法を一発。
跳ねていた魚が動かなくなった。
転送魔法で回収しまくった結果、最初の成果は54匹。
それではまた網を沈めて再挑戦しよう。
◇◇◇
流石に同じ場所で5回もやると網に入る魚も少なくなる。
網の上まで来る魚のほとんどが、網の目をすり抜けられるサイズになってしまった。
なら今度は釣りで挑戦だ。
網を支柱やリールごと魔法収納に回収する。
此処に魔魚カンディルーがいるか確かめる時に使った延べ竿とサビキ仕掛けを取り出し、岸から離れた水中へ投入する。
仕掛けの上から撒き餌を投入すると、魔魚カンディルーらしい魚があっさり集まる。
すぐに竿先がビクビクと動き出した。
明らかに水中へ引っ張られたところで竿を上げる。
5本の針のうち2つに小魚がかかっていた。
すぐに冷却魔法で殺し、転送魔法で手元に取り寄せ、魔法収納へ。
仕掛けを投入するとすぐに反応する。
竿を上げて魚を回収し、また投入。
反応が無くなっても撒き餌を使えばすぐに魚が寄ってくる。
釣れる魚は今のところ魔魚カンディルーだけだ。
大きさはかなり小さく、ほとんどが全長10cmに満たない。
ただし小さくても1匹は1匹として報酬になる。
だから確実に釣って回収する。
魚の大きさといい仕掛けといい、前世の稚鮎釣りと同じような感じだろうか。
餌は違うし魚も大きさ以外は全然違うけれど、稚鮎釣りとは違って撒き餌を使っている。
そんな事を思いつつ、半ば機械的に投入→釣り上げ→回収の作業を繰り返す。
◇◇◇
最初の場所で釣れなくなると移動して次のポイントを探す。
なお二回目の場所からは四つ手網ではなくサビキ釣りのみで挑戦した。
四つ手網を設置するのにちょうどいい場所がなかったからだ。
餌を撒いて釣り、餌を撒いても魔魚カンディルーが群れなくなったら移動。
これを繰り返す事6回。
バラモさんから貰った資料にあった魔魚カンディルーの分布場所はほぼ回りきった。
まだまだ捕り残した魔魚カンディルーはいるだろう。
しかしかなり数は減らした筈だ。
最低でも1,000匹超は網で捕ったり釣ったりしている。
なお魔魚から内臓と魔石を取り出す作業は自動化した。
魔術式にして50行程の簡単なシステムを組んだのだ。
勿論魔法収納内でやっている。
だから魔魚は新鮮なままだ。
さて、午後3時を回ったし、ドーソンに戻るとしよう。
冒険者ギルドで報酬を受け取らなければならないし、バラモさんにお裾分けもする必要がある。
家で料理する時間も必要だ。
定番はフライだろうけれど、他に何かいい料理法はあるだろうか。
バラモさんに聞いてみればいいかもしれない。
◇◇◇
1匹あたり500円でも1,000匹を超えると流石にいい額になる。
数多く捕れれば捕れるほど高額になるというシステムが、それに拍車をかけた。
結果、冒険者ギルドで受け取った報酬は100万円超え。
「これで魔魚カンディルーによる被害は大幅に減るでしょう。お疲れ様でした」
受付嬢モードのクリスタさんから報酬を貰った後、次に訪ねるのは漁業組合の事務所。
勿論バラモさんにお裾分けする為だ。
ただ、魚のまま手渡したらすぐに傷みそうだ。
そこで、魔魚カンディルーを釣る場所を探した時に入手した流木で木箱を作った。
このくらいの工作なら、歩きながらでも魔法収納内で可能だ。
木箱の中に氷を敷き詰め、その上に魔魚カンディルーを100匹ほど並べて入れる。
これで今日くらいは持つだろう。
ということで組合事務所へ。予想通り中にいたバラモさんに手渡す。
「いいのかよ、こんなに貰って」
「ええ。まだまだ沢山ありますから。その代わり、この魔魚の調理方法を知っていたら教えていただけますか」
「数が少なきゃ頭を取ってフライ一択だがよ。これだけあると……そうさなあ、この辺だっけか」
バラモさんは例によってファイルを漁り、幾つかの紙を出してくる。
「これは小ハゼの調理法だがよ。身の質が似ているから、頭以外はこれと同じように調理出来ると思うぜ」
「ありがとうございます」
唐揚げ、南蛮漬け、焼き干し、甘辛煮等のレシピが書かれた紙をコピーさせてもらい、事務所を出る。
帰り道で調味料や付け合わせの野菜等を購入し、帰宅。
到着したら早速料理だ。
大量に作っても魔法収納に入れておけば、いつでも作りたて状態。
だから一気に作りまくる。
まずはフライ。
頭を取って小麦粉をまぶし、魔法で180℃に熱した油でガシガシ揚げまくる。
なお、取った頭は魔法で焼いた後、乾燥させる。
いい出汁が出そうな予感がするから。
途中で衣の粉を、小麦粉から芋粉にチェンジ。
こちらは南蛮漬けにも使う予定だ。
ただフライにしただけでも、食感がサックリ固めで悪くない。
数日分食べられるよう、大量に揚げておく。
ついでに南蛮漬けにつけるニンジンやカボチャ、タマネギも一緒に揚げまくる。
焼き干しも美味しそうだ。
これは全行程を魔法で作れそう。
魔法で高温にして表面だけメイラード反応させ、その後はやはり魔法で乾燥。
このままあぶって食べてもいいし、甘露煮風に甘く煮付けてもよさそうだ。
そしてこういう魚料理なら、やっぱりパンより御飯だろう。
だから御飯も炊いておく。
本当は前回大量に炊いて、魔法収納から少しずつ出して食べるつもりだった。
しかし猫が登場して食べ尽くした結果、ストックが無い。
だから今回はこそ大量に炊いてストックしておく。
御飯が炊けたら汁も欲しくなる。
頭を焼いて乾燥させたもので出汁をとってみた。
うむ、なかなか上品な汁に仕上がった。
それでは今日の夕食は、魔魚カンディルーのフライと南蛮漬け。
頭で取った出汁に葱を散らした汁。
そして白い御飯を添えていただくとしよう。
そう思った時だった。
トントントン、トントントン。門扉に着いたノッカーの音。
このパターンは、いい加減慣れた。
だから夕食セットを魔法収納にしまってから出よう——
そう思ったその時。
「いい臭いがするニャ」
すぐそばから声がした。
リビングの窓のすぐ外から、ミーニャさんの顔がのぞいている。
「どうしたんですか。まだ門を開けていないのに」
「いい臭いがしたニャ。猫まっしぐらニャ」
どうやら塀を跳び越えて来たらしい。
確かに冒険者の猫獣人なら、それくらい出来るだろう。
油断していた俺のミスだ。
そして猫の視線は、すでに食卓の料理を捉えている。
今さら仕舞ってももう遅い。
仕方ない。俺の用心が足りなかっただけだ。
臭いが籠もるからと窓を開けて調理していたのが敗因だった。
多分、きっと。
「良かったら食べていきますか。準備しますけれど」
「ありがとニャ」




