第26話 そして現場へ
更に現地の川について知っていそうな人という事で、ベルクタ漁業・水面管理事務所へ。
予想通りバラモさんがいた。
なので魔魚カンディルーについて聞いてみる。
「おお、あの魔魚か。ここにも調査報告の写しが回ってきていたな。ちょっと待ってくれ」
バラモさんは壁の棚に置かれているファイルの一冊を取り出し、パラパラとめくる。
「ああ、あった。これが調査報告だ。まずはこれが魔魚カンディルーについての報告書本文。そしてこれが当時の魔魚カンディルーの分布や生息場所、生息数の資料だ。もう10年近く前の図だから様子は大分変わっているかもしれんがな」
これは大分助かる。
どこにどれだけいるか、少なくとも10年前にはこうだったという資料が手に入ったのだ。
十分釣り場の参考になるだろう。
「複写魔法を取っていいですか」
「もちろんだ。複写用紙が必要なら、そこにあるのを使ってくれ」
「ありがとうございます」
複写用紙とは、熱を加えた部分が黒くなる紙だ。
① 元の紙を複写用紙の上に置いて
② 紙の黒い部分に熱を加えると
③ 下に敷いた複写用紙に黒い部分が転写される
という仕組み。
実際には②は複写魔法を使うので、いちいち紙の黒い部分を意識する事はしないけれど。
「それで、どうやる気だ」
「四手網方式で餌を撒いて、集まったものをすくいます。それでも捕れないものは、サビキ釣りの要領で釣り上げようと思っています」
「なるほどな。ただあの魔魚、ちっこいから細かい網でないと無理だぞ。あと普通の糸は噛み切るから、鉄ワイヤーくらい強力な糸でないとな」
それは想定の範囲内だ。
「網は鉄ワイヤーで作った特製のものを用意しました。これである程度はすくえると思います。釣り用の糸も特製を用意しました。こちらは詳細は言えませんけれど、鉄ワイヤー以上に頑丈かつ細い糸です」
「なら心配いらねえな。普通はそんな装備を持ち運んだり出来ねえが、エイダンだったら問題ねえだろ。でもそれなら撒き餌が必要だろう。何なら農業組合の屠殺場に紹介状を書いてやるが、どうだ」
おっと、それはありがたい。
「そうしていただけると大変助かります。お願いしていいですか」
「あたぼうよ。魔魚がいなくなったら、また川が賑やかになる。魚種だって大分増えるはずだ。今は回遊魚の半分近くが、あの魔魚にやられちまっているからな」
バラモさんはささっと白紙を取り、書状をしたためる。
「おいよ。これを屠殺場のカムラ辺りに渡せば、食肉や素材にならない内臓肉とか脂肪部分、血液なんてのを分けてくれるはずだ。これは乾燥させた後、肥料にするんだが、少しぐらい分けても問題はねえ。だから屠殺場でもあっさり分けてくれるはずだ。バケツ単位になるけれど、エイダンは魔法収納を使えるから問題はねえだろ」
「カムラさんですね。ありがとうございます」
「カムラがいなくても大丈夫だ。漁業組合のバラモからと言って渡せば。あそこの職員の半分以上は知り合いだからな」
本当に助かる。
これなら撒き餌も無料で大量に手に入る。本当にありがたい。
「それじゃ魔魚は頼んだ。あと、もし大量に捕れたら少し分けてくれ。魔石を取った後でいい。魔魚とはいえ、ちっこいのは二度揚げにすると美味いらしいんだ」
魔魚、食べられるのか。
「揚げれば食べられるんですか」
「ああ。調査に行った奴が食べた話を聞いた。5匹釣った時点で仕掛けが食われちまって、それ以上釣れなかったらしいけどな。身そのものは白身で美味しいそうだ。ただ魚が小さいから、魔石だけ取って揚げちまった方がいいらしい。あと頭は取った方がいい。歯と顎の骨がとんでもないからな」
いい事を聞いた。
「わかりました。その時は釣りで捕ったんですね」
「ああ。普通のウキ釣りの仕掛けだったらしい。それもその資料に載っている」
「ありがとうございます。捕れたら魔石を抜いて持ってきます」
「ああ。無理はしなくていいぞ」
紹介状をもらって事務所を出る。
◇◇◇
その後、家畜の屠殺場で内臓や血、骨や脂肪など食べられない部分を90リットルのバケツ3つ分いただいた。
血まみれの中に赤い黒い臓物や黄色い脂肪が混じっていて、なかなか凶悪な見た目と匂い。
ただし魔法収納に入れておけば臭いはしないから問題ない。
これをミンチにして撒けば、魔魚カンディルーは寄ってくるだろう。
という事で屠殺場から近い東門から出て、ダグアル村を目指して高速移動魔法で突っ走る。
基本的に川沿いの平坦な道で、距離はおおよそ45km。
この程度なら大した事はない。
予想通り20分しないでダグアル村に到着。
早速川岸に出て、水に落ちないよう注意しながら川岸をゆっくり歩く。
網を仕掛ける部分は、川岸がしっかりしていて水深があり、出来れば流れが緩やかな部分が望ましい。
そしてもちろん、魔魚カンディルーがいる事が条件だ。
バラモさんからもらった資料を確認しながら歩く。
どうやら魔魚カンディルーは普段は底近くにいるようだ。
だから川に直接電撃を叩き込んでも効果はそれほどないと。
実際に電撃魔法による討伐を試したが、効果はあまりなかったと報告書に書いてある。
ならやはり餌でおびき寄せて、網か釣りで捉えるのが最適だろう。
そして魔魚カンディルーがいて、なおかつ網を仕掛けられるしっかりした岸があって、出来れば深さがそこそこあるところ。
ちょうど良さそうな場所があった。
川が少し向こう側へ向けてカーブしている地点だ。
水深がそこそこ深く、岸が岩混じりでしっかりしている。
流れも今は緩やかだ。
ならば早速、魔魚カンディルーがいるか確認してみよう。
俺は今回の釣り道具を取り出す。
長さ5.4mの延べ竿の先に長さ3mの糸、更にその先に1m程の仕掛け、そして最下部に重り。
仕掛けは長さ20cm毎にエダスが5本ついている。
エダスとは糸の先に針がついているもので、今回は長さおおよそ5cmの糸の先に舌平目の皮がついた釣り針がついているという状態。
つまり針全てに魚がかかれば5匹釣れるという訳だ。
そんな事はまず無いけれど。
その針の一つ一つに、あえて餌をつける。
針には疑似餌として既に舌平目の皮がついている。しかし生の餌の方が食いつきがいいだろうから、追加してみた訳だ。
今回は豚の皮と脂肪の境目の硬い部分をつけた。
これなら肉っぽい匂いをまいてくれる上、外れにくそうだから。
さて、ターゲットの魔魚カンディルーが釣れるかどうか。
収納しているうち血液部分を水面に撒き、仕掛けを落とす。
これで近くにいれば食ってくる可能性が高いのだが……
おっと、明らかに魚が寄ってきた。
これが魔魚カンディルーかは分からないけれど。
そしてすぐ、釣り竿の先が水中に引っ張られる。
非常に分かりやすい引きだ。
竿を上げるとビクビクッという手応え。
全長10cm程度の小さい魚が針3つにかかっている。
冷却魔法で殺した後、魔法収納へ入れて観察する。
普通の魚とドジョウを足して2で割ったような形。全体的には白色で背中がやや青黒い。
そして腹部分に小さい魔石を確認。
これが魔魚カンディルーだろう。
ならこの場所で決定だ。




