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今生はのんびり釣りをしたい ~元技術者で今は冒険者の、微妙にままならない日々~  作者: 於田縫紀
第1章 最初の釣りに至るまで

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第2話 最初の依頼受領

 翌日から初心者講習が始まった。

 まずは此処での日課や決まり事、冒険者ギルドの説明等からだ。

 なるほど、学科や魔法の練習、戦闘術等は午前中だけ。午後は自由時間となっているのか。


 自由時間といっても、ただぼーっと過ごすという訳ではない模様だ。

 冒険者ギルドに来ている依頼をこなすことが勧められている。


 この初心者講習では、寝起きする場所と朝食、夕食、そして午前中の講習に必要なものは無料で提供されている。

 しかし昼食やそれ以外の小遣い等は自分で稼がなければならない。

 今日は初日ということで、昼食としてパンが支給された。でもあくまでこれは例外だそうだ。


 日銭を稼ぐのに一番手っ取り早いのが、冒険者ギルドに来た依頼をこなすこと。

 冒険者ギルドに来る依頼は多種多様。中には排水溝の清掃や肉体労働の手伝い等、俺達にもできる仕事が結構あるのだ。


 これらの仕事を受ければ半日で千円程度は手に入る。それを昼食なり小遣いなりに回す。

 それが此処で推奨される暮らし方の模様。


 さて、そういった日課や規則等は別としてだ。

 ここで教えている学科だの魔法だのの授業は、正直俺には簡単すぎる。


 何せ俺の頭には神殿技術者だった頃の知識や魔法が入っているのだ。

 神殿技術者といえば、あの世界では一応エリート。つまり俺は大人でもそれなり以上に属する知識や魔法を持っている。


 勿論、以前の世界と今いる世界は違っている。だから歴史だの地理だのといった知識は学ぶ必要がある。

 しかし算術だの魔法だのといった知識は正直……講習を受けるのがだるい。


 それでもまあ、そんな思いを態度には出さないように努めつつ、午前中の講習は無事終了。

 さて午後はどうしよう。そう思った次の瞬間。


「急げ! いい依頼を取るんだ!」


「行くぞ!」


 授業を受けていた9割が、ダッシュで教室から消えていった。

 なるほど、そういえば説明で聞いた気がする。依頼は先着順だから遅いといいのが残っていないと。


 まあいい。 今日一日仕事がなくても、明日の昼食を我慢すればいい程度だ。

 だいたい前世では、ほとんど昼食を取らなかった。業務が忙しすぎて食べるような余裕がなかったから。


 そう考えると今はそれなりに優雅だな、金はないけれど。

 そんなことを思いつつ、ゆっくりと俺は依頼掲示板の方へと向かう。


 掲示板前は阿鼻叫喚状態だった。人が多すぎて掲示板が見えない。

 ただ講習生の9割はまだ文字が読めなかったりする。

 だから早く掲示板の前に行っても実は無駄。


 厳密にいうと少しは意味がある。

 文字が読めない者がほとんどだということをギルドも知っているので、説明担当が1人、掲示板前に配置されているのだ。


 ただ講習生は50人超いる。説明担当1人ではいくら何でも足りない。

 なので混乱は全く収まらない。


 さて、実は俺も昨日此処へ来たばかりの時は文字を読めなかった。

 ギルドで提出した書類も、教会の牧師さんに書いて貰ったものだ。


 うちの村から来た6人は全員そんなものだ。そもそもうちの村は文字の読み書きができないのが普通だから。

 他の村もそんな感じのようだ。今日の講習の様子を見る限りでは。


 しかし今の俺は、当たり前のように文字が読める。以前生きていた国とは文字も単語も違うのだが、それでも全く支障なく。

 きっとこの辺は神様が「釣りに必要な技能」としてくれたのだろう。文字が読めなければ、資料を調べることができないし。


 俺は群がっている皆の後ろから掲示板を見る。人という障害物があっても俺には支障はない。

 これは神殿技術者だった時の魔法のおかげだ。 壁や障害物などで見えない部分の機械や術式を見る時に使う魔法。通称「透視」。


 良さそうな依頼をそうやって探す。とりあえず、これはどうだろう。


『清掃業務。内容:ミシュルミー川西岸の清掃、ゴミ拾い。13時30分から16時30分まで。

 報酬:1,000円

 依頼元:ベルクタ漁業・水面管理事務所

 内容:ミシュルミー川西岸には上流や海から水草や海藻、流木、その他ゴミが多く漂着する。これらを放置すると腐って異臭を放つ他、毒藻が繁殖する原因となり、魚等や貝類の生育にも悪影響を及ぼしかねない。

 これらゴミを回収するのが職務。拾ったゴミの量に応じた追加報酬あり』


 海からもゴミが流れ着くのか。なら河口部で汽水域となっているのだろう。

 そういった場所に住み着いている魚は多い筈だ。

 特にシーバスとかは、前世では釣りのターゲットとして人気があった。


 ただしシーバス釣りは道具が少し面倒だ。リールなんてこの世界にあるかどうか。

 無ければ自作せざるを得ないだろう。竿(ロッド)も、そして疑似餌(ルアー)も。ひょっとしたら釣り糸(ライン)すらも。


 俺は神殿技術者だった。だから魔法を駆使してそれなりのものは作れる。

 しかし今はまだ、作るにしても材料すら入手していない状態。材料を購入する金すら一銭もない状態だ。


 さてこの依頼、報酬金額は正直安い。しかし見たところ、他もそう大差ない額のようだ。

 まあ、なんの技能もない子供の半日仕事。こんなものなのかもしれない。


 ならばこの依頼を受けることにしよう。釣り場を確認できるついでと思えば悪くない。

 今日は川を見て、どんなターゲットがいるのか、どんなポイントがあるのかを見るだけでいいだろう。


 さて、このままでは人混みが邪魔で依頼のカードを掲示板から取れない。

 しかし今の俺なら問題ない。かつての俺の魔法を使えるから。


 目標を決め、そして転送魔法を起動。離れたところから物を持ってきたり、離れたところへ物を移動させる魔法だ。

 この魔法は得意だ。何せこの転送魔法と、離れた場所の物を動かす遠隔操作魔法は神殿技術者の必須魔法。

 これが使えないと、神殿にある大型装置の保守や修理はできない。修理すべき機構が手の届く範囲にあるとは限らないから。


 依頼の黄色いカードが俺の目の前に出現した。さっと右手でつまむ。

 あとはこれを受付に持っていって、依頼受理処理をすればいいだけ。


 受付カウンターは4つある。

 一般の冒険者はこの時間少ないようで、使用しているのはカウンターのうち奥の1つだけ。


 そして俺達講習生はまだ依頼を受けに行っていない。文字も読めないのに掲示板前でうろうろする輩が多いせいで、依頼受理まで至っていないから。


 俺は一番手前側、20歳前後くらいの濃い茶色のショートカットの受付嬢のいるカウンターへ。


「すみません。この依頼をお願いしたいのですけれど、こちらの窓口でよろしいでしょうか」


 依頼の紙と冒険者証を出してそう確認する。


「わかりました。失礼ですがエイダンさんは依頼の内容は読めましたでしょうか?」


 文字も読めないのに取ってくる奴がいるのだろう。勿論問題はない。


「ええ。ミシュルミー川西岸の清掃ですね。ただ昨日此処へ来たばかりなので、この辺の地理はよくわかりません。ですから場所を教えていただければありがたいです」


「もちろんそれは大丈夫です。ところで失礼ですが、これはエイダンさんの最初の依頼受理ということでよろしいでしょうか」


「はい」


「それでは説明から始めます……」


 さて、どんな川でどんな魚がいるだろう。

 今日は釣りではなく下見とゴミ拾いだけ。それでも楽しみだ。

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