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今生はのんびり釣りをしたい ~元技術者で今は冒険者の、微妙にままならない日々~  作者: 於田縫紀
第1章 最初の釣りに至るまで

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第1話 覚醒

 このお話は2つの異世界の言語を、出来るだけ日本人がわかりやすいように超翻訳した形で記載しています。

 具体的には

  〇 単位が地球上のものに翻訳されている

  〇 出てくる生物、専門用語、その他単語に日本と同一あるいはそれをもじったような単語が出てくる

等のような事があります。

 これはあくまで、わかりやすいように 翻訳した結果(・・・・・・)です。

 異世界に日本の事物があるということではありません。

 異世界にそれらの事物が存在するという事でもありません。

 主人公のエイダン君が転生する前にいた世界も、転生した後の今の世界も、日本とは関係ありません。

 その辺をあらかじめご了承の上、お読みいただければ幸いです。

 農家の次男以降の男子なんて、家にいても邪魔なだけだ。

 小さいうちはまだいい。衣食住の面倒は見てもらえるし、労働力としてこき使われもするが、それでも居場所はある。


 だが長男が嫁を迎えて、家を継ぐとなれば話は別だ。

 手伝いとして置いてもらえればまだ良い方で、大抵は「邪魔者」として追い出され、宿も職も無い状態になる。


 だったら長男が生まれたら子作りをやめればいいじゃないか。理屈としてはその通りだ。

 だが、子供が必ず健康に育つとは限らない。

 だから「予備」を作るのはある意味当然だし、予備以上に作る単なる好き者も結構いる(それはまた別の話だ)。


 つまり健康な長男がいる限り、次男に未来はない。誰もがそのことをわかっている。


 だから次男以降の男子は、12歳の4月か10月に冒険者登録をして村を出て行く、というのがお約束だ。

 冒険者とは、要は何でも屋。

 魔物と戦ったり商隊の護衛をしたりなんてのは、優秀なごく一部。

 ゴミ清掃だの農家の手伝いだの、単発の誰でも出来る様な業務を冒険者ギルド経由で引き受けて、その日暮らしに近い生活をしているのが大部分だ。


 しかし冒険者に登録すれば、最初の半年は初心者講習を受けられる。

 そこそこの規模の街で衣食住を確保してもらいつつ、読み書きなどの基礎教育を受けながら、半年間の猶予期間を過ごせるのだ。


 この半年で、才能のある者は冒険者へ。もっと優秀な者は騎士団や役所、商家の幹部候補へ。

 才能がなければ、町の商家や大農家の下働きとして人生が決まる。


 そして俺、エイダンもその一人。

 3月31日なんて日付に生まれたばかりに、12歳になった翌日の4月1日に冒険者登録をする羽目になった。

 初心者講習のある冒険者ギルドがあるドーソンの街までは、歩いて丸1日。


 早朝、生まれ育ったキヌル村を出発した。

 今回村を出るのは12歳男子6人。村出身のD級冒険者、クレイグさんとジルさんに守られつつ、案内されつつ、一日中歩く。


 空が赤く染まる頃、ようやく冒険者ギルドに到着した。

 1階窓口で書類を提出し、確認してもらい、冒険者証を受け取れば手続きは終了。

 2階の寮に案内され、初心者講習生用の8人部屋へ入る。

 あとは自分のスペースである二段ベッドの上段で、家から持ってきた固いパンをかじって夕食を済ませ、寝るだけだ。


 何せ1日中歩いた。

 他の村から来た連中も含め、全員すぐ寝てしまった。

 俺も目を閉じて……


 そして思い出したのだ。

 エイダンとして生まれる前、神殿技術者だった頃の記憶と、死んだ後の記憶を。


 ◇◇◇


 あの時、俺は白い部屋にいた。もちろん見覚えのない場所だ。

 目の前には光り輝く女性。

 人間ではないと直感でわかった。これはもしや、いや間違いなく……


『貴方の想像した通り、私は神の一柱です。貴方が知る名では、創世と維持の女神シャルムティナになります』


 そうだ。俺、いや()は神殿技術者として、まさに女神シャルムティナに仕えていたのだ。

 思わず平伏しようとして気づいた。身体が無い!


『申し訳ありません。貴方は過労で倒れ、そのまま亡くなってしまいました。真摯に仕えて頂いたのに、このような結果になってしまったのは全て私の管理不足です。とりあえず、貴方がそうなった原因である上司や同僚にはそれ相応の運命を与え、本部神殿から放逐致しました。ですので貴方の後輩や、真面目な同僚、上司の皆様は問題なく仕事ができるでしょう』


 どうやら私が死んだ状況は、神様が把握してくれたようだ。

 それができるなら生きているうちに何とかしてほしかった……という気持ちも、無いわけではない。

 だが、そんなことを考えるのも恐れ多い。気づいていただけただけ、ありがたい。


『さて、残念ながらあの世界で貴方を生き返らせることはできません。ですが代わりに、次の生、次の世界で恩恵を与えることができます』


 恩恵か。普通に生活できればそれで十分だ。

 強いて言うなら、過労死しない環境であればありがたい。仕事自体にはやりがいと誇りを持っていたのだから。


『生きている時にやりたかったことはありませんか?他人の話を聞いて、自分もやってみたいと思ったようなことは』


 そういえば……ある。

 釣りだ。

 余裕のある層では、優雅な余暇として釣りが流行っていた。

 直接的な捕獲魔法ではなく、あくまで針と糸を使った釣り道具によって。


 はまった連中は言っていた。釣りは知識、思考、観察、体力のすべてを使う総合ゲームだと。

 自分の知識、魚との知恵比べ、手に伝わる手応え。そのうえ美味しく食べられることまで。


 話を聞くたびに「釣りは面白そうだ」と思った。入門書も買い、更に面白そうだと感じた。

 しかし仕事が忙しすぎて釣りに行く余裕などない。それでも本や道具を通販で揃え、いつかを夢見ていた。


 だが結局、神殿技術者としての私に、優雅な余暇などなかった。

 睡眠時間すら満足に取れない日々のまま、深夜の緊急対応中に倒れ、31歳で死んだ。


 なら次の人生こそ、のんびり釣りができるように。

 仕事はそこまで忙しくなく、釣りに時間と工夫を割ける人生を。


 口には出さなかったが、女神には伝わったらしい。

 女神は頷いて、そして言った。


『わかりました。では貴方に恩恵を授けましょう。大きく分けて二つです。ひとつは、神殿技術者として身につけた全て。

 手先の器用さ、工作系魔法、製造・製作技能。もうひとつは釣りに関する一切。貴方が望む知識、技術、魔法。

 そして人生についても考慮しましょう。釣りができるほど余裕があり、時に神殿技術者並みのやりがいも得られるように』


 それは確かに楽しそうだ。どんな人生になるのだろう。


『それは実際に生まれてからのお楽しみです。ただ、これらの知識や魔法を生まれた瞬間から持っているのは、バランスが悪いでしょう。 ですので、自由に動けるようになった時に思い出せるようにします』


 確かに、赤ん坊が高度な知識を抱えていたら生きづらい。


「重ね重ねありがとうございます」


『いえ、神としてのお詫びだと思って受け取ってください。それでは次の貴方の人生がより良いものになりますように』


 周囲が光に満ち、眩しくて目を開けられない。

 そして……


 ◇◇◇


 頭の中が焼けるように熱くなる。もちろん本当に焼けているわけではない。

 何が起きたか、俺にはすぐわかった。

 神殿技術者時代の知識にあったのだ。知識伝播装置で大量の知識を埋め込まれた者の中には、こういう反応が出ることがあると。


 そう。俺は全てを思い出した。前世での神殿技術者としての知識、魔法、技術を。

 そして、それ以上の何かが眠っていることにも気づいた。

 釣りの知識・魔法・技術だ。

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