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白い愛人  作者: 桃巴


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3/4

白い愛人3

その日、午前中で政務を強引に終わらせた国王は、離宮へと馬を走らせた。

王城と離宮とは馬車で一刻ほど、乗馬の早駆けでは半刻ほどの距離である。

国王はひとりアフタヌーンティーを楽しむカサンドラの後姿を確認し、ホッとひと安心した。

『白い愛人』たちは、森の中。第一愛人の棲家にいる。


王后(カサンドラ)


国王は弾む息で呼びかけた。

そして、振り返ったカサンドラに息を呑む。


「っ、……」


目を見開き、絶句した。


「あら、陛下(あなた)


カサンドラはフッと笑っている。


「ど、うしたの、だ?」

「どう? ああ、アフタヌーンティーをしておりますが」

「そうではなく……その、だな」


国王が若返ったカサンドラをマジマジと見つめた。


「あら、失礼しましたわ。三十五が着用するドレスでないのは百も承知しておりますが、この一週間『白い愛人』たちに労っていただいたおかげか、若々しくなりましたの。私、陛下のお気持ちが痛いほどわかりましたわ。ええ、実感しております。側室ーー愛人というのは良いものですわね。気持ちが昂ると言いますか、英気を養えるとも。ただただ散歩やら会話をして、これほどの効果があるのですから、……夜の睦みまで進めば、きぃっとぉ、もぉっとぉ、すっごぉーくぅ、効果抜群なのでございましょうねえ。うふふふ」

「ぁ、ぅ、その、ぃゃ……」


国王がカサンドラの口撃に言葉を詰まらせた。


「ささ、どうぞ喉を潤してくださいな。早駆けは愉しゅうございましたか?」


カサンドラに促されて、国王は席についた。出されたティーを気を落ち着かせようと一気に飲み干す。


「はい、では夜道になる前にお帰りくださいませ」

「は?」

「ですから、お帰りを」

「待て待て待て、もう少しのんびりさせ」

「そんな時間を取ってしまえば、陛下(あなた)の睡眠時間を奪いかねませんわ。どうぞ、王后(あんみん)の宮にお帰りくださいましね。私は本日六人の『白い愛人』たちと一緒にツリーハウスで星空観賞ですの」


言葉を遮るようにカサンドラは続けた。


ガッシャン


驚いた国王がカップを音を立ててテーブルに置く。


「ろ、ろ、六人、だと!?」

「ええ、残念なことに、陛下(あなた)に倣えませんでしたのよ、一人足りなくって。もうひとり増やす努力は致しますわ」


カサンドラは優雅にカップに口をつけた。

しばし、放心する国王。

なんとも言い難い雰囲気が流れる。

だが、その間に国王は気持ちを持ち直した。というか、その愛人とやらの姿が見えないことで、別の考えが頭を過っていた。


「……カサンドラ」

「あら、名を呼ばれるのは久しぶりですわね」

「……王城に戻ってきてくれ」

「ええ、よろしくってよ」

「そうか、ありがとう」

「私の『白い愛人』たちも引き連れて戻りますわ」

「どこにもその姿が見えないようだが?」


国王は周囲を見回してみせた。


「疑っておられますのね」

「まあな。私の気を引くため、私の気持ちをチクチクと突くための方弁だろ?」


若返ったカサンドラに国王が甘い視線を向ける。


「なんの魔法かは知らぬが、側室ばかりにかまける私を振り向かせようと、カサンドラは頑張ったのだな。側室の存在で傷つき弱った心を、言葉の鎧で守り、言葉の刃で私に気づかせたのだろう。大丈夫だ、カサンドラ。私の一番は君だけ」


あらま、都合の良い思考ですこと。とカサンドラは呆れた。若返った私に食指が動いたのね……気色悪っ。とも。


「では、一週間後に戻りますから、夜会を開いてくださいませ。どの側室よりも目立ってご覧にいれましょう」

「ああ、わかった! カサンドラ、君が一番だと大々的に披露してくれ。私は今君に夢中だ。自信を持って私の胸に戻ってきてくれ」


国王が立ち上がる。

カサンドラは立ち上がらず、軽く手を振っておいた。


「見送ってはくれぬのか?」


国王が眉間にしわを寄せる。


「陛下、若返りの術は二週間の安静が必要でございます」


侍女がうまい具合に口を挟んだ。


「そうであったか。王后よ、大事に致せ」


国王は颯爽と帰っていった。

カサンドラと侍女は顔を見合わせる。


「素敵な話術をありがとう」

「はい。陛下は見送りの抱擁をしようと下心満載でしたので」

「だよね。鼻の穴が膨らんでいたし」

「はい。気色悪……コホン、失礼致しました」


侍女はきっと失礼とは思っていないだろう。

その夜、カサンドラはもちろん星空観賞を愉しんだのだった。





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― 新着の感想 ―
カサンドラが若返ったら途端に下心丸出しになるとか、国王ストレートに気持ち悪っ!となりましたw ギリシャ神話のゼウスかな?(妻のヘラが若返ったら、その時だけは熱心に求愛してたそうなので) どのような結末…
めちゃ面白い( ^ω^ )
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