表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚無の刃:ロイド  作者: Yahia yt
第一章:決裂の夜
22/22

第20章:試みるだけでは足りない

この章を楽しんでいただければ幸いです。誤字脱字がありましたらご容赦ください。どうぞお楽しみください!


人生のある一日、アレクサンダー大王は、自分が死んだ後もずっと生き続ける言葉を口にした――彼自身の肉体よりも長く死を生き延び、そして不可能の前に立つ人間が現れるたびに、何度も呼び起こされる言葉を。

「本気で試みる者にとって、不可能なことなど何もない」

彼はまだ若く、何も相続していない男としてそれを口にした。

帝国など継がなかった。

世界から無理やり奪い取ることを決めたのだ。

人々はその言葉を信じたわけではない――言葉そのものに信仰を抱いたからではない。

後に歴史が、それを否定することを許さなかったからだ。

だが、はっきりと口にされることのなかった真実がある……

理解を伴わない試みは、

英雄的行為などではなく――

破滅への最短ルートなのだ。

ロイドは戦いの傷跡が刻まれた岩に背を預けて座っていた。体はまだ静かに不平を訴え続けている。暗い痣が肌を染め、張り詰めた筋肉は完全に緩むことを拒む。呼吸はようやく落ち着いたものの、まだ平穏なリズムには戻っていない。

ゆっくりと手を目の前にかざした。

指先が、わずかに震える。

そして、握りしめる。

感覚は残っている。

痛みも残っている。

だが、制御……は取り戻せていた。

片目――健常な方を閉じ、深く息を吐く。

「……よし」

その言葉は口に出さず、心の中で宣言された。

処刑の始まりだった。

「次に勝つためには、まず真実と向き合わなければならない」

完全に静止する。

そして戦いを再生し始めた。

ぼやけた記憶ではなく、意図的に分解された一場面として――動作ごとに、細かく。

「まずは、負けた本当の理由からだ」

一瞬の間。

そして、自分自身に隠さず認めた。

「敵は……文字通り、全ての面で俺を上回っていた」

脳裏に、龍の姿が鮮明に浮かび上がる。

「速さ」

攻撃は反応が終わる前に届いていた。

「精度」

一撃たりとも無作為ではなかった。全てに目的があった。

「反応」

一度外しても、隙など生じさせなかった。

「そして力……」

ロイドの顎がわずかに強張る。

「差は明らかだった。屈辱的だった」

だが、それだけではない。最悪なのはそこではなかった。

ゆっくりと、紅の瞳を開く。

コア

静寂。

「見た」

「その圧力を感じた」

無意識に拳が握り締められる。

そして、心の奥で、低く鋭く呟いた。

「なのに……使わなかった」

もう一度、間。

訂正する。

「いや……」

「使う必要すらなかった」

より重い沈黙が降りる。

「そこに……俺の真の敗北があった」

視線を掌に落とす。

「俺が弱かったから負けたわけじゃない」

「間違った考え方で戦いに臨んだから負けたんだ」

再び場面が蘇る。

無謀な突進。

生の力への依存。

速やかに終わらせようとした浅はかさ。

「俺は倒すために戦った」

「理解するために戦わなかった」

深く息を吸う。

「本能ではなく、蓄積された経験で戦う存在に対して……それは致命的な過ちだった」

わずかに顔を上げる。

「龍には隙がなかったわけじゃない」

ほとんど見えない、薄い笑みが浮かぶ。

「ただ俺が、まだそれを見極められる域に達していなかっただけだ」

ここから本当の分析が始まる。

「翼は強力だが……重さがある」

「大きく動くたび、わずかな安定の瞬間が必要だった」

間。

「頭部は弱点ではない……だが指揮中枢だ」

「戦いのリズムが変わるのは、いつもそこからだった」

そして――長い静寂。

紅の瞳が細まる。

「だが、何よりも……」

息を吐く。

「あの

感覚が蘇る。

「決定的な一撃の前……必ず一瞬、止まっていた」

躊躇ではない。

恐れでもない。

「測り」だ。

ロイドは顔を上げた。

「コンマ何秒か」

今度は、はっきりとした半笑い。

「それが、入り口だ」

ゆっくり立ち上がる。体は抗議したが、裏切らなかった。痛みは背景音に成り下がった――指揮官ではなく。

父の剣を握る。

重さは懐かしい。

バランスは正しい。

「力だけでは足りない」

「速さだけでは救われない」

視線を、地平線の彼方へ――あの存在が消えた方向へ。

そして、誰にも聞かせる必要のない声で、はっきりと言った。

「次は……」

間。

いまや、にやりとした笑みが完全に浮かんでいる。

「勝つために戦うんじゃない」

紅の瞳が、真っ直ぐ前を捉える。

「お前を……本気で戦わせるために戦う」

空気は動かない。

だが世界は……

何かが、決定的に変わったことを感じ始めていた。

夜はゆっくりと降りてきた――突然の客ではなく、静かな重力のように大地を覆うように。

空は深いビロード色に染まり、淡い星々が刺さる。空気は冷え、湿った土と、昼の熱を徐々に手放す石の匂いを運んでくる。

ロイドは足を止めた。

退却ではない……意識的な選択だ。

体はまだ前の戦いの痕を残している。痛みは刺さるほどではなくなったが、動きのたびに回復が未完であることを思い出させる。何より、真の武器である精神が――静寂を必要としていた。

「今突っ込むのは……仮面をかぶった自殺だ」

無言の思考が浮かび、近くの洞窟へ向かう。暗い口、乾いた内部、比較的安全。

小さな火を起こす――寒さをしのぐ程度に、位置を明かさない程度に。座って、炎を見つめる。

呼吸が静まる。

体が降伏する。

ロイドは深く、夢のない眠りに落ちた――意識が意図的にメンテナンスのために切られたかのように。

しばらくして、洞窟の入口に小さな影が現れた。

幼い龍。

静かに近づき、輝く瞳に炎の舌が映る。ロイドを見て、そして隣に体を丸める。翼は明らかに疲弊して折り畳まれている。核を酷使した代償は明らかだったが、それでも彼の傍にいるのは……本能的だった。

二者は共に眠った。

夜は、珍しい静けさの中で過ぎていった。

夜明けと共に、全てが変わった。

黄金の糸のような光が洞窟に忍び込む。朝の匂い――草、湿り気、生命――が空間を満たす。ロイドはゆっくり目を開けた。体の重さは感じるが、もう耐えられる重さだ。

立ち上がる。

慎重に動く。

近くの小川で兎を捕らえ、経験から来る手慣れた動きで皮を剥ぐ。肉が焼けるにつれ、温かく正直な焼肉の香りが広がる――生命が続いているという、無言の宣言。

静かに食べる。

川の水を飲む。

一瞬、目を閉じる。

体……良くなった。

精神……ここにある。

意志……研ぎ澄まされた。

立ち上がり、剣帯をきつく締め直す。

今度は声に出して言った。

「……よし」

一拍。

小さく、自信に満ちた笑み。

「今度こそ……どちらが勝つか、見せてもらおう」

そして歩き出す。

門への道は、もはや静かではなかった。

森は木々を濃くし、光は断片化し、空気は重くなる。一歩ごとに葉が砕け、遠くの生き物たちが姿を見せずに監視する。

そして――

感覚が変わった。

胸に軽い圧迫。

空気に金属の匂い。

不自然な静寂。

ロイドは即座に足を止めた。

「……龍じゃない」

思考する。

「だが、危険度が劣るわけでもない」

地面が震えた。

そして、木々の間から姿を現した。

ほぼ三メートルの巨獣。黒い骨質の装甲に、赤く輝く亀裂が走る。頭部は狼と捕食昆虫の異様な融合――伸びた顎に鋸歯状の牙が並び、濃い唾液が滴る。胸には明らかな核――濃紅色――がゆっくり脈打っている。

ガルモス……道を砕く者。

地域の頂点捕食者。

門に近づく者を喰らう者。

咆哮。

それは単なる威嚇ではなく、近くの木々を震わせる圧力波だった。

ロイドは動かない。

呼吸を整える。

「……よし」

声は、殺意すら感じさせるほど静かだった。

「素晴らしい、訓練の機会だ」

ガルモスは半円を描くように回り始める――距離を測り、リーチを計り、肩と膝を読む。古の狩人。

ロイドはメッセージを理解した。

「突っ込んだら……読まれる」

ゆっくり剣を抜く。

攻撃はしない。

ガルモスが先に動いた――低く、斜めの突進。ロイドを旋回させる。

退却すれば二つに裂かれる――その瞬間を感じた刹那、

紅の瞳が応えた。

光ではない。

脈動でもない。

突然、氷のような明晰さが脳裏に広がる。

音が遠のく。

色が収縮する。

獣の動きが……透明になる。

遅くなったわけではない。

明確になったのだ。

ガルモスの前爪が、突進前に地を抉る時間がコンマ何秒か長すぎた。顎はすぐには閉じず――防御の動きを待っていた。

「ガードを強制して……噛む気だ」

ロイドは剣を構えない。

横に滑る――短く、計算された一歩。首元をかすめた空気は、皮膚を焼くほど熱かった。

即座に尾が来る。

追撃。

だがロイドは、それが始まる前に見ていた。未来を見たのではなく、筋肉の張りと重心の移動を読んだのだ。

剣を傾ける――受けではなく、逸らす。

火花。

半歩、後退。

ガルモスが止まる。

初めて。

頭がわずかに傾く。

再計算中。

「賢い……」ロイドは思う。

「なら、もっと精密にやらねば」

再び獣が襲う――今度はロイドではなく、その背後の地面を狙う。衝撃で土が割れ、濃い土煙が視界を殺す。

戦術行動。

だがロイドは感じていた――二人を包むの渦を。振動、音、気圧。

尾が煙から現れた瞬間、動く。

輝く亀裂の一つへ、鋭く一撃。

貫通はしない。

だが、亀裂を塞いだ。

エネルギーが乱れる。

ガルモスが咆哮――痛みではなく、均衡の崩壊。

「核は直接叩かない……」

ロイドは自らに言い聞かせる。

「……包囲するんだ」

戦いが、変質し始めた。

ロイドはもう肉体を攻撃しない。

リズムを攻撃する。

二歩下がる。

半分のフェイント。

一撃――そして離脱。

紅の瞳が内側から燃える。軽い頭痛が芽生え、視界が狭まる。

「一分……いや、それ以下か」

ガルモスが全力で突進。

失策。

ロイドは待つ。

胸を晒してエネルギーを溜めた瞬間――

叩き込む。

三つ目の亀裂へ集中打。

続けて四つ目。

赤いエネルギーが揺らぎ、核がリズムを失う。

耳を劈く絶叫。

最後の一撃――力ではなく、精密さ。

核が、砕けた。

重い崩落。

森が静寂に包まれる。

ロイドは片膝をつく。

紅の瞳が消える。

痛みが一気に襲う――鋭い頭痛、眼窩の熱、軽い出血。深く、苦しげに息をする。

だが、立っていた。

獣の亡骸を見下ろす。

「……そういうことか」

呟き。

「強くなる必要はないんだ」

視線を地平へ。

門へ。

二度と騙せない何かへ。

ゆっくり、笑みが広がる。

「次は……お前の全力を見せてもらう」

そして今は静かな紅の瞳は――

なおも、見つめ続けていた。


第20章 終わり

次の章でお会いしましょう

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ