第20章:試みるだけでは足りない
この章を楽しんでいただければ幸いです。誤字脱字がありましたらご容赦ください。どうぞお楽しみください!
人生のある一日、アレクサンダー大王は、自分が死んだ後もずっと生き続ける言葉を口にした――彼自身の肉体よりも長く死を生き延び、そして不可能の前に立つ人間が現れるたびに、何度も呼び起こされる言葉を。
「本気で試みる者にとって、不可能なことなど何もない」
彼はまだ若く、何も相続していない男としてそれを口にした。
帝国など継がなかった。
世界から無理やり奪い取ることを決めたのだ。
人々はその言葉を信じたわけではない――言葉そのものに信仰を抱いたからではない。
後に歴史が、それを否定することを許さなかったからだ。
だが、はっきりと口にされることのなかった真実がある……
理解を伴わない試みは、
英雄的行為などではなく――
破滅への最短ルートなのだ。
ロイドは戦いの傷跡が刻まれた岩に背を預けて座っていた。体はまだ静かに不平を訴え続けている。暗い痣が肌を染め、張り詰めた筋肉は完全に緩むことを拒む。呼吸はようやく落ち着いたものの、まだ平穏なリズムには戻っていない。
ゆっくりと手を目の前にかざした。
指先が、わずかに震える。
そして、握りしめる。
感覚は残っている。
痛みも残っている。
だが、制御……は取り戻せていた。
片目――健常な方を閉じ、深く息を吐く。
「……よし」
その言葉は口に出さず、心の中で宣言された。
処刑の始まりだった。
「次に勝つためには、まず真実と向き合わなければならない」
完全に静止する。
そして戦いを再生し始めた。
ぼやけた記憶ではなく、意図的に分解された一場面として――動作ごとに、細かく。
「まずは、負けた本当の理由からだ」
一瞬の間。
そして、自分自身に隠さず認めた。
「敵は……文字通り、全ての面で俺を上回っていた」
脳裏に、龍の姿が鮮明に浮かび上がる。
「速さ」
攻撃は反応が終わる前に届いていた。
「精度」
一撃たりとも無作為ではなかった。全てに目的があった。
「反応」
一度外しても、隙など生じさせなかった。
「そして力……」
ロイドの顎がわずかに強張る。
「差は明らかだった。屈辱的だった」
だが、それだけではない。最悪なのはそこではなかった。
ゆっくりと、紅の瞳を開く。
「核」
静寂。
「見た」
「その圧力を感じた」
無意識に拳が握り締められる。
そして、心の奥で、低く鋭く呟いた。
「なのに……使わなかった」
もう一度、間。
訂正する。
「いや……」
「使う必要すらなかった」
より重い沈黙が降りる。
「そこに……俺の真の敗北があった」
視線を掌に落とす。
「俺が弱かったから負けたわけじゃない」
「間違った考え方で戦いに臨んだから負けたんだ」
再び場面が蘇る。
無謀な突進。
生の力への依存。
速やかに終わらせようとした浅はかさ。
「俺は倒すために戦った」
「理解するために戦わなかった」
深く息を吸う。
「本能ではなく、蓄積された経験で戦う存在に対して……それは致命的な過ちだった」
わずかに顔を上げる。
「龍には隙がなかったわけじゃない」
ほとんど見えない、薄い笑みが浮かぶ。
「ただ俺が、まだそれを見極められる域に達していなかっただけだ」
ここから本当の分析が始まる。
「翼は強力だが……重さがある」
「大きく動くたび、わずかな安定の瞬間が必要だった」
間。
「頭部は弱点ではない……だが指揮中枢だ」
「戦いのリズムが変わるのは、いつもそこからだった」
そして――長い静寂。
紅の瞳が細まる。
「だが、何よりも……」
息を吐く。
「あの間」
感覚が蘇る。
「決定的な一撃の前……必ず一瞬、止まっていた」
躊躇ではない。
恐れでもない。
「測り」だ。
ロイドは顔を上げた。
「コンマ何秒か」
今度は、はっきりとした半笑い。
「それが、入り口だ」
ゆっくり立ち上がる。体は抗議したが、裏切らなかった。痛みは背景音に成り下がった――指揮官ではなく。
父の剣を握る。
重さは懐かしい。
バランスは正しい。
「力だけでは足りない」
「速さだけでは救われない」
視線を、地平線の彼方へ――あの存在が消えた方向へ。
そして、誰にも聞かせる必要のない声で、はっきりと言った。
「次は……」
間。
いまや、にやりとした笑みが完全に浮かんでいる。
「勝つために戦うんじゃない」
紅の瞳が、真っ直ぐ前を捉える。
「お前を……本気で戦わせるために戦う」
空気は動かない。
だが世界は……
何かが、決定的に変わったことを感じ始めていた。
夜はゆっくりと降りてきた――突然の客ではなく、静かな重力のように大地を覆うように。
空は深いビロード色に染まり、淡い星々が刺さる。空気は冷え、湿った土と、昼の熱を徐々に手放す石の匂いを運んでくる。
ロイドは足を止めた。
退却ではない……意識的な選択だ。
体はまだ前の戦いの痕を残している。痛みは刺さるほどではなくなったが、動きのたびに回復が未完であることを思い出させる。何より、真の武器である精神が――静寂を必要としていた。
「今突っ込むのは……仮面をかぶった自殺だ」
無言の思考が浮かび、近くの洞窟へ向かう。暗い口、乾いた内部、比較的安全。
小さな火を起こす――寒さをしのぐ程度に、位置を明かさない程度に。座って、炎を見つめる。
呼吸が静まる。
体が降伏する。
ロイドは深く、夢のない眠りに落ちた――意識が意図的にメンテナンスのために切られたかのように。
しばらくして、洞窟の入口に小さな影が現れた。
幼い龍。
静かに近づき、輝く瞳に炎の舌が映る。ロイドを見て、そして隣に体を丸める。翼は明らかに疲弊して折り畳まれている。核を酷使した代償は明らかだったが、それでも彼の傍にいるのは……本能的だった。
二者は共に眠った。
夜は、珍しい静けさの中で過ぎていった。
夜明けと共に、全てが変わった。
黄金の糸のような光が洞窟に忍び込む。朝の匂い――草、湿り気、生命――が空間を満たす。ロイドはゆっくり目を開けた。体の重さは感じるが、もう耐えられる重さだ。
立ち上がる。
慎重に動く。
近くの小川で兎を捕らえ、経験から来る手慣れた動きで皮を剥ぐ。肉が焼けるにつれ、温かく正直な焼肉の香りが広がる――生命が続いているという、無言の宣言。
静かに食べる。
川の水を飲む。
一瞬、目を閉じる。
体……良くなった。
精神……ここにある。
意志……研ぎ澄まされた。
立ち上がり、剣帯をきつく締め直す。
今度は声に出して言った。
「……よし」
一拍。
小さく、自信に満ちた笑み。
「今度こそ……どちらが勝つか、見せてもらおう」
そして歩き出す。
門への道は、もはや静かではなかった。
森は木々を濃くし、光は断片化し、空気は重くなる。一歩ごとに葉が砕け、遠くの生き物たちが姿を見せずに監視する。
そして――
感覚が変わった。
胸に軽い圧迫。
空気に金属の匂い。
不自然な静寂。
ロイドは即座に足を止めた。
「……龍じゃない」
思考する。
「だが、危険度が劣るわけでもない」
地面が震えた。
そして、木々の間から姿を現した。
ほぼ三メートルの巨獣。黒い骨質の装甲に、赤く輝く亀裂が走る。頭部は狼と捕食昆虫の異様な融合――伸びた顎に鋸歯状の牙が並び、濃い唾液が滴る。胸には明らかな核――濃紅色――がゆっくり脈打っている。
ガルモス……道を砕く者。
地域の頂点捕食者。
門に近づく者を喰らう者。
咆哮。
それは単なる威嚇ではなく、近くの木々を震わせる圧力波だった。
ロイドは動かない。
呼吸を整える。
「……よし」
声は、殺意すら感じさせるほど静かだった。
「素晴らしい、訓練の機会だ」
ガルモスは半円を描くように回り始める――距離を測り、リーチを計り、肩と膝を読む。古の狩人。
ロイドはメッセージを理解した。
「突っ込んだら……読まれる」
ゆっくり剣を抜く。
攻撃はしない。
ガルモスが先に動いた――低く、斜めの突進。ロイドを旋回させる。
退却すれば二つに裂かれる――その瞬間を感じた刹那、
紅の瞳が応えた。
光ではない。
脈動でもない。
突然、氷のような明晰さが脳裏に広がる。
音が遠のく。
色が収縮する。
獣の動きが……透明になる。
遅くなったわけではない。
明確になったのだ。
ガルモスの前爪が、突進前に地を抉る時間がコンマ何秒か長すぎた。顎はすぐには閉じず――防御の動きを待っていた。
「ガードを強制して……噛む気だ」
ロイドは剣を構えない。
横に滑る――短く、計算された一歩。首元をかすめた空気は、皮膚を焼くほど熱かった。
即座に尾が来る。
追撃。
だがロイドは、それが始まる前に見ていた。未来を見たのではなく、筋肉の張りと重心の移動を読んだのだ。
剣を傾ける――受けではなく、逸らす。
火花。
半歩、後退。
ガルモスが止まる。
初めて。
頭がわずかに傾く。
再計算中。
「賢い……」ロイドは思う。
「なら、もっと精密にやらねば」
再び獣が襲う――今度はロイドではなく、その背後の地面を狙う。衝撃で土が割れ、濃い土煙が視界を殺す。
戦術行動。
だがロイドは感じていた――二人を包む気の渦を。振動、音、気圧。
尾が煙から現れた瞬間、動く。
輝く亀裂の一つへ、鋭く一撃。
貫通はしない。
だが、亀裂を塞いだ。
エネルギーが乱れる。
ガルモスが咆哮――痛みではなく、均衡の崩壊。
「核は直接叩かない……」
ロイドは自らに言い聞かせる。
「……包囲するんだ」
戦いが、変質し始めた。
ロイドはもう肉体を攻撃しない。
リズムを攻撃する。
二歩下がる。
半分のフェイント。
一撃――そして離脱。
紅の瞳が内側から燃える。軽い頭痛が芽生え、視界が狭まる。
「一分……いや、それ以下か」
ガルモスが全力で突進。
失策。
ロイドは待つ。
胸を晒してエネルギーを溜めた瞬間――
叩き込む。
三つ目の亀裂へ集中打。
続けて四つ目。
赤いエネルギーが揺らぎ、核がリズムを失う。
耳を劈く絶叫。
最後の一撃――力ではなく、精密さ。
核が、砕けた。
重い崩落。
森が静寂に包まれる。
ロイドは片膝をつく。
紅の瞳が消える。
痛みが一気に襲う――鋭い頭痛、眼窩の熱、軽い出血。深く、苦しげに息をする。
だが、立っていた。
獣の亡骸を見下ろす。
「……そういうことか」
呟き。
「強くなる必要はないんだ」
視線を地平へ。
門へ。
二度と騙せない何かへ。
ゆっくり、笑みが広がる。
「次は……お前の全力を見せてもらう」
そして今は静かな紅の瞳は――
なおも、見つめ続けていた。
第20章 終わり
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