✦ 第12章:古の誓いの残響 ✦
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静寂が王の大広間を包み込む。
重々しい音を立てながら、巨大な扉がゆっくりと閉ざされた。
金属の蝶番が大理石の床をこすり、まるで古代の獣が息を吐くような深い残響を残す。
大臣たちは息を潜め、誰一人として声を発しない。
王の言葉がまだ脳裏に響いていた――それはまるで、新たな時代の到来を告げる鐘の音のように。
ロイドはカインと並んで白亜の大理石の回廊を歩く。
松明の炎が揺れ、二人の影が長く伸びては交わり、そして再び離れていく。
まるで運命に繋がれた師弟――過去と未来、その二つの影のように。
沈黙が二人の間に重く垂れ込めていた。
その静寂は、呼吸さえも罪に思えるほど。
やがてカインが立ち止まり、わずかに震える声で言葉を紡いだ。
> 「まさか、こんな形で再会するとはな……ロイド。
一週間でここまで変わるとは思わなかった。」
ロイドはゆっくりと顔を上げ、松明の光がその瞳に反射した。
穏やかな声――だがその奥には、嵐のような記憶が渦巻いていた。
> 「変化っていうのは……選択じゃない。
生き残るための、唯一の代償なんですよ。」
その言葉はカインの胸を鋭く貫いた。
拳を握りしめ、彼は叫ぶ。
> 「違う! そんな短期間で人は変わらない!
英雄には……一夜でなれやしない!」
ロイドはかすかに笑う。
それは運命を嘲るかのような、苦笑だった。
> 「ハハ……僕には僕なりのやり方があるんです。
あなたのテストから逃げてたはずが……死神から逃げてたんですよ。
“核”を持つ獣に追われながらね。」
カインの瞳が大きく見開かれる。
> 「ま……待て、それはどういう――」
ロイドが言葉を遮る。静かながらも刃のように鋭い声で。
> 「死にかけた回数なんて、もう数えきれません。
何度も、何度も――恐怖で壊れそうになった。
今でも“核”を持つ存在を見ると……心のどこかが砕ける気がする。
それが僕を壊したんですよ、師匠。」
カインの顔に後悔の色が浮かぶ。
そっとロイドの肩に手を置き、優しく微笑む。
> 「……すまない、ロイド。
お前を守るべきだった。
けれど……生きていてくれて、本当に嬉しい。」
ロイドは目尻に滲んだ涙を拭い、微笑んだ。
> 「ありがとう、師匠。
その言葉を聞けるなんて、思ってもいませんでした。」
> 「さあ、全部話してくれ。
お前の“狂った冒険談”をな。」
ロイドは目を伏せ、小さく呟く。
> 「……誰かに気にかけてもらえるなんて、
それだけで救われる気がしますね。」
そして、彼は語り始めた――
森での最初の夜、闇を裂く咆哮、体の奥から溢れた“気”の奔流。
そして――あの瞬間。
彼の瞳が、紅に染まった瞬間を。
時間が歪み、世界がゆっくりと沈む。
鼓動が雷鳴のように響き、全身を灼く痛みが襲う。
> 「……目が赤くなった、だと?」
カインの声が震えた。
> 「はい。時間が遅くなって、すべてが見えた。
でも、終わった後は地獄のような痛みが……。」
> 「ロイド、それは“特別”だ。
贈り物か、あるいは呪いかもしれん。
いいか、使いすぎるな。そして……誰にも見せるな。
見せた瞬間、お前は“狙われる”。」
ロイドは自信に満ちた笑みを浮かべた。
> 「心配いりません。
あれは僕の意思で出せるものじゃない。
勝手に現れ、そして消えたんです。」
カインは月明かりの窓を見上げ、低く呟いた。
> 「紅の瞳……まさか、彼が覚醒するとは。」
ロイドが首を傾げる。
> 「師匠? 何か言いましたか?」
だがカインは答えない。
月光が雲に隠れ、闇がすべてを覆い隠した――。
彼の脳裏に、遠い昔の声が響く。
> 『目が覚めし時――運命は動き出す。』
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夜が明け、黄金の光が王都を照らす。
競技場には王と貴族、騎士たちが集い、息を呑んで見守っていた。
ロイドが一歩、前へ出る。
銀の剣が光を反射し、彼の瞳に決意の炎が宿る。
> 「さて……今回の相手は誰ですか?」
重い扉が開き、黒鎧の巨騎士が姿を現す。
その斧には稲妻が走っていた。
> 「我は“雷核”の第三円、ハルノ・サトウ!」
ロイドは驚き、眉を上げた。
> 「第三円……?」
――「核」とは“内なる力”の源。
その制御の深さは“円”として数えられ、十二段階に分かれる。
ハルは口元に笑みを浮かべた。
> 「若いな、坊主。
だが悪くない。これは――授業だと思え。」
> 「では、全力で学ばせてもらいます!」
カインの声が響く。
> 「両者、構えよ――始め!」
――刹那。
空気が震え、沈黙が裂けた。
剣と斧がぶつかり合い、火花が散る。
王は身を乗り出し、眼差しを鋭くする。
> 「……防御が完璧だ。」
ロイドは息を荒げながら後退した。
> 「速い……それに硬い。」
再び踏み込み、斬撃の嵐を放つ。
だが全て受け流される。
そして、腹部への蹴り――
> 「ぐっ……!」
> 「まだ終わらんぞ!」
斧が閃光のように振り下ろされる。
ロイドはギリギリで回避し、気を高める。
> 「くそっ、防御が鉄壁すぎる……!」
観客席では王が呟く。
> 「なぜ“核”を使わぬ?」
> 「侮っているのかもしれませんな。」
> 「いや……カインの弟子がそんなことをするはずがない。」
> 「本気を出せ、少年! さもなくば叩き潰す!」
ロイドは静かに息を吐き、笑った。
> 「倒れませんよ。」
再び二人がぶつかり合う。
雷と鋼が咆哮し、大地が震えた。
ロイドは吹き飛ばされながらも立ち上がる。
> 「まだだ……まだ終わっていない!」
血を吐きながらも笑うロイド。
> 「何度倒れても……何度でも立ち上がる。それが僕です!」
観客がどよめく。
カインは小さく呟く。
> 「それでこそ……俺の弟子だ。」
ロイドは最後の力を振り絞り、突撃する。
地面が裂け、風が唸る。
だが――
雷が一閃。
彼の体が宙を舞い、静寂が訪れた。
ハルが歩み寄り、穏やかに言う。
> 「見事だった、ロイド。
核を使わずにここまで来るとは……想定外だった。」
> 「試合、終了だ。」
去り際に、彼は一言だけ残した。
> 「いつか……この少年は、私を超えるだろう。」
カインは静かに目を閉じた。
> 「ああ……間違いない。」
その瞬間――
ロイドの体内で、何かが“目覚めた”。
再び、紅の瞳が――開く。
第12章・完
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