第11章:運命の召喚(Unmei no Shōkan)
楽しい読書
「う…あ…あぁ……ま、待って……どのくらい気を失っていたんだ?」
ロイドは震える声でつぶやいた。額には汗が滲み、息も荒い。
「七時間ほど眠っていました。」
穏やかな声でユウキが答える。彼女はロイドの傍らに座り、安堵の微笑を浮かべていた。
ロイドは枕に身を沈めたが、心は落ち着かなかった。
脳裏に焼きついた光景が次々と蘇る——燃え上がる家、家族の叫び、闇の中に光る真紅の瞳。
そして、意識を失う直前に聞こえた、あの謎の声。
ロイドは毛布を握りしめ、低くつぶやいた。
「……逃げない。」
ユウキが顔を上げた。
「何か言いましたか、ロイド様?」
ロイドはすぐに首を振り、視線を逸らす。
「いや、何でもない。それより……みんなは無事か?」
ユウキは穏やかな笑みを浮かべた。
「はい、皆さんご無事です。あなたの目覚めを待っていました。」
「……そうか。」
ロイドはゆっくりと息を吐いた。
ユウキは静かに立ち上がり、衣を整えて言った。
「では、皆さんに伝えてきます。」
彼女が去ると、テントの中は静寂に包まれた。
薄い幕の隙間から差し込む陽光が床に淡い影を落とす。
ロイドは左目を押さえ、その奥に熱を感じた。
——戦いの時、瞳が紅く染まった瞬間。
敵の動きが見えた。世界がスローモーションのように感じられた。
【あの目は単なる異変ではない。攻撃の軌道を見抜き、体内の気の流れを高め、反応速度を飛躍的に上げる。だがその力は危険でもある。制御を誤れば、肉体を内側から壊しかねない。】
ロイドは手を離し、苦笑を漏らした。
「……すごい力だ。でも、危うい。
けど、構わない。いつか必ず、使いこなしてみせる。諦めはしない!」
彼は勢いよく立ち上がったが、激しい頭痛に襲われた。
その時、外から喧騒が聞こえてきた。人々の声、蹄の音、叫び。
テントを出ると、村人たちが白馬に乗った王国騎士たちを取り囲んでいた。
その中の一人、堂々たる体格の騎士が叫ぶ。
「盗賊団を倒した少年はどこだ!?」
村長ノボル・フジが前へ出た。年老いた体でありながら、目には確かな力が宿っている。
「その少年に何の用だ? 彼は罪など犯していない。むしろ、この村を救ってくれたのだ。」
「あなたがこの村の長か?」と騎士が尋ねる。
「そうだ。」
「お会いできて光栄です。国王陛下の命により、その少年を連れて参りました。会わせていただけませんか?」
ロイドが一歩前へ進み出る。視線が一斉に彼へ集まった。
「探しているのは僕です。陛下の召喚に応じます。」
騎士は目を見開いた。
「な……お前が? 本当に? ……信じられん。だが命令だ、ついてこい。」
ロイドは優しく微笑み、村人たちを振り返った。
「お世話になりました。また会いましょう。」
沈黙の後、別れの声が広がる。
「本当に行くのか?」とノボルが問う。
「心配いりません。僕は大丈夫です。」
ロイドは黄金の馬車に乗り込み、村人たちが手を振る中、ゆっくりと旅立った。
「ずいぶん慕われてるようだな。」
「ええ。……もう彼らは、僕の友人です。」
数時間後、日が沈みかけた頃、馬車は森を抜けた。
夜が訪れ、騎士たちは野営の準備を始める。
火が灯り、焚き火の炎が鎧を照らす。
一人の騎士が口を開いた。
「なぁ少年、名前は?」
ロイドは炎を見つめたまま、静かに言う。
「名乗るほどのものじゃない。」
「俺はカイジだ。よろしくな。」
「こちらこそ。」
「本当にお前が盗賊団を倒したのか? 信じられねぇな。」
ロイドは小さく笑った。
「戦術を教えてくれた師匠のおかげです。」
「師匠?」
「はい。あの人がいなければ、今の僕はいませんでした。」
沈黙が流れた。ロイドは立ち上がり、
「すみません。明日に備えて休みます。」と言ってテントに入った。
騎士たちはその背を見送りながら、無言の敬意を覚えた。
❖ ❖ ❖
夜明け——。
朝日が平原を照らし、遠くに王都の城壁が見え始めた。
「すごい……これが王都か……!」
ロイドの瞳が輝く。
やがて馬車は王宮の前で止まった。
黄金の門、赤い絨毯、厳重な警備。
「陛下、少年をお連れしました。」
「入れ。」
重厚な扉が開き、ロイドが大広間に足を踏み入れる。
貴族や将軍たちの視線が一斉に集まる。
その中にオリヴィア、そして——王の隣にはカインの姿があった。
「カイン……!? なぜここに?」
「ロイド!? お前が……!」
「その少年を知っているのか?」と王の声が響く。
「はい、陛下。彼は……私の弟子です。」
広間にざわめきが走る。
「弟子だと? なぜ報告せなんだ?」
「申し訳ありません。彼は五年前、アルズラス村の唯一の生存者でした。
私は彼を保護し、育て、鍛えました。」
王はしばし黙考し、ロイドを見据えた。
そこに立つのは、ただの少年ではない。
——何か、もっと大きな“何か”を背負う者。
「明日の夜明け、王立訓練場に来い。
お前の力を見せよ。カインの弟子であると証明してみせろ。」
ロイドは迷いなく答えた。
「承知しました、陛下。」
広間がざわつく。
オリヴィアは黙ったまま、彼の背中を見つめる。
(アルズラスの生存者……カインの弟子……彼には、何か計り知れないものがある……)
ロイドは静かに頭を下げ、広間を去った。
その背を、多くの瞳が追い続けていた。
——敬意、興味、そして……疑念を込めて。
❖ ❖ ❖
そして、遥か彼方の闇の中で——。
形なき虚空。
浮かぶ黒い椅子に、仮面の男が座っていた。
彼の前には、自ら動くチェスの駒。
「フフ……駒は、思い通りに動いている。」
仮面の奥で光る双眸。
指先でキングの駒を転がしながら、低く呟く。
「良い……実に良い。
計画は順調だ。予想外の要素もあるが……」
唇が吊り上がる。
「ふふふ……あの少年は、面白い駒になりそうだ……ハハハハハハ!」
虚空に反響する笑い声。
最後の駒が盤上に落ち、鋭い音が響く。
——まるで、運命の鐘が鳴り響いたかのように。
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少年は運命へと歩み出す。
それが、全ての始まりだった。
次の章に別れを告げて、サポートすることを忘れないでください。私はあなたに挑戦します。あなたが想像できるようにロイドを描くために1週間あります。




