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人に言えないこと②

 九鼎商事での取り調べを終えた。

「広瀬さんが平沢さんをストーキングしていた疑いが浮上してきましたね」と茂木が言うと、柊は「だから何だ? やつが平沢さんをストーキングしていたからと言って、彼女の部屋で殺されていた理由が判明した訳ではない」と相手にしない。

「平沢さんの留守中に私物を物色するためか、平沢さんを待伏せるために窓ガラスを割って部屋に侵入したのではないでしょうか?」

「そうだとして、誰があいつを殺害したのだ? 何故、広瀬は殺されたのだ?」

 そう矢継ぎ早に聞かれても分からない。

「すいません。分かりません」

「捜査が前進したうちには入らない。うかれるな!」と釘を差されてしまった。

 九鼎商事の後は、同じビルにあるトレンド・ツアーリズムを尋ねた。

 トレンド・ツアーリズムは主にネット販売を中心とした旅行会社で、ここ数年で急成長を遂げたベンチャー企業だ。ネットを中心にビジネスを展開している。雅恵は大手旅行会社からの転職組だそうで、トレンド・ツアーリズムの営業部に勤務している。雅恵の若さで既に営業部の係長だと言うので、有能なOLのようだ。

 職場の上司だという、藤堂晶子(とうどうあきこ)という女性が応対に出て来た。

「あんなことがありましたので、暫く休んで良いと課長が休暇を与えました」

 平沢雅恵は休暇を取っていると言う。

「彼女からは、また改めて話を聞かなければなりませんので、今日は関係者からお話をお伺いできれば結構です」と柊。

「はあ・・・」と藤堂が頷く。

「平沢さんとは、どういったご関係で?」

「彼女は私がスカウトして、うちに来てもらった人です」

「スカウト?」

「前の会社で一緒に働いていました。彼女の企画力にほれ込んで、仕事を一から叩き込んで育てました。彼女も私の期待に応えようと必死に頑張ってくれました。うちへ、転職を決めた時、一緒にやらない? と声をかけたら、是非、一緒に仕事がしたいと答えてくれたので、一緒に転職しました」

「優秀なのですね」

「ええ。女性ならではの目線で、女性のための旅を企画するのが上手くて重宝しています」

「異性関係はどうでしょう?」

「彼女に頼りっぱなしで、忙しくさせてしまっていたので、特定の人はいなかったと思います。自宅で男の人が死んでいたと聞いて、びっくりしました」

「彼女にまとわりついていた人間は?」

「ストーカーですか。具体的には何も。男の人に跡をつけられているような気がして怖かったけど、勘違いだったみたい――という話は聞いたことがあります」

「彼女とトラブルになっていた人はいませんか?」

「雅恵ちゃんが⁉ そんな。人と争うような、そんな子じゃありません」

「どんな子だって、人に言えないことがひとつやふたつあるものです」と柊は冷徹に言う。

 藤堂からの事情聴取を終えた。他にも同僚の人間から話を聞くことにした。

 雅恵と仲が良いという市瀬美湖(いちせみこ)という同僚の女性を紹介してもらった。

 雅恵と同年齢かやや下だろう。金髪巻き毛に大きな目、アヒル口、濃い化粧が素顔をすっかり変えてしまっているような女性だった。

 顔を合わすなり、「今、雅恵ちゃん、うちにいます。どうしても家に帰ることができないと言って」と市瀬は言った。

 人が殺されたのだ。怖くて部屋に帰ることが出来ないのを頷ける。それにガラス戸は壊されたままになっている。物騒だ。

「現場の保全がありますので、暫く部屋に戻れないかもしれません」と柊は冷たく言うと、ストーカーの件について尋ねてみた。すると、「そう言えば、男の人に跡をつけられているんじゃないかって感じたことが、何度かあるって言っていました。でも、ほら、もし違っていたら自意識過剰だって思われちゃうじゃないですか」と市瀬が答えた。

「そんなことはありませんよ。怪しいと思ったら、警察に通報するなりして、早めに手を打つことが肝要です」と柊がしたり顔で言った。

 正論だが、なかなか世の中はそうは行かない。

「ですよね~」と市瀬が言った後で、「マーちゃんは美人だから、気のせいってことはないんじゃないかって、私も心配していました~」と語尾を伸ばしながら言った。

 すると柊は「語尾を伸ばしてしゃべると、知性を疑われてしまいますよ」とぴしゃりと言った。こういうところは見ていて爽快だったりする。

 市瀬はうんざりした顔をした。

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