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待っていた男①

 部屋に足を踏み入れた柊は、「あの女が殺したのか?」と茂木に聞いた。

 群馬県警刑事課の柊正義(ひいらぎまさよし)は捜査一課きっての敏腕刑事だ。年は四十代後半、額が抜けるように広い。頭の良さを象徴しているかのようだ。鼻筋がすっと通り、横長の大きな目の目尻が垂れ下がっている。日本人離れした顔立ちだ。顔に比べて、胴が長く、脚が短いことが日本人であることを強調していた。

「えっ⁉」と茂木が聞き直すと、「あの事情聴取を受けている女が、この男を殺したのかと聞いているのだ」とキレ気味に繰り返した。

 平沢雅恵が部屋の片隅で同僚の刑事から事情を聞かれていた。

「まだそこまでは――」と茂木が答える。

 茂木輝基(もぎてるもと)は柊の相棒、三十代、柊と組んで六年になる。頭脳派の柊に対して、学生時代、柔道で鳴らした茂木は角張った顔に角張った体の肉体派だ。性格は穏やかで、柊の毒舌に一向に動じる気配がない。その点が、長くパートナーを組まされている原因になっているようだ。少々、図太くないと、柊の相手は神経をすり減らしてしまう。茂木が相棒を勤めるまで、柊の相棒はいずれも短命だったと聞く。

「旦那が殺されれば、犯人は奥さんに決まっている」

「いえ、彼女、この部屋の住人ですが、殺された男は彼女の旦那ではありません」

「同棲相手か」

「見知らぬ他人のようです」と茂木が答えると、「何故、見知らぬ他人が部屋で死んでいるんだ⁉」と声を荒げた。

 そこが謎なのだ。

 まともに相手をすると面倒だ。茂木は「部屋の主、平沢雅恵さんは――」と事件の状況を説明した。

 帰宅した雅恵は部屋で遺体を発見、救急に通報した。直ぐに警察官と救急隊員が駆けつけて来た。怖かったのだろう。雅恵はマンションの外で警察官と消防隊員が駆けつけて来るのを待っていた。

 救急隊員により男の死亡が確認された。

 頭部を鈍器で殴打されたことによる脳挫傷が死因と見られた。後日、凶器は家庭用の工具のひとつ、レンチであることが科捜研の鑑定により特定されている。

「事件性があり、殺人事件と思われる」と所轄の警察官から報告が上がり、県警の刑事課の柊と茂木が駆けつけて来た訳だ。

 深夜とあって、柊がやって来るのが遅かった。その間、茂木は一通り、事件について情報を仕入れておいた。

 相棒だが、柊のプライベートについては、ほとんど知らなかった。話がプライベートなことになると、「余計なことはいい!」、「無駄話をするな」とまともに相手してもらえないのだ。係長に聞いた話だと、ああ見えて既婚者で、子供が一人、女の子がいるらしい。

 しかも、子供には甘いようだ。柊が赤ちゃん言葉を話している姿なんて、想像しただけで気持ち悪くなる。遅れて来たのは、子供を風呂にでも入れていたのかもしれない。

 報告が終わると、「この部屋で死んでいたのだ。住人が知らない訳がない。確認させろ」と柊が言う。

「それは・・・難しいかと・・・」

 実際、茂木は一度、平沢雅恵に部屋に戻って遺体を確認して欲しいと頼んでみた。だが、雅恵は青い顔で「すいません。もう一度、部屋に戻るなんて無理です。私には――」と断られていた。

「無理も何も、引っ張って行ってでも確認させろ」と柊は容赦ない。

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