男爵家の末裔②
根岸亜嵐が広瀬義和殺害の犯人として逮捕された。
藤田が作成した似顔絵が決めてとなったことは間違いない。だが、広瀬は犯行当時、部屋にいたと主張し、罪を認めなかった。同じビルで働いていたと言うこと以外、根岸と広瀬との間に接点はない。根岸が犯行を否定するであろうことは、予め分かっていた。
犯行当日、根岸は雅恵が退社してから一時間程度、残業してから会社を出て、そのまま帰宅したと証言した。
根岸が住む小洒落たマンションに防犯カメラが設置されていた。防犯カメラの映像をチェックしたところ、根岸が帰宅する様子が映っていた。二十一時十三分だった。
会社には出退勤勤務システムが導入されており、社員の通用門は社員カードを翳すことで開錠でき、その際、時間が記録される。根岸が退社したのは十九時十二分、会社からマンションまで三十分程度であることを考えると、一時間以上、行方が不明だった。
「飯を食っていたんですよ」と根岸は証言した。
最寄り駅近くの定食屋で食事をとったと証言したが、防犯カメラのない店で、店主は「いちいち客の顔なんか覚えていないよ」と言うことだった。だが、接客係のアルバイトの女性は「あの夜は、来ていなかったと思います」と証言してくれた。だが、決め手に欠けた。
広瀬殺害の凶器だと思われるレンチが見つかっていない。それが根岸のマンションから出て来れば決定的な証拠になるのだが、流石に処分してしまった後だろう。
広瀬の死亡推定時刻から会社を退社後、平沢雅恵のマンションに向かい、広瀬を殺害、その後、マンションに戻ったと考えられた。根岸が当日、とったであろう行動から推測し、防犯カメラの映像をチェックし直した。すると、雅恵のマンション付近の防犯カメラの映像に根岸らしき男の姿が映っているものがあった。
だが、雅恵のマンション付近にいたことを証明しているだけで、証拠としては弱かった。
「アリバイがいい加減だ。細かいところに気が回るやつじゃない。きっと、何かヘマをしている」
柊はそう言って、家宅捜索を提案した。
これで何もでなければ責任問題になりかねない。それでも柊は家宅捜索を主張し、強行した。そして、何も出なかった。証拠は処分された後だった。
「うぬぬ・・・」と柊が歯噛みする。
柊の顔を潰す訳には行かない。茂木は必死だった。
茂木はマンションのゴミ捨て場に向かった。藁にも縋る思いだった。そして、ついに見つけた。マンションの敷地の一角、道路に面した駐車場の隅にゴミ捨て場があった。コンクリでつくられた壁に囲まれた、ドアがついている。鍵は掛かっていないが、不法投棄を避ける為に防犯カメラが設置されていることを書いたメモがドアに貼られていた。
ゴミ捨て場の隅に回収されていないゴミ袋があった。