Deum deorsum trahe(デウム・デオスルム・トラへ 神を引きずり下ろせ)④
長らく!!お待たせ致しました!!お楽しみくださいませ!次話で完結です!!そのあとちょっとだけ書きます。
世元は天宙庁殿の一番上の部屋で椅子座り、考え込む。書類を処理していたのだ。
天宙庁殿は何千mという程高く、その一番上となると、かなり気の遠くなる高さとなる。天界の中枢機関の名は伊達ではない。
ラピスの計画の影響で、己への信仰心の弱まりを感じる。
信仰心とは、力の強さに繋がる。信仰心が弱まれば、力も若干だが弱まってしまう。
なにより、己が己を信じる力が揺らぐのを感じていた。
(まさか、負けるか?この俺が?……有り得ない)
僅かな不安を見せた世元。
いつもなら、その不安に気付いた麗子がそっと励ましてくれるが、彼女は火消しに忙しく今はいない。アイドル活動によって、信仰心を保っているのだ。
眉を顰める。
「……くそ」
小さく悪態をつく。
僅かな敗北の未来が、チラついて離れなかった。
〜〜~
夕鶴と霞央留達がラピスの拠点を襲撃し、圧殺したという事実は、水面下にて、瞬く間に広がった。勿論、工作員の手によって。
その事実は、神による人間の殺戮は事実であるという話と共に、天界の民衆に恐怖と不安を与えた。
「…難しいな」
世元は顎に手を当てて思案する。天宙庁殿の世元の部屋の、若干暗めの照明が、世元の頬を照らし、高い鼻の影ができる。
過剰に反応すれば、民衆の不安を煽りかねない。しかし対応しない訳にはいかない。
「相当な曲者がいるらしい」
「そのようだね」
世元は手を拱いていた。近くにいた梅千夜も頷く。
そこに、1人の部下が走ってきた。
「反乱が起きました!!!世界様を出せと言っております!!」
「……反乱?……あいつらか」
昨今の出来事的に、チーム・ヴォルガードに違いない。
「行ってくる、梅千夜」
「いってらっしゃいなのだよ。くれぐれも、気をつけて」
「あぁ。まぁ、俺が負けることなんてない。殲滅は得意だからな」
「世界さんの手にかかれば秒殺なのだよ」
世元はフッと小さく笑って、立ち上がる。一度目を閉じて、開いた頃には、そのガーネットの瞳は真剣そのものだった。
黒と赤のマントを翻し、世元は反乱が起きた場所、"裁きの広間"へと向かって行った。
〜〜〜
反乱前日。
チーム・ヴォルガードの拠点にて、シュナとラピスは相対していた。
ラシア、グレオス達ヴォルガード神葬軍のメンバーは、反乱の支援の為に拠点に来ている。優秀な彼らがチーム・ヴォルガードに派遣されたということは、チーム・ヴォルガードはその力をジークフリートに認められたということである。
シュナだが、「皆が行くなら私も行っとこうかな」と野次馬的なノリでついてきた。呼ばれてもいないのに、勝手に。だから何をするか知らない。天界が揺るぐ大事件の真っ只中なのに、呑気な奴である。
なので、説明のために、ラピスはシュナと相対していた。
「シュナ様。明日は世元と戦う。これは、反乱軍の力を削ぐために意図的に計画した戦争だ。だからシュナ様は見ているだけでいい。世元がついやりすぎて、俺を殺しそうになったら、その時だけ止めてくれ」
「分かった!」
「よし」
その実直な素直さに、犬の躾をしている気分だな、とラピスは思う。犬種なら、白いポメラニアンだろうか……。シュナの頭に小さな犬耳を幻視した。
そっとその妄想はそばにおいておく。
ふと、上手くいくだろうか、とラピスは弱気になってしまうのであった。神たるシュナの手前、珍しく、少し弱音を吐きたくなったのである。
「……シュナ様。俺の計画は、上手くいくと思うか?」
「ん?大丈夫大丈夫!上手くいくよ!ラピスならできるって!なんたってラピスだし!」
シュナは何も考えず、とにかく明るく励ました。安心してください、履いてますよ。ではなく。シュナの中身のない明るさは、時に不安な人の心を照らし、温めるのだった。
「ふふ…そうだよな。そうだ。俺ならできる。ありがとう、シュナ様」
「いいよ〜!」
ラピスは自信を取り戻して、目に光を宿す。
そうして、チーム・ヴォルガードのメンバーは、反乱へと赴いたのであった。
〜〜〜
裁きの間に、反乱の花が咲く。
日は暮れた。空には星空が煌めいており、少し寒い風が吹く。
その場には、反乱の思想を手にした人。反乱思想はないが、神を疑い、その目で真実を確かめに来た人。時代の変わり目を見に来た野次馬。そのような天界の人達が集まっていた。
ラピスラズリは拡声器を持って、集まった人々にアナウンスする。
「今日は、集まってくれてありがとう。今日は俺達の記念日になる。なぜなら、俺達を騙して害をなそうとしている世元を倒す日だからだ!!皆で、悪の親玉、世元を倒して見せようじゃないか!!いくぞ!!!」
「オー!!!」
チーム・ヴォルガードのメンバーも、反乱思想を持つ天界人も、声を合わせて鬨の声を上げた。
シュナは、ふんふんと、祭りの予感に鼻息をフスフスさせて聞いていた。
盛り上がってきた頃、間の空気がいきなりズンッと重くなった。
皆が重圧の発生源を見上げる。シュナもそちらを振り向く。
ラピスは口角を上げて、好戦的な笑みを作る。
「王のお出ましだ」
少し低めた声で、そう宣言する。
何も無かった宙から、フッと黒い人影が現れる。
そして、会場に重い重圧をかけながら、神が降りてくる。
はためく黒と赤のコート。ふわりと靡く漆黒の髪。2m程の高い身長をした、敵国顔の男。
地獄の王、世元界司の登場であった。
裁きの広間に行った世元は、少し驚く。想像より沢山の人が集まっていたからだ。
裁きの広間は、中央に大きな舞台があって、その周りに傍観席がある。白越によって強力な結界が張られており、中央で発生した攻撃は、傍観席まで届かない。天井はなく、例えばコロシアムのように、傍観席と広いステージだけの作りだ。
床に降りた世元は、周りは見ず、真っ直ぐ、ラピスの元へ歩いてくる。ゆっくり、1歩ずつ、踵から氷柱が生えるかのごとく、真っ直ぐ。
ラピスの前に来た世元は、悠々と発言する。
「来てやったぞ。要件を言え」
顎を上げ、傲慢な態度でラピスを見下ろす。ラピスはその顔を見上げながら、歯ぎしりする。
「要求?それは勿論、お前の死と、地獄の天下を貰うことだ」
「ふっ。そんな要求、ただで飲んでやるわけにはいかないな。余興は用意してあるんだろうな?」
「勿論」
ラピスは顔をバッと上げて、手を挙げた。そしてそれを、まっすぐ前に突き出す。
「神隠しの霧、発動しろ!!」
チーム・ヴォルガードのメンバーが、大きな壺の蓋を、2人がかりで外す。すると、その中から霧が立ち込めた。
それにより、世元は人間達の姿が見えなくなった。また、チーム・ヴォルガードの攻撃すらも。
「封神の鎖!!いけ!!」
「ウォー!!」
チーム・ヴォルガードの、精鋭部隊が行く。鎖使いが、神力を一時的に封じ込めることのできる、封神の鎖を振るった。
世元に鎖が伸びる。
鎖は、霧の効果により、見えなければ、生じる音も世元には聞こえない。
体に触れた瞬間の感触だけで、反射的に避ける。かなり高速だが、世元だからこそ成せる技であった。
何度も何度も、鎖は世元を捕えようと伸びてくる。
(避けられ無くはないが……効果が知りたいな。受けるか)
少しして、世元はそう判断した。あえて立ち止まり、鎖を体に巻き付けられる。
ラピスは拳を握り、声を上げる。
「よしっ、かかった!!祈り班!!続け!!」
祈り班は一斉に詠唱を始める。念仏を唱えるような声が反響し、異様な雰囲気が会場を満たした。
「聖光、反転せよ。
嘆きを矢に、祈りを刃に。
神の座に還れ──────────」
「祈り返し!!!!!」
祈り返しが発動した瞬間、光が世元に吸収されて、裁きの間は暗転する。人々がザワついたと思えば、その声は世元に吸い込まれるように消えて、真っ暗で無音の世界が完成した。そして闇の中、どこからかボヤけた、過去の祈りの声が聞こえてくる。
「助けて」
「神様、どうか救ってください」
「何でもしますから」
世元は発光し、眩い光に包まれる。その光が天へと逆流する川のように伸びていき、天で纏まる。
そしてそれは、金色の混じった黒色に変化した。その黒い輝きから、祈りが反転した呪詛の念がハッキリと聞こえてくる。
「死ねばいいのに」
「呪ってやる」
「失望した」
「断罪されろ!!!!」
黒い光は、輝きながら勢いよく世元へと落下してきた。
「ッ、ああああッ!!!!」
世元の顔が苦痛に歪み、想像を絶する痛みが世元を襲った。ここで世元は初めて、痛みで絶叫する。これ程の痛みは、人生の中でも経験したことがない。自分に注ぐ全ての祈りが呪いに変わるのは、肉体的な痛み以上に、魂を、神格を損傷する痛みだった。
初めて聞く世元の叫び声に、シュナも、観客も驚き、動揺する。
(おぉ、世界さん押されてる……)
シュナは相変わらず呑気である。だって、模擬戦だと思ってるから。心理的に1枚隔てた所から見ているのだ。
シュナはこの間のカッパによく似た、(・_・)(・▽・)みたいな顔をして戦闘を眺めていた。周りは本気で、命を、人生を賭した戦いの中、シュナだけは何も知らず呑気に過ごしている。これでも神の女帝兼反乱軍スパイという一番ピリついた立場にいる。
世元は痛みでふらふらしていたが、尚目に光を宿し、鎖を振りほどいた。
「なっ!!」
ラピスは驚愕する。どこにそんな力が残っているというか。もう自分を支える祈りはないのに。神格も随分色褪せてしまっている。しかし世元は、ただ、天界のトップたる自分の矜恃だけで立っていた。天界の皆を守るために。
その力は、大分弱体化されてしまった。
しかし、世元は手に炎雷を宿して、リーダーであるラピスを穿とうとする。
「わっ!ダメーッ!!!!」
瞬間、シュナが転移してラピスの前に来た。
「!?」
世元は思う。その声には聞き覚えがあると。見た目は多少違うが、シュナに酷似している。世元は攻撃を躊躇った。
ラピスはハッとしたように笑みを浮かべ、声を上げる。
「今だ!!!」
「ッ!!!」
(油断した!!!!)
世元は苦虫を噛み潰したような顔をする。完璧に油断した。
「神喰の炎!!!いけー!!!!神を喰らえーーーッ!!!!!」
神葬軍の神を焼く炎が世元を襲う。
ドオオオォォォン!!!!!
激しい炎が上がる。
「やった、倒した……!!」
ラピスは、神葬軍は、喜びの声を上げる。
神葬軍には歓喜の雰囲気がムクムクと沸き上がり、一同は歓声を上げた。
「ワーッ!!!!」
「勝ったぞーー!!!!」
泣いて喜び合い、抱きしめ合った。
……だが、おかしい。巨大な炎の煙は少しずつ晴れているが、その影が消えないのだ。
「なん……だ??」
一同は上を見上げる。
「なん、だ、あれ……」
思わず口をあんぐりと開く。目を見開いて、その煌めきと闇を瞳に収める。
そこには、まさか。ウン十メートルの大きさに巨大化した、世元が立ち塞がっていた。
彼の漆黒の髪は宇宙の永遠の夜のように暗く輝き、揺れる度に星空のように光っている。
瞳には銀河が映り、神秘的で恐ろしい雰囲気だ。瞬きの一つが超新星爆発のように見えた。目が合った者は宇宙の果てまで吸い込まれる錯覚を覚えた。
全身のあちこちでバチバチ、バチバチと青白い閃光が走り、光を放っている。
完全には定まらず、闇と光がゆらぎながら「人の形を保っている」だけだ。
見上げると、輪郭の外側は星空に溶けて区別がつかない。
世元はもはや“巨人”ではなく、“宇宙の断片が人の姿をとって立っている”ように見えた。
「お前達に、地獄を見せてやろう」
世元は低く唸るような、心臓を押し潰すような恐ろしい声を響かせて、その手に黒紫の炎雷を宿す。
一本の雷が空を縦横無尽に裂き、それはまるで銀河を走る閃光。
シュナはとっさに知り合いの数人を神力で守った。
ドオオオォォォォン!!!!!
鼓膜を破るような爆音を響かせて、反乱軍に神の怒りの鉄槌が降り注ぐ。
一瞬、遠くの山と雲の影が光によって浮かび上がった。空気が波打つ。
ヴォルガード神葬軍の影は伸び、そして、地面にこびり付いた。
燃え上がる黒紫の光は、恐怖と美しさを兼ね備えた絶対的存在の証だった。
「は、は、は……」
ラピスは呼吸を乱し、声も上げられない。
自分が逆らった神というのは、こういう存在だったのだ。やっと今、その心を潰すような恐怖を、理を外れた美しさを、圧倒的な力を、理解したのだった。
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