ダウン・トゥ・アース④
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「天才魔法使いシュナは魔王フェナと恋人になる!」
新作です!こちらのシュナちゃんとは少し違うキャラのシュナちゃんが活躍します!皆様ご覧ください。
世元の周りに座る、晴右、夕鶴、霞央留、白ヰの4人。唯理有は黒の洋館の用事があるから来ていない。
なぜだか今日は、揃いも揃って顔を並べている。いつもは誰か一人か二人とかなのに。
「なんで今日はお前ら全員いるんだ?」
「ふふ、今日は記念すべき日になりますから…。」
「なんだ?誰かの誕生日だったのか?祝わなくって悪かったな。いや、にしても、記念すべき日になるって言い方はおかしいよな。なんなんだ。」
「ボスにはぁ、ちょっと苦しい日になるかもぉ」
「そうだな!あははは!w気ぃ張ってけボス!!ww」
「はぁ…」
なにやら皆怪しい雰囲気を出している。一体何が起こるのやら…。
「今日は〜ッ、面白ぉーい物を持ってきたよ!世界さん!」
「なんだ?白ヰ」
白ヰは1つの紙袋を掲げる。
「ふふー、なんだと思うーッ?」
「なになんだ、白ヰ。土地の権利書とかか?勿体ぶらないで教えてくれ」
「これさ!!」
「これは…香水だな?」
それは、シンプルな四角のボトルに入った、香水だった。
ラベルを読む。
「Chrono-Gentle、という香水か。」
「そうさーーッ!これは、私がある人の為に調香した香水さ。これが匂いの内容だよ。見てご覧!!」
「どれ、見させてもらおう」
1枚の質のいい紙に、青黒いインクが乗っている。
内容は、こうだ。
"トップノート:柚子で和のテイスト。グリーンアップルの明るい酸味は彼の軽やかさや、どこか少年のような無邪気さを思わせる。少量のホワイトペッパーが、彼の「喧嘩の強さ」を表す。
ミドルノート:アイリスのパウダリーで繊細な香りが、彼の人見知りな一面や、女子供に見せる優しさを表現。ムスクが彼の自然体で、飾らない魅力を引き出す。
ラストノート:アンブレットシードは、肌に馴染むような温かみと、ほんのりとした甘さで、彼の周囲を包み込むような優しさを周囲に与える安心感を象徴する。カルダモンは、温かくもスパイシーで、彼の人間的な魅力や、人を惹きつける不思議なオーラを際立たせます。少量のトンカビーンが、全体にまろやかな甘さを加え、彼の親しみやすさを表す"
「うん、多面的な人なんだな。どうにも魅力的だ。」
「嗅いでみるかぁーい?」
「是非とも。」
白ヰが厚紙をピラりと出す。そしてそこに、シュッとひと吹き、Chrono-Gentleを吹きかけた。
パタパタはたいてから、界司に渡す。界司は紙を鼻に近づけて、スン、と嗅いでみた。
「どうですか?世界さん」
「どーぅー?ボスぅ」
「www」
一同は興味深そうに界司の顔を覗き込む。界司は顎に手を添えて難しい顔をしていた。
「なんだ…?この匂い…。初めて嗅ぐ匂いだと思うが、懐かしさを感じるな」
界司は落ち着かない気持ちになった。どこか、懐かしい。俺はこの匂いを知っている。だが、肝心の所に手が届かなくて、大切な記憶が思い出せない。
「麗子さんに聞いたら分かる気がするな。無性に麗子さんに会いたくなってきた。お前達、悪いが、俺は麗子さんの所に行ってくる」
「うんうん!!!行ってくるといいよーッ!!はい、これどーぞ!!」
白ヰは界司に厚紙を渡した。
「麗子さんは今日近所の公園に行くと言っていましたよ」
「ありがとう。じゃあそこに行ってくる」
界司は立ち上がったが早いか、早足で外へと歩いていった。
そこからはダッシュだ。界司の全速力の走りはとても速い。陸上選手になっても遜色ない位だ。それどころか、余裕で県1位とかとってくるだろう。
低空飛行する鳥のように、風を切り、淀みなく駆け抜ける。界司の髪が後ろに流れて靡き、黒い線を描いた。
何かを考えるよりも先に、無我夢中に走ることを優先していた。とにかく早く麗子の所に行かなければと思うのだ。
一方麗子は、広い花壇のある公園を穏やかに散歩していた。強くなってた日差しを黒のレースの日傘で遮って、髪の月白色と葵色に、涼し気な影が落ちていた。今日は真夏日だ。
界司は視力が良いから、遠くからでも彼女が良く見えた。彼女目掛けて、界司は全力で走る。何かに急かされている気分で、急がないといけない気がした。
「はぁ、はぁ」
体力には自信があるのに、どうにも息が上がる。こめかみに汗が伝う。長い髪が鬱陶しい。
アメリカンブルーに優しい目を向けていた麗子が、ふとこちらに目を向ける。界司に気付いたようだ。
「麗子さん!」
界司が小さく笑みを浮かべて、声をかける。
「界司〜!どうしたの、って、」
「っあ、」
界司は、麗子の目の前で、つまづいた。そして、転けた。
ズザッ!!
「っ…」
界司は小さく呻いた。痛みには強いが、それでも少し痛みを感じる。
「あらら、大丈夫?」
麗子が心配そうに手を差し出す。その小さな白魚の手を見て、頭痛がする。あと少しで、思い出せそうなのに。
ふわり
優しい風が吹いた。界司の体についたChrono-Gentleが麗子の鼻をくすぐる。
「あ、これ、朔太郎の匂い?」
「朔太郎…朔…?っあ、ア"ァッ!!」
途端、激しい頭痛が界司を襲う。ズキン、ズキンと鼓動と共に神経を焼く。視界が白くチカチカと点滅する。界司は頭を押さえて、蹲った。
「っ、あ"ぁっ!!」
そして、1つ、頭が割れるような強い頭痛を伴って、濁流のように記憶が頭の中に流れ出した。神としての記憶が、一部、今、思い出される。
朔と喧嘩したこと。転生したこと。神であることを思い出したら、神の仕事に就くこと。
少しして、やがて、痛みは収まっていった。視界も元に戻り、落ち着きをみせる。
「は、は…俺が…神…?」
世元は酷い目眩に襲われた。人間として生きていた自分の、恐るべき真実。まるで妄想の病気みたいだ。頭がおかしくなったのか、俺は?
「あ、思い出したね。おめでとう!じゃあ、黒の神の仕事に就かないと!」
しかし麗子は無慈悲に、悪魔の様な無邪気な笑みでそう宣った。態と意地悪をしているのである。麗子は界司で遊ぶのが好きである。
「い、嫌だ。認められないが、俺が神だとしても俺はまだ人間としてやりたいことがある。し、なんだ、永遠に世界の為に働き続けろと?有り得ない、俺が、そんな、無期懲役じゃないか、嫌だ、。死なないのも怖い、永遠の命なんて御免だ!!」
界司は狼狽えた。顰めた顔を手で覆って、目を泳がせる。思考がぐるぐるして気持ち悪かった。冷や汗も止まらなくて、汗だくだった。強い日差しが界司を照らして焼く。
そこに、スっと手が差し伸べられた。
烈火の傍にいるが如く灼熱の日に、差し伸べられたラムネ瓶の様に白く透き通る手。パラソルに作られた清らかで涼しい日陰の空間。麗子の無垢な柔らかい顏。
「でも、私がいるよ?一緒に歩もう?神として、この最っ高の地獄を!愛してるよ、界司!」
二人の目に、星空の様に光が散って輝く。麗子は勇敢な笑みを浮かべている。界司は神色に、神として生きなければならない悲しさを滲ませた。界司らしい感情の薄い顔のまま、静かに涙を流して。
そっと、その手を取った。
すると、残りの記憶もぶわりと風が吹いたように頭の中に入ってくる。彼女が記憶の最後の鍵だったのだ。
一緒に作った世界。そこから、自分の数々のドジとか、色んな思い出を思い出した。沢山の苦労、苦しみ、楽しみ、幸せ。万感の思いが押し寄せてきて、界司は思わず涙を零した。
界司は立ち上がった。
麗子が界司の涙を拭う。そして、界司の頬に手を添えて優しく口付けした。界司は目をつぶってそれを受け入れる。
だが、なにも朔太郎との約束のまま神としての仕事に戻るつもりはなかった。自分の人間として国を変えるという決意は堅い。交渉という程でもないが、それを持ちかけるつもりである。
「朔を呼んでくれるか?あいつに新しい約束を持ちかけたい」
「勿論!界司の家に呼ぶね」
麗子はチャ!と携帯を取り出して、ポチポチメールを打つ。
「あ、返信きたよ!今暇だって!来れるみたいだけど、呼ぶ?」
「あぁ。頼む」
「はーい」
そうして2人は、夏のような日差しに照らされながら家に戻った。
界司達が家に着くより先に、朔太郎はいた。他の皆は、一度天界に帰った。界司に会いたそうにしていたが、あまり人数がいても狭いので帰ったのだ。
鈴は朔太郎を見て、悲しそうな顔をする。
「舞月さんが来たということは、そういうことなのですね…。あぁ、界司が苦しむのは悲しいです…」
「ま、まぁ。悪いようにはしねぇからさ、安心してくれよ」
「本当ですか?界司に悪いことしないでくださいね。約束ですよ」
「あ、あぁ…」
朔太郎が女子供に優しいのもあるが、鈴は強かな女である。子を守る親の顔をしていた。
やがて、麗子と界司が帰ってきた。
クーラーの効いた涼しい部屋。ルームフレグランスに混じって、Chrono-Gentleが確かに香った。界司は懐かしさを感じて、思い出した数々の記憶を噛み締める。
「よう、朔」
「応、界司。久しぶりだな」
「久しぶり。元気にしてたか?」
「ま、変わりねぇな。界司は?」
「あぁ、俺も大したことは無い。ただ、柄にないくらいあいつらとよく遊んだな。黒の神々と。」
「ほー、いいじゃねぇか。で。」
「…」
「オレを呼んだ理由が、あるよなぁ?」
朔太郎はニヤリと笑う。
「分かってる癖にな。じゃ、言うが。約束を変えてくれるか?俺が人として死ぬまで、人として生きさせてくれないか?」
朔太郎はクツクツと笑う。
「それは約束事だから変えられねぇなぁ?な?界司」
朔太郎は楽しそうに界司を煽り、顔を覗き込む。悪いようにしないとはなんだったのか。鈴は首を傾げる。
「…俺だってお前の要求を飲んだだろ。だから今ここに居る。お前も俺の要求を飲め」
界司は少し苦そうな顔をしながら、強い態度を崩さない。
「…ま!別にいぃけどな。初めからそれは視野に入れてたし。ただし、きちんと日本をいい国にしろよ?オレに、形で示せ!!なんたって今、お前は人間で俺は神だからな」
「はん、いつからお前がそんな偉くなった?俺がいないうちに随分横暴になったものだな。神にまた転生したら真っ先にボコしてやる」
「アァン?ボコされるのはお前の方だぜ、界司?なにも神に戻ってからじゃなくて、今ボコしてやってもいいぜ」
「それはフェアじゃないだろ。フィジカルが違いすぎる。それともなんだ、チェスでもするか?確か俺が勝ち越していたな。連敗記録を伸ばしてやろうか?」
「は、ないな。次こそオレが勝つからよ」
二人の間にバチバチと火花が散る。
ふ、と同時に視線を外す。息ぴったりである。
「所で、どんくらいオレらって介入していいの?オレも日本の政治に口出ししてみてぇ」
「おい、遊びじゃないんだぞ。それに、神の意思で浮世の国を変える時代は終わったようなもんだ。今は人間が人間の政治を変える時代だ。お前達神の出る幕はない」
「はー、しけてんなぁ。」
つまらなそうに朔太郎は前のめりになっていた体を戻す。
お前も神だったろ、というツッコミはしない。野暮なので。なんなら朔太郎は元人間だ。
「まぁ、俺が総理大臣になっても、いつでも遊びに来い。雑務なら押し付けるかもしれない。」
「秘書買えよ。」
「全くだな。ともかく、俺の活躍を楽しみにしておけ。お前も恙無くな。」
「応よ。」
界司は目を閉じて笑う。朔太郎も爽やかな笑みを浮かべた。
「卒業式?呼べよ。黒の神と一緒に祝いに行ってやるから」
「まだ9ヶ月近くあるぞ?気が早いな。」
「9ヶ月なんてあっとゆう間だろ?あぁ、子供になって時間の感覚が変わったか…。」
「そうかもしれないな。」
その夜、記憶を思い出した界司は両親である秋斗と鈴と夕ご飯を食べていた。
「というか、なんでお前らが親なんだ?聞いてないぞ」
「遂に反抗期かぁ界司?」
酒の入った秋斗がビールの缶をフラフラ揺らしながら糸目を弓なりに曲げる。
「まぁいいじゃないですか界司、私界司のこと育てられて幸せですよ」
「お前はいいかもしれないが…俺が恥ずかしいだろ。
まさか俺がお前から生まれて育てられるなんて思いもしなかった」
鈴はコロコロと鈴が鳴るような声で笑う。界司は頬を少し赤くしてムスッとした。
そしてあっという間に数ヶ月後になり、界司は高校を卒業した。
「界司、立派になりましたね…。」
「ほんまに、よく育ったわぁ。まぁ界司やけん心配しとらんかったけど」
「鈴、秋斗。俺をここまで育ててくれてありがとうな。」
鈴はしんみりとして涙を流す。秋斗も、誤魔化しているが目尻に涙が光っていた。花束を持った界司がお礼を告げる。
「世界さァーーん!!!ご卒業、おめでとーうございまァーーーす!!!」
「まさか、貴方の高校卒業を祝う機会がまた訪れるとは思いませんでした…ふふ」
「デュフ、世界さん、おめでとう!沢山遊んでくれてありがとね。大学も頑張るんだよ」
「あぁあ、少年法とバイバイだねぇ…ざぁんねん」
「ここまで経歴真っ白だったな!!つまんねーww」
「そう言うな。素晴らしいことだろ」
黒の神達も祝いに来てくれた。大の大人が何人も祝いに来てくれているのなんて界司ぐらいだったので、大変目立った。それに騒がしいし、なんか怪しいし。
「界司、卒業おめでとう!」
「麗子。ありがとう。花束まで…嬉しい」
「当たり前でしょ!写真撮ってもらお!」
「あぁ」
そうして、卒業写真を撮った。円筒の卒業証書を持って、制服を着た界司は見納めである。
「はい、チーズ!」
パシャリ。そうして、界司は高校を卒業したのでした。
アメリカンブルーの花言葉は、「二人の絆」「清涼感」です。季節的にも意味的にもピッタリだなと思います。
強い日差しと麗子さんの涼し気な感じを対比にしたかったので若干今の季節より暑くなってます。
次回でダウン・トゥ・アースは最終話になると思われます。
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