ダウン・トゥ・アース①プロローグ
世界さんが舞月と喧嘩したことをきっかけに人間に転生して生きる話です。
を、書こうとしたらプロローグが1話分になってしまいました。お楽しみください。シュナは最後の方に少し出てきますが、今回の主役は世界さんです。
神話系です。いつもの日常ほのぼの系ではないです。
ep35とは別のループなので内容が違います。
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烈火の傍にいるが如く灼熱の日に、差し伸べられたラムネ瓶の様に白く透き通る手。パラソルに作られた清らかで涼しい日陰の空間。
「一緒に歩もう?」
世元の目は星空の様に光を散りばめて輝き、悲しさを滲ませた感情の薄い顔のまま、静かに涙を流して、その手を取った。
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‹プロローグ›
原初世界。ループの1周目。人間は、世元達の手によって、星のカケラを肉体に、天界の白い木に生える白い果物を魂にして、創られた。初めの人口はあまり多くなく、100人程だった。小さな世界の小さな星で、実験的に、試験的に創られたものだったのだ。
この時、創られた世界というものは不完全で、これには人間達は苦労した。
人間達は父なる世元達を愛した。それは信仰ではなく隣人愛であり、家族愛であった。
世元達も人間を愛していた。我が子のように、友達のように。不完全な己と世界であったが、より良い生活をさせたいと思って、必死に試行錯誤して世界の理を作っていったのだ。
例えば、こんなことがあった。
「なんか、物が突然消えたり現れたりするんだけど、これだと不便です、世界さん」
「あぁ、すまない。そうだよな。発生と消失の法則を弄るか。悪いな、不便をかけた」
「いいんですよ」
例えば。
「見た目って色々あってカラフルな方が面白いよね?界司!人間にもバリエーションを作ろう!」
「いいな。やってみるか」
ピンク色の腕が4本ある人間。緑色の光合成出来る人間。色んな風に見た目を変えた者を生んだ。
そうしてみたら、差別と偏見が蔓延ってしまった。人間達は傷ついた。
「仕方ない、人間は1種類にするか…。四肢の本数を揃えて、色も同じにしよう」
例えば、こんなことも。
「感情ってどれくらいの強さで感じさせればいいんだ…?どれくらいコントロールを効かせればいいんだ…」
天界の会議室で、世元、白越、アン、麗子は顔を合わせる。
「個人差をつけよう。個性が出来れば役割分担ができる」
「試練として選んだ者に感情のコントロールを苦手にするのはどうじゃ?何でもよい、障害者にするのもよいし」
「とりあえず、強い方がお互いの気持ちが把握しやすくていいんじゃない?強すぎは良くないけど」
各々意見を述べる。
「分かった。その方針で行こう」
そうして、人間に感情が宿った。
そこに出来たのは、沢山の不満。瑣末からくる怒り。悲しみ。
「なんで私の話を聞いてくれないの!!」
「今は忙しいって言ってるでしょ!!」
「でも聞いて欲しいの!!」
「なんで雨が降るの!?今日は晴れの気分なのに!!」
「なんで火種の管理を怠ったの!!これじゃ起こし直しじゃん!!」
世元は考える。少し強すぎたか。
「…これじゃ人間達は不便だよな。もう少し感情を小さくした方がいいか…?」
そうして、100人の感情はお告げと共に制御された。
しかし今度は、
「感情がない…悲しみも、喜びも。これでは生きる楽しみがない…」
「世界さん、感情を元に戻してください」
「だが、喧嘩ばかりじゃなかったか。嫌じゃないか?」
「喧嘩がある方が張り合いがあって楽しいです」
「分かった、この間ぐらいが丁度いいんだな。そっちで進めよう」
そうして、感情というものは整備されたのだ。
例えば、こんなこともあった。
世界の歪みに、自然発生した化け物が住み始めた。そして、それが人間を襲い始めた。
別の件について考えていた世元は、気づくのに遅れた。ずっと見守っているわけではないのだ。
気づいた時、人間は絶滅していた。魂だけがそこに残っており、肉体は死んでいたのだ。
「痛かった!!!」
「世界さん!怖かったです、なんですかあの化け物!」
「待ってくれ、あいつ何処から来たんだ。倒してくる、原因も解明しないとな…」
そうして化け物を倒した世元は、世界の歪みを直した。人間達も生き返らせて、現世に戻した。
今で言えばゲームを作っているようなもので、バグが発生するのは当たり前、トライアンドエラーの繰り返しによって世界を作っていたのだ。
長い年月をかけて。争いが起きれば調停したし、欲求があれば満たした。しかしそれが新たな不満や争いを産むものだから、世元達も困り果ててしまったのだ。
楽しい生活ではあった。世界が作られていくのを見るのは人間たちも楽しかった。
「見ろ。この星空は手作りなんだぞ」
「流石です世界さん、センスがあります」
「星座も作った。あそこの星を結ぶとな、ハート型なんだ」
「かわいい(かわいい)」
「麗子が喜ぶと思って作ったんだ」
「今日から新しい動物を放つ。少しすばしっこいが美味しい肉が手に入るぞ」
「ありがとうございます!楽しみです」
「少し動物を作りすぎたな…捕食者を増やして数を減らすか」
「こんなデザインの動物はどうです?」
「かっこいいじゃないか。いいな、それにしよう」
この頃、人間達は一定まで老いるが不死で、寿命がなかった。
長い年月を過ごした人間達と世元。そして、人間達の中には、こういう事を思うものが現れたのだ。
「死にたい、死なせてくれ、世界さん」
「は、?」
世元は初めて人間の希死念慮というものに出会った。
世元は神だ。永遠の時を生きることを約束された、不老不死の超越者。彼はそれを嫌だと思ったことはないし、人間が呼吸をするのと同じくらい当然のことだった。
人間達もそうなんだと思った。人間以外の動植物には死があるが、人間とは永遠に一緒にいるものだと思ったのだ。
「なん、だ。疲れているのか。少し休め、そうしたら考えも改まるだろ」
「違うんだ、世界さん。儂はもう、寝ても醒めても死にたくて仕方ない。全てをやめて、眠りにつきたいのじゃ。争いも、生きることも、もう飽きた。もう十分生きた。」
それは丁度、初めて創った人間が100歳の誕生日を迎えた時だった。しかし肉体年齢は20歳後半である。
「人間には寿命が必要じゃ。世界さん達と違って、儂らに永遠の時を生きる精神力はない。いつか終わりがあると分かるからこそ、頑張れるものなのじゃよ」
「私も、彼が死ぬというのなら連れ添います」
「…じゃあ、お前達には寿命を与えよう。ただし、約束しろ。子孫を残せ。お前の血を引く者を作れ。寂しくて敵わないからな」
「仕方ないのう」
そうして、人間には約100年の寿命が出来た。彼らだけではなく、他にも寿命を求めた者達の子孫が繁栄して、今の人間の1つ前の段階の人類になった。
そして、永遠の命を望んだ者は天使になって世元に使えて、天界で過ごすことにした。住処を分けたのだ。天使は後に神となる。
もっと平和に、しかしもっとバランスの取れた世界を、と求めると両方はとれない。愛する人間達に争いはして欲しくないが、争いのない世界は不健康だ。進歩はなく、向上心はなく、個性は喪失され、問題は解決しない。世元の支配は行き詰まった。
やがて、人類は繁栄し、自立心が芽生え始めた。
神は完璧では無い。それに愛想を尽かした。支配されることにうんざりしたのだ。
「あんたらの手の中で生きたくない。俺達は自由に生きたい」
その声は次第に周りを巻き込んで大きくなり、反乱に至った。
あの、家族のように感じていた人類から、ついに愛想を尽かされたのだ。
世元は天界の机に伏す。反乱のせいですっかり弱ってしまって、心がボロボロだった世元は、疑問を呈す。
「なにが、駄目だったんだ。麗子。俺はどうしたらいい?」
「…私達が不要な時代が来たんだよ。きっと、また皆戻ってきてくれるはず。その時を待とう」
麗子は立ち上がる。
そして、手を差し伸べる。
「一緒に、伝えに行こう?大丈夫、これが正解なんだよ」
彼女の差し伸べた手の温かさを、優しさと自信に満ちた鮮やかな紫色の目を、世元は生涯忘れることがないだろう。どんな時も隣にいてくれた麗子の、その力強さを、世元は忘れられない。この光景が、写真のようにくっきりと輪郭を描いて、世元の脳裏に焼き付いて離れないのだ。それ程、彼女は世元にとって光だった。
人間達は広場で空に向かって叫び続ける。
「「自由を求めよ!自由を求めよ!!自由を求めよ!!!自由を求めよ!!!」」
そこについに、世元が降臨した。空から降ってきた重圧感に、人間達は暫し黙る。
「…分かった。お前たちを自由にしよう。これから俺達は現世に干渉しない。お前たちの作った秩序を真似して、天界の政治だけを行う」
歓声が上がる。
そうして、人間達は自由を得た。進化の自由も得た。
…結局、原初の方の人間の魂を管理することを諦められなかった世元が、彼らの安定した運命を定めてから生まれさせるということをしているのは、ひっそりと行われていたりするが。
そうして人間は肌の色に差ができて、貧富の差ができた。今の人類になったのである。
結局争いは絶えないし、差別は蔓延るし、人は見下し見下され、踏み躙られ、嘘をつく。
しかし法は試行錯誤しながら整備され、自浄作用のように世界は少しずつ良くなったり、また悪くなったりして、成長して、歴史を重ねていった。目も当てられない悲劇は、日常に繰り広げられていた。それでも、花は咲いて、子供は産声を上げて、喜びの声は上がったのだ。
「あぁ、俺は、人間達の力を借りれば良かったんだな。4人でやるにも限度があったんだ。支配だけじゃない、その中に自由が必要だったんだと、今分かった」
「そうだね」
そうして、人間の支配する世界は呼吸を始めた。世元の脳裏に、麗子の差し伸べる手のシルエットをくっきりと残して。
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