アテナの図書館③【完】
※続きます
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入ったら先ずは、沢山の丸いテーブルと椅子があった。メープルの白い木の椅子と、大理石のテーブル。椅子は曲線美の美しいこと、植物の模様、カルトゥーシュ模様が彫られた椅子であった。大理石の高級感と冷たさがスタイリッシュであった。
その奥に広大な背の高い本棚があり、神秘的な雰囲気を醸し出していた。
本棚の前に、タブレットが置いてある。
「そこのタブレットで検索が出来て、欲しい本があれば入力するだけで本が飛んでくる。一覧もあるから本棚を見なくてもある本が分かる」
「へぇ〜、便利」
古代的な様式だけじゃなく、近代的な様式も取り入れているらしい。
「今日は休館日だから人はいないが、普段は天界の研究者達が資料を読みながら研究をしている」
入口のテーブルと椅子はその為にあったらしい。人気スポットなのだろう。
「この奥に、目的の場所がある。遠いが歩けるな?」
「いえっさー!」
元気よく陽気に返事をして、歩き出す。
スタスタスタスタ。
トテトテトテトテ。
随分歩いた。この図書館はとても大きいのがよく分かる。
「そろそろ着くよ」
「はーい!」
やがて、目の前にはブロンズの重たそうな扉があった。複雑な鍵が扉を飾りながら掛かっている。
その隣に梟の置物があった。瞳がビー玉のようになっている。
白越が梟の前で屈んで、目を合わせた。
すると…
『Επικυρώθηκε、〇時○○分、白越』
梟から音声が流れて、扉の複雑な鍵がガチャガチャと音を立てながら自動で開いた。
「この奥に禁書の区域があって、その隠し扉の奥の、迷路の中の更に隠し扉の奥の地下に目的の場所はある」
「厳重だね〜」
「それほど危険で大切なものだからな。隠し扉の場所を知っているのは極一部の神だけだ。お前も覚えておけ」
「うん!」
禁書の区域を通る。室内は暗めにされており、禍々しいオーラを放つ本や、鎖で雁字搦めにされた本、羽が生えて空を飛んでいる本、檻の中にある本など色んな本があった。
「一個読んでみてもいい?」
「好きにしろ」
「やった!」
先程見た禍々しいオーラを放つ本を手に取る。
「なになに〜?」
目次を読んでみる。
"古代の魔王を生き返らせて従える術式"、"悪魔の錬成方法"、"悪魔の成り方"、"危険度SSSの悪魔が封印されているページ"
「お、おぉ…」
シュナは一歩足を引いて、引きつつ驚いた顔をした。なかなか凄いものが出てきた。どうやら悪魔について書いてある本のようだ。
禁書と言うだけあって、人前に出たら事件事故まっしぐらな内容である。
シュナはそっと本棚にそれをしまった。
「うん、行こっか!」
「もういいのか?じゃあ行くぞ」
白越について行く。
ふと白越は微妙な位置で壁を押す。すると扉が回転して扉が出てきた。
その奥は迷路になっているようだ。複雑な道を白越は迷いなく進んでいく。
(うわー、方向音痴の私には厳しそう…)
シュナはちょっと気が引けた。 まぁサタナが道を覚えているからいいだろう。サタナがいて良かった。
とある行き止まりで、白越が床を二回足でタップする。すると、床が開いて階段が出てきた。
「この下だ」
階段を降りていく。壁についている蝋燭が勝手について、道を照らしてくれる。
下に、真っ白い木の扉があった。軽そうなそれを押して、空間が開ける。
そこは、天井のない真っ白く明るい空間と、広大な図書館であった。神々しく迫力のある雰囲気がシュナを圧倒する。本棚もコリント式のもののようだ。
本の色はクラシックな色で分けられていて、どれも分厚い。
シュナは室内を見渡した。
「ここは、"無限の輪廻のアカシックレコード"とよばれる空間だ。ここの全ての本に、この世の全てが神語で書いてある。」
神語で、ということはこれでもかなり省略されているのだろう。
「電子化しないの?」
そんな壮大で神らしい凄いものが出てきて、最初に出てくる言葉がそれであった。少しズレている。
「電子化もしてあるが…本の方が手に取りやすいだろ?もっとも、手に取るのを許されているのは極一部だが。…まぁ、それはいい。目的はお前の人生が書いてある本だ。これもそこのタブレットで検索できる」
「便利〜」
白越がタブレットを操作する。
「出た。飛んでくるぞ」
どうやらシュナの本が見つかったらしい。
「わっ!!」
と思った瞬間、物凄い風圧を引き連れながら本が飛んできた。新幹線くらい速いんじゃないだろうか。それが急停止して、シュナのオーロラ色に輝く髪は舞い上がった。
「読んでみろ」
「はーい」
にしても、1個前の人生なんて神語で3文字で終わったのに、こんなに分厚くなるのだろうか?と思った。
読めば直ぐに分かった。分かったが、その情報の意味が分からなかった。
「知らない、私の人生…?」
そう、シュナには覚えのない沢山の人生が脳内に流れ出したのだ。ちなみに文字の見た目は人間には白紙なだけで何も見えない。しかし見た瞬間脳がパンクする。そこには人間には処理できない量の情報が載っているのだ。色で表すなら真っ白か真っ黒だが、実際は何も見えない。
「えっと…これ、なに?」
「まず、この世界の秘匿された仕組みについて教える。」
白越はただでさえ厳しい顔をより鋭くして、強い声を出す。シュナは背筋が伸びる思いだった、
「この世界は形を変えながら永劫の時間をかけてループしている。無限の時を有限の時で挟むことで扱えるものにして、ループを実現しているんだ。パラレルワールドという様々な世界線がある中で、たまたまこの世界に運命として定まっているのが今なんだ。
神の上位者の極一部は次のループで辿りたい運命を、自分で生きながら決めていく。そして消滅する時にその情報を神語で次のループの世界に送って、その運命を定めてもらって消滅する。内容に関する守秘義務は守られる。」
「えっループ!?」
「ループといっても、実際は無限の時を生きるから実感はわかないだろう。無限の時間の後と前に、ボーナスステージみたいに有限の時があって、そこを始点と終点とすることでループを実現している。この本に書かれているのは、過去に過ごされたループの人生の全てだ。」
「む、むつかしい…けど何となく分かったかも!でもさ、それなら運命って決まってるものなの?」
「決まっているとも言えるし、決まっていないとも言える。私達には自由意志は確かにあり、それで自分の運命を決めていく訳だが、こちらの運命が定まった時、また過去の事実も定まる。そういう未来を定めた、という事実がな。それは複雑な木の根のようになったパラレルワールドで補い合っているんだ。過去と現在は運命を定めあっている。」
「へぇ…」
これが世界の真理を噛み砕いて説明したものらしい。複雑で、神の力が存分に発揮された規模の大きな話である。
「過去に過ごした全ての世界線の情報を神の上位者の一部は持てる。それは世界の真理でもある。私も色んなループでの私の人生を読んだが、お前の人生はどんな風に書いてあったんだ?」
「なんか、剛力な神になって、アテナと一緒に反乱軍と悪魔を殺しまくる人生だったみたい。アテナとアレスと仲良くて、戦闘狂で、力がすごく強かったんだって。血戯の盛んな神だったみたい。それで昇進しまくったみたい」
「あぁ、じゃあ同じパラレルワールドを生きたこともあったのだな。私もそんなシュナのことが書いてあったのを見た。だから私はシュナは膂力が強くて戦闘も強いものだと思っていたんだ。」
「あれってそういう意味だったんだね〜。あ、あとね、今回のループについても書いてあったよ。」
「なんと?」
「次のループでは、また一から武を磨きたいから弱く産まれようと思う、でも今回昇進した立場を使って全知全能の神になってトップになるんだ、って書いてあった!」
「なるほどな。やはり前のループで善行や立場を積んでいたか。転生しただけで神になれるなんて有り得ないからな。」
「あと、悪魔と戦うのは疲れたから仲良くしたいって。」
「そうか。叶って良かったな」
「うん!更にその前のループではね、人間に生まれてアポロンと会ったんだけど、袖にされて悔しかったから神を目指すって書いてあった!」
「ほぉ。そんな道もあったか。あれ程ラブラブなのにな。」
「私ね、これ読んで思ったの。」
「なんだ?」
「次のループではね、アポロンを袖にするの!!」
「ふっ、面白いな。楽しめよ」
他にも色々書いてあったのだが、それに何やら人には言えないかなり重要な事も書いてあった。
「どの用紙?に次のループのこと書けばいい?」
「あぁ、専用の機械を使えば、コイネーで入力したものを最後に神語に訳してくれるから、使うといい」
「わかった!貸してもらえる?生きながら作ってくんだよね?」
「そうだ。そっちの部屋にあるから、お前の名前と指紋認証でログインして書いておくといい。私からの説明は以上だ。解散するぞ。お疲れ様」
「うん!ありがとうね!お疲れ様」
「それじゃ、またね」
「またね〜」
白越はそのまま部屋を出ていった。
椅子に座って一つ息をつく。
シュナはぽつりと呟く。人には言えないかなり重要なこと。その内容について考える。
「私が、とある世界線の反乱軍のボス…ね…。」
信じ難いが、どうやら本当の事らしい。
アテナと共に過ごした後の世界線だが、反乱軍と戦うのは飽きたので今度は自分が反乱軍になって神を殺そうということにしたらしい。深い意味の無い、魔が差したような、いや純粋に真っ黒な悪魔の心が宿っていたような、そんな気持ちで反乱軍のボスになったようなのだ。
全能の力を手に入れたのは、どうやら今回が初めてではないらしいのだ。アテナとの世界線の後、全能の力を手に入れた世界線で、アルマロスと仲良くなったシュナ。アルマロスと共に無効化の力を使って、全ての神を殺して、世界のトップになったらしい。世界さん、舞月、白越とも張り合い、遂に勝ったのだとか。真にシュナが最強だったのだ。そんな破壊神をしていたようだ。頭もキレるし、膂力も強く、俊敏。そんな世界線があったらしい。
弱く生まれ変わろうと思ったのはその後のようだ。強いのには飽きたのだろう。
「貴方となら、私はどこまでも共に堕ちていくよ」
アルマロスはそう言って、紅朝した頬をもってシュナと共に神殺しに励んだ。
そして、様々な世界の反乱軍すら従えていたシュナは、遂に飽きて、次のループへ行くことを選んだらしい。
その結果が、今のこれのようなのだ。
「深いなぁ…。次、次ね。次は─────────」
シュナはコイネーで次のループの人生を少しずつ紡ぎ出した。入力したコイネーからAIで作られた精巧な映像が画面に流れ出す。
「面白い!うん、正に、神様にお任せ!!ってね!!」
そうして、また新たな物語が紡がれていくのだった。
【完】
(続きます)
Επικυρώθηκεとは、ギリシャ語で承認しましたという意味です
星5、ブックマーク、感想などお待ちしております!
タイトル回収したので完成にしました。続きます。新生活が始まったので更新はいつになるか分かりませんが、気長にお待ち頂けると幸甚の至りです。




