Abyssus abyssum invocat(地獄は地獄を呼ぶ)②
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2人は道場に移動した。舞月の家には道場があるのだ。
結構広い道場だった。割と高さもあって、どちらかというと体育館に近い大きさをしている。
ちなみに聞く話によると、ジムも置いてあるらしい。あと茶室とか。色々あるのだな、と思った。
「オレは空手も柔道もできるけど何が知りてぇ?」
「うーん、じゃあ空手!」
「分かった。まずは精神について。空手は礼に始まり礼に終わる。それから───────」
シュナは空手の精神を軽く習った。
「次に、立ち方。平行立ちっていうのは、足を肩幅くらいに開いて、膝を軽く曲げる。両拳は腰の高さに構えて、脇を締めて────────で、突きの仕方は─────」
「ふむふむ」
シュナは暫く空手について学んでいた。
「よし、やってみて」
「はい!」
シュ!と突きをしてみる。
「突いた後は、すぐ力を抜いて。あと初めももっと脱力しよう」
「はい!」
その後もシュナは舞月から空手の諸々を教えてもらった。
「うん、初めてにしては十分だろ。お疲れ様」
「ありがとうございました!」
軽く汗をかいたシュナは、清々しい気持ちで前髪を払った。汗から梅の香りがふわりと香る。亜空間からタオルを取り出して、汗を拭いた。
「そろそろ部屋に戻るか」
「うん!あ、アポロンからメール来てる」
「なんて?」
「今どこにいる?ってさ。舞月の家だよ、っと」
プルルル。
「あ、電話かかって来た。なんだろ」
ピッ。
電話に出る。
「シュナ、今舞月の家にいるのか???」
その声は怒りを抑えているような声音であった。マジでキレそうなのを我慢している様な。
「え、うん。何か悪かった??」
「2人きりでか?」
「そうだよ〜」
「嘘だろ…。迎えに行く。待ってろ」
「はーい」
シュナは、なんかアポロン怒ってる?と思った。舞月は、なんかヤバいかもしれねぇ…と思った。
リーン
すぐにインターホンが鳴った。
シュナと舞月は揃って玄関に出る。
2人を見た瞬間、アポロンは胸を押えた。
「ぐっ…2人が同時に出てくると、同棲してるみたいでダメージが入るな…」
「何言ってるの?遊んでただけだよ〜」
「それだ。おかしいだろ」
「なにが?」
アポロンの髪の毛が、怒りでキラキラと発光する。瞳もキラキラと鮮やかに怒りの光を放つ。その奥には赤黒い炎がゆらめいていた。
「そもそも俺という恋人がいるのに男と2人で遊ぶのもギリギリだぜ。なのに、家に行った、だと?しかも舞月は恋人がいない。舞月はなにをしているんだ??普通断るだろ」
どうやらかなりご立腹らしい。シュナはやっちゃったな…とぴゃっぴゃ冷や汗をかいていた。
「お、おぉ…悪かったな…」
舞月も流石に自分が悪かったかもしれないと思い、背筋に冷たいものを感じている。
「ごめんなさい…でも友達だよ?他意はないし…」
シュナはいまいち自分がした事の悪さが理解できなかった。友達と遊ぶのはダメなのだろうか。それとも、家に2人きりだったから不味かったのか?多分そうだろう。それに気付いたが、アポロンの怒りは治まりはしない。
アポロンは指をポキポキと鳴らす。背後に般若が見えるようであった。荒ぶる太陽神の怒りは恐ろしい。太陽が降ってくるのだろうか。それとも隕石?地獄のような空気である。
「関係ねぇ。ぼこぼこにしねぇと気が済まない。舞月、殴り合いだ」
どうやら今日は殴り合いのようだ。降ってくるのは拳である。
「めんどくせぇ事に巻き込まれた…。まぁでも女の子が悲しんでんだから助けるしかなかったよな」
舞月朔太郎は女子供に優しい。だから落ち込むシュナにも優しくしたのだ。別に殴り合いは好みなのだが、恋人同士のいざこざに巻き込まれたのが不服である。
そんなことを言っているが、舞月は乗り気である。人との殴り合いが好きなので。
「オレの家の道場は特別製だから、神が本気で戦っても壊れねぇよ」
「おあつらえ向きだな。そこで闘おう」
2人は異様なオーラを発しながら、道場へと向かった。
軽く準備運動をする。
「そろそろいいか?」
「応」
舞月は立礼する。アポロンもそれに習って一応礼をした。
シュナははらはらとしながらそれを見ている。レフェリーを流れで務めているのだ。
お互いを見つめ合う間が空く。
「────────始め!」
そして、シュナの鋭い一声で手合わせが始まった。
アポロンはボクシングの神様。一方舞月は柔道や空手を嗜む神様である。異なる道を歩む2人の戦いは如何様になるのだろうか。
まず拳が交差した。アポロンの拳が当たる直前、舞月は屈んで避ける。そこに入るアポロンの蹴り。それも後ろバク転で避けられた。
バク転の際の足がアポロンの顔に当たりそうになるが、すんでで避ける。
(ふむ、実力は互角…か?まだ本気を出してないだけか)
何はともあれ攻撃を当てないと話にならない。再度接近した2人は、殴りあった。
2人の攻撃がお互いに当たる。その重みは、どちらも比べがたい程であった。強力で重いパンチが、お互いの頬を殴り脳を揺らす。
「ぐっ…」
「くっ、強いな」
「そっちこそ」
長い戦いになりそうだった。実力が拮抗しているのだ。
舞月の回し蹴りがアポロンを吹き飛ばす。空を飛んだアポロンはバク宙で体制を整え、最接近。今度は高速のアポロンの拳が舞月の腹に入った。
「かはっ、!」
その一瞬の隙をついて、その顔をひたすら殴る、殴る。舞月はガードするしかできない。何とか蹴りを繰り出して間を作り、舞月はジャンプして空を飛んでアポロンに殴りかかった。照明に照らされて逆光になった舞月が、アポロンの頭を思い切り殴った。全体重をかけた重みのある一撃が決まった。
「ぐっ…!」
アポロンの意識が揺らぐ。しかし気合いで意識を保った。
「卑怯だなんていうなよ」
「なにがだよ」
「太陽爆発!」
アポロンの太陽爆発が舞月を襲う。それ程大規模なものでも高温なものでもなく、強いていえば意識を逸らすためにされたことであった。
爆発の光で視界が潰れる。そこをアポロンは狙った。
アポロンはとびきりの重い蹴りを舞月の腹にいれた。
「お"っ」
その後も全身を全力で殴りまくり、アザだらけ、血だらけに舞月はなった。
ムカッとした舞月は、アポロンに接近する。
殴ろうとするのを受け流して、そのまま背負い投げをした。
ドン!!
アポロンの体が床に落ちて、大きな音を立てる。
「い、一本!」
思わず声を上げたシュナ。倒れたアポロンはすぐさま起き上がるが、なんだか負けた気持ちになった。
しかし傷の具合で言えば舞月が負けている。ボロボロであった。
「えー…引き分け!ってことで、どうかな?」
「おう、それでいい。好きなだけ殴らせてもらった」
「おー…いや、楽しかったな。アポロン、お前強いんだな。見直したわ」
どうやら決着はついたらしい。激しい攻防であった。2人は礼をして、試合を終える。
「わかった、シュナの友達だと認めてやろう。家に2人で遊ぶのも許してやる。だけど邪なことしたら即殺すからな」
「流石にそのレベルになると調停が入るだろ。白の神の」
「そ、その場合ってもしかして私が行かないといけないんじゃない?」
「?なんでだ?」
「だって、私が白の神のトップになるから!」
「、は…?はぁあああああ!?」
舞月の叫び声が道場によく響く。
「え、お前トップになんの!?やばすぎだろ!!頑張れよ〜!大変だからな、神のトップはな!」
「うん!頑張るね!ありがとう!」
「んで、もう夕飯の時間だが、食ってくか?簡単に作るぞ」
「やったー!手伝うよ!アポロンも一緒に作ろ?」
「おう」
アポロンの怒りもある程度収まりを見せたらしいので、後はご飯の時間である。
「今夜は、エビチャーハンと小籠包と、マーラーカオと中華スープ」
「美味しそ〜!!」
「シュナはエビの背わたと殻をとってくれ。アポロンは小籠包包め。俺はチャーハン作るから」
「分かった、タネはこれでいいか?」
「応!頼んだ」
そうして楽しくキッチンでご飯を作った。
「マーラーカオにはメレンゲとはちみつを乗っけて、完成だ!」
「やったー!」
「おー」
ぱちぱちと拍手が起こる。机に並べて、写真を撮った。3人の写真も撮っておく。
「イヌスタグラムに上げていい?」
「応、好きにしな」
「いいぜ」
リビングのL時型の革張りのソファに座って、ご飯を食べる。
「チャーハン美味しっ!パラパラだし、エビもプリプリだし」
「小籠包熱くて美味いな」
「なによりだよ」
3人は舌鼓を打って、パクパクとご飯を食べる。
アポロンは、シュナがワクワクと言った風に美味しそうにご飯を食べるのが、可愛くて好きだった。自分もまた料理を振舞おうと思う。
「ごちそうさまでした!」
「洗い物はオレがやるよ。2人は早く家に帰んな?」
「そうだね、長居するのも悪いし!今日はありがとう!元気でたよ!またお菓子持ってくるね!」
「応。お疲れ様。元気出たなら良かったわ」
「舞月の家に行く時は教えてくれ。迎えに行くから」
「うん!」
そうしてシュナはアポロンの転移門で家に帰って行った。
洗い物をしながら、なんだかんだ楽しい一日だったなと舞月は考える。たまには遊んでやるのも悪くないかもしれない。プリンは盗られてしまったが…まぁ泣いているひよっこの為なら構わない。また買えばいいし、お金なら有り余っているので。
そうして、シュナの落ち込んだ1日は楽しい一日として幕を閉じたのだった。




