ifルート:アポカリプス
ちょっと文付け加えました
筆が乗って書いてすぐ出したので後から付け加えたりしました。
2人の太陽の熱に対する耐性の部分を少し変更しました。
古墳時代に、王が死んだ時に他の人も殺して一緒に埋めるのと似ていますね。そんな感じです。
世界さんが舞月朔太郎の能力によって時を戻る前の時間軸の話である。
シュナがパールを統合した影響で、壊れてしまった時。アポロンは、壊れて瞳の輝きを失ったシュナを強く抱き締める。アポロンは奈落の底に叩き落とされ、悲嘆に暮れた。心臓が抉られたようで、心の灯火が消えたような思いであった。
アポロンは小さくつぶやく。
「…俺の…炎で、この世界ごと燃やしてしまおう。お前の墓として。俺の愛の炎で燃えた星を作ろう」
世元はその言葉を聞き、背筋に冷たいものが走る。
「…おい。アポロン。何をするつもりだ?血迷うなよ」
「いいんだ。世界さん。俺はもういい。」
止まない雨はないなど誰が言い始めた言葉であっただろうか。太陽神のアポロンにも照らせない暗澹たる心の闇が、この先止む予定のない雷雨が、アポロン本人の中に降り始めたのだった。
「太陽爆発」
アポロンがそう呟くと、小さな爆発が起きた。世元と舞月は強靭な体幹で爆風に耐えるが、爆発の光で視界を奪われる。
熱いのは別にいい。世元はその特殊な体質によって太陽の熱すら耐えられる。舞月は爆発程度の温度なら耐えられる。
視界が戻った頃には、アポロンはいなかった。下からメラメラと燃えながら消えゆく転移門が残っている。
「アポロンが行く所ならルツェルンだろうな。追おうか」
「分かった。転移するぞ」
世元が舞月を巻き込んで転移する。
転移した先、ルツェルンは火の海であった。激しい高温となった街は、逃げ惑う人々で溢れかえっている。
空にはまだ、雪雲の隙間から綺麗な星が煌めいていた。その光は冷酷で、地上の惨禍を表情を変えず見下ろしている。
「にゃー!ケインも水被るにゃ!!」
「助かる!!どこに逃げればいいんだこんなもの!!」
どこかでサーニャとケインが叫んでいた。
舞月は空を見る。少し遠くにアポロンの髪の輝きが見えた。普段は淡い発光だが、神力を使っている彼の髪は激しくキラキラメラメラと輝いて末に広がっている。
「紅炎柱」
残酷な死刑宣告が響く。空に飛んだアポロンが、シュナを抱えたまま悲しみの涙を流しながら火柱を生み出している。しかしその顔は陶酔といった様子にも見えた。星を燃やす事でシュナの死を悼める事実に喜んでいるのだ。泣きながら笑っていた。
彼の全力の紅炎柱は広範囲を融解させ、融けゆく人々の影すら残さない。家々は燃え、木々も激しく燃えていた。
ルツェルンは簡単に劫火に飲み込まれた。
世元と舞月は空を飛びながらアポロンに叫ぶ。
「やめろアポロン!!いくらお前でも星1つの大量の人を殺したら地獄送りは免れないぞ!!」
「そうだぞアポロン!終わらない苦しみを味わうことになるぞ!!」
「地獄に落ちたっていいんだ。シュナがいないならこの世界も生き地獄だ。そんな星、壊してしまえばいい」
そう言うと、アポロンの周りに沢山の細めの炎柱ができ、また視界が悪くなる。これのせいで世元達はアポロンの居場所が掴めないのだ。
アポロンは上手く炎柱を使って2人の視界を潰しながら、どんどん移動して世界を燃やしていく。炎の柱は何kmというほど大きく、簡単に街一つを飲み込み、溶かして燃やす。まさに世紀末、アポカリプスであった。
やがて、夜は明けた。朝日がシュナの頬を照らすが、シュナは目覚めない。
(朝になっても…起きねぇよな)
諦観の気持ちを持ったアポロンは、シュナを見下ろす。そして、その亡骸に話しかけた。
「綺麗だろ?シュナ。俺らの愛した星だ。お前の墓だ。第2の太陽だ」
アポロンは愛おしいものを見る目で燃えている星を見る。アポロンの涙はシュナの頬に落ち、まるでシュナも泣いているようだった。しかし、もうそこに生きた心はない。返事もなかった。
「お前が俺の全てだった…。今も、これからもずっと」
シュナを力強く抱きしめた。
只管猛火に囲まれた世界で、舞月と世元はこの星の終末を悟る。
舞月は空から火の少ない所の地上に降り、世元に笑いかけた。
「やってらんねぇな!戻すか!時間」
「そうだな。幸いシュナは全能だから、本人に生まれ直すように伝えれば済む話だ」
世元達としては、アポロンを地獄送りにしてやるのは可哀想だし、自分達が住んでいる大切な星が終末を迎えてしまうのも避けたかった現実であった。
しかし舞月には、時間を戻す能力がある。なのでそれで時を戻してやり直すわけだ。
舞月は時輪金剛印を組む。この印は時間を超越した智恵や、時間を操る力を表す。その形は非常に複雑だが、秘匿されている為、知悉している者に直接聞かなければ習得できない。
「じゃあすんぞ」
「あぁ」
「"望月の欠けぬ輝き"、ッ!?」
「助けてぇッ!!あ"つい"い"い"」
舞月が神力を使おうとした瞬間、火の中から飛び出してきた人が舞月に抱きつく。驚いた舞月は、技の調整を狂わせ、予定した戻る時間以上に時間を巻き戻してしまう。
「やっちまった、!」
舞月と世元は真っ黒な世界に転移する。転移というより、2人がいる現実世界に時空を操る空間が現れた感じだ。舞月の背後に巨大なアナログ時計が表れる。素材は琥珀で、中には龍の死体が閉じ込められている。数字は旧字体の漢数字で、墨で書かれている。蛇で出来た針がぐるぐると逆回りをして、時を戻していく。
「やばい界司、思ったより時間戻っちまった!」
「そうか。まぁいいだろ、その時になったら俺からシュナに言っておく」
「マジで頼むぞ…!?お前忘れるなよ!?」
「あぁ、任せておけ」
こう言っておきながら忘れかけるのが世元である。お約束であった。
時計はぐるぐると逆回りして、やがて激しい光を放つ。その光が収まった頃には、2人は過去に戻っていた。
世元は地獄で罪人に鞭を打っている最中だったようだ。罪人はボロボロで、痛みのあまり呻いている。
「ふん…今はいつだ?」
罪人を冷たい目で見下ろし、鼻を鳴らす。黒色の内側の赤いコートのポケットからスマホを取り出して、時間を調べる。
「2020年、1月…」
シュナが来るより4年以上前に戻ってしまったらしい。
「大分狂わせたな、朔。しかし不味いな…このままだと伝え忘れる。メモしておこう」
世元はスマホのメモ帳の新しいページに、シュナに生まれ直すように伝えることをメモしておいた。しかしこのメモも新しいメモに埋もれ、やがて見られなくなっていくのだ。
「これでよし…。」
なにも良くなかったが、世元は納得したらしい。スマホをポケットに戻して、また折檻を再開した。
舞月はというと、自宅で甘いカフェラテを飲んでいた所であった。舞月は甘党で、好物はプリンである。
「おっ…と」
思わずマグカップを取り落とすが、流石の反射神経で掴み直した。グレーのボブより短めの髪が揺れる。
「…今いつだ?」
舞月もスマホで時間を調べて、2020年1月であることを確認する。
「大分戻ったな…予定だと2024年の9月に戻るはずだったんだが…」
舞月はソファにスマホを投げる。
「まぁいいか…。休もう」
そう言ってカフェオレを飲んだ。折角緊張から解き放たれたのだ。休むのがいい。ミルクと砂糖たっぷりのそれは、時間遡行の疲労に沁みる。
そうしていつも通りの日常を送った2人は、すっかりアポカリプスの事は忘れてしまうのであった。




