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神様にお任せ!!  作者: 砂之寒天


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世界さんと舞月とパールが戦う話②

ep66で少し話が出たキャラが登場します。新キャラです。スペシャルゲストはこちら!舞月朔太郎!

この話が書きたかった!

正直世界さん1人で十分戦力は足りていますが、舞月が出したかったので出しました。

今回は2話分(約1万文字)ありますが丁度いい切れ目がなかったので、切っていません。長い方は2回に分けてお読みくださいませ。

 パールが行った先は、黒の洋館であった。


 本命は───────────────────




 ────────世元界司。そして、麗子の2人だ。

 黒の神のトップである世元を殺し、麗子は水晶に閉じ込める。それが今回の大本命であった。

 ちなみに麗子と白越は両色類だが、麗子は黒寄り、白越は白寄りとなっている。よって白越は狙いにはならない。黒の神は麗子と世元のツートップなのだ。


 なぜパールが急いで世元達を捉えようとしたのかというと、時間制限があるためである。

 世元側の戦力を減らすために、今夜、黒の神の戦闘の仕事が増えるように、至上の神と共に各世界で画策したのだ。急がないと、黒の神達が遠征から帰ってきてしまう。そうしたら世元を捕まえられる可能性が減ってしまう。それは避けたい。


 界司本人は、言わずとも知れているが、強い。地獄の王様であり、世界最強の、万物を焼失させる炎雷による攻撃力を誇る男。この男と戦って勝てる者は限られている。この男を捕らえるなど、無理難題もいい所だ。まだ殺す方が可能性がある。だから殺す。


 麗子はなぜ殺さず捕らえるのかと言うと、殺すことの困難さに由来する。


 実は麗子には白越によって結界が常時張られている。麗子は白越と幼馴染の様な関係であり、女性の白越にとっても麗子とは守るべきお姫様のような人なのだ。

 因みにその結界は、恐らくシュナでは破ることも叶わないだろう。パールも同じく。白越とシュナでは神としての格がまだ違いすぎるのだ。今後シュナの行動次第では手が届く日も来るかもしれない。

 よって攻撃は通らないが、鎖で繋いで水晶に閉じ込めるくらいなら攻撃判定にならないので、そうする訳だ。


 ちなみに世元も、人や霊、音を通さない結界は張れるが、攻撃を防御するという点では弱い。それはパールでも破れるだろう。


 寝ている麗子の元にいく。大きな、黒の天蓋と濃い紫のベルベットのカーテンがついたベッドで寝ている。寝相は少し悪い。若干布団を蹴っ飛ばしているくらいである。


 そこに丸い水晶を翳す。水晶から鎖が伸びて、麗子を縛る。


 縛られた衝撃で、麗子が起きた。


「ん…なに…?」


 寝惚けている。そのまま水晶の中に引っ張られて封印された。それを亜空間にしまう。


「よし…。」


 パールは息をついた。残るは1人。


(至上の神よ、私に力をお与えください)


 オパールのネックレスを握りしめる。死闘になるだろうが、至上の神の為ならこの命すら惜しくは無い。パールの覚悟は既に決まっていた。


「よし、行こう」


 パールは黒の間に繋がる扉を開けた。


 世元は、左奥にある自室から丁度出てきた所だった。


(寝てない…?)


 そして彼は、パールを見た次の瞬間転移でどこかに消えてしまった。


「!!どこ行ったの!!サタナ!!」


『はい。ホアフロスト島の東海岸です』


「転移して!!」


『承知いたしました』

 

 世元が転移したのは、北の方にある無人島、ホアフロスト。そこでは雪が降っていた。空は黒く、そこから白い雪が降っては黒を埋めつくそうとしている。


 そこに世元界司が立っていた。オーラは相変わらず恐ろしく、存在が大きく感じる。心臓から全身が凍りつくような錯覚を覚える。

 パールは歯ぎしりした。それは自分の至らなさによる悔しさを誤魔化す為でもあったし、オーラへの恐怖を紛らわせる為でもあった。

 世元のオーラは、位が高い者程恐怖が軽減される。世元の力加減もあるが、自分がこれ程恐怖を抱くのは、自分が世元よりも位が低く、弱いからである。それが悔しかった。


「悪いな、お前には寒いだろ?俺は寒くないが」


 世元はニヒルな笑みを浮かべる。


「寒いよ。でも神力で暖めれば寒くないからね」

「そうか。だがまぁ、ここがお前の命の終わりには丁度いいかと思ってな」

「なに、もう勝つ気なの?」

「当たり前だろ」


 パールはそっと自分に神力をかけ、寒さをなくした。


「馬鹿だね、自分から味方がいないところに行くなんて。まぁどうせ、今夜は戦闘力になる神はいないだろうけど」

「お前だもんな。俺の所の神達を遠征に行かせたのは」

「な、なんで知ってるの…!?」

「俺の神力による所だな」

「へぇ…ま、まぁいいけど」


 話もそこそこに、パールは剣を構える。


「いいのか?遺言は残さなくて」

「いらない。祈りは済んでる」

「それは良かった」


 世元は腕を挙げる。


「まずは小手調べだ」


 その手に黒い炎が宿り、バチバチと雷を発している。

 それを見たパールは、瞬間的に高速で横に走り出した。


 ドオォォォン!!!


 パールのいた所の後ろの方に生えていた木に、世元の炎雷が当たって燃える。


「ちっ」


 パールは舌打ちした。世元の炎雷は速い。それに当たらない為には、常に高速で動いている必要があった。その上で、世元に攻撃を当てなければならない。


(!そうだ!)


 パールはあることを思いついた。ちなみにパールはシュナと同じであまり頭の出来が宜しくないので、これを思いついたのは奇跡と言える。


「こうすればいいんだね!!」


 パールもその手に雷を宿した。


「!!まぁそうなるよな」


 世元も走り出した。こうなるのは時を遡る前の前回で分かっていた。その時はまぁ驚いたが、今回はそれ程驚かない。


 世元の動きはパールよりも速かった。動体視力も良いし、このままではパールに攻撃が当たり、負ける。


(私1人じゃ足りないな…。…そうだ!増やそう)


 そこでパールはもう1つ思いついた。己が足りないのならば増やせばいいのである。


 パールは手を胸の前で握り、横に振り払うような仕草をした。

 すると、隣に4人の分身がブワッと現れる。


 合計5人のパールは、一斉に世元に雷を向けた。


(ハードルが上がったな…)


 世元はなんとなく考える。ちなみに地上だけでは逃げ場かなくなったので、空を飛んでいた。


 そこに、シュパ!と降り立ったのは。


「シュナだよ!!!」


 シュナであった。アスモデウスの鎖が解けないと分かったので、パールを追跡して来たのだ。


「…余計なのが増えた…!!」


 パールは歯ぎしりする。苛立ちをそのままに、シュナに雷を向けて攻撃した。


「うわっ」


 シュナはびっくりしたが、何も出来なかった。そのまま感電してしまう。


バリバリバリ!!!


「きゃあああ!!!!」


 シュナはめまいに襲われ、全身に軽い火傷を負い、感覚の低下を覚えた。症状は軽かった。だが、戦闘が出来ない程度は傷を負った。応答はできる。


「シュナ!!!」


 世元がそちらに寄ろうとするが、狙われている今近づいたらシュナに雷が当たる可能性がある。近付けなかった。


 分身が鬱陶しい。本体は変わらず走り続けているが、分身は止まったままだ。殺しておこう。


 世元は宙を飛びながら、片手を挙げる。すると、


バリバリバリ、ドーーン!!!


 分身のいた所に、大きな炎雷が落ちた。分身は炭になり、プスプスと煙を上げている。かなり手加減した方である。だって星が割れていないから。


「殺してもまた増やすだけだよ?」


 パールはそう言って、また4人の分身を出した。


 世元は、雷を避けながら思う。


(こちらも戦力を増やしたいな。足りないとは言わないが…。久しぶりにあいつと遊ぶか)


 そこで呼び出したのが、この男である!


「シュナ!!舞月朔太郎を呼べ!!あいつなら来れるはずだ!!」

「わ、分かった!」


(サタナ!舞月朔太郎さんに繋いで!)

『承知いたしました。prrr…prrr…』


「はい。舞月だ。何か用か?」


 脳内で声がする。その声は柔らかくて、かつ芯があった。


「シュナっていいます!初めまして!今世界さんが増援を求めてるんですけど、来てくれますか?」

「界司が?いいけど。場所はどこ?」

「ホアフロスト島の東海岸です!」

「わかった、行こう」


 瞬間、パールの背後に男が現れる。

 170cmくらいの、銀色の前下りの、ボブより少し短い髪型の人。センター分けでイケメンが際立っている。上下黒のスウェットを着ている。目は黒色だ。


 走っているパールに飛び蹴りを食らわせた後、鋭い目つきでそちらを見つめる。パールは吹っ飛び、少し遠くで止まった。


「来たぞ、界司!!」


 世界さんを見て、少し微笑む。


「朔!!来てくれたか」


 世界さんも僅かに微笑んだ。普段笑みを象らない世界さんが。余程仲がいいのだろう。


「普通に休んでたんだ。休みだったから。こんな格好で悪いな」

「いい、来てくれてありがとう。朔。呼ぼうか迷いはしたんだ、お前はもう辞めたから」

「お前が増援を求めるならオレも応じるさ」


 正確に言うと一緒に遊ぶ相手を求めてただけだが、増援を欲していたということにしておこう、と世元は思った。


 舞月さんは世界さんに対しては優しそうな人だった。世界さんと同じ様にオーラが強くて、でも世界さんのように"この人には従わなければ"というより"この人に従いたい"と思わせるようなカリスマ性のある人だった。


「で?初めまして、シュナ。オレが蹴ったこいつは誰だ?」

「その子はパール。私の分身なんだけど、暴走しちゃったの。分身の解除は、パールが許可するか死ぬかしないとできない。ところで、舞月って呼んでもいい?」

「好きにしたらいいよ。オレもシュナって呼ぶ」


 優しそうな舞月は、何故かシュナには腰に手を当てて高飛車な表情をしていた。さながら悪役令嬢。何故かと言うと、緊張しているからだ。舞月朔太郎は若干人見知りなのだ。


(分かってたけどなんでこんな格好で初対面の人と会わないといけないんだよ)


 しかもスウェットである。あまりに恥ずかしかったのだ。顔を逸らす。

 シュナには苦々しそうに視線を逸らされたように見えた。


(私のこと嫌いなのかな…)


 シュナは少しだけ心配になった。


『スウェットで初対面のシュナ様と会っていることを気にしているようです』


(なるほど)


「服、イメージしてくれれば今神力で作るよ!」

「そりゃすげぇな。じゃあお願いするわ」


 私は舞月に神力をかけた。黒のシャツ、黒のベストにズボン、それから黒いコートが出来て、靴もロングブーツになった。


「元の服は?」

「家に転送したよ」

「てかなんでお前オレの家知ってんの?」

「神力でわかるからね。全知全能なの」

「あぁ、そういえば神集会行ったんだった。忘れてたわ」


 ニコッ!と音をつけて笑う舞月。誤魔化しているのである。


 遠くに突っ伏していたパールが、うぎぎと立ち上がる。強い蹴りだった。痛みで暫く起き上がれないくらいには。


(誰よあいつ!!!!)

『舞月朔太郎、黒の神の元副ボスです』


 パールがサタナに聞く。


「余計なのしか来ないんだから!!!ただでさえ勝てるか怪しいのに増えないでよ!!」

「俺も手加減してるからな、遊びたくて」

「!!!そうなの…?」


 そりゃそうである。世界さんが本気を出せば万物が1秒もかからず炭になるか、炭も残らず焼失する。その炎雷を確実に当てる動体視力も反射神経も伊達ではないのである。パールとのこれは、世元にとっては赤ちゃんとの遊戯であった。折角頑張ってるから少しは頑張らせてあげようかな、くらいの気持ちである。


 パールは絶望したという顔をした。手加減されてても勝てそうにない。完全に遊ばれてるんだ。

 その事実に気付いた時、パールの心は屈辱に塗れた。


「くそ…くそくそくそ!畜生!なによ!!全員消し炭にしてやるんだから!!」


 パールは分身と共に、雷をやたらめったら落とし出した。


「うわっ、危ないな」


 しかし世元と舞月には当たらない。雷より速い動体視力と移動速度を持っているのだ。


 暫くしたら、雷は止んだ。パールが疲れたのだ。


「魔法はもう終わりか?じゃあ、ここからは…


…殴り合おうか」


 舞月がキマッた瞳孔の開いた目でそう言う。かっこいいオーラが凄くて、こういう所に魅了される人もいるのかもしれない。


「あ!そうだ!拳とかに込められる神力ある?普通につけた傷じゃ回復しちゃうんだよね」

「あぁ…ある。闘気なら込められる」


 要は神力を込めなければいくらでも痛めつけられるという訳だが、そんな非道なことはしないらしい。舞月は飛び出し、パールを蹴りつけた。


「きゃあああ!!!」


 その1発は重い。パールは防御した右腕の骨が折れた。手加減はしている。

 そのまま舞月は両手で高速なパンチを繰り出す。顔、腹、胸など様々なところが痛み、しかも防御する間もないほど速かった。

 分身は、パールに雷が当たるかもしれないので攻撃ができない。狼狽えていた。


 最後に一発、蹴って吹っ飛ばす。後ろの方にあった木にぶつかって止まった。


「もう、やだ、やだ…!!」


 パールは結構心が折れていた。


 胸元を見る。蹴られた衝撃でオパールが割れていた。


「ああっ…!!」


 それを見てパールは悲痛そうな顔をする。私の至上の神を象徴する守り石が。


 世元がパールの元まで飛んでいく。


 そしてパールの剣を奪って、パールに馬乗りになる。


「終わりだ」


 パールの首元に剣が突き立てられ、パールはそれを手で握り、必死に進まないよう止めている。その手は切れて血が流れていた。


「終わりじゃないよ」


 パールは白の剣に込めた神力を解除した。神力さえ篭っていなければ回復できるからだ。


 そして左手を即座に亜空間に突っ込み、予備の剣を取り出し、神力を込める。

 そして、迅速に世元の右腕を切り落とそうとした。…が、人差し指の第1関節を切るに留まる。ほぼ避けられた。

 指先は神経が集中している。痛みに強い世元にとっては僅かだが、確かな痛みが、指先を襲った。


「っ、」


 世元の傷口から血が零れる。


「世界さん!!」


 傷は治せないが、神力で止血なら出来る。シュナは即座に世元の傷口を止血した。


「痛いでしょ、そこどいたら?」

「関係ないな、この程度。このまま殺す」


 白の剣にバチバチと炎雷が宿る。世元の神力だ。


 パールは世元に力差では負けているから、この馬乗りの状況から体制を変えることはできない。


 万事休す、であった。


「あぁ、そうだ。シュナに伝えておかないといけないことがあるの」

「なに?」

「悪魔達、他の分身、アルマロス、全員殺したよ」


 アスモデウスの隣の部屋で何か重いものが落ちた時の音。それは、オリエンスの首が落ちた音だったのだ。


「───────は?」

「だから、全員殺したの」

「そん、な」


 シュナの心にヒビが入り、ガラガラと崩れ落ちる。私の分身が、私の大切な人達を殺した。罪悪感なんてものでは無い。重い罪の意識が、シュナの心に吊らされ、重みを主張する。深い悲しみもあった。涙がポロポロと零れている。

 しかし、神力で生き返らせればいいと思いつく。


「でも、神力で蘇らせれば…!」

「そうだね。私ももうすぐ死ぬし、統合したら生き返らせれるね。っ、はー…最悪よ…至上の神の命令を遂行できないなんて。悔しい」

「残念だったな。まぁ初めから俺が勝つという結果は決まっていた訳だが。お前も頑張ったらしい、シュナの分身のわりには戦闘能力も高く攻撃も多彩だったな。そう情けない面をするな」

「そうかな。…はぁ、悔しい…。いっそ一思いにやってよね」


 パールは死ぬために、体を人間としてのそれにした。もうどうせ、回復してもらうことも叶わないだろう。ならばいっそ死ぬほうが潔くて良い。


「あぁ。そのつもりだ。…



…さようなら、パール」


 世元は剣をもう一度振り上げ、そして勢いよく振り下ろした。


ザクリ。


 パールの首に剣が刺さる。炎雷がバチバチと弾け、感電したパールの全身を焼き尽くす。


「かっ、は…!!」


 もう一度剣を抜き、今度は頸動脈が切れるように横から切った。


 そうしたら、パールの体からは完全に力が抜けた。パールは、至上の神のために殉死した。


 シュナは、舞月に支えられながら立ち上がる。


「じゃあ、統合しちゃうね」

「…おう」


 世元は眉をひそめて、視線をずらす。どうなるか知っているからだ。


「よし、GOー…あ、れ、」


 シュナは倒れそうになった。それを慌てて舞月が支える。


「シュナ!!!」


 そこにアポロンが木陰から飛び出す。シュナを受け取る。


「お前、いつからいた?」

「シュナが来た時からだな。GPSで位置を特定したんだ」

「…そうか」


 世元は深くつっこまなかった。


「これ、どういう状況だ?」

「パールは精神支配を受けていた。そのダメージで精神に負荷がかかって元の心は壊れていたんだ。それと統合したから精神が壊れた。こうなったら再起不能だな。死んだも同然だ」


 シュナは、伽藍堂な目をして、口は半開きだ。いつもは淡く発光してオーロラの輝きを放つ髪も輝かない。シュナは実質死んだ。アポロンは泣いて、涙がシュナの頬に落ちる。


「シュナ…」


 心から愛した、大切な人が。言葉が詰まってしまって、出なかった。

 アポロンはただ、シュナの亡骸を抱いて、泣くばかりだ。


「くそっ…あぁ…シュナ…」


 暫くそうして、深海の底の底のような、光の届かない悲しみと絶望に暮れていた。


 世元は、何も言わなかった。こんな時だが、言わない方がサプライズになるかなとか考えてるのである。ちょっとズレていた。しかし日の出はもうすぐだ。だから問題ない。


 神妙な顔をして、涕泣するアポロンを見つめていた。


 なかなか明けない夜を過ごす。晴れている東の空はだんだん色が朝焼け色になってきたが、日の出はまだだ。

 アポロンはしばらく壊れたシュナを抱き抱え続けた。


(シュナがいるから、この星さえも愛せたんだ)


 愛する人がいる星は、温かい温度で、愛おしかった。この世界でシュナが生まれて、生きて、息をしていると思うと、全てが愛おしかったのだ。愛及屋烏であった。


 愛していた。シュナを包み、生かすプネウマを。シュナを。アポロンの真似をして淡く発光させたオーロラ色の銀髪も、嬉しそうに愛おしそうにこちらを見るサファイアの瞳も、小さな体も、甘く立つ匂いも。ちょっと馬鹿なところも、優しくておおらかなところも、全知全能なところも、歌声も、踊りも、笑顔も、涙も、全部全部、全部。愛おしくて、愛していたのに。


 涙は止まらない。後悔は先に立たなかった。役にも立たなかった。


「…俺の…炎で、この世界ごと燃やしてしまおう。お前の墓として。俺の愛の炎で燃えた星を作ろう」


 アポロンは真っ黒く濁った瞳で、そう言った。


 世界さんはそれを、眉をひそめて見つめるばかりである。日の出はもうすぐそこだ。


 「それがいい。」


 そう言ってシュナを抱えて立った時。そこに朝日が差して、壊れたシュナの頬を照らした。シュナの頬が発光したように淡く輝く。


 ─────────すると、シュナからキラキラと星屑が零れて輝き出したではないか。


 お腹から釣られたように宙に仰向けで体が浮く。シュナは胎児のように丸まったあと、根元が青色で先の方が白色のお花に包まれた。花の先端からは星屑が絶え間なく零れている。

 下の方から、どこからか現れたシマエナガと、星がキラキラ上の方に向かって回りながら動いていく。それが花の先端まで行った時、花が咲いた。星屑が溢れ、シマエナガは周りをぴよぴよ飛んでいる。

 シュナの胸元から淡い青とピンクのハートが溢れ出して体の周りをふわふわ回って、やがて消えていく。

 神秘的な光景であった。


 そうして、シュナは、誕生日の2/16の日の出に。精神汚染の影響を全て無くしたまっさらな状態に生まれ変わったのだ。

 体がふわふわとアポロンの腕の中に降りていく。シュナは産まれたての赤ちゃんのように、睫毛を震わせ、ゆっくりと目を開けた。朝日が眩しい。


「…シュナ…?」


 シュナはキョロキョロとする。そしてそっと心の中で、サタナに状況を聞いた。それを了解したシュナは、そっとアポロンの腕の中から立ち上がる。


 そして。


「皆の幸せが私の幸せ!シュナだよ!!」


 ほっぺを突き、片足を曲げたポーズで、お決まりのセリフを言い放った!!


「シュナっ!!!」


 アポロンが泣きながら、喜びの表情でシュナに抱きつく。


「えへへー、心配させてごめんね〜」

「本当だ、喪ったかと思っただろ…この星を燃やして墓にしようかと思った…」

「え"っ、それはちょっと…まぁ嬉しいけど…」


 こんな寛容なシュナだからアポロンの相手ができるのである。


「良かったな、アポロン」

「あぁ。世界さん、分かってたんだろ?このこと、全部。教えてくれないなんて意地悪じゃないか」

「まぁ、サプライズの方がいいかと思ってな。言い出しづらかったし」

「まぁ、貴方はそういう人だよな…。舞月、シュナを支えてくれてありがとうな」

「あぁ、いいよ。久しぶりだな、アポロン。元気か?」

「まぁさっきは悲しみで死にそうだったが、大方元気だぜ」

「それはよかった」


「…で、シュナ?麗子の解放と、殺したヤツらを生き返らせるの、頼むぞ?」

「わかった!ここだと麗子ちゃん寒いよね。あ、パールの墓立ててっていい?」

「構わん。待っていよう」


 シュナはその辺の木の太い枝を神力で折り、成形する。それで十字架を作って、縄で固定して墓にした。その墓元に、パールが着ていた服を埋める。割れたオパールのネックレスは、墓の枝の方に掛けた。

 いつもは花屋で買うが、今回は仕方ないので神力で花束を作る。保存の魔法もかけたから、暫くは持つだろう。


 分身の誕生日は8/19だから、6ヶ月近くの仲だった。あっという間だった。でも分身達にとっては、とても大切な人だっただろう。シュナはあまり会う機会がなかったが。


 シュナは手を合わせて、目をつぶる。アポロンも隣で手を合わせてくれた。パールの魂は、シュナの中で眠り続ける。分身の魂は、仮初の魂で、死んだら本体に同化されるのだ。


「…よし!戻ろっか」

「おう」

「オレもいくか。麗ちゃんに挨拶しときたいし」

「俺も行こう」


 4人で黒の洋館に戻った。とりあえず黒の間に転移門を繋ぐ。


 真っ黒な広くて暗い空間。天井にあるいくつかの照明が淡く間を照らしていた。


 亜空間に手を突っ込み、水晶を取り出す。


 そして、そこから鎖に縛られた麗子ちゃんが出てきた。鎖は外れ、水晶の中に戻っていく。私はそれをまた亜空間に戻しておいた。今は亡きパールが作ったのだろうから、壊しづらいのだ。


「あっ!開放された〜。皆ありがと〜!!」


 麗子は黒いネグリジェを着ていた。結構平気そうな顔をしている。助けられる事を確信していたからだ。


「麗ちゃん、久しぶりだな。元気にしてた?」

「あ!!朔太郎〜!!久しぶり〜!!って言ってもお誕生日会以来だけど!」


 そう、舞月朔太郎、世界さんと麗子のお誕生日会には参加していたのだ。だからひと月ぶりくらいである。シュナは、別に知らない人がいるのは当たり前なのであまり気にしていなかったが。


「麗ちゃん、今回は災難だったな。大事ない?」

「も〜めっちゃ平気!超元気だよ〜、眠いけど!」

「じゃあ早く寝ような」


 2人は仲が良い。舞月は日本で世元達と出会ったのでそれ以来の仲だが、よく悪ふざけもしたし、親や先生にも怒られたものだ。麗子は馬鹿だなーと思いながら、親愛と慈愛の籠った目で見ていたのだった。麗子に何かあれば守ってくれたのは世元と舞月を筆頭とした黒の神達だったので、麗子はお姫様であった。


「じゃ、解散でいい?眠いし!」

「朔、酒でも飲んでくか?手合わせは?チェスは?」

「おぉ、遊びたいざかりかお前は。分かった、酒を飲もう。良いのあるんだろ?」


 朔太郎の前だと世界さんは少し子供っぽくなる時もあるらしい。


「そうだ、この傷…アポロン、治してくれるか?」

「あぁ、いいぜ」


 世元は人差し指の傷を完全に忘れていた。こんなの数日経てば生えてくるが、一応治しておくに越したことはないだろう。

 アポロンが世元の指先に手をかざす。温かい光が指先をつつみ、世元の人差し指の第1関節が生えた。


「ありがとう」

「いいぜ、これくらい。いつでも頼ってくれ」


「じゃ、私は天使たちと分身と悪魔達生き返らせてくるね!今日はまきこんじゃってごめんなさい!おやすみなさい!」

「おう、気をつけて帰れよ」


 実はこの中で1番ほっとしてるのは、全部を知っている世元と舞月であった。だって、別のルートではあんなことが起こっていたのだから。防げてなによりであった。


「またな」

「おやすみ〜!!」

「俺もついて行っていいか?」

「アポロン?いいよー!でも結構悲惨だと思うから…」

「あぁ、そういうのには慣れてるからいい」

「そう?じゃあ行こっか!」


 アポロン、実は人間を殺したこともあるし、痛めつけたこともある。残虐な面も持ち合わせているのである。シュナの前では見せないが。


 そうして2人は天界の家に行った。

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