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神様にお任せ!!  作者: 砂之寒天


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始まりの夜①

シリアスです。

ep24の殺人鬼マリアの拷問の設定が非常に悪さをしていて、どうしようか悩みました。

ちょっと伏線とかいうものを張ってみました。

ここから始まる話が私の作中のサビみたいな感じです。これはずっと書きたかったんですよね。

 ─────その夜。天界のシュナの家を無限の静寂が襲った。



 寒い夜だった。下界では雪がしんしんと降っていて、雪が音を吸っているが如く、痛いほど静かだ。天界には満天の星空が広がっていて、冬特有の透き通った空気と爛々とした星々は、正義の心の様に眩しく光っていた。狂気の象徴である月は満月であった。その光が女の背中を妖しく照らす。


 女の顔は逆光になっていて見えない。いや、一瞬窓の方を見た時に、月明かりに照らされて見えた。それは、仮面であった。白色で、真珠とレースと花弁のついた、目の部分も空いていない仮面。一体どう前を見ているのか。真珠がキラリと冷たい光を放つ。


 眼下には安らかに眠っているシュナの分身。艶々サラサラの白い髪が淡いピンクのシルクの枕に広がっている。余談だが、シュナは髪質を気にするので、摩擦が少なくて髪がサラサラになるシルク枕を使っているのだ。ナイトキャップだと朝にはとれていて効果があるか分からない事もあると聞き、枕カバーをシルクにした。

 瞼の奥に秘められているのはカシミール産のサファイアのような、1度見たら忘れられない深い青の瞳。太陽の光を受ければダイヤモンドの如くキラキラ輝き、暗闇では深海のように深い色合いになる。


 それと、隣に眠るのはアルマロス。ウェーブのかかったローズグレーの髪と、隠された瞳はオールドローズ。こいつ、シュナと同居して中性なのをいいことに一緒に寝ているのだ。いやらしい奴。断らないシュナもシュナである。己がされたことを忘れたのだろうか。普通、監禁してくる相手と一緒に寝たりはしない。


 女は白いフリルシャツとパンツ、コート、ブーツ、オパールのネックレスを着用している。

 女の手には白い剣。それはホワイトの神力による闘気を纏っている。シュナの体は今、以前と違って人間の体だ。それはただ"生きているということを感じたい"という理由だけで行われた。だから普通に致命傷が与えられれば死ぬ。


 ちなみに例えば神力を使って不死の体にしていたとしても、神力を用いて致命傷を与えられれば回復できずに、意識のある肉塊と化す。殺人鬼マリアは、神ではないのでその攻撃はただの攻撃であった為に、当時の不死のシュナを無力化することは出来なかったのだ。


 正確に言うと、シュナは相手の神としての位によって神力でつけられた傷の回復できる具合が変わる。神力による効果に干渉できる度合いが変わるのだ。神としての位とは、年功と、人助けによって貯まる高尚ポイントによって決まるものだ。

 同等以上の神に神力でつけられた傷は、医神やそれ専用の神力を持っている者、例えば医神アスクレピオスやアポロン、癒しの神パナケイアにしか治せない。それは神の中でも別格であり、トップレベルの回復力を誇るからだ。そしてその場合、シュナは回復できない。

 同等未満ならシュナにも回復できるようになる。

 また、傷をつけた本人が回復能力を持っている場合は、本人も回復させることは出来る。だから、例えばシュナの分身の1人がシュナに攻撃した場合、その傷はシュナには治せず、そのシュナの分身には治せるのだ。


 ということで、それを知っている女は躊躇いなくシュナの分身とアルマロスの首を飛ばした。横に並んでいたので、一直線にスパリと。

 切り目から鮮血が溢れ出し、淡いピンクの寝具が赤く染まっていく。支えを失った首が、ゴロリと転がり落ちる。その顔は、殺された事に気付いておらず、安らかであった。

 これで、シュナの分身とアルマロスは医神らかこの女にしか治せなくなった。


 女はそれを、仮面の下で興味なさげに冷たく見下ろす。心のない、残虐な殺人犯の瞳であった。


 女は思い出す。


 そういえば私もアルマロスと一緒に寝たことがあったな、と。私の性格が変わってからは無くなってしまったので忘れていた。別に変なことはされなかったけど。


 振り返った拍子に、白い長髪が翻る。


 そう、彼女はシュナの分身。パールを名乗る、至上の神の忠実なる下僕(しもべ)である。


 仮面を着けたパールは神力で周りの様子を把握していたのだ。神力を込めれば回復出来ないという話は、サタナから聞いた。


 パールは部屋を変え、次々とシュナの分身を殺していった。皆すやすやと眠っていて、冬なのにアチアチになったのかお腹を出しているシュナもいたし、お腹を冷やすことを学んだのか腹巻を巻いているシュナもいた。


 皆、殺した。


(1人足りない…)


 殺した人数は、8人。残りの1人はどこに行った?


(恐らくトイレだよね。どのトイレだ?電気がついている所…)


 歩いていると、1つ、廊下の電気のついたトイレがあった。


(ここか)


 パールは剣を下ろして待っていた。


 ジャー


 トイレが流れる音がする。死刑を知らせる音がトイレを流す音とは、なんと間抜けなことか。


 ガチャ


 扉が開く。背後をとった。


ザクッ


 そのまま首をかききり、飛ばす。


「、?」


 訳も分からないまま、シュナの分身は死んだ。


 天界のシュナの家を、無限の静寂が襲う。


 何故分身達とアルマロスを殺したのかというと、この後の後にする目的の邪魔になるかもしれないからである。無駄な戦闘力は消しておきたかった。


(次は…)


 パールを転移門を出して、目的地に繋ぐ。


 行先は、地上のシュナの家だ。


〜〜~


 アスモデウスは、異様に張り詰めた空気に、パチリと目を覚ました。


 体をがばっ、と起こし、部屋の中を見渡す。


 異常はない。しかし空気だけが異常な程重く、冷たい。雪降る夜は、非常に静かだ。


「…」


 アスモデウスは黙ったままだ。そのまま、ベッドの中から出る。


 嫌な予感がする。


(誰かが死んだ?そんな空気がします)


 死の匂いがする。心做しかする血の匂いも、鼻のいいアスモデウスは嗅ぎとった。アスモデウスの視線はどんどん鋭くなっていく。しかし彼は慌てない。魔王魔神として流石の肝の座り方をしているのである。念の為、急いで静かに棚の上にある腕と足の鎧を着けておく。

 装着は数秒で終わった。ほとんど、手袋を着けて靴を履くようなものである。


 すると。


 ゴトン


「!!」


 隣の部屋から何か重いものが落ちる音がした。


 その後、隣の部屋からガチャリ、と扉を開く音がする。


 短い足音。扉の前で止まる。


(これは…敵ですね)


 アスモデウスは足音の癖で、敵だと判断した。


バキィ!!!


 アスモデウスは思い切り扉を蹴り飛ばした。


「!!!」


 扉の前にいたパールが驚きと共に横に飛び退く。


「は、我が君…?」


 その背丈も肉付きも、髪色もシュナと同じものであると、変態的にシュナの事を把握しているアスモデウスには分かった。しかしその手には血のついた白い剣が握られている。明らかに人を殺した後だ。その服装も普段とは違う。アスモデウスは困惑した。


「違うよ。私はパール。シュナの分身、至上の神の下僕」


 パールの声はシュナと同じ声だが、シュナが普段出さない怒ってるような低い声をしていた。


「流石だね。気付いたんだ、私が来たの。私の至上の神の命令で、貴方達を殺すことになったの。悪いとは思わないけど、ごめんね?アスモデウス」

「…なるほど。敵ということで違いないのですね。であれば…」


 アスモデウスはパールを見下ろす。


「倒すのみです」

「貴方に出来るかな」


 2人は戦闘に入った。


〜〜~


 ガチャン、ドン、ダン。


 戦闘音が響く。


「んん、むにゃむにゃ…」


 シュナは呑気に眠っている。


 ドドドド、ガン。


「んー…うるさいなぁ…」


 寝返りをうつ。


 ガッ、ドーン!!!


「はっ!!え、なに!?今の音!!」


 シュナはやっと飛び起きた。実に、戦闘が始まってから5分後である。結構うるさいはずなのだが。呑気で間抜けなシュナはなかなか起きないのである。


 ガチャ!!


 丁度、扉が勢いよく開く。


「あ!!」


 そこにいたのは、両目をバッテンにした、ボサボサの髪のメアリーであった。メアリーはシュナが起きるちょっと前に起きて、部屋を出て、目の前でアスモデウスとパールが戦っていたのである。


「大変なのです!敵襲なのです!!!」

「て、敵襲〜!?」


 シュナは寝起きの顔で、片目をバッテンにして、ふらふら、こけそうになりながら部屋の外へ出た。


「アスモデウス!!」

「我が君!!!」


 パールと戦闘中のアスモデウスを見て、声をかける。アスモデウスはパジャマ姿に腕と足だけ鎧をつけて、戦っている。

 家のあちこちに氷魔法が刺さった跡があり、聖浄化弾(ホーリーバレット)破壊滅弾(デストロイバレット)が当たったような円状に壊れた跡もあった。


 戦っている相手を見る。真っ白の様相に、私と同じ長さの白髪、私の同じくらいの背丈。その顔は仮面で見えない。


「え、誰!?私みたい!」

「私はパール。悪魔達を浄化しに来たの」

「敵ってこと!?」

「そうだね」

「分かった!メアリーちゃんは避難してて!」

「分かったのです!」


 私は亜空間から、オリエンスの師匠ガウルさんが作った優秀な片手剣(スパタ)を取り出す。それは柄にカルトゥーシュ模様が刻まれている、オシャレな剣だ。

 服も神力で戦闘服に着替えた。白がベースで差し色が青色の戦闘服。装飾の付いた軍服のような上に、プリーツミニスカートである。胸元にはサファイアのブローチが付いている。お守りなのだ。白い靴下は太ももまである。

 アスモデウスの服も神力で変えてあげる。黒の執事服だ。


「あぁ我が君!ありがとうございます」

「いいよ!」


 そうするとアスモデウスは蜜月の女子の様に蕩けた嬉しそうな顔をした。こら、戦闘中である。多分シュナに着替えを手伝って貰えたみたいな気持ちなのだろう。シュナはアスモデウスが気持ち悪くても気にしない。


(サタナ!この戦闘の為にやっておいた方がいい事ってある?)

『はい。まず攻撃全てに神力を纏わせること。そうすればパールも回復できなくなります。次に、体を神力で不死にすること。それから、私のサポートをいれること。以上です』

(分かった!それオートでやって!)

『承知致しました』


 完全に戦闘態勢に入る。


 ひとまず切りかかる。素早い切りつけが、風を切る。同時にアスモデウスも殴り掛かる。

 パールは上手い角度で剣を扱い、同時にそれを跳ね返した。


(上手いな…)


 平和ボケしたシュナよりも、パールは戦闘能力が高かった。恐らく知らないうちに戦闘経験を詰んだのだろう。体幹がブレないし、動きに無駄がない。


 パールも反撃してくる。2人まとめて切り殺そうとする。

 それをアスモデウスは腕の鎧で止めた。アスモデウスがパールの白い剣を握り、引っ張る。


「!!」


 パールは、このまま剣を掴んでいると体幹が崩れると判断し、すぐ剣を離す。アスモデウスは返ってバランスが崩れてしまった。そのまま、アスモデウスの腕に蹴りをいれる。


「くっ」


 それはあまり重い一撃ではなかったが、シュナの分身にしては重く、剣を離すには十分な衝撃であった。


 アスモデウスは剣を手放し、パールはそれを回収する。


 それからはまた、切って切られて、殴り殴られであった。

 

 パールは考える。埒が明かない、と。

 そも、悪魔達を殺すのは、大本命ではない。こちらも一応目的の1つではあるが、それ以上に早急になさねばらならないことがある。

 悪魔達を殺した理由は、本命を捕縛する際に邪魔になる可能性があるのと、至上の神が悪魔を嫌うから。至上の神は悪魔とは穢れと邪悪、卑しい物の全てを煮詰めて皮に詰めたような存在だと信じて止まないのである。シュナの仲間だから多めに見てはいたが、その根は変わらないのだ。


 アスモデウスが思いの外しぶとい。彼、なんだか見ないうちにすっかり強くなってしまっているのだ。パールにも、分身前にアスモデウスを高速ドデカ聖浄化弾(ホーリーバレット)で倒した記憶があるが、あの頃とは格が違った。

 スピードが有り得ないほど速い。攻撃がまるで当たらないのだ。

 ここは屋内だから、あまり激しい戦闘をすると倒壊する恐れがある。家に大きなダメージを与えるのも極力避けたい。だからドデカ聖浄化弾(ホーリーバレット)は使えない。

 正直殺すには力が足りなかった。


(これは殺すのはキツイな…拘束して時間を稼ごう)


 途端、パールの腕から鎖が伸びた。それは白く発光する鎖。


「!!なんです!」


 アスモデウスが警戒して後ろに飛ぶ。しかしその後ろの空間からも、鎖が伸びていた。

 実はパールは、最悪こうなっても良いように、死角から攻撃を飛ばすことはしていなかったのだ。死角からの攻撃の可能性をアスモデウスの意識から省くために。

 それで捕まるアスモデウスかどうかは賭けであったが。


ジャララ!!


「なっ!!!」


 アスモデウスの体に鎖が巻き付く。賭けはパールの勝ちであったのだ。


「甘いね」


 パールは仮面の下でアスモデウスを見下ろした。構えていた白い剣を下ろす。


「アスモデウス!!」

「くっ、なんのこの…」


 アスモデウスは必死に鎖を千切るなり解くなりしようとするが、上手くいかない。


「今はこれで勘弁してあげるよ。でも、用事が終わったら待っててよ。殺す(浄化する)から」


 パールはそう言い残すと、瞬間転移でどこかに行った。


 シュナはアスモデウスに駆け寄り、拘束を解こうとする。暫し葛藤するが、解けない。神力で解こうにも、同格のパールの神力には干渉できない。


「なにこれ、固くて解けないよ!」

「我が君、私のことはいいのでパールを追ってください。奴、次は何をしでかすか分かりません」

「…分かった。私行くから、アスモデウスも気をつけてね!」

「えぇ、ご武運を祈っています」


 そういう訳で、私はパールを追って瞬間転移した。

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