唯理有とメアリーのデート②
ここ四作品くらいは色々試行錯誤していたのですが、やはり自分らしい創作が1番面白いかなと思いました。
「あ…そろそろ予約の時間だ。行かないとでござる」
「ご飯なのです!おなかペコペコなのです~」
転移門で行ったのは、高い高いビルの下。そこからエレベーターで最上階まで上がった。
メアリーはこんな高いところに来たことがなかったので、落ちないか不安になって、唯理有の袖をギュッと掴んだ。
「メアリーたそ?…もしかして怖い!?うわそうでござるよな、しくったか…!?」
「だ、大丈夫なのです。唯理有さんがいれば大丈夫な気がするし」
「うわッ…かわいッ…ま、まぁ何があっても守るから安心して景色楽しんでよ」
「はいなのです」
ということで高層ビルの最上階の、景色が見える窓際の席でフレンチをいただく事にした。
荷物を店員さんに預けて、席に着く。
「わー…!高くってキラキラで綺麗なのです!」
「そうでござるな」
唯理有はメアリーの静かにはしゃいでいる姿を目に焼き付け、オタク感のない素朴な笑みを浮かべる。
店員さんが来て、注文を頼む。
ワインのペアリングも頼んだ。
「ちょっと緊張するのです…」
「メアリーたそはこういうとこ来たことある?」
「シュナお嬢様とあるのです。でも頻繁には行かないのです」
「そうだよね。拙者もこういうとこ頻繁には行かないよ」
ちょっとソワソワするメアリー。対する唯理有はどことなく余裕そうである。その後自分がしなければならないことはきちんと分かっているが。
やがて食前酒が運ばれる。シャンパーニュだ。
「しゅわしゅわするのです」
「そうだね、しゅわしゅわだ」
頷く唯理有。シャンパーニュは発泡酒なのでしゅわしゅわして当然である。
「こちら前菜の、鴨とフォアグラのソシソン仕立て、林檎のサラダを添えて、でございます」
前菜が運ばれてきた。
前菜は鴨の香ばしい香りとフォアグラの濃厚なコクがマッチして美味しい。林檎のサラダでサッパリさせるといくらでも食べれそうである。
メイン料理の肉料理と赤ワインが運ばれてくる。
メイン料理は、和牛頬肉のブレゼのオリーブソース添えだ。
和牛の頬肉は濃厚な脂がのっている。脂を濃い赤ワインで流すのが心地好い。
「ん〜!お肉美味しいのです〜♡」
メアリーも頬に手を添えて目を瞑り、嬉しそうに味わう。唯理有は目を細めてそれを眺めた。
デザートは林檎のクラフティと焼き林檎のソルベ、キャラメルソースを添えて。貴腐ワインと共に運ばれる。
クラフティとは卵や牛乳で作るアパレイユという液体状の生地とフルーツと一緒にグラタン皿などに流し、オーブンでじっくりと焼き上げるデザートである。ほんのり甘い、固めのプリンの様な食べ物だ。
「林檎が蜜たっぷりで美味しいね。この生地の部分も優しい甘さでござる」
「うん!」
ゆっくり味わったら、お腹が丁度よくいっぱいになったのであった。メアリーはほんのり酔って、心地いい気分である。
一方唯理有は段々と緊張していっているのであった。遂に食事が終わってしまう。しかしここは腹を括るべきである。
食事も終わり、少し間が空いた時。唯理有はごくりと息を飲んで、メアリーに呼びかける。
「ねぇ」
「なになのです?」
メアリーが小首を傾げる。
唯理有の心臓は緊張でバクバクと鳴る。声が震えそうだった。
少しゆっくり息をついて、間を空ける。そして遂に…
「拙者と…、僕と、付き合ってください。メアリーちゃんに首ったけなんだ。四六時中君のことを考えてる。愛してる」
首まで真っ赤にした唯理有は、2度目の告白をした。
1度目と違って、勢いで告白してないから酷く緊張した。一瞬俯いて視線を外し、再度メアリーを見上げる。
メアリーは。聖母のような優しい笑みを浮かべていた。慈愛の籠った、嬉しさを滲ませた表情だった。
「…」
唯理有はそれを見て、自分も神なのに、神の様な尊いものを見た気がして、なんだか救われたような、夜明けを見たような気持ちになった。泣きそうだ。
しかしすぐ真面目な顔になり、返事を待つ。
「…はいなのです。よろしくお願いします、なのです!」
「ゃったァ…!」
唯理有は抑えた声で喜びを顕にした。
ポロポロ。
「あ、あれ、」
唯理有の目から涙が溢れ落ちる。喜びのあまり泣いてしまったのだ。
「わ、わわ、!唯理有さんポロポロなのです」
「ごめん、嬉し、くって」
メアリーは焦った。目の前で恋人になった神が泣いている。唯理有も焦った。これでは格好がつかないではないか。
「ぐすっ、すぐ泣き止むでござる」
「ゆっくりでいいのです。…あれ、私もなんだか視界が歪んできたのです」
ポロリ。
「えっメアリーたそまで!?」
「貰い泣きしちゃったのです、えへへ」
そうして2人は泣きながら見つめ合い、
「ふ、ふふ」
「えへへなのです」
綻ぶようにホロホロと笑った。それは生まれたての雛が囀るようで、咲きたての花が陽光に照らされるようで。寒くなってきた冬なのに春の訪れを感じさせる様な暖かい空間だった。
一頻り泣いて涙が収まってきた頃、2人はもう1つ笑顔を零して、
「そろそろ帰るでござるか」
「なのです」
そう言って帰路に着くことにした。お会計は勿論唯理有持ちである。沢山買ったショッピングバッグを店員から唯理有が受け取った。
「ねぇ、下界も歩きたいでござる。帰るついでに少し歩かない?お酒で少し体熱いし」
「いいのです!」
ということでルツェルンの適当な所に転移門で降りた唯理有とメアリー。冬の寒い風が2人に吹いた。酔いで火照った体には丁度良かった。
「寒くない?」
「大丈夫なのです」
メイン通りには居酒屋もある。早くも酔っ払った人もいるが、基本的には仕事帰りの人達が歩いていた。
正面から酔っ払ったおじさんが千鳥足でこちらへ向かってくる。唯理有はそっとメアリーの肩に大きな手を回して自分の方に寄せた。
が、酔っ払いは想定外の歩みでメアリーにぶつかった。
「わっ」
酔っ払いがメアリーにぶつかった衝撃で、メアリーが尻もちを着く。手に持っていた携帯が勢いよく落ちて、その上に手をついたせいで、バキッと割れてしまった。
その瞬間、周囲の温度が数度下がったような錯覚がした。唯理有から怒気が発せられる。
「ねぇ」
唯理有の横にナイフが複数浮かぶ。部屋から転移させ、浮遊魔法で浮かせたのだ。唯理有本人も、懐から取りだした銃を構えている。
「拙者のメアリーちゃんなんだけど。汚い手で触らないでくれます?殺しますぞ。」
酷く冷えきった目で、高い身長から見下ろす唯理有。黒の神らしい威厳とマフィアのような底冷えする恐ろしさであった。
酔っ払いはあまりの恐ろしさに酔いも冷め、可哀想な程怯えて、ガクガクと震えるしか出来なかった。
「す、すみませんでした、どうか命だけは」
「メアリーちゃん、どうする?メアリーちゃんが許すなら殺さないけど」
「い、いいのです!許すのです、殺さないであげてほしいのです」
メアリーは慌てて差し許した。自分のせいで大して罪もない人が死んでしまってはいたたまれない。
「メアリーちゃんが優しくて命拾いしたね。」
唯理有は緩く目を逸らして、銃を懐に戻しナイフも部屋に戻した。
「す、すみませんでしたああぁ!!」
酔っ払いは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
唯理有はくるっと振り返って、メアリーに手を差し伸べる。そして、片手に持たれた割れた携帯を見た。
「あ、あーぁ、メアリーたその携帯が壊れちゃったでござる…。拙者直せるんだけどさ、直させてよ、それ。勿論タダで。ごめんね、拙者がこんな時間に下界歩きたいなんて言ったせいで」
「いいのです?助かるのです!」
唯理有は頭の中でGPSを勝手にメアリーの携帯につけることを考えながらそう言った。そもそも勝手に透明ドローンで常に録画しているので、GPSはなくてもよい。しかしドローンに何かあった時の為にも必要かと思ったのだ。
「直したらシュナ氏に連絡して渡しに来るからね」
「はいなのです!ありがとうなのです」
「というかさ…折角ならスマホ作る?下界にスマホ普及させようか。メアリーたその為だけに」
「スマホ?お嬢様が使ってたやつなのです!」
天界のアポロンの家にお菓子をもらいに行ったハロウィンの日に、メアリーはシュナのスマホを見ている。
「一応機械関連は拙者がトップですし…拙者の独断で下界に普及させても誰も怒らないと思うんだよね。一応世界さんとかアンさんにも確認はとるでござるが」
「わ、わぁ…」
めちゃめちゃ偉い神なんだなぁ、とメアリーはぽかぽかの頭で考えた。
「でも、いいのです?私の為だけになんて…」
「いいよ。神たる拙者の恋人ですしおすし。それに、シュナ氏も助かるんじゃない?下界でもスマホ使っていいってなったら。かなり便利だよ、スマホ。」
「お嬢様も嬉しい…じゃあお願いするのです!」
「よし。いろいろ計画組まないといけないなら多少時間はかかるけど、スマホ普及させるから。先に修理した携帯は送るから安心してね」
ということで下界にもスマホが普及することが決まった。下界の人類の文明は革命的に進むのであった。
そうこうして歩いているうちに、メアリーの家についた。
「今日はありがとうね。はい、これショッピングバッグ」
「持ってくれてありがとうございましたなのです。色々買ってくれて、ご飯連れてってくれてありがとうなのです!楽しかったのです。またデートするのです!」
「うん。こちらこそありがとう。おやすみ、メアリーたそ」
「おやすみなさいなのです」
メアリーは扉を閉めて、お家へと帰った。
寂しさを感じる唯理有であったが、唯理有もルームメイトのいる自室へと帰るのだった。
黒の洋館の自室に戻ると、ルームメイトの山田がゲームをしていた。短い黒髪の天然パーマの男である。眼鏡をかけているが、そこそこ整った顔をしている。
「おっおかえり〜唯理有。デート上手くいった?」
ヘッドフォンを外してこちらへ向く山田。
「まあ概ね。でも携帯壊れちゃったみたいだから直すでござる。それから、下界にスマホ普及させることにしたから一緒に計画組んで。アンさん達と話す機会も設けないと」
「え"えええっ!?お前マジで言ってる!?下界に技術提供とかエグすぎ!何でそんなことになったの」
「えっ別に…メアリーたそがスマホ使えたら嬉しいかなと思って。自分でも思い切ったことしたなと思うでござる」
「お前漢だなぁ!!やっぱ唯理有は違うわ」
唯理有の背中をバシバシ叩く山田。
「いたっいたっ痛いでござる!!やめてクレメンス!!」
「わるいわるい。誰が技術提供しにいくかとか色々決めないとな」
「そうでござる。また忙しくなるでごさるな〜〜」
「ま、今日はゆっくり休めよ!疲れただろうし」
「そうするでござる。サンクス」
その後唯理有はカラスの行水で風呂に入って、さっさと頭を乾かして、ゲームのログボを回収して寝たのであった。
因みに夢で見たメアリーがえっちすぎて鼻血を出した。起きた時顔がパリパリして、鏡を見て驚く羽目になるのであった。
因みに銃なのですが、天界にはありますが下界にはありません。なので酔っ払いからするとよく分からない未来的な武器を向けられているという認識になります。
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