逃げたシュナと追うアポロンと唯理有と妃花
なう(2024/11/13 20:22:10)最後の会話文を訂正しました。
ギリシャ神話風にしてみました。
話の中に出てくる内緒のピアスさんの曲は愛が重くて良いのでぜひお聞きください。
ノベルアッププラスというサイトにも同じものをアップしていきます。そちらの応援もどうぞよろしくお願いします。
シュナは城下街を抜け、ルツェルンの街を抜け、アレット森までやってきた。
道行く人は何かなにかと驚いて振り向く。あのシュナ様がダッシュしているではないか。
「シュナ、足速くないか!?」
アポロンは思わずそうボヤいた。そうシュナ、全力で逃げている。サタナのサポート付きだ。
アレット森にある小さな滝の泉まで来て、左右前後を見てアポロンがいない事を確認する。すると、シュナは美しい白い龍になって泳ぎ始めた。
追ってるアポロンは、この程度全力で走っても疲れはしない。体力の鬼なのだ。しかしシュナの足は本当に速かった。
ちなみに、その後ろから爆速で妃花が唯理有を抱えて走っている。お姫様抱っこだ。唯理有は己では決して出せないスピードに戦々恐々としていた。
「は、速いでござる!!落とさないでくだされ!!」
「落とさないよーw妃花そんな非力じゃないし、唯理有と違って」
「ぐぅ」
ぐぅの音が出た。
追った先には、シュナは見当たらない。代わりに綺麗な神々しい白い龍が泳いでいるばかりである。白い鱗は太陽の光をキラキラと反射していて、綺麗だ。澄んだ青い瞳を心做しか気まずそうに逸らしている。
アポロンは大体全てを察した。その上でシュナこと、白い龍に話しかけた。
「そこの綺麗な白い龍。シュナを知らないか?」
アポロンが話しかけると、白い龍は水の中から頭を擡げて、話し始めた。
「シュナは知りませんが…貴方、不貞を働きましたね?私には分かります、貴方の汚れた心が」
シュナは何も分かっていない。アポロンの心は確かにどす黒くて深海のように先の見えない深い愛に塗りつぶされてはいるが、誓って不貞は働いていないのだ。
「不貞はしてねぇし、あれは誤解なんだよ」
アポロンは正直内心泣きそうだった。シュナに逃げられるなど心が引き裂かれそうな程、耐え難い苦しみである。しかしシュナが見てる手前気丈に振る舞うのであった。
「…誤解?」
「アスモデウス達が、俺がシュナに相応しいか調べようとしたんだよ。それで、パイモンの色気に耐えられるかって話になって、押し倒されんだ」
「なんで、押し倒す時抵抗しなかったの」
「抵抗して怪我させたら怒るだろ、シュナが。それに、試験のうちだと思って抵抗しなかったんだよ」
「む〜…私がいない時に楽しそうなことして!!そういうのは私がいる時にやってよ!!」
「いいのか、龍の精霊って設定は」
「もういいよ!もーアポロン…!誤解するような事しないでよ」
シュナは元の姿に戻って、アポロンに抱きついた。アポロンからは、金木犀に似た柔らかい甘い匂いがする。
木の影では、妃花と唯理有が顔を見合せ、2人して手をグッと握った。仲直りの瞬間、しかと見届けた。
「アポロンといる時はね、少し身長高くしようと思ってるの。顔が近いと嬉しいから。ヒール履くのもいいし、神力で身長変えてもいいし」
「はー…可愛すぎるだろ、それは反則じゃねぇか?でも、これならキスしやすいな」
シュナを顎クイして口付けるアポロン。甘やかな感情が胸の中から溢れ出して、脳内を支配する。シュナは口角が上がるのを止められなかった。
「本当にな、俺はお前のことを心の底から愛してるんだよ。唯理有に頼んでお前のメールトーク全部見れるようにして監視してるし、曲のプレイリストは全く同じの聞いてるし」
「???」
「アーティストの内緒のピアスさんが出てきた時は泣いたぜ。お前俺の事あんな風に思ってくれてんのか?」
「ん?…うん!それはそう!」
理解し難い執着の片鱗を見て、頭の中が疑問符で埋まる。シュナは考えるのをやめた。別に嫌じゃないしいいかなと思ったのだ。
ふと妃花が弾かれたように顔を上げ、耳をすます。
「ん?なんか聞こえる。龍の鳴き声?」
「え、妃花氏耳いいね?全然聞こえないでござる」
妃花は危険察知能力も高い。耳もいいのだ。
しかし段々と龍が近付いて来て、アポロンとシュナと唯理有にも聞こえた。
ギャオー、グルルルル。
威圧感のある、地鳴りのような鳴き声。
「「!?」」
アポロンとシュナは驚いてそちらを見る。
シュナの変身した白い龍に発情した龍の魔物が、山の上から飛んできたのだ。
「えっえっ妃花氏あれいける??」
「妃花は多分いけるけど…アポロンもいけるんじゃないかな?」
唯理有は焦ってあわあわとしだした。まるで幼稚園児。妃花は手を顎に添えて首を傾げた。
(サタナ、なにあれ?)
『シュナ様の龍の姿に発情した龍の魔物です。狙った龍がいないことに怒っているようです』
「私の龍の姿に発情した龍だって。私がいつもの姿に戻っちゃったから、狙った龍がいなくて怒ってるみたい」
「は?シュナに発情?狙った??」
そう言うアポロンの目は本当に怖かった。ハイライトがなく、朝焼け色のはずなのに夜中の空みたいに真っ暗だった。
「あの龍…身の程を分からせてやらねぇといけねぇな」
「アポロンあれ倒せるの?」
「森だから紅炎柱や太陽爆発は使えねぇが…弓と腕力で倒せる。シュナは離れて待ってろ。あいつらの所にでもいてくれ、安全だから」
「あいつら?…あ!妃花ちゃん!唯理有!」
「今気づいたんでござるか?おっそいでござるな〜」
木陰から出てきながら、ニヤリとした唯理有。自分の足では来れなかった癖にイキリはいっちょ前である。オタクなので、よく煽るのだ。
「俺の力の一端、見せてやるからよく見とけ」
背中から金の弓を下ろして構えたアポロン。龍はアポロンに噛み付こうとこちらに向かって一直線に飛んでくる。
狙いを定めたアポロンは、矢を放った。光のように煌めきながら進んだその矢は龍の目を射抜き、龍は仰け反る。
ギャオオオオ!!!
割れるような絶叫。暴れる龍に狙いを定め、もう1つの目も射る。本来人間であれば即死する矢なのだが、龍相手では失明させ、麻痺させる程度の力しか発揮しない。
「かっこいい…」
シュナは思わず口から声が零れていた。元々大好きだったのだが、完全に惚れ直していた。
アポロンは弓を背中に背負い、拳を構える。鋭い目線で龍を睥睨する。
「嬲り殺しにしてやろう」
そのオーラには正しく神の威厳があった。
アポロンはボクシングの神様でもあるのだ。殴りには自信があった。
暴れ狂う龍は、火炎放射を口から吐き出していた。それを腕に食らったアポロンは、火傷を負ってしまう。
「痛てぇな」
額に血管が浮いたアポロン。
すっかり怒り狂っている龍の元に走っていってジャンプし、その頭を殴りつけた。
ドゴォン!!!
凡そ頭から出てはいけないような音が響き、龍の頭が爆散する。
「少しは身の程が分かったか?ま、もう聞こえねぇか」
ゆっくり宙から地面に降りるアポロン。返り血で顔が汚れていて、その姿がなんだが色っぽいのであった。
「お〜アポロンやるじゃん!私もハンマーで一発かもしれないなー」
「あの温厚なアポロン氏がガチギレしてフルボッコ…龍さん成仏してクレメンス」
「アポロンかっこよかった…!」
シュナは紅潮したまろい頬をさらけ出しながら、てけてけとアポロンの元に小走りする。亜空間から汚れが気にならない用の黒のタオルを取り出して、アポロンの顔を拭いてあげる。
「怪我とかなかったか」
まだ殺気の抜けきっていない怖い顔で、柔らかい笑みを浮かべるアポロン。
「大丈夫!アポロンこそ大丈夫…?」
「あー、…腕火傷したな。これくらいは治せるからいいぜ。"癒えよ"」
アポロンが呪文を唱えると、腕の火傷がみるみるうちに治っていった。
「わー凄い!!」
「シュナも出来るだろ?」
「人ができるとまた違った感動があるんだよね」
「そうか」
アポロンを抱きしめるシュナ。アポロンはシュナの頭をぽんぽんと優しく叩く。
「守ってくれてありがとう!」
ペカペカの笑顔でシュナは感謝を告げた。
「いいぜ。彼氏として当然だな」
「こんな頼り甲斐のある彼氏なかなかいないでござるよ〜シュナ氏?」
「そうだよシュナちゃん!大切にしなよ〜」
「うん!」
囃し立てる2人。シュナはいい返事を返した。
「一旦家に戻ろっか」
「そうだな。アイツらには世話になった」
関節を鳴らしながらそういうアポロンの目はキマっていて、怒っている事が見て取れた。
「程々にしてあげてね…」
「まぁアイツら次第だな。デカイ態度で来たら絞める。どんだけ肝冷やしたと思ってんだ」
「あ〜」
シュナは急いでアスモデウスにテレパシーを繋いだ。
(アスモデウス!聞こえる?謝罪の準備できてる??)
(勿論です我が君。謝罪茶会の準備は万端ですし、準備が終わった私達は玄関に横一列になっています)
精々1時間かそこらしか経ってないと思うのだが、どうやら準備は出来たらしい。手際がよろしい様で。
「じゃあ帰ろっか!」
「おう、転移門出すわ」
前世で言うと車出してもらう感覚だろうか、転移門を出してもらう感覚は。こういう気遣いが嬉しいのだ。
転移門で家の前に出て、アポロンがドアを開ける。
広い玄関にいた悪魔達5人は、アポロンを確認した瞬間、綺麗に揃って、
「「「すみませんでした」」」
深く頭を下げた。ちなみに服は着替えたらしい。魔法少女の姿で謝ったらシバかれるかもしれないので。
「…」
アポロンは真顔で静観している。暫く待つつもりらしい。シュナは息を飲んでその様を見つめた。
パイモンがチラッと横を見る。隣にいたアスモデウスがぺしんとその頭を叩いた。よそ見をするんじゃない。
(ヤクザみたい〜ww妃花ちょっと面白いかも)
妃花は笑いそうになって静かに口を押さえ横を向いた。ちなみに黒の神々に謝る時はもっと恐ろしいとか。骨の1本や2本、折れるのを覚悟した方がいい。命をとるかは罪の重さ次第である。
でも正直、神に迷惑をかけて命が取られないのは優しい対応と言えた。一重に悪魔達とアポロンの関係性から斟酌されているのである。
アルマロスは端っこの方で死んだ目をしている。ニヤけている妃花を見て信じられないものを見たと目を見開いた。
ちなみにメアリーはまだメイドカフェで働いている最中である。
「…はぁ。仕方ねぇな、許してやる」
「「「ありがとうございます!!!」」」
5分くらい経った頃、アポロンは気が済んだのか誠意を認めたのか、悪魔達を許した。悪魔達にとっては長い長い5分であった。
「謝意を込めた茶会の用意をしましたので、良ければご参加ください」
「おう」
謝罪の品は、許してもらった後に出すのがマナーである。
扉を開きリビングに行くと、美味しそうなスイーツがお皿の上に綺麗に盛られていた。
マフィン、プリン、ミルクレープ、ワッフル、レアチーズケーキの5品である。シュナ宅のキッチンは広いし、業務用のキッチン家電もあるので短い時間で沢山のスイーツを作れたのだ。勿論メニューは短時間で作れるものを選んでいる。
シュナのいるお茶会にチーズケーキは必須だ。
「わー!美味しそー!!皆で作ったの?」
「えぇ、悪魔達で1人ひと品作りましたわ」
「パイモンはワッフル?」
「えっなんで分かったんですの?」
「簡単そうなの選びそうだなと思って」
「あら…そんな風に思ったんですのね。当たりですわ」
悪びれはしないパイモンである。
「へー、悪魔達は全員料理得意なんだねー!美味しそう!」
「凄いでござるな〜」
「ありがとうございます。楽しんでいってください」
アリトンの爽やかな営業スマイルが炸裂した。
「ありがとーwてかまだ自己紹介してなくない?私、妃花!黒の神の戦闘とビジュ担当!」
「拙者は唯理有でござる。同じく黒の神のオタクの神でござる。電化製品はお任せでござる!」
「僕はアリトンです」
「私はパイモンですわ。歌手なんですの」
「俺はアメイモン」
「俺はオリエンス!鍛冶師だぜ」
「私はアスモデウスです。シュナ様の執事をしています」
「私はアルマロス。天界のシュナと一緒に住んで執事をしている」
「ほんと、私と貴方が同じ執事というのは未だに納得がいきませんね」
「もういいだろ、悪かったよあの時は」
そう言いながら一通り自己紹介をした。
「うん!じゃ、食べよー!」
「美味そうだな」
シュナとアポロンはきちんと隣に座って、シュナの隣に妃花、その次に唯理有と並んだ。
「シュナ、あーん」
「えっ、あ、あーん…」
アポロンがレアチーズケーキを食べさせてくれる。まさか皆の前であーんされるとは思わなくて、照れてしまう。自分が相手にやる分には積極的にいけるのだが。
「見せつけるでござるなぁ!」
「え!じゃあ妃花も!シュナちゃん、あーん」
「あーん」
「は?おい妃花」
「なに?wアポロンだけのシュナちゃんじゃないんだけどw」
「私の事挟んで喧嘩しないでくれる?ほらアポロン、あーん」
アポロンは仕方ないのであーんを受けて黙った。
「このワッフル可愛いよね!パイモンのセンスが出てる」
ワッフルは、まるで都会のカフェのワッフルのように可愛らしく飾り付けられている。
「ワッフルなんて誰が飾り付けても同じじゃねぇか?」
「あらオリエンス、貴方が飾り付けてもこうはならないですわよ?」
「左様」
「あぁ!?やってみねぇと分かんねぇだろ」
「どうなるか想像にかたくないからやめておきなさい」
アスモデウスが諌める。
「因みにオリエンスはどれ作ったんでござるか?」
「プリンだぜ!」
「あー」
「なんだその納得みたいな顔は!」
「ふふ」
シュナは微笑ましくて笑ってしまうのであった。
「シュナは笑っても本当に可愛いよな…写真に撮りたくなる」
「分かります、アルマロス」
「あぁ分かるぜ、アルマロス。正直全部動画に収めておきたい」
「えー、なんか愛重くない?w」
「妃花様には分からないだろう、人を重く愛する気持ちは」
「うん、妃花、愛軽いからねw」
妃花はアイドルで、軽い愛を大勢に振りまくのだ。
「アポロン、気は収まった?」
「あぁ、謝罪の気持ちは受け取ったぜ。シュナとも仲直りできたから、これ以上は気にしねぇ」
「良かったです…!」
アスモデウスは安心した。自分が発端になっているので他より鬼胎が多かったのだ。
「元々は、シュナちゃんにアポロンが相応しいかって話だったんでしょ?変な事調べるねーw」
「ま、シュナ氏への愛ゆえでしょうな」
「分かってくれますか唯理有さん。そうなんですよ、愛ゆえなんです」
大切なシュナの恋人となったアポロン。どんな人なのか、シュナに相応しいのか。見定めたくなるのは、部下達の性であった。
チーズケーキが1切れ余った。
「…誰が食べます?」
「アポロンさんだろ!」
「じゃあシュナ一緒に食べようぜ」
「うん!」
「それがいいですね」
結局シュナとアポロンがラブラブしながら食べた。
その後も、暫く駄弁っていた。
「…じゃ、そろそろお暇するでござる。ご馳走様、悪魔達!」
「妃花も帰ろうかなー!今日はありがとう、シュナちゃん達!」
「俺も帰るか。行くぞ、アルマロス」
「うん、アポロン様」
「またねー!」
片付けは悪魔達とシュナがやるのでいいのだ。神達は賓客なので。
そうして、色々あったがお茶会も終えたのであった。
パイモンの話し方なんですけど、〜ですわよ、と、〜わよの2つで揺らいでいてよく間違えます。書き直しがち。
因みにアポロンのヤンデレはシュナが受け入れてなかったら2人の関係はどろどろの酷い有様になります。ヤンデレっていうのは得てしてそうですね。諸行無常、南無三。




