黒の洋館においでませ③
晴右と小鞠の好物は似せました。
地下の住人を増やしました。舞怡と寧々。
Twitterに異折、小鞠、晴右のイメージを投稿しました。
晴右の髪色を山藍摺色から紺色に変えました。
扉を開けて、ジムから普通の共有スペースに移動する。
そこでは、2人の女の子が風船で遊んでいた。
1人はベビーブルーの髪に白色のメッシュが入った、2つのお団子から髪が垂れた髪の女の子。目は透き通るスカイグレーだ。勝ち気で精彩な表情をしている。背が小さい。結構好みの見た目をしている。
もう1人は、薄灰色のミディアムヘアと薄い鼠色の目をした人。目がぐるぐるしている。口からは垂涎している。
「水色の方が異折、グレーの方が小鞠だ。異折は暴走を、小鞠は狂気を司る」
2人がこちらに気付く。
「ボス〜!!こんにちは!!」
「あぁ、こんにちは、異折」
「こぉちあ」
「こんにちは」
世界さんは雰囲気こそ怖いが、きちんと返事をするあたり礼儀正しさと優しさを感じる。黒の神にだけかもしれないが。
「こんにち「とぉーっ!!」
挨拶をしようとするシュナに、異折がドロップキックをかましてきた。
慌てて避ける。しかし避けた先から色々な攻撃を繰り出される。殴り、蹴り、目潰し、鼻フック…
「黒の神の中でも異折は幼い方なんだ。結構苦労する」
「そう、なん、だっ!」
猛攻を避けながら返事をする。自己紹介もままならない。世界さんは冷静に話してないで止めてはくれないのだろうか。
「ちょっと!!全然当たんない!!避けないでよ!」
ムキャ!!と怒ってきた。私は両手を上げて首を横に振る。私はなにもしていない。
「そんなこと言われても、当たったら痛いじゃん」
「知らないけど!私の楽しいのが優先でしょ!」
「こら異折」
「ねぇアンタのせいでボスに怒られた!!」
「えぇ…?」
随分と自分勝手な子供である。
とりあえず自己紹介をしたい。
「私はシュナだよ!全知全能!」
ポーズをとるが、異折にはつまらなそうに他所を向かれる。小鞠は明後日の方に目が向いている。そちらはデフォルトである。
「異折、自己紹介くらいしろ」
世界さんが呆れたように咎める。
「…はぁーい。私は異折。11歳のまま精神年齢が止まってる、暴走の神」
床を蹴りながら、こんなの牛溲馬勃と言わんばかりに、つまらなそうに言う。
「よろしくね。グレーの貴方は?」
「こまり。きょぉきのかみ」
「小鞠は見ての通り身障者だ。動きと話すのに制限がある」
「あいでんてぃてぃあよ」
「そうなんだ」
アイデンティティらしい。気丈なことであった。
「わぁし、晴右と付き合ってうの」
莞爾と微笑んでそういう。
「晴右?」
「これから会いに行く」
「そっか。うん、じゃあまた話聞かせてね!」
「うん。なぁよくしてあげぇね」
恋人もよろしく、ということらしい。よく出来た彼女である。
「2人は何してる人なの?」
「ごぉもん」
「…戦闘と拷問」
「そっかー、カッコイイね」
「…」
異折とは会話がまるで弾まない。
「私なんか悪いことしちゃったかな…?」
「避けられたのが気に入らないんじゃないか?人を壊すのが好きなやつだから」
気難しすぎるだろ。
「異折ちゃんはお花とか好き?」
「…好きだけど、なに?」
「それじゃ、はい!」
私は黄色と青色のバラの花束を作って、渡した。
「なにこれ!可愛い!」
目がキラキラと輝く。
「バラだよ!黄色の方は友情、青い方は神の祝福の花言葉があるよ!」
「友情、と、神の祝福?私も神なのに?へんなの」
「でも可愛いでしょ?」
「うん!かわいい!ありがと!」
機嫌が直ったらしい。良かった。
同じものを小鞠ちゃんにも渡した。
「あいあとう」
「うん!小鞠ちゃんも、晴右にお花渡すといいよ!青いカーネーションとか」
「無垢で深い愛、永遠の幸福、か」
「世界さん、よく知ってるね」
「結婚記念日に麗子に渡したことがある」
「素敵!」
ほんの少しだけ笑みを浮かべる世元。麗子への愛情が感じられる表情だった。
「小鞠に気使うなんて良い奴じゃんシュナ!」
「ありがとう!」
異折からシュナへの評価が上がった。
どこから目線なのだろうとは思ったが言わないでおく。
「2人の好きな食べ物はなに?」
「私?ビーフシチュー!」
「そんなんだ!ルツェルンに美味しいお店あるよ、
今度行く?」
「いいよ!奢って!」
「いいよ〜」
喜んで受け入れる。
「大丈夫か…?」
一人未来を憂う世元。というのも、異折は落ち着きがないしすぐ暴走するので、外食などはあまり行かないのだ。
(まぁ、シュナがいるし大丈夫か)
こういう適当さがドジを生むのである。
「小鞠ちゃんもいく?」
「うん」
ちょっと嬉しそうに目を細める。
「わぁしの好きなたべものは、ウニ」
「へー!美味しいよね、私も好きだよ。あの洋食屋さん、ウニのパスタもあった気がする!」
「わぁい」
約束を取り付けた。
「じゃ、またね〜」
「じゃあね!また来なよ!」
「またね」
手を振って別れる。
異折と小鞠は1番手前の部屋だ。小鞠が北の列で異折が南の列である。
異折の隣に霞央留、夕鶴、寧々、白越と部屋が続き、小鞠の隣に晴右、白ヰ、舞怡、麗子と部屋が続く。一番奥に広い黒の間があり、その中の南の方に世元の部屋がある。
ちなみに麗子も白越も世元も、別荘を別で持っている。
「次の部屋は晴右だ。アイツは一見冷たいが仲良くなると優しい」
ドアをノックする。
「はい」
中から、深い紺色の髪の、アリスブルーの色の目をした男性が出てきた。ピアスバチバチだ。背が高い。
「なんでしょう」
「こんにちは!シュナだよ!」
両頬に指を差してポーズを取る。
「…はい。晴右です。愉悦の神です」
すっごく冷たい笑顔をされた。目が全然笑ってない。ブリザードが吹いている気がする。
「小鞠ちゃんから、晴右とも宜しくねって言われたよ!仲良いんだね!」
「!ほう、小鞠から?それはそれは…仲良くしないといけませんね」
ブリザードが止んだ。パッと明るくなり、一気にウェルカムな雰囲気になる。
「シュナさんと言えば…神集会ですね?面白い企画でしたよ」
先程より幾らか柔らかい笑みでそう言う。まぁ冷たい雰囲気は変わらないが。
「ありがとう!喜んでもらえて何よりだよ。晴右は何をしてる人なの?」
「拷問、事務、戦闘など…なんでもこなしますよ」
「凄いねぇ」
確かになんでも出来そうな雰囲気だ。優秀そう。
「好きな食べ物は?」
「帆立です」
「帆立!美味しいよねぇ、私ごま油と塩で食べるやつが好き!」
「ほう、そのような食べ方が…今度やりましょう」
その後、アフタヌンティーの話で盛り上がり、解散した。
「次は?」
「白ヰだな。癖の強いやつだ、よく毒物を勧めてくる。その割に料理が好きだ」
「えぇ…」
ちょっと引いた。何かの癖の強い部分だけ固めたような、例えば灰汁だけとって固めたような人である。
白くて重めの扉をノックする。放射線を扱う部屋とかの扉っぽい。シンプルなネームプレートに、マジックで白ヰと書いてある。
「はぁーーーーい!!」
元気の良い返事が聞こえる。分厚い扉越しでもよく聞こえる。
中から、白のボブに黒のハイライトカラーの女性が出てきた。目がキラーンとしている。おでこには保護メガネ。
白衣を着ている。薄い茶色い染みがある。希硫酸でも零したのだろうか。
「やぁやぁ君はシュナじゃーないかっ!!世界さんもこんにちはっ!」
「おう」
「私のこと知ってるの!」
「勿論さぁ!私は白ヰ、化学の神さ!!神集会、私も行かせてもらったよ!君の部下は強いのだねっ!!」
「自慢の部下だよ」
なんだろう、ハイテンションな圧がすごい。前のめりに話してくる。
「歌も踊りも素敵だった!!そこに毒物が加われば尚ヨシ!!」
親指を立てて、話してくれる。背景がパッパラパーと愉快なことになっている気がする。
「流石に客様に毒物は出せないや」
「客だからこそ出すのだろうっ!!お楽しみ頂きたいじゃーーないか!」
なるほど、根本的に意見が違う。なかなか面白い人だと思う。
「白ヰは何をしている人なの?」
「薬の開発と、拷問だね!毒と薬は紙一重とはよく言ったものだよ!!晴右ともよく地獄の民で実験しているよ!!それからプライベートで料理!料理は化学とも言うね!」
「凄いー!」
パチパチと拍手をする。私も理系の勉強は好きだった。
「好きな食べ物は?」
「知育菓子かなっ!!それからバタフライピーティーだね。色が変わるのが非っ常ーーに面白いっ!!飲む度食べる度に子供のようにはしゃいでしまうよ!」
両拳を握って、目に光を湛え、鼻息荒く説明する。
「へー!所で部屋見てもいい?」
「いいとも!我がラボを見るといい!」
よっしゃ。とても気になる。
中はかなり実験室であった。ガスバーナー、量子天秤、色々な種類の顕微鏡、純水のタンク、遠心分離機、なんかでっかい機械、ビュレット、フラスコに試験管にビーカー、冷蔵庫。
部屋の隅に簡素なベッドが置いてある。
キムワイプも置いてあった。理系の味方である。
「わー!!実験室って感じ!カッコイイね!」
「そうだろう、そうだろう!!」
腕を組んで頷く。
「折角のお客人だ!君も飲むかい?硫酸バタフライピー!!淹れたてだよ!!」
「バタフライピーに謝れよ」
世界さんのツッコミが入る。しかし白ヰは動じない。ドヤァとポットを取り出した。
「硫酸は酸性だからね!バタフライピーのアントシアニンが反応して青から紫に色が変化するのさ!少し待つといい、ビーカーに入れてこよう!」
コップの代わりにビーカーを使う人らしい。
「見ていてくれ、今硫酸を注ぐよ!!」
真っ青の溶液ことバタフライピーに、別のビーカーに入った硫酸が注がれる。すると、みるみるうちにピンクのような赤紫色に変化した。
「わ、凄い凄い!!」
「うんうん!素晴らしいねぇっ!!はい、どうぞ!」
あっ─────私が飲むのか。そうか。そうだよな。流石に硫酸を飲むのは初めてだ。決して真似してはいけない。SDSとか調べるといい。
神力をかけてあるから毒物は効かないが、それでも毒物だと分かっていると躊躇う。
息を吐いて、覚悟を決める。バタフライピーを飲む時の気の持ちようではない。
グイッ!!私は1口煽った。
「うっ」
この硫酸結構強い。刺すような痛みが口内から胃を襲う。急いで浄化した。
「君のは硫酸強めにしたよ!!私でもそれ程強い硫酸は飲まないかな、!!」
殺す気か???否、善意である。飲まないかな、!!じゃないのだ。自分でも飲まないようなものを人に出してはいけない。
「う、うん。ありがとう。貴重な体験だった」
二度としないと思う。
「また来るといいっ!!次は料理を振る舞おーう!!」
「た、楽しみにしとくね!!」
人間じゃなくて良かった。命が幾つあっても足りない。
そう言って白ヰとは別れた。
実験していないのでバタフライピーに硫酸を入れると本当に紫色になるのかは知りません。もしかしたら別の反応も示しちゃうかも。




