晴右と小鞠のアフタヌーンティー
シュナが黒の洋館に初めて行く話は今度書きたいなと思っています。
小鞠と晴右の恋人話です。後ろの方に黒の洋館でのティータイムも書きました。
追記 「晴右の紺色の髪が風に吹かれて乱れた」という文を加えました。また、最後のメンバーから梅千夜を抜きました。
晴右とシュナは面識がある。
シュナは黒の洋館に行ったことがあるのだが、その際に会って話したのだ。黒の洋館は、黒の神々が住む寮のようなものである。結構広い。
そこでこんな話をした。
「シュナさんは確かアポロンさんとお付き合いなさっていましたよね。デートするならどのような事をしたいですか?小鞠とのデートの参考にしたいのですが。」
シュナは顎に手を当てて暫し考える。
「うーんそうだなぁ。一緒にティータイムとか?」
「なるほど、アリですね。アフタヌーンティーセットから揃えますか」
「私のセット貸そうか?神力で転送するよ」
フラソフラソの可愛いやつだが、多分大丈夫だろう。
「助かりま…あぁ、いえ、自分で揃えましょうかね」
何か思いついたらしい。
「そう?まぁそれに、黒の洋館の共用スペースにもあるかもしれないね」
「確かにあるかもしれません。ですが、今回はこだわりたいポイント思いついたので自分で揃えることにします」
「そっか。買ったら何回でもお茶できるね」
「そうですね。楽しみです」
嬉しそうで何よりであった。
という事で晴右はティーセットを買いに行った。お目当ての雰囲気のものを見つけ、上機嫌で買う。
晴右の紺色の短い髪が、風に吹かれて乱れた。
「そうだ…あれも買いましょう」
そこであることを思いつく。この雰囲気のお茶会にはあれがあると面白いだろう。
晴右は買い物を終えて洋館に帰った。
後日、予定を取り付けて小鞠と自室で対面する。
「今日はこれを買ってみました!」
晴右がニコニコと、背後に隠していたものを見せる。それはうさ耳のカチューシャであった。
「あぅ」
小鞠が首を傾げたまま小さく返事をする。
「付けてみてください」
「…ぅん」
だらんと力の抜けた腕を伸ばし、カチューシャを受け取る。そして頭に着けた。
「お似合いですよ。グレーの毛のウサギみたいです。今日は不思議の国のアリス風のお茶会をしましょう。セットを運んできますね」
そう、今回のこだわりポイントことお茶会の雰囲気は、不思議の国のアリスである。
晴右は料理が得意である。今回のアフタヌーンティーを用意したのは晴右であった。
セットを運びながら晴右は話す。水色と白、それからトランプのマークが印刷されたお洒落なセットだ。
「不思議の国のアリスでは何でもない日を祝うようですが、小鞠とデートする日ですから何でもない日ではありませんね」
「うぅ」
「カップの数は12個なんだそうです。お話では時計の針を表した3人がお茶をしますが、カップの数が多いですね。用意しました」
「くふ」
サラッと用意しているものだから小鞠は笑った。
「しゃしん」
「あ、そうですね。折角ですから写真も撮りましょう」
2人は料理と共に、うさ耳を着けた写真を撮った。
「上手く撮れました」
「よぁったね」
大事な思い出の品となりそうである。
「アフタヌーンティーでは1番下の段のセイボリーから食べます。セイボリーとは塩っぱい食べ物の意で、今回は無難にキュウリサンドです。不思議の国のアリスのメニューがあればそうしたかったんですけどね。調べても出てこなかったんです」
「うぁ。いたぁいます」
拙い発音でいただきますをする。
「はい、いただきます。それから紅茶は、1杯目はストレートで2杯目からミルクを入れるという記事を見ました。僕はそうしてみます」
「ぅん」
小鞠が片目で晴右を見る。
「ん?あぁ、今日は無難にアールグレイです。フレーバーティーもいいですが、アールグレイの方が料理を味わいやすいかと思いまして」
「あぅ」
晴右は小鞠の言いたいことが、言わなくても分かるのだ。
「次は2段目のスコーンです。クロテッドクリームと苺ジャムとブルーベリージャムを用意しました。お好きなものをどうぞ」
クロテッドクリームとは、バターよりはあっさりしているが生クリームよりは乳脂肪分が多くて濃いクリームだ。
「ぇんぶ」
「ふふ、全部使ってくれますか。気に入ってくれて良かったです」
晴右はこうして小鞠と共に過ごす時間が幸せであった。好きな人と共に美味しい楽しいお茶をする。幸せに満ち足りて空が飛べそうである。
「さくさうふわふわでおぃしい」
「そうですね。クロテッドクリームがよく合います」
紅茶も合間に飲みながらティータイムを進める。
「あぁ、小鞠。ジャムが頬についています」
そういいながら小鞠の元まで行って、晴右はその長い舌で舐めとった。指で軽く拭いて、その指をナプキンで拭いた。
「あいあとぅ」
「ふふ、構いません」
他の黒の神が見たら驚きそうな程、優しい笑顔で小鞠を見る。彼は冷徹で背筋が寒くなるような笑顔で定評があるのだ。
「最後は1番上のペストリー、スイーツです。今日はいちごタルトと、いちごムースと、マカロン、ファッジというキャラメルのようなキャンディです。折角なので沢山作って、他の同僚達にも渡しました」
「ぅん。おいいそぉ」
小鞠の虚ろな目が、色を取り戻して輝く。
「ふふ、腕によりをかけて作りました。いただきましょう」
ゆっくりと淑やかに食べる2人。幸せな空間が溢れていた。
苺は上質なものを使っているので、豊かな甘みが口の中に広がる。マカロンはサクリとした後、濃厚なクリームの味がする。
「おいしぃ」
「美味しいですね」
小鞠の頬に仄かに赤みが差す。お気に召したようだ。
紅茶も、アールグレイの香りがふわりと広がって美味しい。
紅茶を何杯か飲んで、アフタヌーンティーは終わった。
「ごちそぉさぁれした。おぃしかった」
「ご馳走様でした。良かったです」
晴右は洗い物を片付ける。置いといてもメイドをしている神がやってくれるのだが、自分が開いた茶会の分は自分でやろうと思ったのだ。
部屋に戻って、小鞠とソファに横並びになる。
小鞠が頭を晴右の肩に預ける。
「壊れている貴方が大好きですよ」
晴右がそっと口付けする。小鞠の垂れていた涎が付いて銀の橋をかける。
「わぁしも好き、晴右」
小鞠は頬を染め、あまり動かない表情筋で笑った。
「可愛いです…死んでしまいそう」
細い小鞠を抱きしめて肩に顔を埋める。石鹸の匂いがする。後頭部を手で撫でた。
黒の洋館には勿論お風呂があるのだが、唯理有と世界さんが協力して作った、"ボタンを押すだけで全身がお風呂上がりの状態になる"というものがある。
小鞠はそれを利用してお風呂に入っている。体はある程度動くが、疲れるのでそうしているのだ。
いつも使っているマグカップにいれた、ストロベリーのフレーバーティーを飲む。軽いお菓子を幾つか皿に盛った。
暫くそうして、紅茶と軽いお菓子をを楽しみながらぽつぽつお喋りをして過ごしたのだった。
〜〜~
シュナに、晴右から連絡が来ていた。
"空いている日にお茶会をしませんか?"
了承の返事を送る。
後日、予定を組んで黒の洋館に行った。
「晴右君、これお礼のクッキー。良かったらどうぞ」
「あぁ、ご丁寧にありがとうございます。また食べますね」
晴右にクッキー缶を渡した。
共有スペースのリビングに行き、席に着いた。
〜〜~
お茶会の準備の際。
お茶をする話を聞いた白ヰが、晴右に話しかける。
「私がーっ!!お手伝いをしようかぁっ!?」
「いえ、遠慮しておきましょう。貴方が手伝うと毒物を入れるでしょう?」
いつもの冷たい笑みを浮かべる晴右。
「よーく分かってるじゃないか!!勿論だよ!!」
「えぇ。また今度のお茶会ではお願いします。今日はシュナさんもいらっしゃるので」
「そーうか!ではそれを楽しみにしてーおこう!!」
晴右達は神なので、毒にもある程度耐性がある。ちょっとお腹を痛めたりする神もいるが。
シュナも耐性があるが、客人に毒物を出すのは憚られる。
着々とお茶会の準備を進める晴右であった。
〜〜~
席についているメンバーは、妃花、秋斗、銀千犀、寧々、異折、舞怡、白ヰ、小鞠、晴右、シュナの10人である。食器は12個あるので足りた。
いくつかのお皿に作ったスイーツが乗せられている。
今日のメニューは、ショートケーキ、苺タルトにスイートポテト、チーズケーキ、ブラマンジェ。ブラマンジェとはアーモンドミルクのプリンのようなものだ。
「「「いただきます」」」
「どうぞ、楽しんでください」
お茶会が始まった。
「にしてもぉ、晴右にこんな可愛い食器を買う趣味があったなんて驚いたわ!!」
妃花が大きな声で言う。
「小鞠とのティータイムに使いたかったんです」
「デートか。お熱いことで、いいじゃないか」
銀千犀が茶化す。
「そういえば、お茶会上手くいったの?」
シュナが晴右に聞いた。
「えぇ。最初のお茶会は小鞠と出来たので、2回目には貴方を呼ぼうと思いまして。お茶会の案をくれたのは貴方でしたから」
「そっか。ありがとう!上手くいったなら良かったよ」
シュナは提案して良かったなと思った。
「私の作ったこの粉紅茶に入れたい人ーっ!!!」
白ヰが手を挙げて話す。
「それ何ー?」
舞怡が可愛く聞く。
「ベニテングタケの粉末さ!旨みがあって美味しいよっ!!」
「毒キノコで有名なやつやないかい。ワイらに何食わせようとしはるねん」
秋斗がつっこむ。
異折が席を立って走り出した。
「こら異折、食事中に席立っちゃあいけねぇだろ」
銀千犀が柔く咎める。
「シュナー!これ白ヰの粉末!入れてあげるね」
「え、うん。ありがとう?」
異折はシュナの席まで行って、先程の毒の粉末をシュナの紅茶に入れた。
シュナは毒が効かないように神力をかけてあるので、毒の類は問題ない。
飲んでみた。
「たしかに、なんか旨みがある。あんまり紅茶とは合わないけど」
でも普通のお茶とかなら美味しいかもしれないなと思った。
「怖い。手震えて食べれない」
「寧々ちゃん、だいじょーぶ?無理しないでね」
今にも泣きそうな表情で、ちみちみスイーツを食べていた寧々が呟く。手がふるふる震えていて可哀想であった。妃花が励ましてくれる。
「私の食べ方綺麗…?汚くない…?」
「うん、大丈夫だよ。綺麗だよ」
怖がる寧々に妃花は優しくそう言った。
「美味しいね!これ、晴右が作ったんだっけ?」
シュナがチーズケーキを食べながら聞く。
「はい、僕が作りましたよ。お気に召したようで何よりです」
「料理上手いよね、晴右は!前もこうやって作ってくれたんだよ」
舞怡がそう話す。
「しゅなはちぃうけぇきが好き?」
小鞠がシュナに話しかける。
「あ、分かる?そう好きなの!他のケーキもスイーツも大好きなんだけどね」
「しああせそうだ、た」
「そっかぁ。小鞠ちゃんも幸せそうだよね」
「!!シュナさんも、小鞠の表情が読めるのですか?」
「ん?うん、ちょっと分かりづらいけど分かるよ」
晴右は少し驚いた顔をした。
「そうですか。仲間が増えたようで嬉しいですね」
「私も小鞠ちゃんのこと好きだしね」
友愛でも恋愛でも、愛があると相手の表情が読み取れるものなのかもしれなかった。
「ふふ、愛の量では負けませんからね」
「私もアポロンに対してだったら競えるな」
「おぉ、お前ら惚気けるじゃねぇか」
銀千犀が言う。
「銀千犀さんは浮いた話ないの?」
「今は秘密だな」
「へー。まぁ聞ける日を楽しみにしてるよ」
「おう」
そうして話しながら美味しいスイーツを食べて、ティーパーティーを終えたのであった。
「また開きましょう。別のメンバーも呼びたいですね」
「うん、良かったらまた呼んでよ。また何かで遊ぼう」
「えぇ、是非。今日はありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとう!またね」
「また」
そう話して、解散したのであった。




