時の神クロノス
また、シュナの体は骨と血液が無いとしていましたが、その記述を消しました。
最近、嫌な夢を見る。
悪魔達との出会いがなく、初めから1人という夢だ。その夢では私はメアリーと生きていて、悪魔達がいる時より起伏のない生活を送っていた。
ポペードールに何かしてないか聞いたが、
「悪戯?してないわよ!アンタから止めてって言いに来たんじゃない!」
との事だった。
その悪夢は、ある日突然現実となる。
朝目が覚めると、なんだか空気がいつもと違う感じがした。
部屋を出る。すぐに違和感に気づいた。魔法で増築した悪魔達の部屋がない。
メアリーが朝食を作って待っていた。
「メアリーちゃん!皆はどこに行ったの!?」
「皆?誰のことなのです?私達2人暮らしなのです」
「えっ…悪魔の皆だよっ!覚えてないの!?」
「なんか夢でも見たのです?私は知らないのです」
絶望する。焦燥感が酷かった。擬似胃が気持ち悪い。
「ごめん、ちょっと出かけてくる」
「?いってらっしゃいなのです」
ご飯に保存の神力をかけて、転移門を出す。行先は魔界だ。
目眩を覚えながら、転移門を潜る。
アスモデウスの所に直接来た。アスモデウスは魔王城にいた。王座に座って、悠々と過ごしていた。
「…誰です?敵意はないようですが」
アスモデウスが顔を上げて、いつもより少し冷たい目でこちらを見る。
「アスモデウス、私の事覚えてないの?」
「なんとなく、貴方が居ないことを寂しく思っていました。貴方は誰なのです?」
「シュナだよ」
「シュナ…?聞き覚えがありますね。何故でしょうか」
なんとなく覚えているらしいことが救いであった。ここで、サタナに何が起きているか聞けばいいことに気付く。
『時の神クロノスが過去に干渉しました。貴方と悪魔達の出会いを無かったことにしたようです』
神か。私は煮えたぎるような怒りを覚えた。同時に酷い悲しみも。大切な悪魔達との出会いをなかったことにするなんて、そんな惨いこと何故できるのか。
「一緒に、時の神クロノスを倒しに行こう。そうしたら思い出せるから」
「ふむ。分かりました、協力しましょう」
私は泣きそうだった。協力してくれて良かったと思うのと同時に、悲しみや怒りの感情の濁流に耐えていたのだ。
転移門でまずアンさんの所に行く。神に攻撃する前は一応報告しておいた方がいいかと思ったのだ。
「おぉ、シュナ。待っておったぞ。そなたの天界での記録が消えて驚いたわ。そなたは天界には来たことがないことになっておる」
事情はこうである。悪魔達がいなければ、肝試しは行われない。そうすると幽霊を成仏させることもなくなり、天使がシュナの元に来ることもなくなったのだ。
それにより、天界に行ったことも無いことになっている。
クロノスは事柄には干渉できるが、神の記憶には干渉できない。天使や悪魔、人間の記憶には干渉できるので、アスモデウスは忘れかけていたのだ。完璧に忘れなかったのは、アスモデウスが神に近いからである。
「うん。時の神クロノスが過去に干渉してそうなったみたい」
「そうか。それで、クロノスの元に行くのじゃな?何があったかは分からんが、好きにするがよい」
「ありがとう、行ってくるね」
「うむ」
報告は終えた。
転移門でクロノスの家に行く。
チャイムを鳴らす。
中から立派な髭を貯えたおじさんが出てきた。
「…シュナか」
「なんて事してくれたんですか。なんであんな事したんですか!!」
「神が悪魔なんぞとつるむことが許されると思うのか?我は許せんな」
「悪魔だって悪い奴ばかりじゃない。大切な人達なのに!」
私は泣きながら叫んだ。
クロノスに殴り掛かる。手で止められる。何度も攻撃を試みるが、どんな攻撃も先読みされているかのように止められてしまう。
「なんでっ…」
「時を超えられぬお前の攻撃は通らぬよ」
シュナの弱点の1つとして、イメージしづらいものや使い慣れていない技を使えない、若しくは使いづらいというものがある。時の超え方など感覚的にも分からない。
シュナは打つ手がなかった。
クロノスは未来予知を行っているだけなので、シュナも未来予知を行えば効果が相殺できたが、シュナはその事に気が付かない。想像力の限界がシュナの限界であった。
「私も大切な記憶を忘れたままというのは不本意です。痛めつけられる覚悟は出来ていますね?」
「ふん、やれるものならやってみるがいい」
「殴っても仕方ありませんね。技を使いましょう。破壊滅弾!」
「時の崩壊!」
アスモデウスの放った破壊滅弾が時の崩壊に巻き込まれて消失する。対象の時間の概念を崩し、存在を崩壊させる技だ。
が、それも構わずがむしゃらにアスモデウスは破壊滅弾を打ち続ける。
「私は大切な記憶を失ったままでいる訳にはいかないのです!」
「何度やっても同じことぞ!」
しかし、やがてアスモデウスの破壊滅弾が時の概念をも喰いだし、時の崩壊を超えた。
『アスモデウスが、スキル"時を喰らう者"を手に入れました。アスモデウスは悪魔から魔神に進化しました。』
サタナの声が脳内に響く。
クロノスに届いた破壊滅弾が、激しい痛みとなってクロノスを襲う。
破壊滅弾に時の崩壊と同じ効果がもたらされる事となったのだ。それはクロノスのものと相殺し、破壊滅弾の効果のみが残る。
「ぐうっ…まだだ!時空求穿!」
クロノスの放った時空求穿は、時も超える離れ業。過去から未来へ、その攻撃は放たれる。
そこでクロノスは力尽き、痛みに沈んだ。
「…!我が君!思い出しました!!」
「アスモデウス!!」
アスモデウスに抱きつく。思い出してもらって良かった。
安心したのもつかの間、アスモデウスの胸に矢が刺さる。時空求穿が当たったのだ。
「ぐっ…」
「アスモデウスっ!!」
アスモデウスが血を吐いた。
シュナがアスモデウスの胸に手を当てる。淡い光を放つが、傷口が塞がらない。回復の効果が時空の果てに飛ばされてしまうのだ。
「どうしよう、どうしよう!?」
シュナは焦る。アスモデウスも苦しそうだ。
「そうだ、アスモデウス、一回胸元に破壊滅弾当てて、この効果喰らって!」
「分かりました、破壊滅弾」
胸元の傷口より少し大きく皮膚が崩れた。それをすかさずシュナが治す。
なんとか一命を取り留めた。
アスモデウスは回復して、クロノスに向き直る。
「さて…クロノスさん。過去への干渉を解いてもらいましょうか。」
「…我の負けだ。干渉を取り消そう。」
クロノスはそう言い、過去への干渉に更に干渉を重ねて、その効果を取り消した。
「一発殴らないと気が済まないよ。殴らせて」
「…仕方がないな」
肩をぐるぐる回し、クロノスを冷たく見下ろす。
アスモデウスとクロノスが少し身震いした。
私はクロノスを思い切り殴った。サタナにサポートしてもらって、思い切り重くなるようにしてもらった。
風切り音が鳴る。
クロノスは後ろに吹っ飛ぶ。意識を失ったようで、ぐったりしている。口の中から血が出て、頬が真っ赤になっていた。
「我が君、強くなりましたか?」
「効果を加えただけだよ」
かくして、時の神クロノスによる干渉は終わったのであった。
家に帰ると、いつも通りの家になっていた。
「お帰りなさいなのです!どこ行ってたのです?」
「ちょっと天界にね。さっきの事、覚えてるの?」
「なんのことなのです?いつも通りだったのです」
メアリーは改変時の記憶はないみたいだった。
「アスモデウスがね、魔神になったんだよ」
「魔神!?なんだかカッコイイのです」
「嬉しいですね」
のほほんとした日が戻ってきたのであった。
〜〜~
後日、クロノスの元にアポロンが訪れた。
「おい、クロノス。俺の彼女に手ぇ出したらしいじゃねぇか。分かってるよな?」
「なっ、アポロン!どこから聞きつけた!」
「俺の部下の天使にシュナのこと見守ってもらってんだよ」
「…お前…それはちょっと…」
クロノスはちょっと引いた。
「あ?何か文句あるのか?お前の家燃やすからな」
「巫山戯るなよ!!やり過ぎだろう!」
「もう火の手は回ってんだよ。これに懲りたらシュナに手ぇ出すなよ」
「なっ…!アポロンンンン!!!」
「ふん」
アポロンは鼻を鳴らして去っていった。




